表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
*⋱✽⋰*❁番外篇 短篇❁*⋱✽⋰*
97/134

第一集:漆黒のお祝い


 下界を照らす豊穣(ほうじょう)の象徴、火星色(かせいいろ)に染まった天満月(あまみつつき)を横切る無数の黒い点の正体はコウモリだ。不吉を(もたら)す光景はおどろおどろしい。


 「キーキーッ」


 不穏で汚す黒い翼を羽ばたかせながら啼くコウモリたちが、超音波の音域で合図を送り合い、下降(かこう)した。


 密集し徐々に形を成していくコウモリたち、溶けた黒がひとつの(かたまり)となる。地上に延ばされた片足は人型だ。


 大地を踏み、降り立つ人物が背負う(かげ)も又、黒い。


 「……ここですね」


 男は(そび)え立つタリア神像(しんぞう)を見上げ、藁葺屋根(わらぶきやね)の小さな家の戸を叩いた。数秒足らずで光が漏れ、扉が開けられる。


 「――こんばんは」


 ひょっこり顔を出し、タリアが挨拶をした。はらり肩を滑る桜色の髪は瑞々(みずみず)しい。


 「……こんばんは」


 「キミは……」


 低音を這う暗い語調(ごちょう)で会釈した男は鬼だ。頭部に黒い角が二本、生えている。二重瞼(ふたえまぶた)団栗眼(どんぐりまなこ)明眸(めいぼう)は白く眼球が黒い。目縁(まぶち)を囲った艶の滴る長い睫毛、垣間見えた舌と歯も黒色だ。爪や肌も薄黒い。小顔で整う目鼻立ち、191㎝の長身に不釣り合いな可愛い容貌(ようぼう)であった。


 髪型は黒髪のマッシュヘアだ。服装は正喪服(せいもふく)を着ている。黒シャツに黒ネクタイ、黒のサスペンダーに黒のソックス、靴は内羽根(うちばね)でストレートチップデザイン、全身真っ黒の特徴的な身形をしている。


 「……孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)、いますか……」


 「あ……」


 (ほむら)の客と瞬時にタリアは推測した。「待ってね」と(ほむら)を呼ぶ意思を伝える寸前で、タリアの腰を引き寄せた(ほむら)が代わりに返事をする。


 「いるよ」


 「(ほむら)、キミの友達か?」


 「友達じゃない、コイツは招死(しょうし)笑滅(えめつ)、本名は漆黒(しっこく)だよ」


 タリアの問いを否定し、(ほむら)が男の名前を明かした。


 「……初めまして、……です」


 招死(しょうし)笑滅(えめつ)は相槌を打ち、(ほむら)の紹介を肯定する。

 招死(しょうし)笑滅(えめつ)鬼界(きかい)最恐(さいきょう)の鬼、三鬼(さんき)のうちのひとりだ。鬼界(きかい)の通り名は招死(しょうし)笑滅(えめつ)、下界の通り名は華怖(かふ)童子(どうじ)、冷血で冷酷な黒鬼(くろおに)と天地に名を轟かせていた。


 タリアは招死(しょうし)笑滅(えめつ)と初対面になる。

 

 「初めまして漆黒(しっこく)、私は天上界の神、上位神(じょういしん)タリアだ。よろしくね」


 「……よろしくは、ちょっと無理……、だって天上を束ねる厄介な上位神(じょういしん)だし……」


 「アハハ……」


 素直な返答だ。鬼界(きかい)と天上界は事実、折り合いが悪い。特に招死(しょうし)笑滅(えめつ)は七百二十歳と鬼族(きぞく)古参(こさん)の鬼だ。天上界は彼の犯してきた罪の数々を許していない。


 「――なに漆黒(しっこく )、タリアに喧嘩売りに来たの? 俺が相手になるよ」


 (ほむら)が苦笑するタリアの頭上で低声を零した。半眼で下す眼精(がんせい)は鋭い。灯った虹彩(こうさい)は紅く闇夜を(にじ)ませている。同族に容赦のない殺気だ。


 「やめて(ほむら)、私は気にしていない」


 タリアが体を(ひね)り、(ほむら)の胸元に両手を添えた。怒りを沈殿(ちんでん)させる瞳孔(どうこう)禍々(まがまが)しい。


 「……他意はないよ、孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)……、俺はこれを渡しに……」


 漆黒(しっこく)に戦闘意思は無く、能力で左手の平に黒い霧を出現させる。取り出された箱は黒い。そして漆黒(しっこく)は無言でタリアに受け取るよう促した。


 「え、あ、ありがとう……」


 「……どうぞ」


 「あ、うん」


 開けてみて、と目線で催促されタリアは従う。中に入っていたものは、一本角の鬼の骸骨だ。刹那、骸骨が動き自力で骨を組み立て、直立した。背丈は30㎝弱だ。


 ゆっくり漆黒(しっこく)が来訪目的を説明する。


 「俺の手製……、喋れないけど死なない。いい家来(けらい)になる……、孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)の封印の解放と……ふたりの結婚祝い。乱螫(らんどく)惨非(ざんひ)に聞いて……」


 「ありがとう漆黒(しっこく)、とても愛くるしいね。この子に食べ物は必要かな?」


 タリアは漆黒(しっこく)の祝福を喜び、訊ねた。普通の感覚を備える人間ならば「不吉で気味悪い。悪趣味だ」と突っ返す、外見が恐ろしい贈り物だ。タリアの豊かな感性は海底の如く深い。


 「要らない……、じゃあ、俺は帰るね。孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)、また……」


 「あ、お茶は? 疲れてるだろう、休んで行ってくれ」


 「いい……コウモリの世話をする時間なんだ。ありがとう……、タリアも……」


 引き止めたタリアの気遣いに礼を告げ、迷いつつ小声で「また」と語尾に付け足す漆黒(しっこく)の表情は柔らかい。直後、漆黒(しっこく)はコウモリに変化し散り散りに飛んだ。


 唐突で不器用な優しさは尊い。タリアは夜空に美声を張る。


 「またね漆黒(しっこく)、ありがとう!」


 きっと気持ちは届いたはずだ。


 「タリア、体が冷える。閉めるよ」


 「ああ」


 (ほむら)に背中を押され、タリアは黒い箱を一瞥し、家の中に消えた。カタカタ家中からする、骸骨が走り回る音は軽い。鬼の骸骨の名は(ほむら)が命名し、盈月鬼(えいげつき)と名付けられたのだった。

 

おはようございます、白師万遊です(∩´͈ ᐜ `͈∩)

最後まで読んで頂きありがとうございます!


感想、応援スタンプ、レビュー、ブクマ、フォロー等々、

頂けると更新の励みになります(*´˘`*)


また次回の更新もよろしくお願い致します( *˙︶˙*)و

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ