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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
*⋱✽⋰*❁番外篇 短篇❁*⋱✽⋰*
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第三集:荊の結婚祝い(后篇)


 「……ふう」


 昼餉(ひるげ)の片付けが終わり、タリアは割烹着(かっぽうぎ)を脱いだ。垂れた一筋の髪を整える仕草が美しい。


 万物の創造主、天帝(てんてい)天上皇(てんじょうおう)創りし最後の男神(おがみ)、カリスの一柱、三美神(さんびしん)のひとり上位神(じょういしん)タリアは、天上界随一の美貌と(うた)われ(あが)められている神だ。狂いのない噂通りの黄金比率の顔立ちは儚く、滑らかな曲線美を描いた腰は細く手足は長い。透き通る肌は上質で肌肉玉雪(きにくぎょくせつ)、美を象徴した容姿だ。性質も穏やかで五界(ごかい)の住人を差別なく扱う。

 それに対して火山が生んだ自然の渾沌(こんとん)孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)は悪名高き火鬼(ひおに)だ。眉目秀麗で妖しい雰囲気に女鬼(めおに)は群がったが相手にせず、数百年で残酷と非道に血濡れた死屍累々(ししるいるい)を築き上げ、誰も信頼しない誰も愛さない、孤高たる男鬼(おおに)だった。


 陽と陰、正と悪、無垢と不浄、真逆のふたりが出逢い、惹かれ、今に至るは、定められた必然なのだろう。


 「(……運命ってーの?)」


 全然まったく毛ほどと、(いばら)は運命を信用していない。されど現実、(ほむら)は愛し愛されるタリアを手に入れていた。タリア限定でも未だ信じ難い事実だ。


 (ほむら)の過去を知る(いばら)は感慨深く、羨ましい。故に意図せずポロリ願望が零れる。


 「僕もお嫁さん欲しい~、頑丈な子がいいな」


 六百歳の(いばら)鬼族(きぞく)で言えば若い上、一度も婚姻の経験はない。むしろいま、人生で初めて真面(まとも)に考えた。


 青い双眼(そうがん)はタリアを捉えている。


 「興味ない。余所(よそ)で呟け」


 (いばら)の独り言を一刀両断した(ほむら)の語調は冷たい。


 「んだとコラ! 孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)お前、ちょっとは僕に興味持てよ~!」


 「まあまあ(いばら)、そう拗ねないで。私は興味があるよ。頑丈な子がいい理由はあるの? (いばら)はがっしりした子が理想なのかな?」


 逆に(ほむら)の隣でにっこり微笑し、(いばら)に問うタリアの声音は柔らかかった。やはり対照的なふたりだ。


 「……タリア、(いばら)に興味があるの?」


 するり、(ほむら)が自分の右手の指先をタリアの左手、赤い水晶の指環(ゆびわ)()められた指先に絡める。タリアの顔を覗き込む表情は不満げで若干、唇を尖らせていた。


 「あー……誤解しないで(ほむら)、天上界の神々は五界(ごかい)の幸福を願い、愛を諭す役目を担っている。私もキミに恋をして、たくさんの感情を日々、学んでいるし、理非曲直(りひきょくちょく)を正すことは難しいだろうが、(いばら)も恋を通して(わず)かな情が芽生えたらいいなと思っているんだ」


 「例えば? タリアは俺でどんな感情を学んでるの?」


 「――え? えー……と、愛と違って恋は一方的で自己的なものだ。けど私はキミを愛していてキミも私を愛してくれている双方向(そうほうこう)の想いだ、突如の恋が愛を育んでいる。苦難、忍耐、鍛錬は希望に繋がり寛容(かんよう)を尽くす。一方が受動的と見做(みな)す寛大は、一方で能動的な耐久性の意味がある。栄光と(ほま)れと不滅、焦燥や嫉妬や怒り、キミに貰う愛は、まるで万華鏡だ。一日足りと同じ日はない」


 「ハ、確かに……」


 タリアの見解に(ほむら)は同調で(あご)を上げ、瑞々しいその唇に口づける。一瞬のキスを垣間見た(いばら)が「ヒュ~」と鳴らす口笛の音感はいい。


 継いで(ほむら)がタリアの背骨を一本一本なぞる仕草は艶めかしい。焔は螺旋(らせん)に渦巻く色情(しきじょう)を含んだ艶やかな目つきでタリアを見下ろしていた。タリアがハッと目線を横にやる。


 (いばら)とばっちり視線がぶつかった。


 「……あ、(ほむら)(いばら)がッ!」


 「ああ、ごめん可愛くてつい」


 (ほむら)の謝罪は軽い。タリアは(ほむら)を引き剥がしつつ(いばら)に謝る。


 「……ッ、すまない(いばら)


 「え~いいよいいよ、孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)って案外、独占欲あるだ~。性欲やばそ~」


 「一日中、いや三日三晩はタリアを抱ける自信がある」


 「マジで!? 鬼畜だな!! 最高じゃん!! 詳しく教えてくれ~!!」


 (いや)しい好奇心で満ちた様子の(いばら)は前のめりの体勢だ。


 「……フム」


 (ほむら)は首を傾け暫し黙考するや否や、(いばら)に無言で近付き、片腕を掴み、立たせた。あれよあれよと(いばら)は玄関口に(いざな)われる。(いばら)同様、状況が読めないタリアは疑問符を浮かべていた。


 (かんぬき)を開け、玄関の戸を押す(ほむら)が振り返り、タリアに告げる。


 「(いばら)、送ってくるよ。無性にタリアを抱きたくなってきた、寝床で休んでて。もし逃げれば三日、俺の城に監禁して()かすから」


 「――――!?」


 「行くよ、(いばら)


 「ォワッ!? ちょっ、痛い痛い扱い雑!! 腕が捥げるマジで千切れる!! タリアちゃんっ、僕のタイプはまた今度ゆっくり話すね~!!」


 (いばら)は半ば強引に引き摺られ、帰って行った。手を振るタリアは静まった場にひとり残される。(ほむら)は嘘をつかない、発言は本気だ。


 「…………」


 タリアは(ほむら)に刻み込まされた、神体が震えるほどの狂った愛の実を宿す快楽の沼に三日、溺れる勇気はない。タリアは大人しく覚悟を決め、(ほむら)の指示に従わざるを得なかった。

 

おはようございます、白師万遊です(*´ー`*)

最後まで読んで頂きありがとうございます!


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また次回の更新もよろしくお願い致します⸜( ‘ ᵕ ‘ )⸝

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