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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
*⋱✽⋰*❁番外篇 短篇❁*⋱✽⋰*
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第二集:荊の結婚祝い(中篇)

 

 山桜(やまざくら)の木が用いられた四角い囲炉裏(いろり)は立派だ。継ぎ目も精良な木で囲炉裏鉤(いろりかぎ)にふっくらと優しい鋳肌(いはだ)蝋型(ろうがた)鋳造(ちゅうぞう)銚子(ちょうし)が変化した鉄薬鑵(てつやかん)、換言すれば鉄瓶(てつびん)が掛かっている。素朴で堅牢な鉄瓶(てつびん)鬼界(きかい)の有名な鍛冶屋(かじや)に作らせた逸品だ。丸く透けている(ふた)のツマミの装飾は精密で繊細、鉄瓶(てつびん)も純金彩色(さいしょく)の龍が彫られてあって美しい。


 小物は高級品が多いものの、藁葺屋根(わらぶきやね)の外観同様、内側の装いは至って普通だ。


 「へえ~、以外だな」


 囲炉裏(いろり)を囲んだ形で置かれた、()じ込み式で織られてある絹交(きぬこう)の座布団に胡坐を掻き()(いばら)は、周囲をぐるっと見渡し独り()ちた。長い三つ編みをくるくる指先に絡ませ遊んでいる、(いばら)の癖だ。習慣的な行動は無意識で理由は特段ない。


 (ほむら)(いばら)の語尾を拾い、単語を反復させる。


 「以外?」


 「ん? いやだって~、お前が住んでる鬼界(きかい)の城すげえじゃん? こっちは質素っつーか、……狭くね?」


 (ほむら)根城(ねじろ)、山頂に建てられた炎紅城(えんこうじょう)は広大だ。築城(ちくじょう)、数千年の、鬼界(きかい)で有名な難攻不落(なんこうふらく)古城(こじょう)と名高い。


 「狭くていい」


 「え~なんでだよ?」


 「手を伸ばせば――」


 組んでいた両腕を(ほむら)は解いた。


 「わ……」


 そして昼餉(ひるげ)の準備をするタリアの肩を引き寄せ、言葉を紡いだ。


 「タリアがいる」


 「………?」


 小首を傾げたタリアは機嫌の良い(ほむら)と視線が合う。(いばら)左手(ひだりて)(ひら)を右手の(こぶし)でポンと叩いていた。(ほむら)の意見に納得している。


 「成程! 孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)お前、()えてんな~!」


 「(ほむら)(いばら)となんの話をしているんだ?」


 「ん? 俺がタリアを愛してる話だよ」


 強引なこじつけだが(あなが)ち、外れてはいない。(ほむら)の返答にタリアは耳介(じかい)を赤くした。微塵と(ほむら)を疑わない純粋な反応だ。


 「……そ、れはありがとう。お茶を取ってくる」


 「照れてる可愛い……」


 タリアを目で追う(ほむら)の眼差しは愛情で満ちている。残虐(ざんぎゃく)(にご)った血潮(ちしお)に染まる虹彩(こうさい)の中心、瞳孔(どうこう)が揺らぎ、紅く灯っていた。


 「ちょっと~! 僕の前でイチャイチャしないでくれない!?」


 (いばら)は独り身だ。現在、恋人もいない。誰も知らないが歴代の彼女達は皆、彼のアート作品として飾られている。彼の屈託のない笑顔に誤魔化され、騙され、乱螫(らんどく)惨非(ざんひ)の根本で渦巻く酷悪(こくあく)を見抜けなかった、哀れたる女性達だ。


 「勝手に来て勝手な文句を言うな(いばら)、こっちは新婚だ」


 「喧嘩しないでふたり共、(いばら)、私は来てくれて嬉しいよ」


 戻ってきたタリアが幅がある木製の炉縁(ろぶち)(いばら)の好物、かき揚げやほうれん草と人参のおひたし、油淋鶏(ユーリンチー)葱油餅ツォンヨゥピン、白菜のスープ、お茶等々を並べ、欢迎(フアンイン)を表した。(ほむら)の心臓以外の大好物、激辛麻婆豆腐も作ってある。


 「うわ~!! 美味しそう!! 昨日僕、赤鬼(あかおに)の不味い臓物(ぞうもつ)食って吐いちゃってさ~、お腹ぺこぺこだったんだ~!」


 「アハハ……、キミの口に合うといいんだが」


 (いばら)の素直で理解し難い空腹事情は返事に困る。苦笑したタリアの背中を撫でる(ほむら)が礼を告げ、微笑んだ。


 「ありがとうタリア、食べようか」


 「うん」


 全員が席に着き、ご飯を食し始めた。刹那、(いばら)が能力で白い箱を取り出し、左手で塩と紹興酒(しょうこうしゅ)が加えてある白菜のスープを(すす)りながら、右手で握った箱を行儀のない動作でタリアに手渡す。


 「タリアちゃん、孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)、結婚おめでと~」


 「わあ、ありがとう(いばら)!」


 タリアは(いばら)聊爾(りょうじ)な作法を意に介さず、しっかり両手で受け取った。


 「開けてみて開けてみて~!」


 (いばら)に促され、タリアは箱を開ける。


 「……綺麗」


 タリアが透明な棘に注意し、陶器の鉢を掴んで持ち上げたものはサボテンだ。(くれない)八塩(やしお)色で肉厚感のある丸い形状、紅い鬼の角を二本生やしていた。淡い桜色の小花が花の冠のように咲いている。真紅(しんく)撫子色(なでしこいろ)の光の粉が舞い、煌いていた。


 「僕がふたりをイメージして鬼界(きかい)のサボテンを品種改良した、世界でひとつのサボテンなんだよ~! たまに飲み物あげてね」


 こうやって、と(いばら)が自身の湯呑をサボテンに近付けた途端、サボテンが真っ赤な舌を出しお茶を飲んだ。満足したサボテンはパフッと湯気を吐き、舌を引っ込める。


 「へえ凄いな、頑張って育てるね」


 植物ではなく生物であった。


 「うん~、でっかくなる予定だよ~」


 「大きくなるの? (いばら)は天才だね! 楽しみだ!」


 タリアは「ありがとう」と感謝を重ね、(いばら)の才能に感嘆し喜んだ。摩訶不思議で気持ち悪いサボテンと思っていないところが愛くるしい。


 「いや~本当、僕って天才~!」


 「一緒に育てようね、(ほむら)


 「ああ、もちろん。子育ての練習になる。この子の眼前(がんぜん)でタリアを抱かない練習」


 「…………ッ」


 (ほむら)の予期せぬ返しにタリアは(まぶた)を深め、羞恥で顔を背けた。「名前なにがいいかな?」とタリアの耳元で囁く(ほむら)の声音は甘い。


 「はあ、僕も恋人募集しよ~」


 再熱する二人の空気は蝶々が好んで飛び交う蜜の如くだ。(いばら)はかき揚げをバリバリ噛み砕き、独言(どくげん)したのだった。

おはようございます、白師万遊です(◦ˉ ˘ ˉ◦)

最後まで読んで頂きありがとうございます!


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また次回の更新もよろしくお願い致します╰(*´︶`*)╯

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