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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
*⋱✽⋰*❁番外篇 短篇❁*⋱✽⋰*
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第一集:荊の結婚祝い(前篇)

 

 (うま)(こく)正刻(せいこく)、太陽は真上にある。春うらら、碧羅(へきら)(てん)は清きで満ち、雲ひとつない。穏やかな天候は天上皇(てんじょうおう)の恵みだ。


 村人達は当たり前の安寧と平和が如何(いか)に大切か、狐界(こかい)三毒狐(さんどくこ)のひとり、雷が生んだ自然の渾沌(こんとん)雷狐(らいこ)――電蔵主庵(でんぞうすあん)の一件で学んでおり、日々の恩恵(おんけい)に感謝し、今日も各々、一家総出で田畑や家畜の世話に励んでいた。


 畑で汗水流す村人の男が小道を歩く(ほむら)に気づき、声をかける。


 「お~い、鬼の兄ちゃん! いい天気だな~!」


 「…………」


 (ほむら)は返事をしない。露骨な無視だ。


 「兄ちゃん、今日も元気だな。っしゃ、俺も頑張るぜ」


 相変わらずの反応で村人の男は逆に安心していた。額の汗を拭い、1050mmの唐鍬(とうぐわ)で硬い地面を掘り起こす作業に戻る。自然の営みの中で食を育み大地を耕す人間本来の姿は美しい。


 「……こっちか」


 そんな村人達の尊い光景を意に介さず、(ほむら)は村外れの森へ向かった。光の届かない樹木が密集している場所は薄暗い。不吉で闇が()じれた雰囲気がある。風も吹いておらず葉の音すらしていない。


 「……ここか」


 静寂に包まれた空間で(ほむら)は紅い瞳子(どうし)を左右に動かし、嗅ぎ慣れている臭いを辿り、獣が踏み固めた獣道を覗き込んだ。砂利道を足裏で鳴らす足音が響いていた。


 (ほむら)鬼火(おにび)をふたつ放ち、奥を照らすと、「よ」と青年が片手を上げる。


 容姿端麗な顔立ちで瞳、睫毛、唇、爪、と青い。青い長髪はひとつ結びの三つ編みに編んであり、膝下まであった。下瞼(したまぶた)は青い粉状で彩られてある。

 2m50㎝の長身だ。服装は詰襟(つめえり)で横に深いスリットが入った、風合いある錆納戸(さびなんど)色の旗袍(チーパオ)を着用していた。施されている(いばら)模様は、藍鉄(あいてつ)(いろ)の布製だ。滑らかな曲線を描いた爪先が丸い形のブーツと揃えてある。


 頭部に生えた二本の青い鬼角(おにづの)が特徴的な青年は、人間ではない。


 鬼界(きかい)最恐(さいきょう)三鬼(さんき)三災鬼(さんさいき)のひとり、乱螫(らんどく)惨非(ざんひ)だ。


 下界の通り名は棘童子(おどろどうじ)で本名は(いばら)、人型の雑鬼(ざっき)悪逆無道(あくぎゃくむどう)と名高く、天地に悪行の数々を轟かせていた。


 陽気な性格だが根は罪大恶极《ヅゥェイ ダー ウー ヂィー》だ、広大な鬼界(きかい)の西を治める実力は侮れない。


 「やっほ~、孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)~! お疲れちゃ~ん!」


 (いばら)は屈託のない笑顔で挨拶をした。(ほむら)は冷めた目つきで(いばら)を見据え、長い右足で蹴り上げる。


 前触れのない突然の攻撃だ。


 「――ブハッ」


 (いばら)は宙に舞い、地に叩き付けられた。けれど、ものの数秒で立ち上がる。傷は負っていない。


 「()ってえな!! おまっ、急に何すんだよ!!」


 「急はそっちだろ(いばら)。『13日の金曜日、つまりは明日の午後、新婚さんを邪魔しに行くね』って、切り刻んでほしいのか?」


 律儀なタリアが(いばら)に結婚報告として出した手紙の返事で送られてきた内容だ。下界の住所をしっかり添えている辺りがタリアらしく無防備で、(ほむら)は罰と称してタリアを一晩中、()かせ続けた。

 

 「冗談じゃん冗談~! いや~結婚おめでとう、孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)! 三百年後っつってたのに~、結婚祝い持って来たぜ!! タリアちゃんは!?」


 「はあ……、家でお前の贓物(ぞうぶつ)以外の好物、海鮮や野菜のかき揚げを作ってる」


 タリアの手料理は(いばら)に贅沢だ。そう(ほむら)はタリアの意向を反対したが、「私達の婚姻を祝してくれる(ほむら)の友人を(ないがし)ろにしたくない」と懇願(こんがん)されては断れない。


 三災鬼(さんさいき)をもてなす上位神(じょういしん)、もとい、神はタリアくらいだ。


 「……なんっていい子なんだタリアちゃん~!! 本当にお前の嫁なの!? 殺戮(さつりく)で頭イカれて精神病んじゃって妄想とかしてんじゃねえだろうな!? 相手は天上界を牛耳る上位神(じょういしん)だぞ!? さてはタリアちゃんに妙な催眠術を――」


 (ほむら)(いばら)の価値のない戯言を(さえぎ)る。


 「――死ね」


 怒りを炎に変え、(いばら)を燃やした。


 「でええ!? うわっ、アチッ、アチチチ!!」


 (いばら)は地面の土で炎を鎮火させる。素早い対応はさすがだ。


 「チッ……」


 「何なのお前!? 益々、短気になりやがって!」


 (いばら)の抗議は(ほむら)(きびす)を返す背に浴びせられた。無言で遠ざかる(ほむら)(いばら)は追いかけ、支離滅裂(しりめつれつ)長広舌(ちょうこうぜつ)(ふる)っていた間に、鬼界(きかい)で見られない藁葺屋根(わらぶきやね)の小さな家に到着する。


 (ほむら)が玄関戸を開けた。十分程度で帰ると伝えていたため、(かんぬき)は落ちていない。


 「――ただいま、タリア」


 「――おかえり(ほむら)、いらっしゃい(いばら)、道中、大丈夫だった?」


 丈の長い和装用の白い割烹着(かっぽうぎ)を羽織る、眉目秀麗なタリアがお玉片手にふたりを出迎えた。可憐で(しと)やか、鬼界(きかい)女鬼(めおに)にない気品、(まさ)に女神だ。畏怖(いふ)の念を感じさせる儚い微笑みは神々しい。


 「……タリアちゃん、一回でいい、僕と――」


 「さ、昼餉(ひるげ)にしようタリア」


 (ほむら)は玄関を閉め、(かんぬき)をがちゃり()める。


 「え? あ、(ほむら)(いばら)が……」


 「入れてくれー!! 僕を忘れないでー!!」


 「(いばら)? 誰だっけソイツ」


 (ほむら)は首を傾げ、とぼけた。にっこり笑っている顔が怖い。


 「(ほむら)、なにがあったか知らないが、(いばら)を許してあげて……」


 「じゃあ、タリアからキスして、濃厚なのがいい。そしたら、(いばら)を許すよ」


 「…………」


 とんだとばっちりだ。しかし選択肢はない。タリアの努力で十五分後、ようやく(いばら)は家に招かれ、入れたのだった。



おはようございます、白師万遊です(*ฅ́˘ฅ̀*)♡

最後まで読んで頂きありがとうございます!


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頂けると更新の励みになります*ଘ(੭*ˊᵕˋ)੭*


次回の更新もよろしくお願い致します(*´▽`*)❀


【追記】

罪大恶极=極悪非道

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