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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
*⋱✽⋰*❁番外篇 短篇❁*⋱✽⋰*
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第二集:闇の訪問者(后篇)

 

 夕餉(ゆうげ)を済ませ片付けも終わり一段落したタリアはうとうとしている。


 「…………」


 「タリア、眠い?」


 「んー……」


 応答は曖昧だ。半分すでに寝ていた、意識がはっきりしていない。


 「おいで」


 (ほむら)がタリアを横抱きに抱え、部屋の(すみ)にある丸太のベッドに移動した。(わら)で編んだ敷物が敷いてある上にタリアをそっと下ろし、厳選された上質素材で織られてある、独特の風合いと光沢を兼ね備えた白い綿毛布をかける。柔らかく肌触りの良い毛布は格調高い高級織物で、鬼界(きかい)にて(ほむら)が購入したものだ。


 タリアは自分に無頓着で使用できればいい、()り好みしない主義であった。一流と三流、まったく気にしない。故にタリア一辺倒(いっぺんとう)(ほむら)がタリアと同等の良い品物を発掘し与えている。彼の最近の流行、楽しみのひとつであった。


 晩酌(ばんしゃく)(たしな)んでいるルキが黒く濁った虹彩(こうさい)を煌かせ苦笑する。


 「懐かしい光景だ。……すまねえな火鬼(ひおに)、朝も起きねえだろタリアは」


 「まあね、可愛いよ。ぼんやりしてて」


 「ハハ、まあな。俺、タリアの幼少期、目覚まし係してたんだぜ」


 「へえ! いいな義兄(にい)さん!」


 紅く灯光(とうこう)した(ほむら)双眸(そうぼう)禍々(まがまが)しい。明るい口調で素直に嫉妬していた。火山が生んだ自然の渾沌(こんとん)火鬼(ひおに)は乱暴で荒い無秩序を匂わせている。天上界にない直球な五情(ごじょう)だ。


 「だろ、お前は面白い奴だな火鬼(ひおに)、剥き出しの感情は嫌いじゃねえ」


 「義兄(にい)さんも充分、面白いよ。堕神(だしん)(ゥアン)が自ら謝罪に来るなんて」


 (ほむら)は肩を(すく)ませ、驚きと感心を表現した。タリアを気遣い若干、小声だ。(ほむら)のおもんぱかる相手はタリア限定で、タリアに対しての配慮は欠かさない。


 「俺は上位神(じょういしん)兄妹弟(きょうだい)が天地で一番、大切だ。タリアとエルは中でも随一なんだよ」


 数世紀、数千年、堕ちて尚、漆黒で神体(しんたい)が黒に侵されて尚、変化しない信念だ。


 「ふうん? 長男の義兄(にい)さんも? 意外だな」


 「俺とアイツは双子なんだ、俺は弟。知らなかったか?」


 「……奈楽界(ならくかい)の伝承、輝堕王(きだわう)の素性は曖昧模糊(あいまいもこ)だ、びっくりだよ。次男なんだね、義兄(にい)さんは」


 「まあな、――……んじゃあ俺は行く。世話になった、飯、ありがとな」


 ルキは一瞬制止し、突然、話を切り上げ、夜光杯(やこうはい)を置いた。夜光杯(やこうはい)の天然に形成されている紋様は美しい、透き通った墨黒(すみぐろ)(うるし)の如くだ。


 ルキは立ち上がり、黒マントを羽織る。そしてタリアを一瞥し、玄関に向かった。(かんぬき)を上げるルキを(ほむら)は止めない。

 

 「義兄(にい)さん、また来てね。歓迎するよ」


 「タリアが間諜(かんちょう)と疑われねえか心配だ、下神(かしん)上位神(じょういしん)を毛嫌いしてやがる奴は多い。アイツら下位(かい)は信用ならねえ、火鬼(ひおに)、タリアを守れよ。まあ、詭弁(きべん)(ろう)する俺は欲深い輝堕王(きだわう)だ。タリアにまた(・・)、と伝えておけ」


 「了解」


 ルキの言伝(ことづて)を了承し、頷いた(ほむら)は腕を組んだ。(じゃ)を纏う殺伐とした雰囲気は異様で堕神(だしん)も敵わない刺々(とげとげ)しい冷酷な眼差しをしている。


 他意はない(ほむら)普通(・・)にルキはほくそ笑んだ。


 「……フ」


 ルキは黒マントの(すそ)(なび)かせ、振り向かず立ち去った。


 ――時刻は(うし)(こく)だ。


 月が照らす闇夜を歩き、静寂を好んだ村の森を抜ける。そこに、ひとりの男が待ち構えていた。ルキは平然と声をかける。どうやらこれを察知して早々と家を出たらしい。


 「――よう。久しぶりじゃねえか、エル」


 天官軍(てんかんぐん)総帥(そうすい)上位神(じょういしん)エルだ。天上皇(てんじょうおう)創りし初めての男神(おがみ)上位神(じょういしん)の長男、正真正銘、ルキの双子の兄である。


 「……俺の結界を破れる堕神(だしん)はいない。お前()以外にな、輝堕王(きだわう)


 「なあエルお前、結界、張りすぎだ。聖域かよ。って言う俺もまあ、張ったけどな。一介の堕神(ざこ)は近寄れねえよ、俺やアイツ(・・・)もタリアは大切だ」


 「…………」


 ルキのタリアを想っての行動にエルは口を(つぐ)んだ。ルキはエルと距離を縮め、左頬を撫でた。ふたりは下界と天上界の狭間に位置する天繋地(てんけいち)で遠目に会っていたが、直接の接触は数千年以来となる。


 「痩せたか?」


 「俺は痩せていない」


 「ったく、冗談だっての」


 ルキは一笑し顔を近付けた。黒と白の唇が合わさる。ルキはエルの白い下唇(かしん)(ついば)み、淡い夢で見続けていた愛する分身に抱き着いた。


 耳語(じご)するルキの蜜を含んだ低声は甘い。


 「……刹那の逢瀬だエル、お前の一時間を俺にくれ」


 「俺は堕落しないぞルキ、父上を裏切らない。絶対だ」


 「ああ、お前はジジイを裏切らない。絶対な」


 交わした会話に偽りはない。ルキがエルの首裏に左手を回すがエルは抵抗せず、引き寄せられるがまま、ルキの混濁(こんだく)した愛情を受け入れる。


 溶け合う二人の汗、絡み合う肉体を、幻想的で妖しい月暈(つきがさ)を放つ月光が、灯していたのだった。

おはようございます、白師万遊です‬(..◜ᴗ◝..)

最後まで読んで頂きありがとうございます!


感想、評価、レビュー、いいね、ブクマ、フォロー等々、

頂けると更新の励みになりますଘ(੭ˊ꒳ˋ)੭✧


【余談】

最近ようやく暖かくなってきたなと思ったら寒くなって、

季節の変わり目は大変です。

体調管理を万全に過ごしていこうと思います。

皆さんも風邪など召さぬよう、ご自愛くださいヾ(。>﹏<。)ノ゛


また次回の更新もよろしくお願い致します(⑅•ᴗ•⑅)

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