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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
*⋱✽⋰*❁番外篇 短篇❁*⋱✽⋰*
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第一集:闇の訪問者(前篇)


 (とり)(こく)正刻せいこく、下界は夕陽が沈み空が藍色に侵食し始めた。そろそろ(とばり)が下りる時刻だ。

 薄明光線(はくめいこうせん)の幻想的で美しい光景は見応えがある。

 しかし人間は神と通じた明るい境界が暗くなっていく夕暮れの事象を、魔物や災禍(さいか)、不幸が(もたら)される時間帯、「大禍時(おうまがとき)」と名付け恐れていた。


 そんな世界の色合いが()じれ、神域との端境(はざかい)(かす)み、常世(とこよ)常夜(じょうや)(ひず)む頃合いを待っていた人物がいる。


 「――ここか」


 闇黒を纏った男がひとり、静寂で満ちる地上にストッと降り立った。黒闇闇(こくあんあん)で染まる艶めいた二翼の翼が(しま)われる。男が見上げた先にあるのは、精緻(せいち)を極め、精密で精巧に作られたタリア像だ。


 男は藁葺屋根(わらぶきやね)の小さな家の玄関扉を叩いた。家中(かちゅう)で争う声が聞こえてくる。


 「――(ほむら)っ、人が来た、離してくれ!」


 「――……チッ」


 ガタガタ物音が続き、ようやく扉が開けられた。


 「――え」


 タリアの瞳孔(どうこう)が驚きで狭まる。


 「ようタリア、こんばんは」


 村人だと思いきや、来訪者は堕神(だしん)(おう)輝堕王(きだわう)であった。彼は元上位神(じょういしん)、光を司る男神(おがみ)ルキ、タリアの兄だ。


 革が揉まれた、もみ革製のチュニック、黒軍服(くろぐんふく)を着衣している。絢爛華麗(けんらんかれい)な黒マントを羽織う服装や、黒い長髪をツインテールに束ね団子状で結った髪型は以前同様、変わらない。容貌(ようぼう)も相変わらず眉目秀麗で黄金比率の顔形(かおかたち)だ。黒い虹彩(こうさい)、黒い眼球、目縁(まぶち)に施されてある化粧も黒い。


 ――遥か昔、ルキの来臨(らいりん)(えい)(たまわ)りたい神々は多かった。


 いまは無論、彼の降臨(こうりん)は消滅か堕落を意味する。そして彼は天上皇(てんじょうおう)が創りし人間が嫌いだ。決して地上で最も(おと)った下界に足を踏み入れない。


 天上界で既知(きち)の事実だ。故にまさか自分の家を訪ねて来るとは思わず、タリアは唖然とした。動かないタリアの細い腰を(ほむら)が引き寄せる。


 「やあ義兄(にい)さん、いらっしゃい。入りなよ」


 タリアを後ろから抱き締めた形で挨拶をする(ほむら)の口調は柔らかい。


 「……あ、うん。こんばんはルキいらっしゃい、どうぞ入って」


 刹那の間を破り、タリアが(ほむら)に同調し、促した。下界の春は朝番の寒暖差が大きい、ルキも寒いはずだ。


 「ありがとな、邪魔すんぜ」


 ルキはタリアの頭部を撫で、歩を進めた。タリアは玄関を閉め木製の(かんぬき)をかける。火が着いた囲炉裏(いろり)で室内は暖かい。


 ()じ込み式で()ってある絹交(きぬこう)の座布団が囲炉裏(いろり)を囲んだ床板に敷かれてあった。


 「義兄(にい)さんは、そっちに座って」


 (ほむら)が指定する席は一番奥だ。ルキは黒マントを脱ぎ、指定された場所に座る。


 「突然の訪問、悪かったな」


 「義兄(にい)さんは歓迎するよ。ね、タリア」


 「もちろんだ。鬼界(きかい)福紅寿(ふくこうじゅ)のお茶、美味しいよ」


 お茶を用意していたタリアが湯呑が乗る丸盆(まるぼん)を手に戻り、胡坐(あぐら)を掻いた体勢で()するルキの(そば)に置いた。刹那、ルキがタリアの右腕を掴んだ。


 ガタッ、と(ほむら)鬼灯丸(ほおずきまる)の刀の(つか)を握り警戒する。ルキは(ほむら)を目尻で捉え、「慌てるな火鬼(ひおに)」と告げ、タリアに視線を移動し謝った。


 (よど)んだ黒い瞳が懺悔(ざんげ)で揺れている。


 「すまなかったなタリア、堕神(だしん)の件でお前を傷付けた。俺の監督不行き届きだ、許してくれ」


 数か月前の話だ。タリアは天帝(てんてい)饗宴(きょうえん)(まい)を披露した後、不意に堕神(だしん)(いざな)う烙印を押され堕落しかけた。エルやクロス、(ほむら)のお陰で一命(いちめい)は助かり、天上皇(てんじょうおう)の情けで神体(しんたい)は元通りになっている。(げん)()たないが、犯人の大神(たいしん)ドックスは征伐(せいばつ)され、彼を(そそのか)した堕神(だしん)はルキが葬り、事は機密事項で内々に処分されていた。


 「ルキのせいじゃない。ルキが私のために堕神(だしん)を裁いてくれたことは聞いている。ありがとうルキ、ずっと(・・・)を守ってくれて。一直(イー ヂィー)、ルキはいまも私の自慢の兄さんだよ」


 微笑むタリアが幼い頃のタリアと重なり、鮮やかな色彩で彩られた記憶の断片が、ルキの脳裏に(よぎ)る。忘れてはならない、忘れられない、兄妹弟(きょうだい)と過ごしていた恋しく尊い、――復元不可能な過去だ。


 「ああずっと(・・・)……、お前も俺の自慢の末弟(まってい)だ。火鬼(ひおに)、お前にタリアを救ってくれた礼を言っておく。ありがとな」


 「別に礼はいい。当然だよ、タリアは俺の嫁なんだ」


 「ああ……三百年後が急遽、結婚したってなお前ら、おめでとう。お前らの前途を祝福してやる。俺の要件は済んだしまずは、お前らの馴れ初めが知りてえな。俺の独一无ニ(ドゥー イー ウー アル)、天地で一等の最愛タリアを掻っ攫ったんだ。火鬼(ひおに)、内容次第じゃ俺はお前を殺し兼ねない。考えて話せよ」


 ルキが振る話題は半ば脅しに近い。腕を組んだ(ほむら)と睨み合っているものの、口角は両者共に上がっていた。相性は良いようだ。


 「いいよ義兄(にい)さん、徹夜、覚悟してね」


 「ガキがナメんな俺は悪の灯火(ともしび)、神々や堕神(だしん)が恐怖で(おのの)輝堕王(きだわう)だ。時間はたっぷりある」

 

 「じゃあ私は夕餉(ゆうげ)の準備をしてくるよ。二人共、喧嘩はしないでね」


 貰った野菜は沢山ある。ルキひとり増えたところで困りはしない。台所に向かうタリアの背をルキと(ほむら)が見送った。しっとり瑞々しいタリアの長い桜の髪を眺め、ルキが独り()ちる。


 「……タリアの手料理か、数千年ぶりだ」


 「新鮮な(たい)のあらを香ばしく焼いた吸い物があるよ。(たけのこ)とチンゲン菜の焼きびたしや、桜の花の塩漬け、俺の好物で|古老肉《グゥー ラァォ ロォゥ》も作ってある。あとはきっと、グリンピース、(たけのこ)、ゴボウ、ニンジンの炊き込みご飯を炊くんじゃないかな」

 

 「今夜の俺はツイてるな」

 

 「じゃあ俺は毎日、ツイてるね」


 ふたりは目笑(もくしょう)し、(ほむら)はルキの正面に着座(ちゃくざ)した。今宵は三人、長い夜となる。ルキは一時の幸せを噛み締めたのだった。


おはようございます、白師万遊です(∩ˊ꒳ˋ∩)・*

最後まで読んで頂きありがとうございます(ぺこ)


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また次回の更新もよろしくお願い致します୧꒰*´꒳`*꒱૭✧


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【独一无二】は唯一無二と言う意味です

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