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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第三幕~.。.:*✽桜紅の契り✽*:.。.~
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第二十五集:歴史の一欠片

 

 下界は春を迎えていた。咲き誇る桜の花びらが、春風で舞っている。花蜜(かみつ)を好んだ小鳥たちの(たわむ)れは無邪気で可愛い。


 「……ふう、いいかな」

 

 タリアは藁葺屋根(わらぶきやね)の小さな家の玄関前を、長柄(ながえ)のやしば(ほうき)で掃いていた。丁度、(ほむら)も花壇の春花(しゅんか)の水やりが終わる。


 「タリア、散歩に行かない? 今日は特に予定ないでしょ?」


 「ああ、天気が良い。行こうか」


 (ほむら)の誘いにタリアは乗った。ふたりで掃除の跡片付けをする。戸締りもしっかりし、いざ出陣と思いきや、目先の空間がジジジジと機械音を鳴らし始めた。


 「行こう」


 (ほむら)は無視する。わかっていて(・・・・・・)、見事な度外視(どがいし)だ。


 けれどタリアは看過(かんか)できない。先に行く(ほむら)の片腕をパッと掴み、制止させる。


 「あー……(ほむら)、少しでいい。待って、お願い」


 「……はあ」


 (ほむら)はタリアの「お願い」は全部、叶えたい。渋々、タリアと共に待機した。


 一部の景色が歪み振動している。磁界(じかい)が安定した数秒後、ホログラム化する、ひとりの男神(おがみ)が実寸大で出現した。五事官(ごじかん)(おさ)、ウリだ。


 立体映像は彼の能力、届伝力かいでんりきである。届伝力(かいでんりき)は任務で五界(ごかい)に降りた神々と通信が可能で、常日頃タリアの(そば)にいる(ほむら)は必然的に何度か経験していた。先程の「回避」はそれ故の行動だ。(ほむら)はタリアとの時間を邪魔され、機嫌が悪い。


 「…………」


 「…………」


 ウリは不機嫌な(ほむら)を意に介さず、正しい姿勢で拱手(きょうしゅ)している。不穏な空気にタリアは左頬(ひだりほお)を掻き、苦笑いしつつ許可をした。天上皇(てんじょうおう)の次に汚れなく清らかな上位神(じょういしん)に、下神(かしん)の神々は直接の接触と会話は許されていない。


 「あー……こんにちはウリ、容認(ようにん)するよ」


 「こんにちはタリア殿、孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)()お久しぶりです」


 「……………」


 (ほむら)は両腕を組み、無言を貫いている。礼儀作法や節度を尊重したウリの挨拶と大違いだ。


 「アハハ……。すまないウリ、気にしないで、私に何か用かな?」


 (ほむら)の怒りが爆発する前にタリアは訊ねた。沢山の仕事を抱えている五事官(ごじかん)だ、用件なく上位神(じょういしん)に連絡はしない。


 「タリア殿に至急、下界の任務に当たってほしいのです」


 下界で生じた案件は下界にいる神、又は、自ら志願する神が解決しなければならない。位階(いかい)は関係ない。問題の重大さで五事官(ごじかん)が判断し、神々に任務を振り分ける。


 「はあ……」


 案の定の流れに(ほむら)が溜息を吐いた。タリアが断らないことも既知(きち)の事実だ。階位(かいい)の低い下級三神(かきゅうさんしん)大神(たいしん)近神(きんしん)一介神(いっかいしん)が手に負えない大きな事態の収拾は、上位神(じょういしん)がしなければならない。


 「いいよ、内容は?」


 「そちらのお二人に伝えてあります」


 そちら、の右側で旋風(せんぷう)が発生し、二名の男神(おがみ)が現れる。(ほむら)の放つ威圧感が増した。


 拱手(きょうしゅ)する男神(おがみ)中級三神(ちゅうきゅうさんしん)神官(しんかん)武官(ぶかん)神兵(しんぺい)、ハオティエンとウォンヌだ。タリアは(ほむら)を横目に「いいよ」と認許(にんきょ)する。


 「お久しぶりでございますタリア様」


 二人が同声(どうせい)に告げ、(こうべ)()れた。黒軍衣(こくぐんい)を着用しており、黄色い刀帯(とうだ)で軍刀も腰に()いてある。準備は万端だ。


 「久しぶり二人共、婚儀以来だね」


 先月、タリアと(ほむら)は天上界の聖栄堂(せいえいどう)華燭(かしょく)(てん)を挙げ、正式に夫婦となった。二人の左手薬指に赤い水晶の結婚指環が嵌められてある。二人はタリアと(ほむら)の指環を一瞥(いちべつ)し、苦虫(にがむし)を嚙み潰したような顔をした。


 「……くっ」


 「……現実だったか……」


 ハオティエンが(こぶし)をわなわな震わせている。ウリは旁边(パンビエン)(うなず)いていた、なにか察している様子だ。


 「ハッ……」


 二人を半眼に見下ろす(ほむら)が鼻で笑った。紅い虹彩(こうさい)が朱に灯っている。


 「何だよっ、何が可笑しい!?」


 ウォンヌが柳眉(りゅうび)を逆立て、(ほむら)に噛み付いた。


 「別に?」


 (ほむら)は一言であしらい、相手にしない。


 「……コイツ!!」


 「なに、()る気? 殺される覚悟ある? ()


 (ほむら)()を煽る天才だ。極端に短い堪忍袋の緒が切れ、ウォンヌが抜刀する。


 「――誰が()だ、殺すッ!!」


 「……よし、加勢してやるウォンヌ」


 何故かハオティエンまで抜刀した。軍刀の刀身を這う光は神々しい。


 「ハッ、(いち)()もまとめて殺す」


 三人は犬猿の仲だ。些細なきっかけですぐ、喧嘩に発展する。冗談程度ならまだしも毎回、全力全開の本気だ。タリアも仲裁に入らざるを得ない。


 「やめないか三人共ッ!! ウリッ、ウリも――」


 「それではタリア殿、凱歌(がいか)()げるは神にあり、失礼致します」


 そう言ってウリは通信を切った。星を散らせるタリアの両眼(りょうがん)が丸くなる。さすがは五事官(ごじかん)(おさ)、撤収の見極めが早い。臨機応変な対応力だ。


 「あー……もう、三人共暴れないで!! 家が壊れてしまう!!」


 タリアの叱咤(しった)が響き渡る。(いさか)いは四半刻(しはんとき)、続いたのだった。


 彼らの日常は何ら変わらない。数世紀、数千年、人間の(かたわら)で歴史を刻み、火山が生んだ自然の渾沌(こんとん)、神々の天敵、死屍累々(ししるいるい)の頂点に君臨する火鬼(ひおに)二世(にせ)(ちぎ)った上位神(じょういしん)タリアの伝説は奇跡の物語としてこれからも語り継がれ、また一枚、ページは捲られる。


 それは果てのない不変の、これは移り変わらない真理の、善と悪、(よう)(いん)が織り成す、とある二人の初恋物語だ。

おはようございます、白師万遊です(*´▽`*)❀

最後まで読んで頂きありがとうございます╰(*´︶`*)╯♡


桜紅初恋オウコウ・チューリエン

一応、本編は完結、の形になります。

しかしまだまだ書き足りない部分や、

恐らく章が続く可能性が大きいので、

連載という形で続けていきたいと思います。

もう暫く付き合って下さると嬉しいです(*´∇`*)


感想、評価、レビュー、いいね、ブクマ、フォロー等々、

頂けると更新の励みになります(ฅ’ㅅ’ฅ)


また次回の更新もよろしくお願い致します( *˙︶˙*)و

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