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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第三幕~.。.:*✽桜紅の契り✽*:.。.~
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第二十三集:エル 対 火鬼

 

 ――天上界は晴天だ。雲はない。立体的な渦巻銀河(うずまきぎんが)が目視可能で、太陽は眩耀(げんよう)(きらめ)いている。


 (ほむら)は天上界内城(ないじょう)、西側、一面(いちめん)(みどり)大草原(だいそうげん)にいた。清々しい爽快感だ、宇宙と境界線のない広大な緑の絨毯は美しい。伸びやかな新緑(しんりょく)、自然の空気が副交感神経系を活性化してくれる。爽やかで溢れた酸素の美味しい理由だ。


 (ほむら)は深呼吸し、眼間(まなかい)にいる人物に訊ねた。


 「義兄(にい)さん、俺になにか用?」


 四半刻(しはんとき)前に(さかのぼ)る。上位神(じょういしん)タリアの桜舞殿(おうぶでん)に突如、上位神(じょういしん)エルが訪れ、「火鬼(ひおに)を借りる」と、(ほむら)は否応なく連れ出された。小首を傾げるタリアに(ほむら)は「義兄(にい)さんと遊んでくるね」と笑顔で別れた(のち)の、現在に至る。


 「――……、お前とタリアの婚姻、明日になったんだろ。父上より拝聴(はいちょう)した」


 エルが無音の息を吐き、口火(くちび)を切った。タリアの堕神(だしん)事件で一躍を担った(ほむら)天上皇(てんじょうおう)が褒美を贈り、三百年後の婚姻予定が急遽変更し、明日、タリアと(ほむら)は一蓮托生の二世(にせ)(ちぎ)る。恋い焦がれたタリアが正真正銘、(ほむら)の嫁になる輝かしい日だ。


 「ああ、まあね。義兄(にい)さんは反対?」


 上位神(じょういしん)エルは末弟(まってい)想いを拗らせたブラザーコンプレックスだ。異論を唱えても何ら不思議はない。


 「父上の決定は絶対だ。父上の厳格な摂理(せつり)、反対はしない」


 「――で?」


 (ほむら)が周期的な反復(はんぷく)拍節(はくせつ)で、促した。


 「お前と一戦、勝負したい」


 「一戦ね、いいよ」


 要は末弟(まってい)に相応しいかの腕試しだ。(ほむら)は快く承諾し、左横目遣いでもうひとりの人物に声をかける。


 「そっちの義兄(にい)さんは、いいのかい?」


 「――あ、僕? ふあ~……、僕はいい」


 そっちの義兄(にい)さん――男神(おがみ)は草原で胡坐を掻き、(ほむら)とエルの会話を黙って聞いていた。欠伸をする口は大きい。


 「はあ……、ラファフィル、自己紹介ぐらいしないか。ヤツは鬼界(きかい)火鬼(ひおに)下神(かしん)じゃないんだ。俺達の常識(おきて)はコイツに通用しない」


 エルが呆れ気味な口調で戒飭(かいちょく)した。上位神(じょういしん)、長男の務めだ。


 「あー……、ごめんエルくん。火鬼(ひおに)くん、俺は四男のラファフィルよろしくね」

 

 上位神(じょういしん)ラファフィルが簡略(かんりゃく)な挨拶をする。発せられた胸声(きょうせい)抑揚(よくよう)はない。

 彼は上級三神(じょうきゅうさんしん)上位神(じょういしん)、治癒を司る神だ。彼は地上の自然保護、環境を促進し、地球環境に熱心な人間に庇護(ひご)を与え、旅人の安全を見守り、下界の調和と平和の手助け、人間や神々の傷付いた身体や神経を癒す役目を担っている。下界の医療者を導き、努力に似合った知恵を授ける役割も彼の仕事だ。


 顔形(かおかたち)は骨格がハッキリした印象で二重瞼(ふたえまぶた)若緑(わかみどり)眼睛(がんせい)山根(さんこん)鼻背(びはい)鼻尖(びせん)が整う鼻の鼻孔(びこう)は狭い。手入れされた鉤眉(かぎまゆ)、上下均等な厚さの唇、脂肪のない顎先(あごさき)はシャープだ。角質細胞が層を成す白い肌の毛孔(もうく)は目立っていない。


 服装は常磐色(ときわいろ)漢服(かんふく)で、上品なレース素材の白衣を羽織っていた。

 漢服(かんふく)の素材は(シルク)上衣下裳(じょういかしょう)の構造だ。(えり)や帯の(ふち)千草色(ちぐさいろ)、前掛けは茶鼠色(ちゃねずいろ)で全体的な色合いがいい。玉に五徳あり、の翡翠(ひすい)勾玉(まばたま)の首飾りは高品質だ。靴は黒い長靴(ブーツ)を履いている。


 髪は若緑(わかみどり)の長髪で三つ編みに編んでいた。編目は緩んでいる。後頭部の分け目はジグザグだ。


 背丈は189㎝、細身の筋肉質で体格がいい。


 「よろしく義兄(にい)さん」


 「ハハ、僕さ、下神(かしん)と喋んないし何か新鮮でいいね。ねえ、火鬼(ひおに)くんとタリアちゃんって相性いいの? 喧嘩しない? タリアちゃん、おっとりしてるじゃん? キミは何かさっぱり……いや、ばっさりじゃん」


 「昨日、鬼界(きかい)で占ってきたんだ。相性はばっちりだよ」


 昨晩、鬼界(きかい)(ほむら)とタリアは(ヂォン)に相性を占ってもらっていた。ふたりは不釣り合いで相応の魂、らしい。(ほむら)は非科学的な占いを信じない(たち)だが、自分を唯一、無償で無垢に愛してくれる慈悲で満ちたタリアを信用している。偶然の一致はきっと必然の運命だ。


 「へえ~! タリアちゃんと鬼界(きかい)に! エルくん、タリアちゃん鬼界(きかい)に出入りしてるんだって、神ってバレないのかな? 四界(しかい)の者は天上臭い(・・・・)って神を嫌うじゃん」


 (ほむら)の情報にラファエルは純粋にタリアの身を案じていた。エルは心配の域を超え、眉を(ひそ)める。時を平行にその頃、タリアは可愛いくしゃみをしていた。


 「アイツ……」


 「まあまあ義兄(にい)さん、俺がいる。俺に敵う鬼は()()ういない。それにタリア、白い鬼角(おにづの)で変装してるしバレないよ」


 「変装!? タリアが鬼に!?」


 「え、うん。鬼界(きかい)随一の女鬼(めおに)だよタリアは」


 「……女鬼(めおに)のタリア? クソ、俺のコレクションにない……」


 タリアの成長記録、もとい、写真集制作はエルの使命だ。天地万物の天帝(てんてい)天上皇(てんじょうおう)創りし最後の男神(おがみ)、タリアの青史(せいし)をエルは収めてきている。


 「義兄(にい)さんタリアのアルバム作ってるんだっけ? 誰か噂してたな……、写真、俺も協力するよ。ご飯を炊くタリア、お風呂上りのタリア、寝惚けてるタリア、民族衣装を着たタリア」


 「よし。孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)課役(かえき)を命ずる」


 「アハハ。ねえ義兄(にい)さん、俺は義兄(にい)さんの義弟(おとうと)になる。命令じゃなく、気軽に『頼んだ』でいいんだよ」


 エルは逐一(ちくいち)、堅苦しい。天上皇(てんじょうおう)が初めて創った男神(おがみ)エルは、上位神(じょういしん)育ちで序列や掟、秩序を重んじる性格だ。されど(ほむら)鬼界(きかい)育ちで規律はない。自由奔放な(ほむら)の見解にエルは数回瞬きを繰り返し、天上界と鬼界(きかい)の歴史にない新しい関係性の芽吹きを感じた。


 「……上位神(じょういしん)じゃない、火鬼(ひおに)義弟(おとうと)か。じゃあ、頼んだぞ」


 「うん、頼まれたよ」


 ふたりは目笑(もくしょう)し、ゆっくり抜刀する。(ほむら)鬼力(きりょく)で形成された鬼灯丸(ほおずきまる)刀身(とうしん)光炎(こうえん)は禍々しい。

 エルの二等辺三角形に近いアーミングソードは(じゃ)を帯びる鬼灯丸(ほおずきまる)と対極で、清きを浴びた刀身は神々しい。剣身(けんしん)の中央の溝、フラーに天上皇(てんじょうおう)御言葉(みことば)が刻まれてある。


 「お前は火山が生んだ渾沌(こんとん)、神の天敵、魑魅魍魎(ちみもうりょう)を統べる鬼神(きじん)と言える火鬼(ひおに)だ。天上界で厖大(ぼうだい)鬼力(きりょく)を放出されたら、中級三神(ちゅうきゅうさんしん)下級三神(かきゅうさんしん)下神(かしん)達に影響を及ぼす。よって鬼力(きりょく)()めた技の使用を禁じる。いいな?」


 天官軍(てんかんぐん)総帥(そうすい)エルは八相(はっそう)に構え、簡単な規定を定めた。鬼界(きかい)三災鬼(さんさいき)のひとり(ほむら)は特段、構えていない。


 「いいよ。一発勝負だよ義兄(にい)さん」


 「ああ」


 ふたりは目配せの合図で踏み込んだ。足元の緑の葉が数枚(なび)き、一弾指(いちだんし)、ふたりの刃がぶつかる。衝撃で突風が渦状に巻きあがった。


 「――ハアッ!!」


 エルが間合いを図り袈裟斬(けさぎ)りする。(ほむら)はエルの重い一撃を弾き、(みぎ)()ぎでエルの(ふところ)を狙った。エルは後方に一回転、白軍衣(はくぐんい)をはためかし(かわ)すや否や、瞬時に(ほむら)と距離を詰め、左切り上げで反撃する。


 「――ハ」


 (ほむら)は上半身を反らして()け、エルの刃に反射した自分の紅い虹彩(こうさい)を見送り、流れる勢いを殺さず斜め(ひだり)()ぎで、エルの首元に刃先を下し、グッと耐えた。エルは空振りに終わり、(ほむら)の勝ちだ。


 (つわもの)の決着は早い。エルは舌打ちし、鞘に長剣 (ちょうけん)納刀(のうとう)する。


 「……チ」


 「義兄(にい)さんは強いね、一発勝負じゃなきゃ負けてたな」


 敗北したエルに対しての御世辞ではない。(ほむら)顧慮(こりょ)的気遣いの概念はない。最近ようやく覚えたが、タリア一辺倒(いっぺんとう)でタリアにしか発動しない。エルに告げている感想は事実だ。彼が弱ければ(ほむら)の騎士服の胸元は、右から左、左から右と、すっぱり斬られていない。


 五百年で火鬼(ひおに)孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)の衣服を裂いた者は、上位神(じょういしん)エルが初めてだ。


 「お前も天上に悪名を轟かせるだけはある」


 「……ん? お~!! 火鬼(ひおに)くん、エルくんが褒めてるよ!!」


 (ほむら)に拍手をするラファフィルは目尻の涙を拭った。感動の、否、睡魔の結晶である。ラファフィルはふたりの決闘中、眠っていた。


 「ラファフィル!! 俺は褒めていない!!」


 「ありがとう義兄(にい)さん、義兄(にい)さんに認めてもらえて嬉しいよ」


 礼を述べる(ほむら)の、顔面に貼り付けられた笑みは黒い。


 「……はあ。解散だ。タリアが待ってるだろう」


 「桜舞殿(おうぶでん)義兄(にい)さんも来る? 午後、タリアに花嫁衣裳の試着させるけ――」


 「行こう」


 エルの返事が(ほむら)語末(ごまつ)に被さる。(ほむら)は鞘に鬼灯丸(ほおずきまる)を収め、苦く笑った。ラファフィルは寝転がり、足を組んで動かない。


 「僕は明日を楽しみにしてる。タリアちゃんによろしくね、火鬼(ひおに)くん」


 「ああ。じゃあまた明日、義兄(にい)さん」


 ラファフィルに手を振り、(ほむら)はエルと桜舞殿(おうぶでん)に戻った。「おかえり」と出迎えるタリアに(ほむら)が口づけ、エルが説教したことは言うまでもない。

おはようございます、白師万遊です(*'ω'*)ノ

最後まで読んで頂きありがとうございます(*´︶`*)


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頂けると更新の励みになります(∩ˊᵕˋ∩)・*


また次回の更新もよろしくお願い致します*_ _)ペコリ♡

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