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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第三幕~.。.:*✽桜紅の契り✽*:.。.~
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第二十二集:過去の統括でいまのキミ


 「ほい!! じゃ」


 「ありがとう、(ヂォン)


 タリアと(ほむら)は占いを終え、店を出た。今日の目的は達成だ。いい結果にふたりは目笑(もくしょう)する。


 「じゃあタリア――」


 「孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)!! いたァ!!」


 店前で(ほむら)がタリアに話かけた直後、ひとりの女鬼(めおに)(ほむら)の胸元に飛び込んだ。タリアは驚いて一歩、後退(あとずさ)る。(ほむら)と繋いでいた手が、するり(ほど)けた。


 「孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)!! 久しぶり!! いるって噂、耳にしちゃって!! フフッ、会いに来ちゃった!!」


  容姿端麗な女鬼(めおに)だ。彫の深い骨格で団栗眼(どんぐりまなこ)碧眼(へきがん)山根(さんこん)鼻尖(びせん)が通る鼻背(びはい)に小さい小鼻、鼻翼(びよく)は狭い。眉は秀眉(しゅうび)赤紅(あかべに)をさす唇、肉のない(あご)はシャープだ。深緋色(ふかひ)の化粧が目元に施されてある。


 髪色は青い。ハーフアップで結い、弁柄色(べんがらいろ)のリボンが巻かれてあった。可愛い髪型だ。


 服装は漢服(かんふく)紅海老茶色(べにえびちゃいろ)襦裙(じゅくん)を着用している。衿元(えりもと)が右前の丈短(たけみじか)の上衣は(チョゴリ)、腰紐の(くん)下裙(したも)はウエストスカート状だ。薔薇(ばら)刺繍が可憐な布靴を履いていた。


 白藤色(しらふじいろ)の羽織はオーガンジーの生地で透け感がある。ふわふわ夜風に揺れていた。彼女の色声は艶めかしい。


 女鬼(めおに)はおちょこ口で(ほむら)を見上げている。


 「ねえッ、無視~?」


 「(ほむら)、彼女は友達か?」


 「いや」


 「も~孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)の嘘つき~!!」


 三人の会話が噛み合わない。どちらの否定が正解かタリアは小首を傾げた。


 「あ~……、私はあっちにいる、ゆっくりいいよ(ほむら)


 「俺も行く、ひとりで行かないで」


 気遣いが気に障ったのか(ほむら)の語気は強い。刹那、タリアはパチリ女鬼(めおに)と視線がぶつかる。


 「ねえっ、アナタ誰!? めっちゃ綺麗な男鬼(おおに)じゃん!! 女鬼(めおに)と錯覚しちゃった!! 白い角って雑鬼(ざっき)!? 名前は!?」


 「行こう」


 女鬼(めおに)を乱暴に引き剥がし、(ほむら)がタリアの細い腰に片腕を回した。けれど女鬼(めおに)は執拗だ、タリアの右腕を握って離さない。


 「やだ!! ねえっ、アナタ私と寝ない? 私あっちの、西の区画の妓楼(ぎろう)で働いてるの! 極楽街(ごくらくがい)妓楼(ぎろう)は出入り自由なんだ~! 孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)、今日は寝てくれないっぽいし、アナタがいい! ねっ、いいでしょ? 安くするしっ!!」


 「あ~……、え……と……」


 鈍感なタリアが状況を察する。彼女は妓楼(ぎろう)の遊女だ。今日は、の箇所で女鬼(めおに)(ほむら)の関係性は容易に把握できた。


 (ほむら)が黒い影を背負っている。何故か道に背いていないタリアの背筋が緊張で伸びた。隣で発せられる(ほむら)の地を這う怨声(えんせい)は低い。


 「……ごめんねタリア、ちょっとそっちにいてくれる?」


 「……ああ、もちろん。穏便にね」


 (ほむら)の心を汲み、(こころよ)く首肯する。タリアはそっと場を後にした。


 「ええ~……、私のお客が~……」


 タリアの背を見送る女鬼(めおに)(なげ)いた瞬間、(ほむら)女鬼(めおに)の首根っこを(わし)掴んだ。太鼓や神楽笛(かぐらぶえ)の音色で女鬼(めおに)濁声(だくせい)は消される。


 「ガッ……ハ、な、に……!?」


 「……憶えていない。まあ、確かに気晴らしで小汚い下賤(げせん)と寝たときもあったな」


 「ァア……、ダレガ!!」


 女鬼(めおに)の体が宙に浮いた。バタバタ両脚が彷徨い、片方の靴が脱げ、転がる。(ほむら)の握力は容赦がない。


 「だずげ、ごめ、……ごめ、なざ!!」


 女鬼(めおに)は身の危険を感じ命乞いをした。上手く酸素が吸えず涙声だ。


 「……お前の品行(ひんこう)醜穢(しゅうわい)だ、俺もな」


 「イァアアアア!!」


 けたたましい叫声(きょうせい)が周囲の雑音に溶ける。(ほむら)の能力で女鬼(めおに)が火だるまになった。高温の炎で焼かれ、倏忽(しゅっこつ)骨灰(こつばい)となる。白い粉末状の灰がさらさら紅い世界に雲散霧消(うんさんむしょう)した。


 (ほむら)(つい)で火の犬を二匹、出現させる。


 「縫い師に言伝(ことづて)だ」


 「…………」


 火の犬は(ほむら)の命令に従い、タッと前脚を蹴り疾走した。灯篭(とうろう)燈火(ともしび)に同化する火の粒は明々しい。(ほむら)は賑わう極楽街(ごくらくがい)(なまじり)で捉え、騎士服の(すそ)(ひるがえ)した。引き()妖光(ようこう)禍々(まがまが)しい。


 一方その頃――(ほむら)と一旦別れたタリアは、一階の楼閣(ろうかく)に繋がる重厚な紅い絨毯が敷かれた階段前の、鶴や亀の像がある開けた広場にいる。


 「……わあ」


 一天(いってん)閃々(せんせん)と輝く孔明灯(こうめいとう)、垂れ籠めた紅い湯気と橙色(だいだいいろ)が織り成す世界は圧巻だ。暖かい天灯(てんとう)は幻想的で目映い。

 所々に装飾された赤い木は、鬼界(きかい)に自生する鬼紅木(きこうき)だ。常緑(じょうりょく)植物で一年を(つう)じ紫がかった赤い葉がついていて落葉はしない。夜空を舞う鮮やかな赤は儚くも壮麗(そうれい)華美(かび)にない上品な(おもむき)があった。


 中央では演武(えんぶ)が披露されている。階段側を正面にU字型で(たたみ)が置かれてあり、金縁盃(きんぶちさかずき)を片手に、赤い野点傘(のだてかさ)の下で多種の鬼達が盛り上がっていた。童子(どうじ)が描かれてある高さ180㎝の四連衝立(ついたて)や、一刀彫(いっとうぼり)の立体的な竜の彫刻がされた高さ80㎝の赤い衝立(ついたて)は圧迫感がない。外観の統一感を乱さず、しっかり空間に馴染んでいる。


 「――よっ!! いいぞ~!!」


 「――かっこいいわよ~!!」


 弾んだ諧声(かいせい)がいい。


 「――おっ、美人の姉ちゃん! 一杯、奢るよ!」


 ほろ酔いで気分のいい青鬼(あおおに)が、タリアの存在に気づき、酒を勧めてきた。下腹部(かふくぶ)がぷっくり膨れている男鬼(おおに)だ。頭部の真ん中を剃った紺色の落武者ヘアーで緑色の浴衣を着用している。着崩れた上半身はほぼ裸に近い。


 「いえ、私は平気です。ありがとう」


 「んな遠慮すんな! 別嬪のアンタの(しゃく)で俺は飲みてえんだ!」


 「俺の女鬼(めおに)に何をさせたいって?」


 矢庭(やにわ)に、(じゃ)(まと)(ほむら)が現れた。鬼界(きかい)の東を統治する火鬼(ひおに)孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)青鬼(あおおに)を半眼に睨んでいた。放たれる殺気は刺々しい。青鬼(あおおに)を含め全員が(ほむら)(おのの)き、平伏した。


 滴る汗の量が心境を物語っている。

 

 「()孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)様!!」


 「俺の女鬼(めおに)(しゃく)を所望するか、下等な青鬼(あおおに)ふぜいが」


 「孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)様の女鬼(めおに)と存ぜず……!!」


 「……………」


 不穏な問答だ。誰もが胸裏(きょうり)で「青鬼(あおおに)の命は(つい)えたな」と確信した。冷酷無残な火鬼(ひおに)だ、彼に情けはない。


 しかし幸いにも、今宵はタリアがいる。(ほむら)女鬼(めおに)、もとい、上位神(じょういしん)タリアは彼の身勝手な非道を看過(かんか)しない。


 「ま、待って待って(ほむら)!! 彼はお酒を勧めてくれただけだ!! 誤解しないで!! 殺しちゃだめだ!!」


 タリアが(ほむら)青鬼(あおおに)達の間で両手を広げ、助命嘆願(じょめいたんがん)した。何事だと往行(おうこう)する鬼達が足を止め、対峙(たいじ)したふたりを注目する。


 「……タリア」


 (ほむら)が右手を差し出した。黒い眸子(ぼうし)の領域が収縮し白光している。タリアは後方に微笑み、並足で(ほむら)に歩み寄り、自分の右手を重ねた。


 「(ほむら)、彼を許してくれる?」


 「……タリアは俺を許してくれる?」


 許す相手が(ほむら)に移る。覇気のない声音で表情も幾何(いくばく)が暗い。


 「……? 私に何を許されたいんだ?」


 「……さっきの」


 「さっき……、ああ女鬼(めおに)の件かな?」


 タリアが言外(げんがい)の意を推察し、(ほむら)に聞いた。(ほむら)は逃げ(まなこ)で目線を外に無言で点頭(てんとう)する。謝罪の仕方がわからず、どこか拗ねたような、幼い態度だ。


 「(ほむら)、過去は過去だ。許すも何もない。過去の総括(そうかつ)でキミはいま、私を愛してくれている。さっきの一件で私は怒っていないし、軽蔑もしていない。キミが(わずら)う必要はないんだよ」


 万物流転(ばんぶつるてん)、人生は千差万別で一列一体にない。特に下界の人間と違い、四界(しかい)の者や天上界の神の寿命は長い。数百年、数千年、生きていれば様々な経験をする。


 「……俺の過去に嫉妬はしてくれないの?」


 (ほむら)は正直だ。タリアの慈悲深い平等無差別の見解に若干の不満を(あら)わにした。


 「ハハ、嫉妬はする。私も(ほむら)を愛する立場だ。でも嫉妬に勝る信用を、日々、キミは私に示してくれる。ありがとう、お陰で私は安心してキミを待っていられた」


 神々は創造主の天上皇(てんじょうおう)と異なり、全智全能にない。タリアは(ほむら)に恋慕の情を抱き、愛を育む過程で、矛盾した色々な両面(りょうめん)感情をいま尚、学んでいる最中だ。愛は寛容(かんよう)(ほこ)らない、謙虚(けんきょ)傲慢(ごうまん)なく、タリアは(ほむら)を信じ忍んでいる。


 「……はあ。タリアに出逢って、過去の自分に後悔してばかりだ。俺と結婚……、してくれるよね?」


 溜息を零す(ほむら)がタリアを抱き締め耳語(じご)した。タリアの返事に迷いはない。


 「ああ、もちろんだ。(ほむら)、キミと結婚する」


 聴覚のいい鬼人達、二人の誓いで一瞬、辺りが静まる。そして一拍後、二人は歓喜に包まれたのだった。

おはようございます、白師万遊です( *´ω`* )

最後まで読んで頂きありがとうございます(*´︶`*)♡


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また次回の更新もよろしくお願い致します( *˙︶˙*)و

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