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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第三幕~.。.:*✽桜紅の契り✽*:.。.~
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第二十一集:東の領域、鬼界の極楽街


 (いぬ)(こく)初刻(しょこく)――、タリアと(ほむら)中央往来(ちゅうおうおうらい)()を使い、鬼界(きかい)に降りた。火鬼(ひおに)孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)が統治する鬼界(きかい)(りょう)(ひがし)獄楽街(ごくらくがい)は賑やかだ。赫灼(かくしゃく)と闇夜が照らされ、紅い湯気で覆われている。


 「――わあ! 温泉街になってるのか!?」


 「――まあね、俺の縄張りだ」


 獄楽街(ごくらくがい)は中央に高温の温泉川が流れており、弓なりの紅い反橋(そりはし)(いく)つも架かっていた。手鞠(てまり)型の竹灯籠(たけとうろう)が設置されてある。夜空の星々を邪魔していない。川を(とも)橙色(だいだいいろ)燭光(しょっこう)は幻想的だ。

 左右の川沿いは赤を基調とする色鮮やかな建物が並でいた。統一感のある外観は見事だ、雰囲気は(いささ)か妖しい。

 一番圧巻なのは、最奥に(そび)え立つ十二階建ての紅い楼閣(ろうかく)だ。丸窓の竹格子(たけごうし)、角窓の晒竹(さらしたけ)光映(こうえい)した赤瓦(あかがわら)に垂れる無数の提灯(ちょうちん)鬼灯(ほおずき)、二階の露台(ろだい)の屋根に般若(はんにゃ)形相(ぎょうそう)をした黒い招き猫がいる。右手の前脚を挙げた銅像だ、左手の前脚に血塗れの小判を抱えている。

 入口の暖簾(のれん)は黒い。丈は五十センチ弱だ。白い筆で喜怒哀乐(きどあいらく)と書かれていた。

 付近に開放的な(てい)がある。宝形造(ほうぎょうづくり)緑瓦(みどりがわら)の屋根だ。紅い柱は六本、壁はない。


 「……下界にない水車だ、凄いな」


 楼閣(ろうかく)の右の側辺(そくへん)で大きな三連水車がくるくる回っていた。水の活動力を機械的エネルギーに変換する回転機械、人間が開発した原動機だ。

 

 獄楽街(ごくらくがい)は飲食店や雑貨屋も(のき)を連ねている。赤鬼(あかおに)青鬼(あおおに)黒鬼(くろおに)雑鬼(ざっき)、人型や獣形(じゅうぎょう)の多種多様な鬼人(きじん)が行き交っていた。

 賭博(とばく)をする者、酒を(あお)る者、買い物で世間話に興じる者、活況(かっきょう)(てい)する景色は天上界にない幻怪(げんかい)な世界で眺めていて飽きない。


 「ハハ、タリア、気に入った?」


 「ああ、キミの縄張りは楽しいな」


 「まあね。あっちは行っちゃだめだよ、百鬼(ひゃっき)遊郭(ゆうかく)がある。花柳街(かりゅうがい)奢侈(しゃし)遊郭(ゆうかく)(おと)るけどね、まあまあウチの遊郭(ゆうかく)厖大(ぼうだい )で稼ぎはいい」


 あっち、は橋を渡った西側の区画だ。二階造りの楼門(ろうもん)がある。白壁に朱色の柱だ。豪華な打掛(うちかけ)(まと)女鬼(めおに)達が黒塗りの高下駄(たかげた)で練り歩いていた。


 「……キミは多才だね(ほむら)


 「ハハ、ありがとう。おいで、こっちだよ」


 「ああ」


 (ほむら)に右肩を引き寄せられ、石畳の道を進んだ。三階建てで一階が吹き抜けになった楼閣(ろうかく)の頭上は高い。紅い柱の回廊(かいろう)もある。


 「――孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)様じゃねえか!!」


 「――ああ封印が解けたって噂だ」


 「――女鬼(めおに)といるぞ」


 「――白い角? 雑鬼(ざっき)か?」


 タリアと(ほむら)は注目の的だった。往行する鬼人(きじん)達はふたりに釘付けだ。

 

 「…………」


 タリアは無意識に駄弁る鬼達の会話を拾い、装着した白い鬼角(おにづの)を確認する。鬼界(きかい)を訪れた際は必ず鬼に扮するタリア、上目遣いで(ほむら)に訊ねた。


 「私は鬼になれてないか? 似合っていない?」


 「…………」


 桜色の明眸(めいぼう)瑞々(みずみず)しい。(ほむら)を反射している。目縁(まぶち)をみっちり囲った睫毛は長い。タリアは不安を八字眉に宿していた。(ほむら)は無言で潤う唇に口づけする。


 「――――ッ!?」


 ふたりの動向を窺う鬼人(きじん)達は唖然とした。


 「……ん」


 須臾(しゅゆ)に感触はなくなる。


 「似合ってるよ。完璧な鬼だ。鬼界(きかい)随一に綺麗な、ね」


 「……ありがとう」


 「さ、こっちだよ」


 (ほむら)はタリアを笑顔で見下ろし、見物人の鬼達を睥睨(へいげい)した。炯眼(けいがん)する虹彩(こうさい)は紅い。


 「――ヒッ!」


 「――殺されるぞッ!!」


 「――すんません、すんません!!」


 鬼達はサッと四散(しさん)した。獄楽街(ごくらくがい)統馭(とうぎょ)する火鬼(ひおに)孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)を怒らせてはいけない。彼は獄楽街(ごくらくがい)の掟だ。余計な行いで逆鱗に触れたら最後、生きて獄楽街(ごくらくがい)は出られない。


 「……(ほむら)? なにかあったか?」


 「いや何も、余所見しないでタリア、転んでしまう」


 「ああすまない、ありがとう」


 今宵の極楽街(ごくらくがい)は至って平和だ、和太鼓(わだいこ)神楽笛(かぐらぶえ)の音色が響いている。幅広い音域の豊かな旋律(せんりつ)が奏でられていた。


 タリアは(ほむら)に導かれるがまま、外の空間と繋がった楼閣(ろうかく)の下を歩行している。布製の(くれない)提灯(ちょうちん)が飾られた一帯は奇観(きかん)だ。


 「……精密だな」


 楼閣(ろうかく)木鼻(きばな)に施されてある竜や麒麟(きりん)の彫刻は精巧(せいこう)躍動感(やくどうかん)があった。技巧を凝らす海老虹梁(えびこうりょう)も技術的に優れている。驚異的に細かい、他に類がない構造だった。

 

 風雅(ふうが)(おもむき)だ。タリアが辺りの風景に夢中になっていると、一画の角を曲がった(ほむら)が足を止め、必然とタリアも制止する。


 「ああ、あったあったタリアここ(・・)だよ」

 

 どうやらここ(・・)が以前、(ほむら)が言っていた、『いい占い師がいる』場所のようだ。


 「ここが?」


 「そ、入ろう」


 「ああ」


 タリアは(ほむら)に促され、紅い木製の面格子(めんごうし)の窓を挟んだ真ん中の黒い暖簾(のれん)を潜った。

 内方(ないほう)は五畳とない、薄暗い赤一色の部屋だ。床の紅い絨毯は所々、破けている。天井板に吊るされた青銅製(せいどうせい)吊灯籠(つりどうろう)は四角型で四君子(しくんし)模様だ。中心には光沢感ある赤い波型(はけい)縁取(ふちど)りのテーブルクロスがかけられた円形の机がひとつあり、椅子は一脚しかない。


 (ほむら)にやんわり背中を押される。


 「タリア座って」


 「私はいい、(ほむら)が座ってくれ」


 「タリア」


 (ほむら)の語調は強い。平行線の主張は譲り合いが大事だ。


 「……、ありがとう」


 タリアは(ほむら)の厚意に甘え、椅子に腰をかけた。(ほむら)はタリアの右横で腕を組み、「(ヂォン)」と呼んだ。すると壁と同化した正方形、50㎝角の隠し扉が旋回(せんかい)し、背丈70㎝の赤鬼(あかおに)が「ほい」と現れる。


 左手に掴んだ脚立を固定した赤鬼(あかおに)は階段を上り、()するタリアの正面で直立した。素足で皮膚は赤黒い。アフロヘアの髪色は赤く、増女(ぞうおんな)能面(のうめん)を被っている。服は(みの)だ。鬼の牙や爪で作られた自然たる首飾りは削られていない、生々しい肉片(にくへん)が付着していた。


 赤鬼(あかおに)に胸の膨らみはない。男鬼(おおに)だ。頭部に一本、角が生えている。


 「――いらっさい。ほんや、孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)じゃないか」


 (ヂォン)の声音は()び切った塩辛声(しおからごえ)だ。鬼界(きかい)を統べる火鬼(ひおに)孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)の来訪に特段、驚愕はしていない。鬼界(きかい)三災鬼(さんさいき)招死(しょうし)笑滅(えめつ)乱螫(らんどく)惨非(ざんひ)を占う占い師なのだから、当然と言えば当然であった。


 (ほむら)が早速、簡略(かんりゃく)に告げる。


 「俺とタリア、占って」


 ふたりが鬼界(きかい)を訪問した目的だ。(ほむら)は以前、五事官(ごじかん)(おさ)ウリにタリアの「凶運の発端」と名指しされ、タリアと鬼界(きかい)で運勢占いをする約束をした。今夜が、その日だ。


 「ほい。アンタがタリア。いんよ、なん占う?」


 「俺達の相性」


 「ほい。孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)は左手ェ、タリアは右手ェ」


 とんとん拍子の問答が終わり、タリアは戸惑いがちな手つきで(ヂォン)に左手の平を見せる。人生初めての占いだ、多少の緊張は致し方がない。


 「お願いします……」


 「ほい」


 「…………」


 (ほむら)は左手の平を差し出すのに躊躇(ためら)いはなかった。(ヂォン)はタリアと(ほむら)、ふたりの手相を交互に観察し、鼻をふんふん鳴らしている。揺れ動く首が可愛い。


 「ほい。あんがとね」


 二分と経たず解放された。(ほむら)が一語で催促する。


 「――で」


 「ほい。(おだ)てず、ふたりの相性はいい。孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)にないところをタリアが、タリアにないところを孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)が、補える関係、ふたりでひとつの愛を構築できる。タリアは愛情深い面倒見がいい芯もぶれん、孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)は感情線がまるっとない。感情線は普通は同じがいい、でんもオマエたちは極端に逆の性質、不釣り合いで相応の(たましい)になっとる。下界の(たましい)で例えたらまあツインレイ、人生の変革で出逢ったんやな。タリアも孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)も生命線がない、生きてるの不思議、まあない同士、いいんやろ。孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)の嫉妬心は鬼界(きかい)いち、タリアの鈍感は鬼界(きかい)いち、ぅんまあいい相性。(うん)(はこ)ぶ、おまえたちは自分の意思で運を運び孤独の相を脱した、相性いい。上向きの結婚線、いまが結婚準備最適」


 (ヂォン)は淡々と説明した。タリアは天上界の神だ、生命線がない「不思議」は既知(きち)の事実で彼の解釈に文句はない。

 

 「俺とタリアは相性がいい」


 (ほむら)も不満のない様子だ。タリアの右手を(すく)い、自身の頬に宛がう。満悦の表情でタリアも嬉しくなった。


 「ああ、やっぱり私達は福運(ふくうん)だ」


 有能感、達成感、使命感が(もたら)す幸福に感謝したい。タリアは頷き、(ほむら)目笑(もくしょう)する。二人の甘い空気に(ヂォン)は居心地が悪そうだ。

 

 「……ほい」


 「(ヂォン)、お前の所場代、百年タダにしてやる」


 「ほい!?」


 (ほむら)(すこぶ)る機嫌が良い。予想外の棚からぼたもちで、(ヂォン)も、ふたりの幸運にあやかれたのだった。


おはようございます、白師万遊です⸜( ´ ꒳ ` )⸝♡︎

最後まで読んで頂きありがとうございます(ㅅ •͈ᴗ•͈)


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また次回の更新もよろしくお願い致します( ੭•͈ω•͈)੭

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