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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第三幕~.。.:*✽桜紅の契り✽*:.。.~
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第二十集:褒美

 

 「――タリア様だ!」


 「――おお……ッ、天帝(てんてい)饗宴(きょうえん)のタリア様は格別だったよな!」


 「――ああ、着飾っていない今日もお美しい」


 天上界内城(ないじょう)を歩く上級三神(じょうきゅうさんしん)上位神(じょういしん)、カリスの一柱(ひとばしら)三美神(さんびしん)のひとりタリアを、男神(おがみ)達は遠目に眺めていた。春風がタリアの桜色の長髪を(なび)かせている。艶めいた一本一本の瑞々(みずみず)しい髪を右耳にかける仕草は可憐だ。目縁(まぶち)の睫毛と縦ジワのない潤いに満ちた唇が照り付ける太陽で輝いていた。透明性に富んだ美貌は光輝燦爛(こうきさんらん)だ。


 「タリア、離れないで」


 「ああ、ありがとう(ほむら)


 鬼界(きかい)鬼族(きぞく)火鬼(ひおに)孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)が隣にいる。上位神(じょういしん)外は触れられないタリアの右手を(さら)い、衆目(しゅうもく)を驚かせた。


 「下賤(げせん)なヤツがタリア様に!!」


 「タリア様はアイツに(そそのか)されているんじゃないか!?」


 「タリア様は無垢であらせられる!! アイツに騙されているんだ!!」


 神々しいタリアと毒々しい(ほむら)、神々達は二人を対比する。(ほむら)の騎士服の(すそ)赫焉(かくえん)で揺らめいていた。黒い邪気を引き摺っている。(いびつ)に灯った虹彩(こうさい)は紅い。眉目秀麗で妖しい雰囲気はタリアと正反対だ。


 タリアの華々しい(よう)(ほむら)のおどろおどろしい(いん)、白と黒の抽象的な蛍光(けいこう)が尾を引いている。


 「お似合いよね……」


 「うっとりしちゃう」


 上級三神(じょうきゅうさんしん)の二番目の階位(かいい)中位神(ちゅういしん)や三番目の階位、下位神(かいしん)の女神達の評判はいい。一枚の絵画の如く美しいふたりに女神達は見惚れ魅了されていた。


 神々の注目が集中する。鈍感なタリアは男神(おがみ)達の媚びた色目に気づいていない。(ほむら)はやや右側に首を傾け、尻目で自分達に付いて来る神々を牽制(けんせい)した。神々は殺気が籠る炯眼(けいがん)で射抜かれ、「ヒイ……」と逃げ惑う。


 「……ん? みんな急に走って……、仕事かな?」


 「きっとね」


 「――あ、焔こっち」


 目的地が近い。タリアが(ほむら)の左手を引っ張った。楕円型(だえんけい)に整えられている退紅色(たいこうしょく)の爪が際立つ指先は細い。


 「憶えてるかな?」

 

 「もちろんだタリア」


 タリアが誘導した場所は、(ほむら)も記憶にある。途中で途切れた(きざはし)をタリアが先に上り、二回目で手慣れてる(ほむら)も一段一段、後に続いた。


 最後の一段目でタリアが純白の十二枚の二翼を広げる。(ほむら)が斬り落とした痕跡はない。一枚、一枚、栄光で光華(こうか)していた。散らばる銀光、きらきら舞った光の粒は儚い。


 一歩先は躍動感のある壮大な雲海(うんかい)だ。道はない。


 「――こわい?」


 以前と同様の問言(といごと)だ。


 「タリアとなら地上に墜ちても構わない」


 以前と同様の答言(どうげん)だ。


 「ハハ、キミは度胸がある」


 「ハッ、まあね」


 (ほむら)真言(しんごん)に迷いはない。タリアはゆっくり翼を羽ばたかせた。(ほむら)の左手を引き、正邪(せいじゃ)(よど)みのない(あめ)(うみ)を案内する。


 夢幻的(むげんてき)橙色(だいだいいろ)孔明灯(こうめいとう)が昇っていた。一飛(いっぴ)沖天(ちゅうてん)平平安安ピンインピンインアンアンと天灯に書かれてある。飛躍(ひやく)天昇(あまのぼる)平穏無事(へいおんぶじ)、の意味を指す、温かく赫灼(かいしゃく)した無数の熱気球は幻想的で優美だ。


 「孔明灯(こうめいとう)、地上の祈祷(きとう)だ」


 「今日も誰か祈ってるんだね、暇人だ」


 「アハハ……。あ、(ほむら)、足元に気を付けて」

 

 宙に浮く薄い円形の土台に二人は到着した。

 

 床は大理石だ。上空の気温でかなり冷たい。円の(ふち)に添って天上皇(てんじょうおう)の御言葉が描かれてある。中央に施された彫刻は天上皇(てんじょうおう)の左目だ。


 「こっちに」

 

 タリアは(ほむら)の袖口を引っ張り、真ん中に移動した。天空に向けタリアが拱手(きょうしゅ)し、謁見(えっけん)(たま)わる。(ほむら)は腕を組み、拱手(きょうしゅ)――(ゆう)はしない。


 「天上皇(てんじょうおう)、参りました。上位神(じょういしん)タリア。火鬼(ひおに)孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)です」


 「――タリアと火鬼(ひおに)か」


 目映い金光(きんこう)欠片(かけら)爛然(らんぜん)と降った。膨大な数の恒星、秩序が完結する青藍(せいらん)六極(りっきょく)に神秘的な白い幕状のベールがかかる。

 二人を覗き込む影は大きい。輪郭線が(かす)んだ面相(めんそう)、その正体は天地、宇宙、万物を創造した天帝、天上皇(てんじょうおう)だ。


 「天上皇(てんじょうおう)此度(こたび)は私の精神の弛緩(しかん)が招いた一件にも(かかわ)らず、惨めで見窄(みすぼ)らしい神体(しんたい)に情けをかけて下さり、誠にありがとうございます」


 ――常闇(とこやみ)の幼い低声がいまも耳に残っている。堕落の烙印(らくいん)が皮膚を(えぐ)り焦がす痛みは忘れられない。


 醜悪(しゅうあく)蕭索(しょうさく)怨毒(えんどく)奸凶(かんきょう)の濁流の(うず)(あらが)えず、藻掻き苦しんだ。細胞を蚕食(さんしょく)していく賎陋(せんろう)で、徳義(とくぎ)は破壊され、内面的原理がひとつひとつ欠落し、頽廃(たいはい)し、不徳の織り成す甘美(かんび)な誘惑に身を委ね浸潤(しんじゅん)しかけた。

 

 「――私は森羅万象の歴史、未来を見透せる。罪咎(ざいきゅう)はお前に無い。離反になるまい。お前は堕落を拒み試練を忍耐した、かけた情けは道理だ。エルやクロス、兄達の判断、火鬼(ひおに)荒肝(あらぎも)礼賛(らいさん)しなさい」


 「はい。私を救ってくれた(みな)奉謝(ほうしゃ)致します」


 一度は処刑を望んだ。一度は生存を絶念(ぜつねん)している。

 されど上位神(じょういしん)エルが最善の裁断(さいだん)、半処刑に処してくれた。クロスが看視(かんし)する中、(ほむら)が翼や四肢(しし)を切断してくれたお陰で、神力(しんりき)が極限に削られ、賊心(ぞくしん)(もたら)す苦痛が砕け、見限った爾後(じご)の未来に命を紡げている。


 「――お前は私を裏切りたくないと泣いていたな。泣き虫なお前は懐かしい」


 「……やめて下さい父上、懐かしいも何も私は泣き虫じゃありませんでした」


 天上皇(てんじょうおう)の昔話は恥ずかしい。タリアは両頬(りょうほお)を赤らめ、口先を(すぼ)ませた。傍らでくすりと笑みを零す(ほむら)に益々、羞恥が増し居た堪れない。


 「――前度(ぜんど)奇禍(きか)でタリア、お前が万一、堕神(だしん)に堕ちていたら、私の天声(てんせい)はお前に届かず、自ら私のもとを去っていた。お前を愛す上位神(きょうだい)、神々は数多にいる。お前と暗晦(あんかい)の裏道に逸れていただろう。そうなれば私は数百の子等を失っていた」


 「父上……」


 上位神(じょういしん)の堕落は影響力がある。崇高(すうこう)していた神が堕ちた際、下神(かしん)が釣られる事例は多くあった。天上皇(てんじょうおう)に「もしも」はない。彼は分岐する道でタリアが選ばなかった、もうひとつの選択肢、未知の世界を語っている。


 「――下界に蔓延(はびこ)邪曲(じゃきょく)の種を火鬼(ひおに)、お前は摘んだ。お前がエルやクロスに代わり、偉業を遂行した。お前の捧呈(ほうてい)とし私は受納する。火鬼(ひおに)想望(そうぼう)を叶え、三百年後に控えたお前とタリア、ふたりの婚姻を認め、前途を祝福しよう」


 「……え、父上……、認めるって……」


 天上皇(てんじょうおう)の唐突な発言にタリアは狼狽(ろうばい)した。狼狽眼(うろたえまなこ)で聞き直す。トクトク脈打つ心臓の鼓動は速い。


 「――お前に対する火鬼(ひおに)の誠意は明白だ。偽りのない愛が成せる(ごう)に私は感銘を受けた。火鬼(ひおに)、タリア、お前達ふたりの結婚は明後日、下界の(こよみ)、大安日で執り行う。異論はあるまい」


 「ない!! アンタ気が利くね!!」


 黙していた(ほむら)天上皇(てんじょうおう)語末(ごまつ)を捉える勢いで返事をした。口角を上げ、上方を正視(せいし)している。鋭い眼精(がんせい)だ。


 「ちょ、(ほむら)っ、アンタはよくない!!」


 瞬時にタリアが(ほむら)言辞(げんじ)を注意した。果然(かぜん)(ほむら)呼称(こしょう)を改めない。


 「石ころは呼ぶ価値がない。ねえアンタ、婚礼衣裳は俺が用意する。いいでしょ?」


 「……はあ……、申し訳ございません父上……、彼は鬼界(きかい)の者、何卒、ご容赦下さい」


 (ほむら)はタリア以外を粗末に扱う傾向がある。鬼界(きかい)出身でましてや自然が生んだ渾沌(こんとん)火鬼(ひおに)理非曲直(りひきょくちょく)を正すことは難しい。タリアは(ほむら)の不躾な態度を謝った。


 「――存知(ぞんち)しておる。火鬼(ひおに)よ、衣装はお前に一任しよう」


 「そ、ありがとう」


 相槌(あいづち)程度の礼の仕方だ。鷹揚(おうよう)天上皇(てんじょうおう)(ほむら)の性質を排斥(はいせき)せず恵愛(けいあい)被覆(ひふく)している。不変で完全なる至高、天上皇(てんじょうおう)の無限で無償の愛は、天地平等だ。


 「――タリア」


 「はい、父上」


 「――お前に課した任務は生涯になる。火鬼(ひおに)を伴侶にしたいか?」


 神々の寿命は永久に等しい。数千年と連れ添う覚悟があるか問われた。タリアは躊躇(ためら)わず返答する。


 「はい父上、私は彼を愛しております。父上の福音(ふくいん)に従い、火鬼(ひおに)に愛を、情けを、罪を学ばせる役目、悠久(ゆうきゅう)に謹んで拝命(はいめい)致します」


 「――天地の幸福は私の計画に不可欠な要素だ。排他的(はいたてき)でないお前は私の誉れだ、タリア」


 「恐悦至極(きょうえつしごく)に存じます」


 「――ふたり共、下がっていい。前約の菊結(きくむす)びは明後日(みょうごにち)、外すとする」


 「はい父上、失礼致します」


 タリアは拱手(きょうしゅ)し、(ほむら)内城(ないじょう)に降りた。直後、(ほむら)がタリアの両脇を支え持ち上げる。「明後日(あさって)には俺達、夫婦だよタリア」と叫んだ言葉に、「え!?」と内城(ないじょう)の神々は騒然となったのだった。

おはようございます(こんばんは)白師万遊です(*´▽`*)❀


最後まで読んで頂きありがとうございます╰(*´︶`*)╯♡

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