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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第三幕~.。.:*✽桜紅の契り✽*:.。.~
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第十七集:腑に落ちない動機


 天帝(てんてい)饗宴(きょうえん)の閉幕後――時刻は(うし)(こく)上位神(じょういしん)数名と五事官(ごじかん)(おさ)ウリは裁誠殿(さいせいでん)に召集されていた。天上界内城(ないじょう)南、雲居(くもい)にある裁誠殿(さいせいでん)天官軍(てんかんぐん)が捕縛した罪人や堕神(だしん)裁断(さいだん)する場所だ。光華(こうか)した金瓦(きんがわら)が特徴的な荘厳ある外観で、寄棟屋根(よせむねやね)の構造を生かした複雑な形状、重層寄棟造じゅうそうよせむねづくりの二階建て建築の宮殿となっている。


 吹き抜けの一階内部は風通しがいい。(しろ)大理石だいりせきの床、神々が精巧(せいこう)に彫られた支柱に天上皇(てんじょうおう)の恵みを表す天井画、天井布のレースが夜風で(なび)いていた。

 障害物のない一帯は広い。最奥に数百の階段があり、黄金に輝く玉座が一脚、壇上(だんじょう)に設置されてあるだけだ。玉座はライオンの脚部(きゃくぶ)を模した脚、円弧(えんこ)構造の背凭(せもた)れは赤いベルベット生地で高級感がある。


 その玉座に上位神(じょういしん)エルが足を組み、鎮座していた。圧倒的な存在感だ、重圧がある雰囲気は(おごそ)かで近寄り難い。


 上位神(じょういしん)数名と五事官(ごじかん)ウリは玉座下、(ひら)けた階段前にいる。エルの正面左で一列に並んだ上位神(じょういしん)男神(おがみ)シュトリア、男神(おがみ)クロス、女神アライア、女神エシュネ、正面右は五事官(ごじかん)(おさ)ウリが背筋を伸ばし佇んでいた。


 「――罪人を」


 エルの下命(かめい)でクロスが時空の杖、高品質な水晶を灯らせる。


 「移時異時(いじいじ)


 「――ガハッ!!」


 突如、時空を超え、空中にひとりの男神(おがみ)が現れた。受け身を取る間もなく、どさり、上空の冷気で冷えた地面に叩き落とされる。首と手を繋ぐ鉄製の鎖付き桎梏(しっこく)がジャラジャラ、静寂な空間で(いびつ)に響いた。


 男神(おがみ)は白い長襦袢(ながじゅばん)を着ている。身丈(みたけ)対丈(ついたけ)で袖口は広袖(ひろそで)だ。身長は180弱、細身の痩せ型で肩幅が狭い。顔立ちは一重瞼(ひとえまぶた)で茶色い瞳、歪曲(わいきょく)した鼻筋にひび割れている唇、(くぼ)みのない骨格で華に乏しい平凡な印象だ。黒髪の長髪は束ねられていない、ぼさぼさに乱れていた。足元は裸足だ。


 ――若干、左目の眼球や前歯が黒い。


 「五事官(ごじかん)(おさ)ウリ」


 エルが名前を呼び、ウリの発言を許可する。万物の天帝(てんてい)――自己完結した絶対的存在、無限で無辺の天上皇(てんじょうおう)の次に汚れなく清らかな上位神(じょういしん)に、下神(かしん)の神々は直接の接触と会話は許されない。ウリは礼儀正しい所作(しょさ)拱手(きょうしゅ)し、左腕(ひだりうで)に挟んだ書類を拝読した。口調は淡々としている。

 

 「彼は下級三神(かきゅうさんしん)、七番目の階位(かいい)に属す大神(たいしん)神名(しんめい)ドックス、三百歳の男神(おがみ)です。三百年前は人間で天上皇(てんじょうおう)(あが)め祀り功績を積み、一介神(いっかいしん)昇栄(しょうえい)(のち)の階級となっています。下界の人間を見守る役目を担い、勤勉で、人間の信者も少数ですが抱えております。目立った揉め事はありません」


 「目立った揉め事がねえだ!? じゃあ何でコイツはタリアを襲った!? 半分堕神じゃねえか!!」


 シュトリアの怒号がウリに浴びせられた。尖る蒲公英(たんぽぽ)色の虹彩(こうさい)獰猛(どうもう)で荒々しい。


 「やめなさいシュトリアくん、彼は罪人の身分を早急に調べて来てくれたのよ」


 エシュネがウリを庇う。シュトリアは露骨な舌鼓(したづつみ)をし黙った。


 乱暴が織り成す一瞬の沈黙後、エルがドックスに質問を投げる。


 「罪人ドックス、お前が如何(いか)に重い罪を犯したか理解しているか」


 大神(たいしん)ドックスが堕神(だしん)に堕ちた過ちはもはや軽い。それ以上に、上位神(じょういしん)タリアの背中に堕落の烙印(らくいん)を押した罪悪(ざいあく)が重大だ。


 「……ハッ」


 ドックスは答えない。胡坐(あぐら)を掻き、自暴自棄(じぼうじき)になっていた。


 「コイツ……ッ!!」


 「ちょっとシュトリア!! いまは殺しちゃだめよ!!」


 シュトリアが殴りかかる寸前で、右隣にいたアライアが止める。羽交い絞めにされたシュトリアは動けない。


 「クソッ、アイツが!! タリアを堕落に追いやった犯人なんだぞ!! 俺達の可愛いタリアを!! 無価値で下衆(げす)なアイツが!!」


 「わかってるわよ!! ちょっと兄さん!! 早くしてちょうだい!!」


 暴れるシュトリアをうつ伏せにしたアライアが、こちら側を半眼で眼下(がんか)しているエルに催促(さいそく)した。エルは反省の色がない罪人を睨み、(ひたい)にある長い睫毛で囲まれた第三の目を、ゆっくり開目(かいもく)する。


 エルの第三の目は、過ぎ去った()の過去を透視できる能力があった。


 「――過視透眼(かしとうがん)


 第三の目が黄金に光る。鮮やかで目映い眼差しがドックスを貫いた。ドックス全身の随意(ずいい)運動が不可能となり、エルから視線を逸らせない。


 エルが適切な手段を講じる。


 「さて、お前達も(しか)と見ておけ」


 ドックスの記憶を階位(かいい)の分け隔てなく全員と共有した。鮮明で立体的な映像が、エルを含め、全員の脳裏に浮かび上がる。


 小雪が舞った色彩なき森の銀世界、二十四節気(にじゅうしせっき)の小雪の末候(まっこう)、永遠を(たと)える橘始黄たちばなはじめてきばむが、厳冬(げんとう)の寒さに耐え忍んでいた。鼻腔(びくう)(くすぐ)る香りは甘酸っぱい。


 葉の枯れた冬立木(ふゆこだち)撓雪(しおりゆき)(たゆ)ませている。天上界にない冬季の風景だ。

 五界(ごかい)で有名な雪国は狼界(ろうかい)だが、狼界(ろうかい)に比べ、ここは雪の積もり方が浅い。

 となれば、自ずと選択は絞られ、ここが地上のどこか察せられた。


 人間の暮らす、下界だ。


 「――……俺は堕神(だしん)になりてえんだよ!」


 「――……つって、天上界の間諜(かんちょう)じゃねえのか?」


 木々に(まぎ)れ、ふたつの影が揉めている。ひとりは深衣(しんい)を着た男神(おがみ)大神(たいしん)ドックスだ。もうひとりは黒直裾袍(くろちょくきょほう)を着衣している堕神(だしん)であった。堕神(だしん)は顔部の視認をさせない黒頭巾(くろずきん)を被っている。


 「間諜(かんちょう)じゃねえよ!! 俺は天上界にうんっざりだ!! 掟、掟って我慢ならねえ! 輝堕王(きだわう)創始(そうし)した奈楽(ならく)の掟はあるが堕神(だしん)は自由じゃねえかっ、そっちに堕ちてえんだ!!」


 「堕ちてえ、ねえ……威勢はいいが下っ端の大神(たいしん)か~。戦力外っぽいし、手土産がいるな」


 「手土産……?」


 ドックスが語末(ごまつ)を反復させ、緊張気味に唾を飲み込んだ。堕神(だしん)は両肩を濡らす玉雪(たまゆき)を指先で掃いつつ、対話を続けた。


 「そ、手土産。ウチの国王(グオワン)さ、そっちにいるタリアが好きなんだよね」


 「……タリア……、って上位神(じょういしん)タリアか!?」


 驚愕(きょうがく)するドックスに一笑した堕神(だしん)が何かを手渡す。輝堕王(きだわう)の名が刻まれた堕落の烙印(らくいん)だ。


 「――そ。肌肉玉雪(きにくぎょくせつ)眉目秀麗(びもくしゅうれい)、上位神が(こぞ)って愛する末弟、漂亮(ピャオリャン)なタリアを堕落の烙印(らくいん)で堕とし連れて来な。お前がこっちに来れる条件だ」


 「…………っ」


 ドックスは禍々(まがまが)しい血が塗られてある堕落の烙印(らくいん)を受け取った。


 「じゃあなドックス、楽しみにしてるぜ」


 堕神(だしん)は長居せず、黒い霧となって消散(しょうさん)する。残されたドックスは烙印を凝視し、雪上(せつじょう)()濁声(だくせい)独言(どくげん)した。両目の(まなこ)が血走っている。


 「……上位神(じょういしん)タリア、を手土産にか……。決行は……来年だな、警備が手薄な天帝(てんてい)饗宴(きょうえん)で……、くはは……」


 ドックスの笑みを最後に第三の目が閉じられた。


 腑に落ちる、そんな動機はない。ドックスはただ単に、自分が堕神(だしん)になるため、堕神(だしん)に命じられるがまま、タリアを巻き込んだに過ぎない。


 身勝手で自己中心的な、規律のない凶行(きょうこう)だ。


 エルは不気味なほど静かに立ち上がり、二等辺三角形に近い剣身(けんしん)、アーミングソードを抜剣(ばっけん)する。


 「堕神(だしん)ドックス――。此度(こたび)の事件が発生した誘因(ゆういん)堕神(だしん)にあるが、要因はお前が満たしたい欲望にある。お前は天上界の安寧秩序を妨害した。天上皇(てんじょうおう)創りし上位神(じょういしん)神体(しんたい)を強制的な方法で堕落に導き、天上皇(てんじょうおう)御心(みこころ)を裏切り冒涜(ぼうとく)した。斬罪(ざんざい)に処す」


 「クソッ、クソッ……!! なにが斬罪(ざんざい)だっ、俺は堕神(だしん)になる!! なるんだ!! 上位神(じょういしん)タリア!! 上位神(じょういしん)タリアに会わせろ!! 突き堕としてやる!!」


 判決を下されて尚、ドックスは堕神(だしん)を諦められず(わめ)いた。往生際が悪い。エルは眉間に(しわ)を寄せ、右手に持つ剣を天に掲げる。切先の刃がギラリ光芒(こうぼう)した。


 神々の罪が支払う報酬は消滅だ。正道を外れた神に栄光と来世はない。


 「万裁公天(ばんさいこうてん)!!」


 天は万物を公平に裁く、エルが剣をドックスに向け右()ぎにする。二筋(ふたすじ)光波(こうは)が、ドックスの首を切断し心臓を穿通(せんつう)した。


 トン、トン、トン、とドックスの頭部が床面(ゆかめん)で回転する。胴体の血飛沫(ちしぶき)が周辺を赤く彩った。半分神、半分堕神(だしん)の半端なドックスは消滅していないが息絶えている。


 「……穢れた肉体は燃やす。五事官(ごじかん)(おさ)ウリ、お前が記録作成、保管をしろ。極秘案件だ他言するな。外部に漏らせばお前の一族諸共(もろとも)、魂を永久消滅させる転生はさせん」


 「承知致しました」

 

 ウリに拒否権はない。(かん)(はつ)()れずエルの下知(げじ)拱手(きょうしゅ)したのだった。

おはようございます、白師万遊です⸜( ´ ꒳ ` )⸝♡︎


最後まで読んで頂きありがとうございます( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )❤︎

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