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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第三幕~.。.:*✽桜紅の契り✽*:.。.~
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第十六集:再創造


 「――此度(こたび)凶事(きょうじ)、タリアに罪過(ざいか)はない。狡猾(こうかつ)でない私の可愛い子は死を覚悟した、情けをかけてやろう」


 天上皇(てんじょうおう)の慈悲でタリアの十二枚の翼、四肢(しし)が再創造された。天上皇(てんじょうおう)が去り七色の霄漢(しょうかん)が元の星空に戻る。


 「……ん」


 艶々(つやつや)しい長い睫毛を(ともな)う、タリアの(まぶた)が震えた。澄んだ桜色の虹彩(こうさい)(にご)りはない。


 「……タリア」


 「……(ほむら)……、父上が……」


 断片的だが記憶にある。堕落の烙印(らくいん)を押され、堕神(だしん)に堕ちかけ、(ほむら)やエル、クロスに助けられ、常闇(とこやみ)で藻掻く空っぽな肉体を、天上皇(てんじょうおう)慈愛(じあい)に溢れた暖かい光で掬い上げてくれた。


 「うん、アイツがタリアに恩恵(おんけい)をくれた」


 「……アイツ、じゃない(ほむら)天上皇(てんじょうおう)だ」


 (ほむら)語法(ごほう)は相変わらず悪い。タリアは訂正しつつ、ゆっくり上半身を起こし、立ち上がる。確認した手足は寸分違わず、以前のままだ。


 (ほむら)が自身の漢服(かんふく)上衣(じょうい)を脱ぎ、タリアの両肩に羽織らせる。


 「無理しないでタリア」


 「平気だよ、天上皇(てんじょうおう)恩寵(おんちょう)だ。(ほむら)も助けてくれてありがとう」

 

 「俺は別に……、奪った側だよ。……後悔はない」


 吐露(とろ)された心情は十中八九、言行(げんこう)通り真実だ。けれど(ほむら)の紅い瞳の最奥が、タリアを失う恐怖心と、タリアを傷付けた悲心(ひしん)で揺らいでいるのも又、真情だ。


 相手の立場になって物事を考えれば、容易に心根(しんこん)は察せられた。とても、酷く、辛く、苦しんだはずだ。


 「(ほむら)、理解している。ああする他、私は助からなかった。誰かやらなくてはいけない(こく)な役目を、キミが兄達に代わり果たしてくれた。すまない(ほむら)、キミの愛に感謝してるよ。ありがとう」


 タリアは(ほむら)(ひたい)に自分の額を当て、精一杯、想いを伝える。(ほむら)は涙を(こら)え、タリアを掻き抱いた。


 「……愛してるんだタリアを」


 「ああ、私も(ほむら)を愛してるよ」


 火山が生んだ自然の渾沌(こんとん)――孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)は、鬼界(きかい)で最恐の三鬼(さんき)のひとり、天地に悪名轟く残虐な火鬼(ひおに)だが、繊細な一面もありタリアに対しては誠実で愛情深い。


 「……俺は堕神(だしん)のタリアでも構わない」


 「あー……、堕神(だしん)はだめだ私が構う」


 意識が遠退くなかで(ほむら)とした言問(こととい)も憶えている。


 『百年、五百年、千年、タリアに恨まれていい。殺させない。俺とタリアを邪魔する神々、アンタ達を殺す』


 (ほむら)堕神(だしん)に堕ちたタリアを征伐(せいばつ)するであろう天官軍(てんかんぐん)総帥(そうすい)エルやクロスを殺す覚悟だった。タリアを愛するが故の決断だ、現時点で二人が無事だった以上、強くは(とが)められない。一触即発の事態はエルの裁断(さいだん)(まぬが)れ、現在がある。兄二人にタリアは拝謝(はいしゃ)した。


 「エル、温情ある裁きをありがとう。クロスもありがとう、キミの能力のお陰で天帝(てんてい)饗宴(きょうえん)の余韻を壊さずに済んだよ」


 「何だよタリア~っ、お前ほんと心配かけやがって!! って火鬼(ひおに)邪魔~!!」


 「あー……はは……」


 (ほむら)は未だ離してくれない。両手を広げた体勢のクロスが、タリアの後ろで両頬を目一杯、ぷくっと膨らませている。


 「(ほむら)、ね、兄さん達と話がしたい」


 「………」


 タリアの促しに(ほむら)は無言でその細い首筋に顔を埋めた。息を吸い、一拍後、解放してくれる。見上げた(ほむら)は一見、無表情だ。されど機嫌は斜めではない。


 「ありがとう、いい子だね(ほむら)は」


 (ほむら)の前頭部を撫で、タリアは兄達と正対(せいたい)した。途端にクロスが「いやいや」と否定してくる。首振りの動作でマッシュヘアの髪が左右にサラサラ(なび)いていた。


 「タリアお前~、ソイツ火鬼(ひおに)! いい子じゃねえよ! お前をぎったんぎったんの、けちょんけちょん、滅多切りにしたんだぞ!?」


 「ぎったんぎったん……は、私のためだ。普段はいい子なんだよ」


 「ええ~……? 僕こわいよソイツが将来、義弟(おとうと)って……」


 「俺達は孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)の度胸に救われた。クロス、お前にタリアは斬れたか?」


 エルに戒飭(かいちょく)されたクロスは泣言を撤回し、(ほむら)に謝意を表して拱手(きょうしゅ)する。


 「……いや、はあ~偉ぶった。ごめん火鬼(ひおに)~、僕の弟を助けてくれてありがとう」


 クロスは戦闘経験がない上位神(じょういしん)だ。自分ができないことを高言(こうげん)してしまい、天を仰いで反省した。自身の品位と人格の価値を誇る上位神(じょういしん)、しかし己の誤った所見を認めらえる性質は彼の美点だ。


 「いいよ義兄(にい)さん、気にしないで」


 タリア一辺倒(いっぺんとう)(ほむら)は特段、周囲の間然(かんぜん)を意に介さない。


 「孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)、恩に着る」


 首肯で(ほむら)謝儀(しゃぎ)を示したエルがタリアに視線を移す。金色の瞳に映ったタリアは神聖で穢れていない。脳裏に過るタリアの痛ましい姿にエルは(こぶし)を握った。


 「お前を侮辱した男神(おがみ)を俺は、俺達兄姉(きょうだい)は絶対、許さない。お前の神体(しんたい)を一度、堕落させた由々しき案件だ。全貌を暴き、一連に関与した神々は皆、死罪に処す。お前は当事者だが一切、この件に関わるな、機密事項で内々に処分する。命令だいいな?」


 「……はい」


 堕神(だしん)が絡んだ事件の指揮権は天官軍(てんかんぐん)総帥(そうすい)エルにある。異論は禁じられていた。タリアは点頭(てんとう)せざるを得ない。


 自分を嫌っての反抗か、将又(はたまた)、たまたま自分だったのか、動機や背景が不明でタリアは釈然としないが、エルがすべて明らかにしてくれるだろう。

 

 起きた事件はすでに過去だ、反芻思考(はんすうしこう)はしたくない。苦痛の既往(きおう)は忘れて然るべきだ。タリアは兄姉(きょうだい)を信じて前に気持ちを切り替えた。


 「クロス、能力を解け」


 「は~い。始時止時(しじしじ)!」


 エルの下命(かめい)に従い、クロスが時の杖を暈光(うんこう)させる。制止していた時計の針がカチリ秒を刻み、天帝(てんてい)饗宴(きょうえん)の場にいる神々が動き始めた。常に変化する下界で止時始時(しじしじ)の能力を使うと時差が生じ、時差を正す作業を早急にクロスは行わなくてはならないが、永続の典型例――天上界は時間の概念に縛られていない。もし一年、天上界の時間を止めても、天上界にとっては須臾(しゅゆ)の一齣だ。よって特別な穴埋めの必要性はない。


 「タリア、俺の宮殿に来るか? 桜舞殿(おうぶでん)巡邏官(じゅんらかん)が少ないだろ?」


 エルが後顧(こうこ)の憂いで申し出る。巡邏官(じゅんらかん)は天上界の内城(ないじょう)外城(がいじょう)を見回り、上位神(じょういしん)の身辺や宮殿の警戒と警備を担う神々だ。監視された環境を好まないタリアは巡邏官(じゅんらかん)(おさ)に頼み、桜舞殿(おうぶでん)周囲を巡視する巡邏官(じゅんらかん)を最低限の人数に留めていた。内城(ないじょう)で最も手薄な宮殿だ、エルの懸念も致し方がない。


 「(……私を襲った男神(おがみ)は単独犯か複数犯か……)」


 エルの提案にタリアは悩んだ。(ほむら)を危険に晒せない。万一の危険を考慮する。


 「義兄(にい)さん俺がいる、俺がタリアを守る。心配は無用だよ」

 

 黙考していたタリアの隣で、両腕を組んでいる(ほむら)が、エルの気遣いを断った。


 「(ほむら)……」


 それに、と紡がれた理由にタリアは固まる。


 「タリアとした大事な約束もある」


 「…………」


 忘失していた。桜舞殿(おうぶでん)に帰りたい(ほむら)の目的は明確だ。もちろんタリアは前者も本音とわかっているが、黙したタリアに誤解されまいと、(ほむら)が美声ではっきり弁明する。微笑した眼差しに悪意はない。


 「一意専心(いちいせんしん)でタリアを守りたい、四六時中タリアを抱いていたい、どっちも本音だよ」


 「ちょ、ほ、(ほむら)……!!」


 兄達の面前だ。タリアは含羞(がんしゅう)で全身の血が沸騰した。


 「事実だ」


 一方の(ほむら)は平然たる面持ちだ。二人の会話にクロスが「成程」と、右手の拳固(げんこ)で左手の平を叩く仕草をする。


 「火鬼(ひおに)とタリアの帰宅後の約束って、夜の営みだったんだ~! へえ~!」


 「クロスッ……、やめてくれ!!」


 性行為を婉曲(えんきょく)した単語はもはや露骨だ、隠しきれていない。


 「何で? 恥ずかしがるなよ~、愛を確かめ合う行為は喜びと満足の源泉じゃん。つかタリアお前、火鬼(ひおに)の体力に付いていけてんの? そっちもすげえ強そうじゃん……コイツ――僕ら上位神と同等と呼べなくもない鬼神(きしん)渾沌(こんとん)だし」


 「タリアは大抵、最後は気絶してる」


 「…………っ」


 クロスの質問に(ほむら)が答えた。タリアは両手で両耳を塞いでいる。兄達に夜の色事を知られ、羞恥で茹蛸状態だ。


 「え~……? 上位神(じょういしん)を気絶させるってマジかよ、何時間シてんの? こわ……」


 「……タリアが、俺の可愛いタリアが……」


 (ほむら)答酬(とうじゅう)内容に青ざめたクロスの横で呟くエルが突如、倒れた。


 「エ、エル!?」


 タリアが駆け寄る。エルは完全に意識を失っていた。「極度のブラコンは大変だな~」などとクロスは笑っている。


 「はあ……」


 エルが悪夢に(うな)され、目覚めたときが恐ろしい。(ほむら)と口論になる避けられない未来に、タリアは憂鬱な吐息を零したのだった。

 

おはようございます、白師万遊です(*ฅ́˘ฅ̀*)♡

最後まで読んで頂きありがとうございます( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )


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頂けると更新の励みになります╰(*´︶`*)╯♡


次回もまたよろしくお願い致します( *˙ω˙*)و グッ

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