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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第三幕~.。.:*✽桜紅の契り✽*:.。.~
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第十五集:堕神タリア


 「――墜ちておいで」


 「あ、あ、いやだ……」


 幼い低声(ていせい)が誘い(おびや)かしてくる。刹那(せつな)、タリアの美しい桜色の髪先が黒く変色し始めた。苦しい、熱い、痛い。タリアは藻掻き地面に転がる。


 「に、さん……!! 兄さんッ、……!! 」


 「――止時始時(しじしじ)!!」


 上位神(じょういしん)クロスが時空の杖の能力で天上界(てんじょうかい)全体、神々のみの時間を止めた。上位神(じょういしん)(ほむら)以外の時がぴたり制止する。即座にエルが下命(かめい)した。


 「シュトリア、エシュネ、ソイツを捕らえ罪改牢(ざいかいろう)に連行しろ! クロス! 俺とタリア、孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)とお前をアルテミスの森に飛ばせ!!」


 「エルくんッ、タリアちゃんを堕落させないで!!」


 「クソッ、何が何だか!! エルッ……、タリアをアイツらに渡すなよ!!」


 「…………」


 墜神(だしん)征伐(せいばつ )はエルの任務だ。エシュネとシュトリアにエルは応じず、横目でクロスを催促した。クロスの時空の杖が暈光(うんこう)する。


 「――移時異時いじいじ!!」


 クロスの能力で、クロスを含んだエル、タリア、(ほむら)、四人がアルテミスの森に一瞬で移動した。(ほむら)がタリアを支える。同時にタリアが十二枚の翼を広げ、エルとクロスが息を呑んだ。


 天上皇(てんじょうおう)授かりし純一無雑(じゅんいつむざつ)の二翼が仄かに黒い。


 「――兄さんッ、……エルッ、私を殺してくれ!!」


 「タリア……!! 義兄(にい)さん、タリアにいったい何があった!?」


 消滅を懇願(こんがん)するタリアに(ほむら)は驚き、状況が読めず、エルに訊ねた。エルがタリアをうつ伏せに押さえつけ、背部(はいぶ)襦裙(じゅくん)(やぶ)り答える。


 クロスは耐えられず目を背けた。


 「……墜神(だしん)の血で作る堕落印字(だらくいんじ)で彫られた、堕落の烙印らくいんだ。強制的にタリアは堕神(だしん)に堕とされる」


 タリアの背中、中央の一部が赤黒く(ただ)れている。輝堕王(きだわう)の名を四角形の(ふち)で囲んだ烙印(らくいん)だ。


 「そっちの義兄(にい)さん!! アンタの能力で治らないの!?」


 (ほむら)が時間を司る男神(おがみ)クロスに期待した。クロスは左腕でゴシゴシ目元を擦り謝る。悲嘆(ひたん)に暮れた湿り声が切ない。


 「わ~っとごめん治せねえの!! 僕の能力は上位神(じょういしん)三際(さんさい)を操れないんだよ~。時を(さかのぼ)ってタリアを襲う前の男神(おがみ)を消したところで、タリアに押された烙印(らくいん)の現在は過去を塗り潰せないんだ」


 つまり、タリアの烙印(らくいん)を消す術はない。

 

 「――に、さん!! 私は堕落したくない!! こ、ろして、兄さん!! 兄さんの任務、だ!! 任務を、……遂行して!! 私は父上を……裏切りたくない!! ルキたち(・・・・)みたく私は常闇(とこやみ)屈伏(くつぶく)させられない!! 恐怖の(ふち)で私は正気を保っていられない!!」


 上位神(じょういしん)たる誇りをタリアは失いたくなかった。欲望に(まみ)れ、意義を忘れ、自分を見失い、朽ち果てたくはない。上位神(じょういしん)エルは神々に憧憬(しょうけい)される天官軍(てんかんぐん)総帥(そうすい)だ。階位(かいい)に関係なく堕ちた神、堕神(だしん)は決して許さず征伐(せいばつ)する。


 ――しかし、それは周知の事実だ。


 「……タリアは殺させない。俺がアンタ達を殺す」


 矢庭(やにわ)(ほむら)鬼灯丸(ほおずきまる)を取り出し、抜刀(ばっとう)した。炎の刀身、灯る無数の鬼火(おにび)、尖った紅い瞳は至極(しごく)冷静で迷いがない。クロスとエルは後方に跳び、(ほむら)とタリア、二人と間合いをはかる。(ほむら)が解放した鬼力(きりょく)の重圧で、星々を反射させる湖面(こめん)に波紋が生じた。


 エルが二等辺三角形に近い剣身、アーミングソードを抜剣(ばっけん)する。


 「……本気か孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)、タリアが堕神(だしん)になるんだぞ?」


 「俺はタリアを愛してる。上位神(じょういしん)(こだわ)りはない。堕神(だしん)のタリアと鬼界(きかい)に帰るよ」


 (ほむら)の意思は揺らがない。タリアが(ほむら)哀願(あいがん)した。


 「や、めて焔!! いやだ、堕ちたく、ない!! 私を愛、してくれてる、な……殺し、殺すな、殺してく、れ!! ぅあ、ああ……!!」


 思考を乱され脳内を支配される、(いびつ)な感覚に、タリアは二の句が継げない。


 「百年、五百年、千年、タリアに恨まれていい。殺させない。俺とタリアを邪魔する神々、アンタ達を殺す」


 「ぁ、あ。エ、ル……わた、殺して……」


 タリアは(ほむら)の説得を諦め、かき集めた僅かな自我でエルに(すが)る。涙を流すタリアの純白の眼球は常闇の害悪(がいあく)に侵食され(まだら)模様となっていた、一刻も躊躇(ちゅうちょ)してはいられない。


 「上位神(じょういしん)タリア、俺はお前の兄だ。上位神(じょういしん)の長男、神々の始まり、俺に命令を下す権利はお前にない」


 エルは突き放す物言いをするが、左手で握った(さや)長剣(ちょうけん)納刀(のうとう)する。太息(ふといき)を吐き裁断(さいだん)を紡いだ。


 「お前は俺達兄姉(きょうだい)の愛する末弟(まってい)だ、見捨てはしない。上位神(じょういしん)タリア、お前を(はん)処刑に処す」


 「エルお前タリアに……!!」


 クロスは驚愕で斑声(むらごえ)になった。上位神(じょういしん)(はん)処刑は十二枚の翼と四肢(しし)を奪われる。


 「タリアを堕神(だしん)にしない最善の方法だ。俺の決定に異論はないだろ、クロス」


 「ない、けど……」


 「安心していい。父上が手づから創った上位神(じょういしん)神体(しんたい)は丈夫だ、消滅に至る手順でもない。完全な堕神(だしん)に堕ちるまでの猶予(ゆうよ)は十分……。闇の蚕食(さんしょく)防遏(ぼうあつ)するため、タリアを極限に削る……。俺がやろう」


 エルがタリアに近付き(ひざまず)いた。タリアは冷や汗が凄い。必死に悪を退(しりぞ)け、善の清き信念で戦っている。誕生より数十年、数百年、数千年、見守ってきた末弟(まってい)だ、好き好んで苦痛を与えたい兄姉(きょうだい)はいない。


 正義を司る男神(おがみ)エルの、金色の双眼(そうがん)が涙で湿った。堕神(だしん)異界者(いかいしゃ)討伐(とうばつ)する威厳に満ちた天官軍(てんかんぐん)総帥(そうすい)はいない。躊躇(ためら)うエルを見兼ねた(ほむら)が指示を仰いだ。


 「……はあ、義兄(にい)さんは下がって俺がやる。タリアを削る(・・)って? どうしたらいい?」


 「……孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)


 「タリアは俺の嫁だ。タリアを傷付けていい男は天地で俺だけだよ。夫婦は苦楽を共に、でしょ。タリアを助けたい気持ちは義兄(にい)さん達と一緒だ」


 (ほむら)の威圧感が薄くなっている。主張は強引だが説得力はあった。


 「助けたい気持ちは一緒、か。……いいだろう。まず――」


 「わかった」


 (ほむら)はふたつ返事をする。エルの訥々(とつとつ)とした説明を聞くや否や、鬼灯丸(ほおずきまる)でタリアの翼を二翼、切断した。狂いのない見事な太刀筋だ。


 「……――アアアアアッ!!」


 突然、骨組みを斬られ、鋭い激痛がタリアを襲う。タリアの叫声(きょせい)が天を衝いた。羽根に(ほとばし)鮮血(せんけつ)(おびただ)しい。


 「いい子だねタリア、我慢して」


 血煙(ちけむり)を浴びた(ほむら)は、タリアの悲鳴を意に介さず、両手、両足を鬼灯丸(ほおずきまる)で素早く斬り離した。容赦ない斬撃だ、タリアは何時(いつ)しか気絶している。血腥(ちなまぐさ)場景(じょうけい)に慣れていないクロスが口元を左手の平で塞いだ。


 「うぁ……、お前マジかよ火鬼(ひおに)~……。好きなヤツを滅多切りするか普通……。僕は無理、可愛いタリアにお前……、ひでえ……、はあ悪夢だ………」


 「俺はする。タリアが助かる」


 (ほむら)の断言は即答だ。(ほむら)はタリアのマスクフェイスベールを外し、血塗れの上半身を抱き締めた。エルがタリアの片頬(かたほお)を撫でる。


 「……(えら)いなタリア、よく頑張った」


 「タリアは? 堕神(だしん)の進行は治まったの義兄(にい)さん」


 「堕神(だしん)烙印(らくいん)は神の(みなもと)神力(しんりき)を吸い堕落させる。神力の(みなもと)は心臓だがタリアはいま心臓を動かす微力な神力(しんりき)しか残っていない、無いと言っていい。これで()(どころ)のない堕落(だらく)烙印(らくいん)の効力はなくなる」


 エルの言葉通り、タリアに汚濁(おだく)した賎陋(せんろう)なる闇が、黒く噴霧(ふんむ)した。徐々に(ひそ)められているタリアの蛾眉(がび)も緩み、張り詰めた場の糸がはち切れずに済んだ。


 (ほむら)がタリアの(ひたい)粟立(あわだ)つ汗を漢服(かんふく)(すそ)(ぬぐ)い、エルに問う。


 「義兄(にい)さん、タリアは何日で回復するの?」


 「……二翼と四肢(しし)の再生だ。三百年弱は眠る」


 「……そ」


 程遠い日数だ。されど(ほむら)は文句を言わない。


 クロスが(ほむら)相槌(あいづち)に小首を傾げた。


 「『そ』って火鬼(ひおに)お前、三百年、タリアを待つ気?」


 「待つよ。タリアと三百年、俺も眠る」

 

 「ひえ~マジで……、すげえ執着心……」


 (ほむら)の意向に一驚するクロスが(おとがい)を掻いた直後、天空が七色に輝き天声(てんせい)が響き渡る。


 「――エル、クロス、火鬼(ひおに)


 天地、宇宙、万物の創造主、天上皇(てんじょうおう)だ。


 「はい、父上」


 「はい、父上」


 エルとクロスが同声(どうせい)拱手(きょうしゅ)した。無論、(ほむら)はしない。


 「――タリアを堕落の性質から解放したお前達の判断を(りょう)とする」


 「ありがとうございます父上」


 「――此度(こたび)凶事(きょうじ)、タリアに罪過(ざいか)はない。狡猾(こうかつ)でない私の可愛い子は死を覚悟した、情けをかけてやろう」


 天上皇(てんじょうおう)御言葉(みことば)が光の粒となってタリアに注がれる。タリアの右翼と左翼、四肢(しし)を新しく再創造し、天上皇(てんじょうおう)は去ったのだった。

おはようございます、白師万遊です⸜( ´ ꒳ ` )⸝♡︎


最後まで読んで頂きありがとうございます( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )❤︎

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