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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第三幕~.。.:*✽桜紅の契り✽*:.。.~
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第十四集:神の舞

 

 ――天帝(てんてい)饗宴(きょうえん)、最後の歌舞(かぶ)が披露される。


 星々と闇夜が織り成す幻想的な空間にひとりの男神(おがみ)が、十二枚の翼を広げ、数十メートル上空に舞い降りた。


 「タリア様よ……」


 「三美神(さんびしん)タリア様……」


 「宇宙が愛す天女だ……」


 豊かさと開花を司る男神(おがみ)、一方でカリスの一柱、美と優雅を司る上位神(じょういしん)タリアだ。

 タリアは上位神(じょういしん)アライアが用意した漢服(かんふく)襦裙(じゅくん)に着替えている。


 衿元(えりもと)が右前の短い上衣の(チョゴリ)退紅(あらぞめ)色、捩じれた腰紐の(くん)退紅(あらぞめ)色とヒヤシンス色、桜刺繡(ししゅう)があしらわれた帯もヒヤシンス色で、下裙(したも)はヒヤシンス色の、前部に鳳凰(ほうおう)刺繡(ししゅう)が縫われてあるウエストスカート状を着用していた。衿元(えりもと)の両肩に散らばる桜刺繍(ししゅう)は上品で愛らしい。


 (そで)はシースルーだ。タリアの白い肌が星の輝きで透けている。靴は履いていない、裸足だ。髪型はハーフアップに結ってあり、ピンクゴールドのティアラが飾られていた。後ろ髪は色とりどりの花々で彩られてある。繊細で可憐だ。


 両耳にかけたマスクフェイスベール、 縦28cmで横33cmの、タッセル型パールチェーンが、顔下で揺れていた。色はピンクゴールドだ。花の細工は細かく、真珠も小ぶりで華美(かび)にない。


 アクリル樹脂(じゅし)製のパールや雫形(しずくがた)ラインストーンが、額と眉上に貼られてある。化粧が(ほどこ)された容貌(ようぼう)は正に美の象徴だ。万物を平伏せさせる神々しさと儚さを兼ね備えていた。


 (ほむら)と三百年後の婚姻を誓う菊結びのロングタッセルが左耳に吊り下がっている。

 

 タリアは右手に持つ金メッキの七五三(すず)、十字型の神楽(かぐら)(すず)を鳴らした。座金(ざがね)()金具(かなぐ)唐草(からくさ)模様の彫刻は精巧(せいこう)で高級感がある。持ち手は朱の(うるし)塗りだ。

 

 天上皇(てんじょうおう)奉納(ほうのう)すべく(そう)される歌舞(かぶ)神楽(かぐら)の舞は優雅で気高い。笛を主に大鼓(おおづつみ)小鼓(こづつみ)太鼓(たいこ)(はや)す。優美に重きを置いたタリアが、満月を背に微笑み、くるり回り指先を下唇(かしん)に添える仕草は奥ゆかしく、神々は感声(かんせい)溜息(ためいき)を漏らした。


 「……泣けてきちゃう」


 「……崇高だなタリア様は」


 「……ああ、大慈大悲(だいじだいひ)だ。俺達はいまタリア様に救われているんだ」


 「…………」


 神々に紛れ、不穏な空気を漂わせる男神(おがみ)もいる。(みな)一様に(あま)(はら)を眺め、彼の禍々(まがまが)しく(ゆが)んだ表情に気づいていない。


 「タリア様ー!!」


 「タリア様こちらに御慈悲を~!!」


 「タリア様~! こちらに、こちらに~!」


 無礼が寛大な天帝(てんてい)饗宴(きょうえん)で神々の要望が飛んだ。タリアは左右に神楽(かぐら)(すず)を振り、神々の願いに応じた。目映い光の粒子が一筋の線となって神々の頭上に零れる。


 「神々の前途を祝福しよう」


 「――わあ!! タリア様の御恵みよ!!」


 「――タリア様~!!」


 「――ありがとうございますタリア様~!!」


 歓声が沸き上がった。タリアは役目を終え、天上皇(てんじょうおう)拱手(きょうしゅ)する。柔らかい無音の返事にタリアは頷き、地上に下降した。


 北の物見櫓(ものみやぐら)赤瓦(あかがわら)の上で両腕を組み、(たたず)んでいる人物は(ほむら)だ。タリアの舞を見守っていた(ほむら)が、組んでいる腕を解き、春風に乗ったタリアに両手を伸ばす。


 「タリア」

 

 「ただいま(ほむら)


 タリアは迷わず自身の手をそっと(ほむら)の手に重ねた。ふわり、タリアが十二枚の翼を仕舞い、足裏を赤瓦(あかがわら)につける。間際に、(ほむら)がタリアを横抱きに抱えた。


 華奢(きゃしゃ)な両脚が宙を彷徨(さまよ)う。


 「うわ!?」


 「汚れる」


 「……ありがとう」


 タリアは(ほむら)の厚意に甘えた。拒否する理由もない。


 「綺麗だった」


 「ありがとう。実は久々で……ハハ、……ぎこちなくなかったかな?」


 数百年、舞稽古(まいげいこ)(おろそ)かにしていたタリアが不安げに問う。


 「(なめ)らかだったよ。さすが天界随一に美しいと謳われる神様だ。みんな見惚れてたけど、俺が一番、見惚れてた自信があるね。だって俺が一番、タリアを愛してる」

 

 そう答えた(ほむら)がタリアの顔を覗き込んだ。紅く灯る虹彩(こうさい)に、耳介(じかい)を赤く染めたタリアが、美麗(びれい)な色調で映っていた。


 「……っ、ありがとう」


 「……ハ、可愛い……」


 タリアと(ほむら)の会話は聞えないが、神々達は北の物見櫓(ものみやぐら)を見上げ、注視(ちゅうし)している。


 「……火鬼(ひおに)、だよな?」


 「タリア様と三百年後、婚姻するって噂の鬼だろ?」


 「神々の天帝(てんてい)饗宴(きょうえん)に招待されたの? 彼は鬼でしょ? 四界(しかい)鬼族(きぞく)よ?」


 「馬鹿、ただの鬼じゃない。アイツは自然が生んだ渾沌(こんとん)火鬼(ひおに)で五百年前の大罪人だぞ……? 人間や神官(しんかん)を殺した、性質は怠慢(たいまん)(みにく)(いや)しい獣だ」


 「我らがタリア様のご神体(しんたい)に不躾な……」

 

 神々の耳語(じご)は小声で無論、二人に届いていない。だが突如、(ほむら)が神々を眼下に睥睨(へいげい)した。邪気が蔓延る刃の瞳は毒々しい。


 「ひい……!!」


 「ば、化け物ッ、化物だ!!」


 「シッ、喋るな殺されるぞ!!」


 神々は咄嗟に視線を逸らし頰被(ほおかぶ)りする。下級三神(かきゅうさんしん)の神々が、数百年で死屍累々(ししるいるい)を築いた残虐な火鬼(ひおに)の殺気に敵うはずがない。


 「……(ほむら)? 下に何かあるのか?」


 「……ああ、下は賑わってるなって」


 「ハハ、まあね。神々も日々の任務で疲れている、気分転換も必要だ。天帝(てんてい)饗宴(きょうえん)の目的だよ、天上皇(てんじょうおう)が喜んで下さる」


 「ふうん」


 (ほむら)の興味ない相槌(あいづち)は素直で面白い。タリアは苦く笑い、促した。物見櫓(ものみやぐら)上位神(じょういしん)エルが叫んでいる。


 「(ほむら)、戻ろう」


 「タリアと二人がいい」


 「兄さん達と会える機会は少ない。仲良くして、桜舞殿(おうぶでん)に帰ったら私とキミの二人だ」


 「……帰ったら、――したい」


 優しく諭すタリアの耳元で(ほむら)甘美(かんび)に囁いた。


 「…………ッ」


 タリアは「したい」の意味を察する。含羞(がんしゅう)で全身が真っ赤だ。


 「いい子に義兄(にい)さん達と仲良くする、喧嘩もしない」


 「……、ん」


 (ほむら)の好条件はずるい。タリアは明日の寝不足を覚悟で要求を承諾した。否、せざるを得ない。


 「じゃあ、戻ろう」


 タリアが首肯(しゅこう)したと同時に、(ほむら)靴底(くつぞこ)で上手く屋根を滑り、物見櫓(ものみやぐら)の内側に入る。


 「――遅い!!」


 開口一番、白軍衣(はくぐんい)を纏う上位神(じょういしん)エルに一喝された。


 「まあまあ義兄(にい)さん」


 堂々たる威厳に満ちた態度のエルに(ほむら)は物怖じしていない。クロスが一驚し感心する。


 「おお~、エルの一睨みが効いてない。(きょう)心臓~」


 「煩いぞクロス! 孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)、何でお前はタリアを(かか)えている!?」


 エルはクロスを叱り、(ほむら)に詰め寄った。凄まじい勢いだ。


 「何でって……、義兄(にい)さんはタリアを汚したいの?」


 「――――っ!」


 傷ひとつないタリアの桜色の爪先を一瞥(いちべつ)するエルは、反論できず、乾いた奥歯をぐっと噛み締める。タリアは片頬(かたほお)を掻き、能力でパッと白い長靴(ブーツ)を取り出した。


 ずっと(ほむら)に抱えられているわけにもいかない。それにエルの手前、このままの体勢ではいられない。


 「あー……よし、いいよ。すまない(ほむら)、大丈夫、ありがとう下ろしてくれ」


 「…………」


 「え……」


 タリアが靴を履いていた、ものの数秒で、何故か(ほむら)が不機嫌になっている。


 「タリアを(かか)えられなくなってめっちゃ怒って――……、とと」


 (ほむら)の背負う影はドス黒い。クロスは言いかけた発言を飲み込み、口を噤んだ。


 「……え、と……下してくれ(ほむら)


 「俺は平気だ、下したくない」


 焔がタリアの体を抱え直した。密着度が増す二人にエルが黙っていない。


 「孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)!!」


 エルの爆発をタリアが食い止める。


 「ああ、兄さん待って!! (ほむら)、下してくれ、いい子じゃなきゃ帰宅後の約束は白紙だ」


 タリアは嘘をつかない。議論の余地はない。(ほむら)は選択肢を絞られ、不満ながらも腰を落とし、タリアを解放した。


 「……足下、気を付けて」


 「ありがとう」


 (ほむら)に礼を告げるタリアの足底(そくてい)が地面に着いた直後、(かん)(はつ)()れず、クロスが問う。


 「タリア、お前すげえ。帰宅後の約束ってなに?」


 「……あー……ハハ、秘密だ。ねえクロス、最近時空はどう?」


 曖昧な答酬(とうしゅう)で誤魔化し、タリアが話の焦点をずらした矢先、とんっと背中に何かぶつかり、皮膚が「ジュッ」と焼かれる痛みが走った。


 「は、ははは……、あはは、やった!! やったぞ!!」


 ひとりの男神(おがみ)がタリアの背後で嘲笑(ちょうしょう)している。両手で棒状の()を掴んだ物体の正体は、縦横50㎜直火式(じかびしき)四角焼印(しかくやきいん)――、黒い堕落印字(だらくいんじ)烙印(らくいん)だ。


 焦げ臭い香りと共に、上位神(じょういしん)兄姉(きょうだい)の眼前で、(ほむら)の間近で、タリアは速度が鈍いスローモーションのように倒れた。幼い声音(こわね)須臾(しゅゆ)に漆黒がタリアを誘う。


 「――墜ちておいで」

おはようございます、白師万遊です(。☌ᴗ☌。)✧♡


初めて読んで下さった方、ここまで読んで下さっている読者様、

最後まで読んで頂きありがとうございます(*ฅ́˘ฅ̀*)♡


感想、評価、レビュー、いいね、ブクマ、フォロー等々、

頂けると更新の励みになります╰(*´︶`*)╯


次回もよろしくお願い致します(*ᴗˬᴗ)⁾⁾ペコ

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