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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第三幕~.。.:*✽桜紅の契り✽*:.。.~
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第十三集:天帝饗宴


 (たつ)(こく)――(たつ)()(どき)天上界(てんじょうかい)上空は地上の晴夜(せいや)と異なり星々の煌きで煌々(こうこう)と明るい。膨大な惑星、(あま)川銀河(がわぎんが)が立体的に流れている。光害の影響がない天上界は、(あま)(がわ)視認(しにん)が容易だ。


 「――わあ! 天官軍(てんかんぐん)よ!」


 「――天官軍(てんかんぐん)の出番だぞ!!」


 「――エル様ーッ!!」


 眼路(めじ)を下げれば、普段は静寂な内城(ないじょう)が、今夜は一段と騒がしい。天上界は今宵、天上皇(てんじょうおう)が主催する天帝(てんてい)饗宴(きょうえん)が開かれていた。天帝饗宴は神々の宴だ。上級三神(じょうきゅうさんしん)中級三神(ちゅうきゅうさんしん)下級三神(かきゅうさんしん)、が一堂に(かい)する。緋毛繊台(ひもうせんだい)が設けられた酒の席は階位(かいい)で区切られており、下級三神(かきゅうさんしん)黒白(こくびゃく)番傘(ばんがさ)白虎(バイフー)が描かれている西、中級三神(ちゅうきゅうさんしん)は青い番傘に青龍(チンロン)が描かれている東で(さかずき)を酌み交わしていた。


 上級三神(じょうきゅうさんしん)は南と北に分かれている。南は中位神(ちゅういしん)下位神(かいしん)、北は上位神(じょういしん)だ。

 彼らは物見櫓(ものみやぐら)で神々の歌舞音曲(かぶおんぎょく)を眼下に眺めていた。物見櫓(ものみやぐら)は大型の掘立柱(ほりたてばしら)の建造物、支柱に丸太材や角材を組み上げて作る井楼(せいろう)だ。中位神(ちゅういしん)物見櫓(ものみやぐら)緑瓦(みどりがわら)上位神(じょういしん)物見櫓(ものみやぐら)赤瓦(あかがわら)になっている。


 「エル様~!!」


 「我らが天官軍(てんかんぐん)!!」


 天官軍(てんかんぐん)の登場が、場に一層の賑わいを(もたら)していた。

 彼らの奉納演武(ほうのうえんぶ)、剣術は迫力がある。鉄製の剣の音鳴りは心地が良い。


 「――ハアッ!!」


 精練(せいれん)された深沈厚重(しんちんこうじゅう)な軍隊だ。一振りの威風が(のえふ)した。


 「義兄(にい)さん、かっこいいね」


 「ああ、見事だ」


 (ほむら)とタリア、二人も北の物見櫓(ものみやぐら)にいる。

 

 (ほむら)は珍しく紅い漢服(かんふく)上衣下裳(じょういかしょう)を着用していた。(ふち)の黒い(えり)で襟に続く(おくみ)、ボタンを使用せず黒帯(くろおび)で締めている。首元や腰を飾った金の装飾品は上品で華美(かび)になっていない、靴は黒い長靴(ブーツ)だ。鬼灯丸(ほおずきまる)は仕舞っていた。

 

 そこにぞろぞろ、遅れて上位神(じょういしん)が昇ってくる。


 「――いたっ、タリアだ!!」


 「――久しぶりねタリアちゃん」


 「――わ、マジ久しぶり~!」


 男神(おがみ)シュトリア、女神エシュネ、男神(おがみ)クロスだ。一斉に三人は話し始めた。


 「タリアァ、俺の可愛い末弟(まってい)! ったく下界に入り浸りやがってっ、お前に会いたかったんだぜ俺は!」


 彼はシュトリア、慈雨(じう)を司る神だ。一重瞼(ひとえまぶた)できりっとした切れ長の目元、鼻筋は高く小顔でシャープな顔立ちをしている。服は上衣下裳(じょういかしょう)雄黄(ゆうおう)漢服(かんふく)(えり)や帯は抹茶(まっちゃ)色、靴は黒い長靴(ちょうか)を履いていた。髪は蒲公英(たんぽぽ)色の長髪だ、前髪は瞼上(まぶたうえ)で揃えてある。背丈は210㎝と大きい。


 「婚姻するんですって? お姉ちゃんと恋バナしましょ~!」


 彼女はエシュネ、舞踊(ぶよう)酒宴(しゅえん)を司る神だ。カリスの一柱、三美神(さんびしん)のひとりで出産と婚礼を担っている。二重瞼(ふたえまぶた)を囲んだ長い睫毛、スッと通った鼻筋に狭い小鼻、美眉(びまゆ)で艶がある唇、一言に容姿端麗(ようしたんれい)だ。

 服は漢服(かんふく)で、上位神(じょういしん)アライア同様、彼女も又、襦裙(じゅくん)しか着ない。衿元(えりもと)が右前の短い上衣(じょうい)(チョゴリ)、腰紐の(くん)下裙(したも)はウエストスカート状だ。羊刺繍(ししゅう)が可愛い布靴を履いている。紫苑(しおん)色の髪は長髪でハーフアップが可憐なお団子頭だ。結った箇所に紫苑(しおん)色のリボンが巻かれてある。

 右手に持つタッセルが付いた、全長約32㎝、扇面(せんめん)約20㎝の、古典円型団扇(うちわ)の模様は羊柄だ。他と自分を比べない性質(ゆえ)、185㎝の背丈に悩みはない。


 「ねえタリア、お前ちょっと痩せた~?」


 彼はクロス、時間を司る神だ。黒いリップを塗った唇、顎下(がっか)に脂肪がない曲線美(きょくせんび)(あご)、顔上は濡羽(ぬれば)色の髪、刈上げマッシュヘアの前髪で隠してある。服は上衣下裳(じょういかしょう)、艶めいた濡羽(ぬれば)色の漢服(かんふく)だ。靴も黒長靴(ちょうか)と全体的に真っ黒い。左手に握る約180㎝の時空の杖、その先端に付いた、高波動エネルギーを有する高品質の水晶は透明で美しい。199㎝と高身長だ。


 (みな)それぞれ、十二枚の翼は畳んでいる。


 「シュトリア私も会いたかったよ。アシュネ、恋バナは何れ……。クロス、私は痩せてない、かな」


 ひとりひとり、タリアは丁寧に応じた。久しぶりの再会はやはり嬉しい。


 「――……んで、へえ? ソイツが例の火鬼(ひおに)の小僧?」


 シュトリアが左腰に左手を当て、鬼角(おにづの)を生やした(ほむら)一瞥(いちべつ)する。上半身の重心を右側に傾け、(ほむら)を見下していた。シュトリアは四界(しかい)の者が嫌いな性格だ。


 タリアが(ほむら)の右斜め横に出て庇う。今日は天帝(てんてい)饗宴(きょうえん)、喧嘩は避けたい。

 

 「兄さん、威嚇しないで。彼は火鬼(ひおに)孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)、私の愛する人(・・・・)だ」


 「……ぐっ、タリアが……ッ、愛す、る……だとッ!?」


 シュトリアは胸元を抑え片膝(かたひざ)を突いた。


 「え……、シュトリア!?」


 突然の事態にタリアが慌てて駆け出す寸前、エシュネがタリアの傍に寄り、「いいのいいの」と制止する。そしてタリアの右腕に自身の左腕を絡め、くるり体を反転させた。(ほむら)、タリア、エシュネ、三人が正対(せいたい)する。


 「タリアちゃん、シュトリアくんは自業自得よ。孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)くん、私はエシュネ、タリアの姉よよろしくね。カリスの一柱で出産と婚礼を担っているの。アナタは子供、お好きかしら?」


 「ガキは嫌いだ。でもタリアに似た子供は欲しい」


 「まあまあまあまあ」


 エシュネは口元付近に団扇(うちわ)を添え、(ほむら)の返答ににこにこ微笑んだ。


 「ね~ね、火鬼(ひおに)の赤ちゃんって火鬼(ひおに)?」


 クロスが三人に加わった。唐突(とうとつ)な質問だがタリアも興味がある。火鬼(ひおに)は自然が生んだ渾沌(こんとん)だ。血縁者がどの程度、血を継ぐのか知りたい。


 「いや、火鬼(ひおに)じゃない。女鬼(めおに)側の遺伝子を大半に子供は形態形成される。産んで一カ月経てば火鬼(ひおに)の遺伝子は完全消滅するよ」


 「え~? なんかそれ、自分の子じゃねえじゃん?」


 「俺はタリアの子なら気にしない。まあ、誰かが愛着沸かないって自分の子供殺してたな」

 

 「オイオイ~。やっぱこえ~な、神の天敵って……」

 

 (ほむら)見聞(けんぶん)は露骨でクロスは口端を引き攣らせた。不快感を表すクロスに反してエリュネは平然とした様子で(ほむら)に助言する。団扇(うちわ)でタリアを扇ぎ、涼しい夜風を送った。


 「大丈夫よ孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)くん。タリアちゃんが望めば父上がアナタとタリアちゃんにそっくりな子供を授けて下さるわ」


 (ほむら)がきょとんと、エリュネの言葉を反復させる。


 「……俺とタリアにそっくりな?」


 「ええ、ええ。タリアちゃん半分、孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)くん半分、堪らなく愛くるしいわよ」


 「…………」

 

 (ほむら)が無言でタリアを直視した。小首を傾げるタリアが(ほむら)の名前を呼ぶが、本人の耳に届いていない。


 (ほむら)はタリアが女神になったときの会話を思い出している。


 『……未来にタリアと俺の……、タリアに似た子供はいるかな』


 『天上皇(てんじょうおう)寛容(かんよう)だよ。三百年後が楽しみだ』


 (ほむら)は少し勘違いしていた。タリアの遺伝子で二人の子供が創造されると、誤想(ごそう)していたのだ。まさか渾沌種(こんとんしゅ)が、夢にも思うまい。自分の本当の子供ができる、奇跡だ。


 (ほむら)が自分の名を連呼していたタリアを抱き締める。エリュネは「あら」とタリアと一旦、距離を置いた。


 「ほむ――」


 「……子供、欲しい。タリアと俺の子供が欲しい」


 若干、震える声音は酷く切ない。懇願(こんがん)されたタリアは優しく(ほむら)の背中を撫でる。


 「天上皇(てんじょうおう)寛容(かんよう)だ、って言わなかったか?」


 「うん、言ってた」


 「私に似た子供がいいのか?」


 「…………、タリアと俺の血が混ざった、二人に似た子供がいい」


 暫し黙考(もっこう)し囁かれた答えは以前と違うものの、きっとこれが(ほむら)の本音だ。


 「三百年後を楽しみにしてて」


 「……ん」


 ふたりの愛の結晶を成す未来の約束は純粋で尊い。三百年後が待ち遠しい(ほむら)は、タリアの前頭部に自分の片頬(かたほお)を擦り付け、甘えた。

 

 「何なの!? めっちゃラブラブじゃん! くそ羨ましい~! 僕も恋がしたい~!」


 「まあまあまあまあ! 孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)くんったら大胆、タリアちゃん愛されてるのねえ」


 「………あ、い…」


 タリアと(ほむら)抱擁(ほうよう)(かす)んだ(まなこ)に捉え、シュトリアがばたり倒れる。真っ白に燃え尽き風化した。死んで――、はいない。


 振り向くタリアがシュトリアの(しかばね)もとい、魂の抜け殻を発見する。


 「ん? ……ああっ、シュトリアが!!」


 「いいのいいのタリアちゃん、シュトリアくんは平気よ兄の定めね。ねえ孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)くん、二人の馴れ初め教えてくれないかしら?」


 「もちろんだ、義姉(ねえ)さん」


 「義姉(ねえ)さんですって!!」


 「じゃあ僕は義兄(にい)さん?」


 「ああ、義兄(にい)さんになるね」


 「お~()の大罪人、火鬼(ひおに)義弟(おとうと)か……。複雑じゃね?」


 「ねえ(みんな)、シュトリアが……ッ」


 三人はシュトリアを意に介さず雑談で盛り上がっていた。周章狼狽(しゅうしょうろうばい)するタリアを(ほむら)は腕の中から逃がさない。直後、物見櫓(ものみやぐら)に舞い降りたエルに「お前達ッ、俺の演武(えんぶ)を見ていなかったな!?」と説教される。(つい)でにタリアと(ほむら)は昨日の外城(がいじょう)の騒動、「口づけ」の一件も叱られたのだった。



おはようございます、白師万遊です(。☌ᴗ☌。)✧♡


最後まで読んで頂きありがとうございます( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )❤︎

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頂けると更新の励みになりますᕙ( ˙-˙ )ᕗ


次回もよろしくお願い致します(ㅅ •͈ᴗ•͈)

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