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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第三幕~.。.:*✽桜紅の契り✽*:.。.~
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第十二集:福運


 上位神(じょういしん)アライアが桜舞殿(おうぶでん)を去って四半時(しはんとき)後、タリアと(ほむら)内城(ないじょう)外城(がいじょう)を繋ぐ、七福門(しちふくもん)の門番、左門神(さもんしん)右門神(うもんしん)がいる七福門(しちふくもん)(くぐ)り、外城(がいじょう)へと入った。二人の(かも)し出す圧倒的な存在感は、神々達の衆目(しゅうもく)を集めている。


 片や天上皇(てんじょうおう)創りし最後の男神(おがみ)――華々しい三美神(さんびしん)のひとり上位神(じょういしん)タリア、片や鬼界(きかい)で悪名高い三災鬼(さんさいき)のひとり――火鬼(ひおに)孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)だ。注目の的にならないわけがない。


 外城(がいじょう)の神々達は火鬼(ひおに)の邪気を恐れ、遠目に二人を窺っていた。


 「タリア様よ……!」


 「……火鬼(ひおに)だ本物か」


 「タリア様が婚姻なされるって、噂じゃなかったな」


 「相手は五百年前の大罪人、憎き火鬼(ひおに)だぞ……」


 見目麗しい上位神(じょういしん)タリアは神々しい光の粒を天風(てんぷう)に乗せ、眉目秀麗(びもくしゅうれい)孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)禍々(まがまが)しい紅い影を騎士服の(すそ)(にじ)ませ、並んで歩いている。純粋な(よう)と邪悪な(いん)、対極な二人だが、絵画の如く美しい光景に神々達は魅了されていた。近くでタリアを拝見したい男神(おがみ)や女神もいるが、鋭利に尖った(ほむら)の放つ殺気で足が竦み動けずにいる。


 「タリア」


 「ああ、ありがとう(ほむら)


 火鬼(ひおに)が差し出す左手の平にタリアが右手を添えた瞬間、外城(がいじょう)(どよ)んだ。


 「タリア様がッ……!」


 「お、おい……火鬼(ひおに)上位神(じょういしん)のお体に触れたぞ……!」


 「……いいのか!?」


 上位神(じょういしん)神体(しんたい)は神聖で、上位神(じょういしん)外の神々の接触は許されない。ざわめく外城(がいじょう)、そこにひとりの男神(おがみ)が一歩前に踏み出し拱手(きょうしゅ)した。


 「…………」


 界事(かいじ)を司る神官(しんかん)五事官(ごじかん)(おさ)ウリだ。五事官(ごじかん)の服装規定、亜麻色(あまいろ)のロング丈、長袍(チャンパオ)を着ている。因みに(おさ)以外の五事官(ごじかん)(みな)、黒い長袍(チャンパオ)だ。


 今日は一段と目元の(くま)が濃ゆい。そしてたくさんの書類を片腕に挟んでいた。(ほり)があるぱっちりした二重瞼(ふたえまぶた)(まなこ)に生気が宿っていない。荒んだ空気を背負っている。


 「あー……、こんにちはウリ、丁度良かった。キミに会いに外城(がいじょう)に来たんだ」


 タリア達は五法殿ごほうでんに向かっていた途中だ。嬉しい鉢合わせに挨拶するが、ウリの重い佇まいにタリアは冷や汗を掻いた。


 緊張しつつ、対話の許可をする。


 「いいよウリ、容認する」


 「……こんにちはタリア殿、常々、数百、数万回とアナタに申し上げておりますが、ご自身が上位神(じょういしん)であらせらえるご自覚はおありでしょうか? 上位神(じょういしん)のアナタが下神(かしん)の僕に用件がある場合、アナタが外城(がいじょう)に来訪なさるのではなく、僕がアナタの宮殿にお伺いする立場なんです。秩序を重んじ、外城(がいじょう)を乱さないで下さい」


 ウリは自分の階位(かいい)に無頓着なタリアを危惧(きぐ)していた。階級や序列、掟に厳しい上級三神(じょうきゅうさんしん)中位神(ちゅういしん)下位神(かいしん)上位神(じょういしん)疵瑕(しか)に目敏い。ただでさえタリアは目立つ、無用な揉め事に巻き込まれないか、邪推(じゃすい)を回されたり責任転嫁されないか、ウリは心配でタリアを(いさ)めている。本人が知る由もない、ウリなりの忠義の表し方だ。


 開口一番、訥々(とつとつ)諫言(かんげん)されたタリアは、透き通る白い片頬(かたほお)を掻き、苦笑した。


 「アハハ……、すまないウリ」


 「はあ……。アナタの『すまない(・・・・)』も本来、下神(かしん)にご法度ですよ」


 上位神(じょういしん)下神(かしん)の壁は分厚い。上位神(じょういしん)自ら安易に非を認め、下神(かしん)に謝罪する者はいない。平等を謳う天上界、しかし蓋を空ければ対等のない世界だ。


 天上皇(てんじょうおう)が神々に与える不変の不条理を、神々は試練とし、万一も思い上がりで理解した気になってはいけない。絶対は天上皇(てんじょうおう)にある。


 万物に共通した普遍的で不安定な矛盾だ。許容(きょよう)せず、諦念(ていねん)せず、断念せず、真理に囚われず、破壊せず、乖離(かいり)せず、不条理を不条理のまま生き、神々は不条理の意味と本質を探究し続ける義務を課されていた。


 ――経験と誠実な精神で向き合うことが重要だ。


 タリアも又、不断(ふだん)の挑戦と努力をしている。不条理を生の基準に、感情意識を活動させ、理想を求めていた。


 「……肝に銘じよう」


 頷くタリアにウリは溜息を吐き、本題に入る。


 「はあ……――でタリア殿、僕に如何様(いかよう)なご要件が?」

 

 「先日の樹氷村(じゅひょうむら)冴木犀(ごもくせい)の一件だ」

 

 「樹氷村(じゅひょうむら)雪花(ゆきはな)の案件は神兵(しんぺい)ハオティエンとウォンヌの聴取で粗方(あらかた)、把握しております。雪花(ゆきはな)の実物はありませんでしたが、微量な結晶は入手できました。これは重大な事案です。樹氷村(じゅひょうむら)は我々五事官(ごじかん)許万官(きょばんかん)医研官(いけんかん)が、今後の調査対象に……、お陰様でとても忙しくしております」


 「あー……、ハハ……、お疲れ様……」


 目頭をぐいぐい解すウリは疲労困憊気味だ。寝不足なのが見て取れた。


 ウリは五界(ごかい)すべての怪奇(かいき)事件、猟奇(りょうき)事件の解決を最優先に、転仕や任務能力に関する事柄、昇給昇格、神員(しんいん)配置、神材(しんざい)育成、格官職の方針を束ね書記を兼務、関係官職との連携、現場支援、官職指導に助言、備品や宮殿の土地管理、等々を担っている。当意即妙(とういそくみょう)な判断、臨機応変な対応力が欠かせない大変な任務を正確で迅速に遂行するウリは、天上界の誉れで尊敬と信頼に値する男神(おがみ)だ。


 そんな多忙なウリに仕事を意図せず増やしてしまったタリアは申し訳ない気持ちでいっぱいである。


 「タリア殿は一度、下界(げかい)で運勢を占ってもらっては如何(いかが)ですか? 数千年の歴史上、三災鬼(さんさいき)三毒狐(さんどくこ)三厄狼(みやくろう)二凶鹿(にきょうじか)が自ら下界に赴き、人間を襲う事例は極端に少ないです。にも(かか)わらずタリア殿は、鬼界(きかい)孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)狐界(こかい)電蔵主庵(でんぞうすあん)鹿界(しかかい)万季地(まきじ)(ばく)狼族(ろうぞく)冴木犀(ごもくせい)、自然が生んだ渾沌(こんとん)、神の天敵と短期間でこうも遭遇しています。数世紀でアナタひとりですよ?」


 「……私ひとり、幸運なのかな……」


 「幸運じゃなく、凶運です」


 真剣な口調(くちょう)で零すタリアの独言(どくげん)をウリがキッパリ否定した。


 「凶運……、いや、(ほむら)と出逢えたし幸運じゃ……」


 「そもそもの凶運の発端は、火鬼(ひおに)でしょう」


 ウリがタリアの隣にいる(ほむら)を睨んだ。


 「ハッ、俺とタリアの出逢いは福運(ふくうん)だ」


 (ほむら)は鼻で笑い瞼を半分に、数百倍の威圧感でウリを見下げた。ウリが対峙する(ほむら)死屍累々(ししるいるい)の亡骸の積み上げてきた真の悪だ、醜悪(しゅうあく)(よど)んだ虹彩(こうさい)は刺々しい。


 (いびつ)な重圧にウリの両肩が(しび)れる。


 「――――っ」


 ウリの一瞬の強張りをタリアは見逃さなかった。タリアはウリを威嚇する(ほむら)の殺伐とした顔を両手で包み込んだ。


 「ありがとう私達は福運(ふくうん)だ。だから、ね、ウリを虐めないで」


 「……虐めていない」


 「運勢占いは下界(げかい)で流行っている、今度、占ってもらおう」


 「運勢占い……、鬼界(きかい)にいい占い師がいる。漆黒(しっこく)(いばら)が一時期ハマッてた」


 鬼界(きかい)招死(しょうし)笑滅(えめつ)乱螫(らんどく)惨非(ざんひ)が夢中になる占い師だ。余程の命中率に相違ない。


 「へえ! じゃあ、鬼界(きかい)で決まりだ」


 タリアが浮かべた笑みに釣られ、(ほむら)の口端も緩んだ。ウリがタイミングを見計らい、咳払いする。二人の甘い雰囲気に周囲の神々が石化していた。


 「ゴホンッ! タリア殿、外城(がいじょう)です。節度を保って下さい」


 「ああウリ、すまな――」


 タリアが(ほむら)から両手を離すや否や、唐突に(ほむら)がタリアの両頬(りょうほお)を両手で持ち上げ口づけする。一帯が無音になった。タリアが含羞(がんしゅう)茹蛸(ゆでだこ)になる。


 「――ちょ、(ほむら)!」


 刹那のキスだ。ウリは唖然とし、ハッと語調(ごちょう)を荒げ(ほむら)(とが)めた。


 「孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)!! 衆人環視(しゅうじんかんし)の中でっ、アナタ正気ですか!?」


 「自分の嫁を可愛がってなにが悪い?」


 「嫁!? 三百年後でしょう!? 不純です!!」


 「不純? 神が愛を不純と?」


 「愛じゃなく、孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)アナタが不純なんです!!」


 非難の応酬だ。タリアが喧嘩を仲裁する。


 「やめないか二人共!!」


 「タリア殿っ、アナタもアナタですよ!? 辺りをご覧になって下さい!」


 「辺りって……うわ!?」


 神々が失神していた。「医研官(いけんかん)を呼んでくれー!」、「こっちもだー!」と救助要請が飛び交っている。吐血した者や半狂乱になっている者もいた。悲惨な状態だ。


 「はあ……まったく。アナタ達がいては収拾がつきません。いいです二人は内城(ないじょう)にどうぞお戻りを、ここは僕が引き受けます。明日は天上皇(てんじょうおう)主催の天帝(てんてい)饗宴(きょうえん)です。くれぐれも、問題は起こさないで下さい。いいですねタリア殿」


 「……え、と。わかった」


 後者が一言一句、強調される。ウリに釘を刺され、タリアは(うべな)ったのだった。

おはようございます、白師万遊です♡(。☌ᴗ☌。)


最後まで読んで頂きありがとうございます⸜( ´ ꒳ ` )⸝♡︎

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