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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第三幕~.。.:*✽桜紅の契り✽*:.。.~
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第十一集:三美神のひとりアライア


 「(ほむら)、次はこっちだ」


 「慌てないでタリア」


 ――(ひつじ)(こく)初刻(しょこく)、タリアは(ほむら)桜舞殿(おうぶでん)の庭を案内していた。


 ふたりは回廊(かいろう)で囲まれいる池の唐橋(からはし)を渡り、中央に築かれた築山(つきやま)の人工的な中島(なかじま)で足を止める。


 タリアの宮殿は正面手前の池に向かってコの字型が特徴の寝殿造(しんでんづく)りだ。周囲に漂う雲煙(うんえん)、その奥で糸を垂らす滝が、清水(せいすい)の音色を響かせていた。水分に富んだ空気、神経を安定させる豊富な酸素は美味しい。

 一面に植えられた桜や白梅(はくばい)紅梅(こうばい)の花びらも、惜しみなく舞っている。正に桃源郷と呼ぶに相応しい、深遠(しんえん)な場所であった。


 「私の好きな景色だ」


 「うん、綺麗だね」


 (ほむら)の左手がタリアの背中に添えられる。ぐっと腰を引き寄せられ、タリアは身動きを封じられた。動けない。


 「……私じゃなく景色を見てくれ」


 「いまはタリアを見ていたい」


 紅い眼に直視され、反射的にタリアの耳介(じかい)が赤くなる。


 「………恥ずかしい。あまり見ないで、鼓動が速くなる」


 目線を下げ、タリアは素直に吐露した。恋仲になり、婚約者の間柄になり、体を重ねる関係に至っても尚、タリアは(ほむら)劣情(れつじょう)を含んだ眼差しに未だ慣れていない。

 

 「……可愛い、キスしたい」


 「……外じゃだめだ」


 「じゃあ、二人っきりになれる寝所(ねどころ)に行こう」


 一点に絞られた行先にタリアが一喝(いっかつ)する。顔が真っ赤だ。


 「……っ、昼だよ(ほむら)!」


 「愛は昼夜、無休にある」


 意見は正しい。間違ってはいない。


 「あ、朝も……」


 「朝は朝、昼は昼だよタリア」


 「…………ッ」


 今朝、(ほむら)の荒々しい愛で気絶させられたタリアは息を呑んだ。行為が始まれば数時間は離してくれない。


 「ね、タリア」


 「だ、だめだ(ほむら)! 今日は昼に――」


 「昼に私が訪ねて来るものね、タリア」


 刹那、ひとりの女神が上空より降り立った。十二枚の翼を授けられし上位神(じょういしん)典雅(てんが)と優美を司る女神アライアだ。カリスの一柱で輝きと導きを担っている。美と優雅を象徴する三美神(さんびしん)のひとりでもあった。


 ――要するにタリアの姉だ。


 「アライアッ、久しぶりだね」


 「エルに帰還を教えてもらったわ、久しぶりタリア」


 アライアがにっこり微笑する。三美神(さんびしん)のひとりとあって容貌(ようぼう)は優れており、彫が深い二重瞼(ふたえまぶた)の大きな目に長い睫毛、虹彩(こうさい)薄花色(うすはないろ)で高い鼻背(びはい)に小さい小鼻、鼻翼(びよく)は狭い。手入れされた美眉(びまゆ)、しっとり潤う唇にシャープな顎、目元は水色の化粧が(ほどこ)されてある。欠点のない容姿(ようし)端麗(たんれい)な顔立ちだ。


 薄花色(うすはないろ)の長髪はリボンのハーフアップで結われてあった。可憐な髪型だ。(はす)(かんざし)が挿されてある。


 服装は青竹色(あおたけいろ)漢服(かんふく)だ。アライアは普段、襦裙(じゅくん)しか着ない。

 前で合わせる形式の上衣(じょうい)、腰に巻き付けた(くん)下裙(したも)はウエストスカート状だ。水色の羽織はオーガンジーの生地で、金色の蓮の刺繍があしらわれてある。透け感が魅力的でふわふわ風に揺れていた。


 両耳には古めかしい扇形の、細工が細かい耳飾りをしている。装飾された鈴と蓮が可愛い、水色のフリンジのさりげない彩りも気品があった。靴は布靴だ。襦裙(じゅくん)と揃いの色合いで立体的な(はす)の刺繍がされてある。

 

 右手に持つタッセルが付いた、全長約32㎝、扇面(せんめん)約20㎝の、古典円型団扇(うちわ)の模様は鳥柄だ。団扇(うちわ)は女神達の必需品で(たしな)みに欠かせない。


 因みに背丈は189㎝だ。下界の女性と比較してはいけない。必ず憤怒(ふんど)する。学習しない上位神(じょういしん)の兄が年に数回は翼を()がれ、半殺しにされていた。


 「アライア、私に会いたがっていたって?」


 「ええ。明日の天帝饗宴(てんていきょうえん)、アナタが掉尾(ちょうび)を飾る番よ」


 天帝饗宴(てんていきょうえん)は名前通り、神々の宴だ。天上皇(てんじょうおう)主催で百年に一回、(もよお)される。


 「――え、私の番でした?」


 「ええ。アナタの番、衣装は私が用意するわ。いいわね、タリア」


 「……はい姉さん、ありがとうございます」

 

 姉の意向にタリアは逆らえない。肩を落とすタリアにアライアは「で」、と話題を区切り(ほむら)を指差した。


 「アンタにベッタリくっついてるソイツが、噂の下賤(げせん)火鬼(ひおに)?」


 アライアが蛾眉(がび)(ひそ)める。(ほむら)は現れたアライアを全く意に介さず、依然として寵愛するタリアを抱き締めていた。アライアの嫌味も気に留めていない。


 「姉さん、下賤(げせん)はよくない!」


 「あら、真実じゃない」


 アライアは生粋の上位神(じょういしん)育ちだ。上位神(じょういしん)外を下等、四界(しかい)は外道、下界は慈愛を、の認識で先天的な性質に謙虚さはない。自身の品位と人格の価値を誇る上位神(じょういしん)傲慢(ごうまん)で高飛車だ、けれどこれが本来の上位神(じょういしん)の姿である。


 「はあ……。姉さん彼は鬼界(きかい)火鬼(ひおに)孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)(ほむら)、彼女は私の姉のアライアだ。三美神(さんびしん)のひとりになる。下賤(げせん)は気にしないで」


 タリアは溜息を吐き、ひとりずつ、丁寧に紹介した。穏便に現状を乗り越えたい。


 「気にしていない。三美神(さんびしん)のアライアは知ってる。タリアとエシュネ、三人が三姉弟(さんきょうだい)所以(ゆえん)はなに?」


 「ああ、所以(ゆえん)は……」


 タリアの言葉尻を奪い、アライアが淡々と説明した。


 「――下神(かしん)よ。下神(かしん)達は上位神(じょういしん)で最も見目麗しい女神と男神(おがみ)、私達を三姉弟(さんきょうだい)(くく)り、崇めていたの。(いず)三美神(さんびしん)崇敬(すうけい)されてね。私アライア、エシュネ、タリア、この三柱としたカリスを、長女の私が天上皇(ちちうえ)に熱願し発足させたのよ」


 「お陰で下界に出回る私の肖像画は三姉妹(さんしまい)、女神で描かれている。男神(おがみ)は一枚もない」


 タリアが付け足し、苦笑する。下界で異なった自分の描写も一興だ。特段、タリアは悩んではいない。


 「俺が描くよタリアの肖像画。ああ、義姉(ねえ)さん達は描かないよ」


 「誰も頼まないわよ、卑賎(・・)のアンタなんかに」


 タリアに言挙げする(ほむら)が強調した語末(ごまつ)にアライアが蟀谷(こめかみ)痙攣(けいれん)させた。(ほむら)が愛想笑いで応酬する。


 「安心したよ。俺も不美人(ふびじん)は描きたくないしね」


 「ハア!? 不美人(ふびじん)ですって!?」


 「事実だ。カリスはタリア一柱でいい。あとは所詮、卖萌(マイメイ)でしょ」


 「誰がぶりっ子よ!! 泥水(すす)ってる小汚い鬼族(きぞく)がッ、カリスの侮辱は万死に値するわ……!!」


 「やめないか(ほむら)!! 姉さん落ち着いて!!」


 タリアが二人の舌戦を仲裁した。けれどアライアの怒りは収まらない。


 「タリア!! コイツのどこがいいの!? 野蛮で下品な火鬼(ひおに)じゃない!! 神聖な私達上位神(じょういしん)と雲泥の差だわ!!」


 上位神(じょういしん)は清らかで尊い。鬼族は邪悪で(いや)しい。両者は雪と(すみ)提灯(ちょうちん)に釣り(がね)、本質的に掠りもしない。しかしタリアは、既成概念に囚われない。

 

 「とてもいい子なんだよ。彼は私に誠実だ。不適切な暴言は私が謝る、私に免じて許してくれ姉さん」


 眉尻をハの字に謝罪するタリアの両目が潤んだ。実際は日差しの反射で煌いたに過ぎないが、勘違いしたアライアは焦って宥恕(ゆうじょ)する。


 「……あーもー!! 私はアンタの姉なのよ!! 私はアンタに弱いの!! アンタは私の愛くるしい末妹(まつまい)!! 許すわよ!! 泣かないで!!」


 「え、と……ああ、泣かない。ありがとう姉さん」


 迫力に押されタリアは頷かざるを得ない。


 「ありがとう義姉(ねえ)さん」


 「……義姉(ねえ)さん義姉(ねえ)さんって厚かましい。アンタは私に話かけないで嘔吐感がするわ」


 (ほむら)義姉(ねえ)さん呼称(こしょう)にアライアの背筋が凍った。団扇(うちわ)を口元に当て、再度タリアに訊ねる。生気のない口調だ。


 「……タリア、本当にコイツと婚姻を?」


 「ああ、三百年後に」


 「……天上皇(ちちうえ)の愛は無償で無限大……、三百年なんて一瞬じゃない……。ねえタリア、火鬼(ひおに)って寿命はあるのかしら?」


 タリアの肯定にアライアはぶつぶつ独り()ち、突如、露骨(ろこつ)なる物騒な質問をした。


 「え、(ほむら)の寿命? ……私達と大差ないかな」


 自然が生んだ渾沌(こんとん)火鬼(ひおに)は不死身に近い。アライアはタリアの答えに沈黙する。


 「…………」


 無言で(ほむら)を一睨みした。言外(げんがい)の意味を察する(ほむら)の破顔一笑は、色彩で例えたら真っ黒だ。

 

 「御心配なく、義姉(ねえ)さんが先に逝く(・・)よ」


 「…………殺していい?」


 「ああっ、やめて姉さん!!」


 握った拳の関節を鳴らすアライアは武道に長けている。タリアは四半時(しはんとき)(ほむら)とアライアの喧嘩に振り回されたのだった。

 

おはようございます、白師万遊です(*^▽^*)


最後まで読んで頂きありがとうございます(*´Д`)

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また次回もよろしくお願いします<(_ _)>

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