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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第三幕~.。.:*✽桜紅の契り✽*:.。.~
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第十集:アルテミスの森

⚠キスシーンがあります⚠


 天上界(てんじょうかい)に到着したタリアと(ほむら)は現在、外城(がいじょう)東側、アルテミスの森に来ている。階段状に18の湖沼群(こしょうぐん)と多数の(みずうみ)が形成され、(たき)が流れ落ち、ハンカチノキに囲まれた美しい煌々(こうこう)たる景観が、タリアと(ほむら)眼前(がんぜん)に広がっていた。


 (みずうみ)と滝、緑が織りなす自然は芸術的で神々しい。


 (みずうみ)の水は内城(ないじょう)にあるエデンの園、湧水(ゆうすい)の川から流れた神聖な清水(せいすい)で、ここが聖なる滝――聖滝(せいろう)と名付けられた所以(ゆえん)だ。清水(せいすい)神力(しんりき)を向上させ精神と肉体を癒す効果がある。星々を映したエメラルドに輝く湖面(こめん)、深さは1m50と湖底(こてい)は浅い。


 「……貸し切りだな」


 普段、天官軍(てんかんぐん)武官(ぶかん)、負傷した者が数人いるが時刻は(うし)(こく)正刻(せいこく)だ。運よく誰もいない。タリアと(ほむら)の二人のみ、意図せず贅沢な独占となった。


 (ちな)みにアルテミスの森は、狩猟(しゅりょう)を司る女神アルテミスの管轄区域だ。上位神(じょういしん)は彼女の許可を得ず、聖滝(せいろう)の領域を訪ねられる。()わば上級階位(かいい)の特権だ。


 「タリア、足下に気を付けて」


 「ああ、ありがとう」


 (ほむら)に誘導され、タリアは(みずうみ)に入った。ふたりは厚手の行衣(ぎょうえ)に着替えている。タリアは白、(ほむら)は黒だ。透き通った青い水中で(たわむ)れる色鮮やかな魚たちは天上界にしか生息していない。


 (ほむら)がタリアの一筋零れた前髪を右耳にかけ、聞いてくる。


 「心臓は? 痛くない?」


 「痛くないよ。治っている」


 冴木犀(ごもくせい)(えぐ)られた胸元に穴はない。四半刻(しはんとき)で塞がっていた。天上皇(てんじょおう)が創りし不死に近い体だ、自然治癒力は高い。

 

 「……ごめんタリア、痛かったでしょ」


 「……(ほむら)……」


 タリアは腰に回された(ほむら)の片腕に、ゆっくり引き寄せられる。弱々しい声音だ。


 「……守ってあげられなかった」


 「私は(ほむら)、キミに守られて、いまがある。心臓も冴木犀(ごもくせい)に食べられずに済んだ、ありがとう」


 タリアは(ほむら)の右頬を撫でた。()いを帯びる表情は切ない。


 「……タリアの心臓を食べた俺が怖くない?」


 「怖くないよ。キミは火鬼(ひおに)だ、理解している」


 四界(しかい)の者は下界や天上界と食の好みが異なる。地上は共存に多様性があって然るべきだ。哲学、文学、価値観、人権、神々は五界(ごかい)を尊重し見守る義務があった。


 同質性は万物の否定になる。天上皇(てんじょおう)が望まれない思想だ。


 「……タリアは俺の独一処(とくいっしょ)だ」


 火鬼(ひおに)の残虐で凶悪な過去を既知(きち)し、(いや)しい一面を(さら)しても尚、上位神(じょういしん)タリアの慈悲は平等で差別がない。一介の神々ならば、(けが)れた四界(しかい)の者は皆一様に度外視(どがいし)だ。当たり前で当たり前にない対等で他と接するタリアは正に神の名に相応しい。


 (ほむら)がタリアに惹かれ恋い慕うひとつの理由であった。


 「唯一無二か、ありがとう。(ほむら)も私の独一処(とくいっしょ)だよ」


 タリアは日々、(ほむら)にたくさん、色んな形の愛を貰っている。

 分かち合う痛み、語らう愛、互いの魂が響き合い、共鳴し、偶然が必然を呼び、孤独の果ての幸福に辿り着けた。天地でたったひとり、特別に、愛したい存在だ。


 「……タリア」


 「……ん」


 (ほむら)に口づけされる。首の後ろに左手を添えられ、頭を持ち上げられた。


 「……ぅん……ッ」


 唇の(ついば)み方が上手い。タリアは容易く(ほむら)の舌の侵入を許してしまう。


 「……ン、んん……」


 捻じ込まれた舌先は熱い。背骨を這う右手にぞくりおののいた瞬間、逃げ惑う舌を(から)め捕られた。


 「……ッ、ぅん……」


 執拗に口腔(こうくう)(むさぼ)られる。歯をなぞられ、舌を強く吸い上げられ、否応なく快感を与えられた。絡み合う舌が甘く痺れ、思考が溶かされる。


 「んぅ……ッ、ンン……」


 混じり合った唾液の音が卑猥(ひわい)だ。息苦しいが(ほむら)は離してくれない。


 「ンッ、……ッ、ん、んっ……」


 狂おしく口の中を蹂躙(じゅうりん)された。タリアの経験値を上げさせない一方的なキスだ。


 「……ッ、……んん……」


 口内に溜まる二人の唾液の行き場がなく、タリアは嚥下(えんげ)せざるを得ない。(ほむら)はタリアの喉が上下に動いたのを確認し、解放する。


 「……ハ」

 

 相変わらず息は一切、乱れていない。


 「は……」


 タリアは酸素不足で涙目だ。潤んだ虹彩(こうさい)(ほむら)を見上げていた。火照っている両頬(りょうほお)、しっとり濡れた下唇(かしん)が艶めかしい。


 「……可愛い」


 据え膳食わぬは男の恥だ。


 「ちょ、待っ、焔!?」


 独言(どくげん)した(ほむら)の長い両睫毛の奥、朱色の瞳が鋭くなる。矢庭(やにわ)(ほむら)がタリアの行衣(ぎょうえ)の腰紐を掴んできた。


 「したい、する」


 「だ、だめだ!!」


 直球な物言いで断言してくる。バシャバシャ水面が暴れた。したい、だめ、の押し問答の間に紐が緩んでしまう。


 「――お前達……、何をしている……」


 そこへ突如、第三者の人物が現れた。


 「……エル!?」


 上級三神(じょうきゅうさんしん)上位神(じょういしん)天上皇(てんじょうおう)が初めて創った最高傑作、正義を司る男神(おがみ)エルだ。彼は神が堕落した堕神(だしん)異界者(いかいしゃ)跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する天上界と地上の狭間(はざま)天繋地(てんけいち)陣頭(じんとう)で戦う天官軍(てんかんぐん)総帥(そうすい)でもある。


 エルは白い短髪を後頭部で束ねており、パッチリとした二重瞼(ふたえまぶた)の白い目は額と合わせて三つ、長い睫毛に手入れされた眉毛、目鼻立ちがよく唇や肌は白い。

 常日頃は天官軍(てんかんぐん)の服装規定、白軍衣(はくぐんい)を着用しているが、場所が場所だけに、いまは白い行衣(ぎょうえ)を纏っていた。


 背丈は2mあり、純白の翼十二枚は畳まれてある。


 「……何をしている?」


 「あー……。紐を、結び直してもらっていた。ね、(ほむら)


 「まあね。一旦、脱がして、直すところだった」


 同調を促すタリアに(ほむら)は肩を竦め、少々、誤解を招き兼ねない返答をした。


 「――まったく。タリア、気を付けなさい」


 「……すまない。気を付けるよ兄さん」


 上手く誤魔化せて安堵する。第三の目で見透かされていたら危うく、(ほむら)との一戦の合図、銅鑼(どら)が打ち鳴らされていたかもしれない。

 

 「タリアお前、天上界にいつ帰還した?」


 「半刻(はんとき)前、いや半刻(はんとき)も経ってないかな。エルは何故、アルテミスの森に? 怪我はない、よね?」


 一見、外傷はない。掠り傷ひとつない、綺麗な素肌だ。


 「(エルは正真正銘の(つわもの)、戦場で重症は負わないしな)」


 タリアは見当がつかず小首を傾げる。


 「…………」


 一拍置くエルは、両手で(みずうみ)の水を(すく)い、パシャリ顔面に浴びた。片手で拭いつつ、訳柄(わけがら)を話してくれる。


 「外城(がいじょう)が煩くて敵わん。下界で何か事案が発生したんだろう。干渉はしないが胸騒ぎがしてな、精神統一に来たんだ」


 「…………」


 タリアは冷や汗をかき沈黙した。外城(がいじょう)の騒動の発端は十中八九、狼界(ろうかい)狼族(ろうぞく)三厄狼(みやくろう)のひとり冴木犀(ごもくせい)が関わっている、樹氷村(じゅひょうむら)の一件だ。

 

 「ハハッ、精神統一? 似合うね義兄(にい)さん」


 「精神が破綻したお前は統一もないな、孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)


 「――破綻? 備わっていない精神だ、破綻も無いよ。物理法則に従わない、不滅性の火鬼(ひおに)だよ俺は」


 (ほむら)双眼(そうがん)が紅く灯った。(じゃ)に満ちる火山が生んだ渾沌(こんとん)の象徴、火鬼(ひおに)に道理はない。


 「……タリアのために孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)、お前は何を捧げられる?」


 エルの何か試したような問いに(ほむら)はタリアを直視する。そしてタリアの耳元で囁いた。


 「今世(こんせ)の生死と輪廻転生の愛」


 「――――ッ」


 永久不変の真理、堅固(けんご)な決意、誠実な愛、それは二度とタリアを独りにしない(ほむら)の誓いであり真実だ。タリアは下唇(かしん)を噛み、ぐっと涙を堪える。


 「…………」


 遥か昔は泣き虫だったタリア、崇めらる程に笑顔の仮面は何重と重なり、天上界の影響が少ない下界に入り浸り数世紀、火鬼(ひおに)と出逢い又、往時(おうじ)の幼い頃の印象に戻った。末弟(まってい)タリアの人生の幸せを、現今進行形で祈っている長男エルの気持ちは感慨深い。


 エルは無音の溜め息を吐き、(ほむら)に言葉を投げる。口端が微かに上がっていた。


 「孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)、及第点だ。精進しろ」


 「ありがとう義兄(にい)さん、嬉しいよ」


 (ほむら)の「義兄(にい)さん」呼称(こしょう)はすっかり定着している。


 「――タリア、二日後……(こよみ)的に明日か、天帝饗宴(てんていきょうえん)までいなさい。忘れてないな?」


 「……あ」


 忘れていたタリアは咳払いし、微笑んだ。


 「もちろん憶えています」


 「アライアがお前に会いたがっていた。伝えておく」


 「……はい」


 タリアは苦い笑みを浮かべ覚悟した。明日はゆっくり休めそうにない。

おはようございます、白師万遊です(*^▽^*)

最後まで読んで頂きありがとうございます(*´Д`)


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また次回もよろしくお願い致します<(_ _)>

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