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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第三幕~.。.:*✽桜紅の契り✽*:.。.~
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第九集:終結


 それぞれの戦いが終わり、四人はタイミングよく先刻、四散(しさん)した中間地点で合流する。(ほむら)が横抱きしていたタリアは血塗れだ。本来は桜色の深衣(しんい)が、いまは血で赤黒い。


 タリアに一瞬で接近するハオティエンとウォンヌが同時に叫んだ。


 「――タリア様!?」


 「――お怪我を!?」


 「アハハ……、平気だ」


 案の定の反応をされ、タリアは苦く笑った。上位神(じょういしん)神体(しんたい)は丈夫で「平気」に嘘はない。


 「……ってタリア様、心臓が!! まさか冴木犀(ごもくせい)に!?」


 「……ッ!? タリア様、冴木犀(ごもくせい)に心臓を奪われたんですか!?」


 タリアの胸部に穴が空いている。ウォンヌとハオティエンは矢継ぎ早に質問した。


 「冴木犀(ごもくせい)がいたと誰に?」


 冴木犀(ごもくせい)は逃げて二人と接触していないはずだ。問い返すタリアにウォンヌが答えた。


 「僕は瑠璃(るり)(ろう)に、征伐(せいばつ)しました」


 「俺は銀狼(ぎんろう)です、こちらも征伐(せいばつ)しました。ウォンヌと手分けして雪洞(せつどう)を捜索しましたが、人間の生存者はいませんでした」


 継いでハオティエンが報告した。ハオティエンは所々、軍衣(ぐんい)紅血(こうけつ)で滲んでいる。かなりの出血量だ。


 「ありがとう二人共、ご苦労様。ハオティエン、キミに」


 「……?」


 タリアが差し出すものをハオティエンは受け取った。手の平にあるタブレット型の丸い玉を確認したハオティエンが驚愕する。覗き込んだウォンヌも瞠目していた。


 「……っ、滴下生(てきかせい)じゃないですか! 俺は大丈夫ですっ、タリア様が使って下さい!」


 生命の()から落ちる滴を固めた滴下生(てきかせい)は、神々のための貴重な万能薬だ。常に入手困難で、他の神に譲る者はいない。


 下神(かしん)上位神(じょういしん)に忠実だ。上位神(じょういしん)も又、下神(かしん)に誠実であらねばならない。

 

 「私はいい、キミにあげるよ。上位神(じょういしん)の慈悲を、キミは拒むのか?」


 タリアはハオティエンが断れない言葉で選択肢を一択に絞り込んだ。


 「…………っ」


 果然(かぜん)、ハオティエンはグッと押し黙る。そして黙考の末、拱手(きょうしゅ)した。


 「……いえ、有難く受け(たまわ)ります」

 

 「ハハ、よろしい」


 微笑するタリアは尊い。自分の怪我を顧みず、他を助ける。


 天上皇(てんじょうおう)創りし上位神(じょういしん)下神(かしん)に興味がない。誇り、矜持(きょうじ)、自尊心が強く、下神(かしん)を煙たく扱う傾向にあった。けれど上位神(じょういしん)タリアは、下神(かしん)に自ら歩み寄る男神(おがみ)だ。

 下神(かしん)を気遣い、下神(かしん)を守り、下神(かしん)の意見を(ないがし)ろにしない。


 下神(かしん)が忠誠を捧げるべき上位神(じょういしん)だ。


 滴下生(てきかせい)を飲み、体を回復させたハオティエンが再度、タリアに礼を述べる。拱手(きょうしゅ)し最大の感謝を示した。


 「タリア様、ありがとうございます。武官ハオティエン、御恩は生涯、忘れません」


 「大袈裟だなハオティエンは……」


 ハオティエンは武人(ぶじん)の性格だ。発言に重みがある。


 「――ってタリア様、心臓は冴木犀(ごもくせい)に!? 食べられたりしてませんよね!?」


 ウォンヌが二人の会話に割って入った。押し退けられるハオティエンは横目でウォンヌを睨みつつ、体勢を崩したまま「食べられてませんよね?」と語末(ごまつ)を反復させる。上位神(じょういしん)の神聖な心臓は天上界(てんじょうかい)の宝、天上宝(てんじょうぽう)のひとつだ。汚れた四界(しかい)の住人が万一も口にしていい代物ではない。


 「えーと……」


 タリアは言い淀んだ。二人に真実が知れたら後々が面倒くさい。


 「(何か正当性のある……)」


 「奪還した褒美に俺が食べた」


 けれど、タリアが弁解を考える前に(ほむら)が告白した。簡略で直球、無駄がない。


 正直は美徳だ。しかし時と場合による。ウォンヌとハオティエンはポカンと目を丸め、ハッと意識を覚醒させ騒ぎ始めた。


 「……え、え!? タリア様!?」


 「……は!? タリア様、本当ですか!?」


 真偽はタリアに委ねられた。騒ぐふたりに溜息を吐き、タリアが認める。


 「冴木犀(ごもくせい)()ぎ取られてね。本当だよ、(ほむら)が奪還してくれた。褒美に私が彼に心臓をあげたんだ」


 上位神(じょういしん)の心臓も生物(なまもの)だ。腐ってしまうより誰かの、愛する者の血肉になってくれたほうが断然いい。


 「……褒美ってタリア様……、天上宝(てんじょうぽう)を……、火鬼(ひおに)に……」


 落胆の色を隠せないウォンヌは上半身をだらり、くの字に曲げた。


 「お前……孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)、タリア様の眼前(がんぜん)で、タリア様の心臓を食したのか?」


 ハオティエンの言問ひ(こととい)(ほむら)はタリアの頭部に頬を擦り付け肯定する。


 「まあね、美味しかったよ。タリアの心臓は甘い桜味だ」


 「…………」


 天上界の神々にとって、不愉快極まりない感想だ。ハオティエンは眉間に皺を刻み嫌悪感を(あら)わにした。

 

 タリアがハオティエンとウォンヌを(なだ)める。


 「あー……まあまあ、落ち着いて……」


 「落ち着いてます!!」


 「落ち着いてます!!」


 ふたり共、全然、落ち着いていない音量だ。


 「煩いな」


 「お前のせいだろ孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)!! 婚約破棄しろ!! お前はタリア様の御傍にいる資格はない!!」


 「…………」


 婚約破棄は(ほむら)に使用してはいけない禁句用語、ウォンヌの馬頭に(ほむら)が無言で片方の眉山を吊り上げた。


 「やめなさい!! ふたり共!!」


 タリアが叱り場が静まる。顔を(しか)めたウォンヌの表情は幼い。


 「……はあ。ハオティエン、五事官(ごじかん)許万官(きょばんかん)に連絡は?」


 「しています。間もなく天と地を結ぶ天光柱(てんこうちゅう)が現れるかと」


 下界(げかい)の事案、及び、人間にない四界(しかい)死屍(しし)の処理は、界事(かいじ)を担う五事官(ごじかん)と罪や(けが)れを祓う許万官(きょばんかん)の任務だ。


 「じゃあ彼らにあとは任せよう。二人共お疲れ様、ありがとう」


 樹氷村(じゅひょうむら)の事態は取り敢えず終結した。冴木犀(ごもくせい)の臨床試験、雪花(ゆきはな)は、五事官(ごじかん)の調査対象になるだろう。五事官(ごじかん)(おさ)ウリの説教と嫌味を交えた聴取が怖い。


 「タリア様は下界に? 移境扉(いけいひ)開きましょうか?」


 ハオティエンの木の棒を探す素振りに、タリアが待ったをかける。


 「いいよハオティエン、今日は天上界(じぶん)の宮殿に帰る。(ほむら)、いい?」


 天上界で傷を癒したい。共に暮らす(ほむら)の了承が必要だ。


 「もちろん、いいよ。タリアの宮殿は好きだ。タリアの香りで溢れた御帳台(みちょうだい)もね」


 (ほむら)の返事は(こころよ)かった。故意的にないタリアの色香を匂わす一言に、ウォンヌとハオティエンが赤面している。


 タリアの耳介(じかい)も無論、赤い。

 

 「……帰ろう。ハオティエン、ウォンヌ、キミ達二人も送ろう」


 タリアが能力で小さなラッパを取り出し、フッと吹いた。


 甲高い音が天に轟き、須臾(しゅゆ)に、天上界から二頭の白馬が引く白馬車(はくばしゃ)が到着する。燃え盛る車輪でぎょろぎょろ動く無数の眼はやや異質だが、彼らの活躍は上位神(じょういしん)エルのお墨付きだ。聖戦(せいせん)に欠かせない存在と常々、タリアも耳にしていた。この白馬車(はくばしゃ)の正体は翼を二枚授かりし上級三神(じょうきゅうさんしん)下位神(かいしん)だ。


 彼らは戦火の馬となって天上皇(てんじょうおう)上位神(じょういしん)を運ぶ役割を担っている。


 「さあ、みんな乗って」


 タリアが馬車の扉を開き促した。しかし武官(ぶかん)の二人、ハオティエンとウォンヌは渋っている。顔色が真っ青だ。


 「いや……え、と……」


 「あ、えー……、ああっ、タリア様! 僕達が許万官(きょばんかん)五事官(ごじかん)詳説(しょうせつ)し、えー、ああッ引継ぎ! 引継ぎをしておきます! な、なあハオティエン!」


 「あ――、ああ! タリア様、誠に申し訳ございません。折角のご厚意ですが、俺達は中央往来(ちゅうおうおうらい)()で帰還致します」


 そう告げて二人は拱手(きょうしゅ)した。(こうべ)を垂れる二人は以前白馬車(はくばしゃ)に乗車した際、上位神(じょういしん)エルの荒い運転で散々な体験をしている。思い出すだけで胸焼けがしていた。


 「……? わかった、じゃあ私達は先に失礼するね」


 タリアも無理強いはしない。二人に挨拶し、タリアは(ほむら)に抱えられたまま馬車に乗り込んだ。二頭の白馬が棹立(さおだ)ち、牡丹雪(ぼたんゆき)が舞う幻想的な夜空を駆ける。


 「タリア、寒くない?」


 「……ん、キミのお陰で暖かいよ」


 「休んでいていい」


 「ああ……」


 (ほむら)の高い体温は丁度いい。タリアは(ほむら)の胸元に体を預け、上瞼を徐々にゆっくり下げ、煌く虹彩(こうさい)を閉じたのだった。



⋈・。・。⋈・。・。⋈・。・。⋈・。・。⋈

おはようございます、白師万遊です(*^▽^*)

最後まで読んで頂きありがとうございます(*´Д`)


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次回もよろしくお願いいたします(*'▽')

⋈・。・。⋈・。・。⋈・。・。⋈・。・。⋈

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