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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第三幕~.。.:*✽桜紅の契り✽*:.。.~
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第七集:銀狼とハオティエン


 「――ハオティエンッ、僕はあっちに行く!! 誰もいなければ、お前と合流する!! いいな!?」


 「――ああ!!」


 タリアと(ほむら)、ウォンヌと別れたハオティエンは大中小の雪洞(せつどう)を覗き、人間がいないか確認して回る。六つのうち三つは生活を主軸とした部屋になっており、残る三つは

試薬ボトル、テストチューブ、ガラス漏斗(ろうと)、円錐形フラスコ、培養皿、ガラスビーカー、ガラス測定シリンダー、等々の実験器具があり、氷漬(こおりづ)けの人間の死体が数体転がっていた。


 「……何かの研究か?」


 薬品の独特な臭いが充満している。ハオティエンが実験室らしき雪洞(へや)を潜りかけた矢先、後方に禍々(まがまが)しい殺気を帯びる気配を感じ、パッと左に跳んだ。


 振り落とされた、氷で形成されている刀が、雪洞(せつどう)の入口を削った。危機一髪ハオティエンが避け、相手の空振りに終わる。


 「――()明察(めいさつ)


 「……銀狼(ぎんろう)か」


 ハオティエンの眼前(がんぜん)に現れた狼族(ろうぞく)男狼(おろう)は、尾が三本ある銀狼(ぎんろう)であった。


 狼界(ろうかい)に住まう狼族(ろうぞく)の種類は六種類ある。尻尾がくすんだ黄赤の焦香(こがれこう)(ろう)、尻尾が紫みの青い瑠璃(るり)(ろう)、尻尾が銀色の銀狼(ぎんろう)、尻尾が黒い交配種(こうはいしゅ)除狼(じょろう)、低俗な忌狼(きろう)(ひょう)が生んだ自然の渾沌(こんとん)雹狼(ひょうろう)は尻尾が金色だ。

 焦香(こがれこう)(ろう)は尻尾が一本、瑠璃(るり)(ろう)は尻尾が二本、銀郎(ぎんろう)は尻尾が三本、除狼(じょろう)は尻尾が一本から三本、忌狼(きろう)獣形(じゅうぎょう)で一本、雹狼(ひょうろう)は五本、先天的に備わった資質と後天的に獲得した経験で尻尾の数は異なってくる。


 彼らの色と尻尾は戦闘力の段位、一種の強さのバロメーターだ。

 

 「ったくよォ……、なんで天上界(てんじょうかい)神官(しんかん)がいやがる?」


 狼耳(ろうみみ)が生えた銀色のショートスタイル刈上げツーブロックの頭をガシガシ掻く男狼(おろう)は、目頭の部分が窪んだ彫の深い顔立ちで、二重瞼(ふたえまぶた)の垂れ目に銀の虹彩(こうさい)、鼻筋が高く鼻先は丸い。手入れされていない唇はひび割れていた。

 身長は190㎝はある。骨太の図体だ。服装はフードが付いた、シルバーフォックスファーのロングコートを着用している。下は黒いスキニーパンツで同色のエンジニアブーツを履いていた。チェーンベルトとデザインジップが付いていて個性的な靴だ。


 ハオティエンはじっくり男を観察し、冷静に問い直す。


 「こっちの台詞だ狼族(ろうぞく)、こんな辺鄙(へんぴ)な場所で人間の考究か?」


 「……ハッ、冴木犀(ごもくせい)様の臨床(りんしょう)試験の施設だ。知らねえで来たのかよ」


 「冴木犀(ごもくせい)!?」


 冴木犀(ごもくせい)狼界(ろうかい)厄害(やくがい)、天地に悪名轟かす三厄狼(みやくろう)のひとりだ。驚くハオティエンに男狼(おろう)は更に驚愕の事実を教えた。


 「いま、あっちの鬼を殺してる最中じゃねえの」


 「――――っ!?」


 あっちの鬼――、孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)と一緒にいるのは上位神(じょういしん)タリアだ。男狼(おろう)が真実を話しているなら、否、この状況で見え透いた嘘をつくはずがない。つまり現在、「上位神(じょういしん)タリアが冴木犀(ごもくせい)と交戦真っ只中」ということになる。緊急事態だ、のんびり駄弁っていられない。


 「オイッ、人間を凍らせて何の試験をしている!?」


 「瞬間冷凍した人間の臓器の安全性、効果的な使い方――ッだよ!!」


 突如、男狼(おろう)がハオティエンに斬りかかった。ハオティエンの抜刀は速い。氷の刀身を弾き、素早く右薙(みぎな)ぎで応戦する。


 「……っ、ハッ!」


 「――チィッ!!」


 男狼(おろう)は巨体の割に身軽だ。雪上で軽快に(かわ)し、担肩刀勢(たんけんとうせい)に構えた。幻想的な雪灯籠(ゆきどうろう)が両者を照らす。ハオティエンは軍刀(ぐんとう)(つば)をカチャリ鳴らし、口付近で水平に、防御の堅い(かすみ)の構えで男狼(おろう)を見据えた。


 「……氷の刀か」


 男狼(おろう)氷刀(ひょうとう)は反りのない直刀(ちょくとう)だ。衝撃を和らげない直刀は折れやすい。だが狼力(ろうりょく)で凝固された透明な氷刀(ひょうとう)は石の如く硬い。


 「俺の愛刀、銀雪(ぎんせつ)だ。かっけぇだろ。お前を殺す刀だ、有難く思えよ」


 「……天上界の神々は罪無き人間を殺める異界者(いかいしゃ)を許しはしない。お前こそ覚悟しろ」


 ふたりは睨み合い、一弾指(いちだんし)、同時に姿が消える。キン、キン、と数回、刀同士を激しくぶつけ火花を散らせた直後、振り被る男狼(おろう)真向(まっこう)唐竹割(からたけわ)りがハオティエンの左肩を掠めた。男狼(おろう)の太刀筋を見極め(かわ)すハオティエンは新雪(しんせつ)の表面に半円を描くよう、粉雪を舞わせながら男狼の背後に滑り回り、男狼(おろう)が振り向くと同時に(みぎ)袈裟斬(けさぎ)りで右肩を砕き、神力(しんりき)を籠めた刃先(はさき)で内臓を(えぐ)る。


 「ガハッ……!!」


 吐血した血粒(けつりゅう)が空中に飛んだ。


 「守地天無栄(しゅじてんむよう)――(まこと)(つく)す武人なれ」


 ハオティエンは間断(かんだん)なく、左袈裟斬(ひだりけさぎ)りで男狼(おろう)(はらわた)を分断し、(きっさき)右薙(みぎな)ぎに喉元を引き裂いた。怒涛に攻められ男狼(おろう)に成す術はない。


 「……ゴフッ!!」


 血潮(ちしお)男狼(おろう)のロングコートが染まった。くちゃ、と開く首は皮一枚、繋がっている。男狼(おろう)は白目を剥き、重力に逆らわず、前方にドサリ倒れた。天上界の神官(しんかん)武官(ぶかん)神兵(しんぺい)ハオティエンの勝利だ。


 ハオティエンは切先を斜め下に血振りする。


 「――――、サファ様に感謝だな」


 ハオティエンの軍刀は得物(えもの)を司る男神(おがみ)黒衣官(こくいかん)(おさ)サファに新しく鍛えてもらった新身(あらみ)だ。以前、鹿界(しかかい)緑鹿(りょくじか)万季地(まきじ)と一戦を交えた際、彼の操る(つる)刃毀(はこぼ)れしてしまい、サファに預けていた。期限の四日でしっかり受け取り早数カ月、実践での使用は今宵が初めてとなる。とても軽く扱いやすい。


 「はあ、孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)のヤツ……」


 ハオティエンは納刀(のうとう)し、太息(ふといき)を零しつつ西の空を見上げた。孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)の炎と冴木犀(ごもくせい)の氷の衝突で地面が揺れている。刹那、ハオティエンの双眼(そうがん)に色鮮やかな花々が映った。万物の心身を癒す光景は美しい。上位神(じょういしん)タリアの能力技、花過(かか)天咲(てんしょう)だ。


 「――タリア様ッ」


 人間の生存者はいない。ハオティエンがタリアの加勢に駆け出す。しかし、進行方向を塞ぐ者が出現し、一時停止を余儀なくされた。


 「ガルルルル……」


 「ワォンッ、ガルル……」


 焦香(こがれこう)瑠璃(るり)の毛並み、焦香(こがれこう)(ろう)瑠璃(るり)(ろう)変容(へんよう)した狼達だ。六匹いる。


 「ヴヴヴヴ……ッ!!」


 上唇(じょうしん)(まく)り狼の猛々(たけだけ)しい牙と歯茎(はぐき)を露出させ威嚇してきた。


 狼族(ろうぞく)の狩りの習性は知っている。

 基本的に闘いは下位(かい)、統帥者は上位(じょうい)だ。上位の指示に従い、一頭が先導を切り、群れで獲物を仕留める。ハオティエンは(つか)を握り、どの個体が上位の狼か、慎重に相手の出方を窺った。

 

 暫しの沈黙後、一斉に狼達が襲いかかってくる。


 「――――ッ!!」


 予想外の攻撃だ。ハオティエンは軍刀ではなく、神力(しんりき)を凝縮した光るエネルギー玉を数発、撃ち込んだ。


 「キャウン、キャンッ!」


 「ヴァンッ、ヴァンッ、ヴヴッ!!」

 

 「……チッ!! クソッ!!」


 三匹命中し、三匹が手足に噛み付いてきた。咬合力(こうごうりょく)は然程ないが離れない。腰を低く、全体重を乗せ、ハオティエンを引き摺ってくる。


 「ヴヴヴッ、ガヴヴヴッ!!」


 「……ッ、こん、の!!」


 狼の牙が皮膚に減り込んだ。けれど何故か、三匹の狼達はパッと、唐突にハオティエンを解放した。


 「……、……!!」


 狼耳(ろうみみ)の先端をピクピクさせている。うろうろ足踏みし、何か音を拾っている仕草だ。


 「――ウァンヴァンッ!!」


 狼達は負傷のハオティエンに止めを刺さず、(きびす)を返し場を立ち去った。狼達の背中が瞬く間に遠くなる。


 「……は」


 ハオティエンはドサリ、力尽き座った。軍衣(ぐんい)は所々穴が空き、血塗れだ。危うい場面であったものの、一応は助かった。


 「……犬笛か?」


 意図が掴めない撤退の理由は恐らく、犬笛だ。狼族(ろうぞく)の犬笛は40,000Hz(ヘルツ)の周波数で、他族(たぞく)は無論、神々にすら聞こえない。


 群れの統帥者か、冴木犀(ごもくせい)が吹いた可能性もある。


 「……痛てぇ、ウォンヌ遅いな。ひとりじゃ動けん……」

 

 ハオティエンは独り()ち、眉間に(しわ)を刻んだ。腰のベルトを抜き取り、出血箇所の酷い太腿(ふともも)、その付け根に巻いて傷口を止血し、ウォンヌの戻りを待ったのだった。




おはようございます、白師万遊です。


最後まで読んで頂きありがとうございます(*´Д`)

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次回もよろしくお願いします<(_ _)>

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