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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第三幕~.。.:*✽桜紅の契り✽*:.。.~
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第四集:武官の合流

 タリアと(ほむら)鬼界(きかい)下界(げかい)狭間(はざま)にいた。北の永久凍土の雪国、ヴェノヴァの最北、樹氷村(じゅひょうむら)に向かっている。極寒地、樹氷村(じゅひょうむら)の一月の最低気温は氷点下60℃、平均は55℃前後だ。


 徐々に空気が冷えてきた。


「ハ……、ハ……」


 天上界(てんじょうかい)育ちで寒冷に慣れてないタリアは、肺に冷気を入れぬよう呼吸に注意する。両頬(りょうほお)鼻尖(びせん)()うに赤い。


 そんなタリアを見兼ねた(ほむら)が突然、ゆるゆる縮み、四歳児に変化した。タリアの外套(がいとう)を、くいくい、引っ張ってくる。


 「タリア、抱っこして」


 「――――!?」


 服装や顔形は変わらない。ただ幼い(ほむら)途轍(とてつ)もなく愛くるしい。


 鬼界(きかい)鬼族(きぞく)は化ける能力に()けた種族だ。鬼力(きりょく)によるが、火鬼(ひおに)(ほむら)は申し分なく、老若男女、変容(へんよう)が得意だった。


 タリアはゆっくり(ほむら)を片腕に抱き抱える。


 「……温かい」


 「ハハッ、良かった」


 はにかんだ(ほむら)鬼火(おにび)も灯した。


 「……ありがとう(ほむら)


 「御褒美、よろしくね」

 

 「アハハ……、善処しよう」


 平等互恵(ごけい)だ。機転が利く(ほむら)は要領がいい。


 「――あ、雪だ」


 何時(いつ)しか春の大三角形や、春の大曲線の星座は消えている。凍雲(とううん)が上空にあった。角柱状結晶かくちゅうじょうけっしょうの雪がぱらぱら降ってくる。


 「夜叉大師(やしゃたいし)


 (ほむら)独言(どくげん)した。須臾(しゅゆ)に一体の鬼が出現する。夜叉大師(やしゃたいし)(ほむら)鬼力(きりょく)で作った、攻撃特化型の鬼だ。風で(なび)く炎の体、角は一本、両目は空洞で口は耳まで裂けている。160㎝弱の背丈で細身だ。


 夜叉大師(やしゃたいし)は背中に左手を回し、炎の紅い番傘(ばんがさ)を取り出した。華やかで幻想的だ。


 「……………」


 タリアに無言で番傘を傾けてくる。夜叉大師(やしゃたいし)がパチパチ鳴らす火花の音色は心地がいい。


 「……夜叉大師(やしゃたいし)ありがとう。キミはいい子だね」


 「…………」


 タリアが褒めた途端、夜叉大師(やしゃたいし)がスキップした。片足で二歩ずつ交互に軽く跳ねている。可愛い動作だ。


 高揚した夜叉大師(やしゃたいし)(ほむら)が怒る。実体の迫力はない。


 「タリアに賛美された、って、してない。はしゃぐな」


 「…………?」


 「まあね、タリアは俺の嫁だ」


 夜叉大師(やしゃたいし)(ほむら)は頷き合い、見解の相違を埋めたようだ。意思の疎通を図れる(ほむら)が羨ましい。タリアは珍紛漢(ちんぷんかん)で、ふたりの会話に小首を傾げていた。


 次第に積雪量が増してくる。雪化粧の世界は寒気凛冽(かんきりんれつ)だ、万物も息を潜めていた。けれど冬立木(ふゆこだち)に積もった雪、雪の(ねば)りがなせる(ごう)冠雪(かむりゆき)雪紐(ゆきひも)は見事で面白い。雪持(ゆきもち)()(かく)、気品があって綺麗だ。


 霏霏(ひひ)花弁雪(はなびらゆき)が舞う。


 そこに靴裏でザッと衾雪(ふすまゆき)を削る足音が背後でし、タリアは振り返った。


 「こんばんは。君達は、ウリが応援にくれた護衛かな?」


 「――――」


 ふたりの男神(おがみ)拱手(きょうしゅ)している。

 

 どちらも天上界、武官(ぶかん)の制服規定だ。チェッコ式の黒軍帽(こくぐんぼう)を被り黒軍衣(こくぐんい)を着用している。袖口(そでぐち)の折り返しとズボンサイドは黄色の(ふち)で囲まれており、左の(すそ)脇裂(サイドベンツ)剣留(けんどめ)があった。仕立てられた(えり)は高い、黄色の襟章(えりしょう)、銀色の肩章(けんしょう)はモール編みタイプだ。

 そして両者共、黒軍衣(こくぐんい)の上に、ウールとポリエステル素材の黒いミニタリーコートを羽織っている。下界が冬期の際に(まと)う、武官(ぶかん)の防寒着だ。ハイネックデザインのスロートラッチで首元は防寒防風に優れている。十二のダブルボタンは全部留めてあった。

 下衣(かい)は黒い短袴(たんこ)に同色の長靴(ちょうか)だ。所謂(いわゆる)、乗馬ズボンに乗馬ブーツを履いている。


 軍帽(ぐんぼう)の鉢巻と天井部のパイピングは黄色だ。軍刀(ぐんとう)(つか)黒漆(こくしつ)の塗られた鮫皮(さめがわ)に黄色の柄糸(つかいと)が巻かれてある。(さや)も黒漆塗りで(つば)は装飾のない丸型だ。軍刀は上衣(じょうい)の下に刀帯(とうだ)を締め、上衣の脇裂(サイドベンツ)から覗かせて使用する。刀帯(とうだ)の色も黄色で統一されてあった。


 武官(ぶかん)は武器携帯を定められた官職、軍事に(たずさ)わる官吏(かんり)だ。主に天上界の外城(がいじょう)巡視(じゅんし)上級三神(じょうきゅうさんしん)の護衛、(けん)、補佐役の役目がある。


 ――加えて下界で発生した事案も武官(ぶかん)管轄(かんかつ)だ。


 彼らは界事(かいじ)を担う五事官(ごじかん)の要請を受け任務を全うする。地上で事件に遭遇した神々と連携する場合が多く、今回は見目麗しい三美神(さんびしん)タリアの侍衛の課役(かえき)、と言うこともあって、同行したい神は数多(あまた)にいた。


 神兵(しんぺい)二人は高倍率を勝ち抜き、ここにいる。


 「……ああ、いいよ許可しよう」


 タリアの許与(きょよ)でふたりは口を開いた。


 「ご無沙汰しております、タリア様」


 「ウリ様の命に従い、馳せ参じました」


 「ありがとう、久しぶりだね二人共。寒いところに呼び出してすまない」

 

 タリアは二人と面識がある。彼らは中級三神(ちゅうきゅうさんしん)神官(しんかん)武官(ぶかん)神兵(しんぺい)、ハオティエンとウォンヌだ。


 「いえ、俺は平気です。お心遣い痛み入ります」


 ハオティエンが冷静な低声(ていせい)で、タリアがする下神(かしん)への謝罪に斟酌(しんしゃく)した。ハオティエンは、長髪の黒髪を頭部の高い位置でひとつに束ねている。筋の通った鼻背(びはい)に小さな鼻翼(びよく)、小顔ですっきりとしたしょうゆ顔は精悍(せいかん)だ。虹彩(こうさい)と長い睫毛は黒、左目の魚尾(ぎょび)黒子(ほくろ)があった。身長は190㎝ある。


 「僕も平気です。殺菌やウイルスがいないですし」


 ウォンヌがハオティエンに同調した。平気、の理由は確実に違う。ウォンヌは身長が185㎝、金色の瞳で二重瞼(ふたえまぶた)、平行眉に鼻筋の通った高い鼻、容貌(ようぼう)は人形の(ごと)く繊細で可憐だ。

 両耳たぶに横五センチ、縦ニ十センチの神札(しんさつ)のピアスをぶら下げている。髪型は前髪を眉上で、後ろ髪は(あご)のラインで切り揃え、毛先を無造作に遊ばせていた。束感がある金髪のブラントカットだ。

 ウォンヌは潔癖症の男神(おがみ)で両手に黒いラム革の手袋をしている。黒いシンプルなデザインのクリアゴーグルを首元にかけていた。


 「それよりタリア様――」


 ハオティエンが間を置き、一点を指差し聞いてくる。


 「その子供は……、まさか孤魅恐純(こみきょうじゅん)ですか?」


 「ああ、うん。(ほむら)だ」


 タリアが肯定した。低年齢の(ほむら)はタリアに(もた)れ掛かり、大人しく抱えられている。だが鋭い眼光は(まぎ)れもない、孤魅恐純(こみきょうじゅん)であった。


 ウォンヌが額に青筋を張り、(ほむら)に食ってかかる。


 「孤魅恐純(こみきょうじゅん)! お前良い身分だな!? タリア様に迷惑かけるな!!」


 「ハッ、迷惑ね。弱者は迷惑じゃないのか?」


 意地悪な問い直しだ。(ほむら)は鼻で笑い、ウォンヌを睥睨(へいげい)した。


 「な……ッ、僕は弱者じゃない!!」


 「じゃあ弱虫」


 「弱虫じゃないッ!! こんのクソガキ!!」


 ウォンヌが軍刀の鵐目(しとどめ)に触れる。これ以上、喧嘩を白熱させてはいけない。


 「やめないか二人共!!」


 タリアが(ほむら)とウォンヌを叱った。ハオティエンが溜息交じりに訊ねる。


 「はあ……ソイツ、孤魅恐純(こみきょうじゅん)も一緒に?」


 「ああ。(ほむら)は私の監視下にある。一緒だと私は有難い」


 (ほむら)の監視は天上皇(てんじょうおう)に課されたタリアの新しい使命だ。愛、情け、罪、を学ばせなければならない。


 「一緒だよ、タリアと一緒に行くためにいる。(いち)は察しが悪い」


 タリアに継いで(ほむら)が答えた。語尾の辛辣(しんらつ)な嫌味は意図的だ。


 ――(ほむら)、ウォンヌ、ハオティエン、この三人は犬猿の仲で(いさか)いが絶えない。

 

 「……殺されたか火鬼(ひおに)


 案の定の展開になる。ハオティエンが軍刀の(つか)を握った。


 「(いち)()も、威勢だけ(・・)はいい」


 「……(たた)っ斬る!!」


 「……ぶった斬る!!」


 (ほむら)に煽られ、ウォンヌとハオティエンが同時に抜刀する。刀身の刃が光った。(ほむら)は二人が剥き出しにする威圧に動じていない。むしろ表情は愉悦(ゆえつ)に満ちている。


 「落ち着きなさい二人共……! ほら(ほむら)も二人を虐めないでくれ」


 タリアは二人を(なだ)め、(ほむら)の頭部に手を添えて自分の胸元にぽすっと収めた。


 「タリア様ッ、孤魅恐純(こみきょうじゅん)を甘やかさないで下さい!!」


 「そうですタリア様ッ! 図に乗ります!!」


 「はあ……、いまは子供だ。厳しく(とが)めないであげて」


 忠諫(ちゅうかん)するウォンヌとハオティエンの意見は尤もだ。しかし現状、こうでもしない限り収拾がつかない。


 刹那(せつな)(ほむら)が独り()ちる。


 「本当、大人げない」


 「……どいて下さいタリア様!!」


 「……微塵切(みじんぎ)りにしてやる孤魅恐純(こみきょうじゅん)!!」


 三人の争いは(もと)木阿弥(もくあみ)になったのだった。


最後まで読んで頂きありがとうございます(*´Д`)


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また次回もよろしくお願いします<(_ _)>

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