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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第三幕~.。.:*✽桜紅の契り✽*:.。.~
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第三集:火鬼と五事官

 

 鬼界(きかい)の東、東月湖(とうげつこ)にて、奇奇怪怪(ききかいかい)な案件が発生する。

 ――人間の男が突然、凍結し雪の結晶となって(くだ)けた。


 上位神(じょういしん)タリアは男神(おがみ)だ。神々は天上皇(てんじょうおう)が愛する人間の命を摘み取った罪人に制裁を科す務めがある。


 「――ベンヌ」


 タリアは金色と赤で彩られた羽毛を持つ天上界(てんじょうかい)の火の鳥、不死鳥、ベンヌを解き放った。下界(げかい)の通り名は鳳凰(ほうおう)で、体高は(およ)そ二メートル、体重は二百キログラム前後ある。小雨覆(しょうあまおおい)中雨覆(ちゅうあまおおい)大雨覆(おおあまおおい)小翼羽(しょうよくう)はやや濃く、初列雨覆(しょれつあまおおい)初列風切(しょれつかざきり)次列風切(じれつかざきり)三列風切(さんれつかざきり)はやや薄い、羽根の濃淡法(のうたんほう)は神秘的で美しい。


 ベンヌの先天的な性質は人懐っこく基本の気質は穏やかだ。因みに性別はない。輪っかになった数メートルある尾をゆらゆら揺らしていた。

 

 (ほむら)は臆せずベンヌに近付き(くちばし)を撫でる。


 「タリアの友達か」


 「ああ、ウリに言伝を届けてもらう」


 五事官(ごじかん)(おさ)ウリは中級三神(ちゅうきゅうさんしん)神官(しんかん)界事(かいじ)を司る男神(おがみ)だ。

 鬼界(きかい)狐界(こかい)狼界(ろうかい)鹿界(しかかい)下界(げかい)五界(ごかい)界事(かいじ)を担い、神々は五界(ごかい)で生じた猟奇(りょうき)事件や怪奇(かいき)事件に遭遇、又は累が及んだ場合、何らかの方法で彼に報告、救助要請を行う義務付けがされてあった。


 タリアはベンヌの脚に手紙を(くく)りつける。


 「……じゃあベンヌ、よろしくね」


 「フィ――、ヒョロロロロロォオ」

 

 聖なる鳥ベンヌが天に昇った。金や赤の煌きが夜空に陽性残像(ようせいざんぞう)(にじ)ませている。ベンヌは神鳥(しんちょう)だ。清らかな鱗粉(りんぷん)(じゃ)を祓い、空気が浄化された。


 「さて、行こうか」


 歩き出すタリアを一旦、(ほむら)が制止させる。


 「タリア、俺が先頭だよ」


 「……ありがとう」


 人間の男が飛び出して来た(こけ)が生い茂る森に道はない。(ほむら)が先導してくれた。


 鬱蒼(うっそう)繁茂(はんも)する枝葉(えだは)鬼界(きかい)に到着した際、高貴に香る春を体感させてくれた芍薬(シャクヤク)の花畑はない。剥き出しの根は立派だ、地球の息吹きが窺える。


 「コホッ、……」


 タリアは天上界では味わえない、緑の匂いに()せ返った。濃厚なフィトンチッド、樹木が発散する化学物質は、決して臭くはない。


 「タリア、大丈夫?」


 「ああ、すまない。大丈夫だよ」


 静寂な空間に二人の会話が一言一句、鮮明に響き渡る。森閑(しんかん)を恐れない(ほむら)とタリアは休憩せず、落ち葉が積った土を踏み、月光浴びる木々を潜っていった。


 男の痕跡は辿り易い。乱暴に折られてある枝、人間に限った足跡が目印だ。


 「――あ、タリア結界がある」


 暫くして(ほむら)が立ち止った。二つの木に(ふだ)が貼られてある。茶色く色褪せた札は所々、破けている、かなり古い。胡坐(あぐら)を掻いた鬼が描かれてある。


 タリアはジッと古札(ふるふだ)を観察した。


 「……鬼札(きふだ)か?」


 迷誘(めいゆう)鬼札(きふだ)に似てなくもない。タリアの零す独言(どくげん)に、覗き込んだ(ほむら)が答える。


 「ん? ああ、鬼札(きふだ)だ。数世紀前のかな、いまの鬼札(きふだ)じゃないね」


 鬼界(きかい)鬼族(きぞく)(ほむら)の情報は有難い。迷誘(めいゆう)(ふだ)――邪札(じゃふだ)は、四界(しかい)下界(げかい)接合(せつごう)する札で、四界同士を繋ぐ禁界道(きんかいどう)とは別だ。


 「つまり男が逃げて来た北のじゅひょう村は下界か……、狼界(ろうかい)じゃない」


 タリアはひとつの結論を導出(どうしゅつ)した。死んだ男に必ず狼族(ろうぞく)は関わっている。下界の北で何か、誰かが、惹起(じゃっき)しているのかもしれない。

 

 タリアが黙考していた矢先、ジジジジと奇妙な機械音が鳴り始める。一部の風景が振動し磁界(じかい)が安定した数秒後、ホログラム化する、ひとりの男神(おがみ)が実寸大で出現した。


 ――五事官(ごじかん)(おさ)、ウリだ。

 立体映像は彼の能力、届伝力かいでんりきである。

 届伝力(かいでんりき)五界(ごかい)で任務に従事する神々と通信が可能だ。タリアも常日頃、ウリの能力にお世話になっていた。


 ウリは亜麻色(あまいろ)のロング丈、長袍(チャンパオ)を着ている。五事官(ごじかん)の服装規定だ。両サイドに入ったスリッド、ロング丈で幅の柔らかい袖口(そでぐち)、立ち(えり)白襟(しろえり)との二重襟で、袖は折り返しカフス白袖になっている。三つ葉のチャイナボタンは金色だ。褌衣(ずぼん)は白、花柄が刺繍された布製の靴はつま先に丸みがある。

 

 背丈は178㎝、容貌(ようぼう)は可愛い。

 髪型は前髪を眉の上で切り揃え、後ろは首の辺りで揃えていた。要は金髪のおかっぱ頭だ。虹彩(こうさい)、睫毛も金色で、二重瞼(ふたえまぶた)は彫が深い。目元に沈殿(ちんでん)した(くま)が印象的だ。

 両耳に横五センチ、縦ニ十センチの神札(しんさつ)のピアスをぶら下げている。天上界の風で若干、左右に踊っていた。


 ウリが無言で拱手(きょうしゅ)する。


 「…………」


 天上皇に一番近しい神聖な上位神(じょういしん)に、下神(かしん)は直接の接触及び対話は許されない。許可が必要だった。


 天上界の掟をしっかり守るウリにタリアは微笑んだ。


 「いいよウリ、容認する」


 「こんばんはタリア殿、ベンヌ殿の言伝、拝読しました。……小無沙汰しております、アナタも(・・・・)いたんですね」


 ウリはタリアに(こうべ)()れた。そしてタリアの横で双眼(そうがん)に殺気を宿す人物、(ほむら)に目線をずらし、冷ややかな挨拶をする。


 「ハッ、二乗(にじょう)って老視なの? 気の毒に」


 ウリの強調した箇所を、見下(みおろ)(ほむら)が鼻で笑った。二人は仲が悪い。


 「やめなさい二人共。(ほむら)、彼は二乗(にじょう)じゃないウリだ」


 「二乗(にじょう)で充分だ」


 タリアが訂正するが(ほむら)呼称(こしょう)を改めない。

 

 「はあ……、すまないウリ」


 代理で謝ったタリアにウリが片手を上げる。


 「いえタリア殿、お気になさらず。僕こそ申し訳ございません」


 ウリはタリアを気遣った(のち)、簡潔に謝罪し、言葉を継いだ。


 「北の樹氷村(じゅひょうむら)、調べました」


 ――早速、本題に入った。


 五事官(ごじかん)は忙しい。タリアも成る丈、急いで用件を済ませる。


 「ありがとう。私もいま四界(しかい)じゃなく、下界の北にあるとわかったんだ。どんな村だった?」


 「下界で最も寒い、永久凍土の雪国、ヴェノヴァ、人口は約30万となっています。樹氷村(じゅひょうむら)はヴェノヴァの北、最奥にありました。一月の最低気温は、えー……ああ、マイナス60℃となっています」


 「……マイナス60℃」


 想像ですでに身が凍った。背筋が震える。タリアは数千年の人生で氷点下を体験した試しがない。


 「…………」


 詳説(しょうせつ)の途中でウリが眉間に皺を刻み、口を噤んだ。


 「……ん? どうしたんだウリ? ウリ?」


 促すタリアにウリは一呼吸置き、目頭を押さえつつ告げる。声音は凛としていた。


 「――、樹氷村(じゅひょうむら)は現在、廃村(はいそん)です。数十年、誰も住んでおりません」

 

 「……誰も?」


 聞き直すタリアにウリはきっぱり断言する。


 「はい、誰も」


 金色の瞳は一切、ぶれない。ウリは信頼するに足る五事官(ごじかん)だ。タリアも疑ってはいない。


 人間の男は確かに最期、「北の、じゅひょ、う村」と言った。耳にまだ彼の声が残っている。けれどウリの調査では、樹氷村(じゅひょうむら)は存在しない。


 やはり状況の確認に向かうしかない。


 「ありがとうウリ、私は(ほむら)樹氷村(じゅひょうむら)(おもむ)くよ」


 「はい。承知しております。タリア殿の言伝(ことづて)狼族(ろうぞく)、と書かれてありましたので、そちらに武官(ぶかん)を送っております」


 ウリはタリアの行動を見越し、応援を手配していた。流石(さすが)五事官(ごじかん)を束ねる(おさ)、臨機応変な対応力だ。


 「……武官(ぶかん)? いらない、タリアと二人がいい」


 しかし案の定、(ほむら)が怪訝な顔で拒否する。(ほむら)は武官が大嫌いだった。

 

 「鬼族(きぞく)のアナタの命令に僕が従う意義はありません」


 「……チッ」


 露骨な(ほむら)の舌打ちにウリの蟀谷(こめかみ)怒筋(どすじ)が浮かんだ。


 「……タリア殿、孤魅恐純(こみきょうじゅん)は無作法です。気高い上位神(じょういしん)のアナタに相応しいと思えません。婚約の破棄はなさらないんですか?」


 ウリが(ほむら)の地雷に爆弾を投げつける。解消、破棄、は(ほむら)に使用してはいけない禁句用語だ。タリアが焦って(ほむら)の胸元にしがみ付いた。


 「ちょ、ウリ!! だめだ(ほむら)、落ち着いて!!」


 「……殺す」


 (ほむら)が灼熱の火の玉をウリに投擲(とうてき)する。無論、立体映像のウリに攻撃は命中しない。


 「ああっ、やめて(ほむら)!!」


 煌々(こうこう)と一帯が炎上した。(ほむら)は怒りのまま第二発を繰り出し、周囲が燃え盛る。五分後に鎮火したものの、周辺は焼け野原と化していたのだった。

 


最後まで読んで頂きありがとうございます(*´Д`)


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次回もよろしくお願いします<(_ _)>

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