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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第三幕~.。.:*✽桜紅の契り✽*:.。.~
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第一集:愛し方

※キスシーンがあります※

 

 おせち料理やお屠蘇(とそ)年糕(ねんこう)、雑煮、柚子、年年有魚(ネンネンヨウユー)餃子(ヂャオズ)で新年を祝い、年が明け、睦月(むつき)も半ばだ。

 村は冬の装いで一面、雪化粧で冬木立(ふゆこだち)だった。下界(げかい)の冬季は物寂しさがある。


 「ふう……、疲れたな」


 ――(うま)(こく)正刻(せいこく)


 上位神(じょういしん)タリアは()の先端に取り付けられたスプーン状の幅広の刃、円匙(えんし)で雪かきを行っていた。下界の暮らしは中々に大変だ。人間は各々の知識で編み出す生活の知恵があり、心豊かに自然界の法則に逆らわず、大きな循環の中で調和し生きている。


 「人間は素晴らしいよ、父上」


 上位神(じょういしん)タリアは人間ではない。天地、宇宙、万物を創造した天上皇(てんじょうおう)が創りし最後の男神(おがみ)で、豊かさと開花を(つかさど)天上界(てんじょうかい)の神だ。一方でカリスの一柱(ひとばしら)、美と優雅も司っている。魅力、美貌、創造力に溢れており、神々が崇拝(すうはい)する容貌(ようぼう)は天界随一と名高い。


 ぱっちりとした二重瞼(ふたえまぶた)で上向きの長い睫毛、世界を映す虹彩(こうさい)は淡い桜色だ。鼻筋が通る鼻は高く小鼻は小さい。水分を含んだ縦横比(アスペクト)の1:3の唇にシャープな(あご)、しっとりとした滑らかな肌、細い首筋にすらりと伸びる手足、(くび)れた腰は細く、十八歳前後の外観年齢だ。

 

 黄金比に()()まる儚さを備えた顔立ちは天地の誰をも虜にしていた。


 前髪と後ろ髪が同じ長さの長い桜色の髪は、一本一本艶があり瑞々(みずみず)しい。(ほむら)に貰った髪飾りの一種、水晶や桜が可憐なホワイトとピンクゴールドのヘッドドレスを、頭部のやや前方に付けている。自由自在に曲げられる仕様で扱いやすい。


 普段着は撫子色(なでしこいろ)深衣(しんい)だ。(おくみ)の先を腰に巻き付けて着るワンピース型で、(ころも)()が繋がっている。体を全体的に覆う、ゆったりした一部式の衣服だ。

 上衣(じょうい)は比較的ぴったりと引き締め、下半身の()は緩やかに、ローズゴールド(ふち)のスリットは開けず、三角形に形作る長い(えり)を背中に回し、ローズゴールドの絹の帯できっちり締めていた。袖口(そでぐち)にあしらわれた桜や桜の花びらの刺繍は金糸だが華美(かび)すぎない。繊細で上品に散らばっている。靴は白い革靴のブーツで、(かかと)に届く(すそ)を踏んで(つまづ)かぬよう、前部(ぜんぶ)が跳ね上がった形だ。


 そして深衣(しんい)の上に、マント型で袖無(そでな)しの外套(がいとう)を肩に羽織っていた。冬季の対策のひとつだ。首元で固定する紐の先端のぽんぽんが愛らしい。色は桜色だ、外套(がいとう)(ふち)のラビットファーはフードにも付いている。

 両手の桜刺繍が可愛い白いムートンの手袋は、鬼界(きかい)凛活街(りんかつがい)(ほむら)が選び買ってくれた。


 ふと、紅い影が地上に落ちる。


 「――タリア、こっちは終わったよ」


 鬼界(きかい)に住まう鬼族(きぞく)、天地に悪名を轟かす三災鬼(さんさいき)のひとり、火山が生んだ火鬼(ひおに)孤魅恐純(こみきょうじゅん)――(ほむら)だ。藁葺屋根(わらぶきやね)に積もった雪を下ろしてくれていた。(ほむら)は現在、紆余曲折(うよきょくせつ)を経て、タリアと一緒に住んでいる。タリアの恋人()つ婚約者であった。


 (ほむら)の服装は騎士服だ。赤銅色(しゃくどういろ)のチェスターコートを基調とした上着を纏っている。

 

 肩にショルダーストラップのエポレット、腰に紅いベルト、幅広い金のボタンが付く袖口(そでぐち)は折り返されたデザインだ。服の裏地は白で(ふち)の線と飾緒(しょくしょ)は金色、ウエスト部分は狭く全体的にタイトな作りになっている。乗馬ズボンは丈長のコートで隠れているが上着と同色だ、足はオーナメント柄のグリーブを付け黒いロングブーツを履いていた。


 腰に差す刀は鬼灯丸(ほおずきまる)だ。(つか)鮫皮(さめがわ)を巻き付けた上に黒漆(こくしつ)を塗り、平織(ひらお)りの紅糸(こうし)平巻(ひらまき)に締めてある。紅葉(もみじ)目貫(めぬき)朱殷(しゅあん)(さや)、刀身は火鬼(ひおに)の能力で形成された炎だ。抜刀された際に拝める。

 

 (あか)外套(がいとう)は、タリアと同一の形状だ。上位神(じょういしん)エルの贈り物でタリアとお揃いだった。


 (ほむら)は見目麗しい上位神(じょういしん)タリアの隣に並んで立てるほどに、眉目秀麗(びもくしゅうれい)だ。上下長い睫毛や瞳は朱色(しゅいろ)で、筋が通った鼻は高い。目鼻立ちは濃く、小顔で輪郭はすっきりしている。潤んだ唇は色気があり肌は上質、二十歳前後の外見年齢、洗練された外形に欠点はない。

 朱色の長髪は後頭部で束ねられていた。海老色(えびいろ)鬼角(おにづの)が二本、頭部に生えている。


 二人の左耳に吊るされた朱と桜色が織り交ざる菊結(きくむす)びのロングタッセルは、天上皇(てんじょうおう)(たまわ)った、タリアが(ほむら)に嫁ぐ前約の証だ。三百年、外れない。


 「――お疲れ様。ありがとう(ほむら)


 「寒いでしょ、タリア」


 (ほむら)はタリアが薦めた牛革素材の黒い手袋につく粉雪を適当に掃い、タリアの頭上を彩る粉雪を優しい手つきで取り除いた。


 「まあ、冬の寒さを楽しむよ」


 天上界は春気候だ。極寒を味わえる機会はない。


 「今日は鍋にする?」


 「鍋……!! いいな!!」


 鍋は冬期の醍醐味(だいごみ)だ。旬の味覚が凝縮された鍋は()(かく)、美味しい。


 「ハッ、タリアは食べるのが好きだね」


 「食は文化、食は命の(みなもと)、大切だ」


 下界(げかい)の伝統や習慣を神々は把握し、尊重し、保護していく使命がある。


 「一理ある」


 (うなづ)(ほむら)がタリアの首裏に左手を添え、頭をぐっと引き寄せた。


 「わ……、ん……」


 タリアは突然、(ほむら)に口づけされる。互いに唇が冷たい。


 「……ぅん……」


 けれどタリアの下唇(かしん)(ついば)み、(ほむら)が捻じ込んだ舌先は熱かった。タリアは焔に、ゆっくり丁寧に口腔(こうくう)を掻き回され、蹂躙(じゅうりん)される。


 「ん……ぁ……、んん……っ」


 じっくり甘やかす性急にないキスだ。(ほむら)の手の平に力が加わり、タリアは爪先立ちになった。(ほむら)の体重を口で受け止めている状態だ。


 「……んんっ!」


 深くなった口づけに、タリアの背筋がぞくぞく震える。息苦しいタリアが、(ほむら)の胸元を叩いた。


 「んぅ、待っ……」


 離してほしいが離してくれない。


 「んんっ……ン……」


 思考を溶かされる。二人の混ざり合う唾液をタリアは止む無く嚥下(えんげ)した。喉が動く様子に満足した(ほむら)がようやくタリアを解放する。


 「ハッ……」


 相変わらず、(ほむら)の呼吸に乱れはない。


 「……加減してくれ(ほむら)……」


 「俺の命の(みなもと)はタリアだ、無理だね」


 (ほむら)はきっぱり断言しタリアの目元にキスをした。


 「……外はだめだ。村人が来る。冷や冷やした……」


 婚姻する間柄だが、流石(さすが)に人前は恥ずかしい。


 「家の中に入る?」


 劣情(れつじょう)を孕んだ双眼(そうがん)に見下ろされる。


 「…………っ」


 言外(げんがい)に匂わされた意味を察するタリアは息を呑んだ。


 「……したい」


 (ほむら)が直接的な物言いをした。


 村人の懇願(こんがん)で予行練習の祝言を挙げ、予行練習の初夜を迎え、二人の関係は一歩、前に進んでいる。タリアは純潔を失った尊い闇夜(やみよ)の体験に悔いはない。

 しかしその日を(さかい)に、昼夜を問わず(ほむら)に求められ、タリアは抱かれていた。(ほむら)の体力は底が知れない。一度行為が始まれば数時間は激しい愛をぶつけられる。


 タリアは毎回、強い快楽に気絶を余儀なくされていた。悩ましい問題だ。


 「……今日はだめだ。キミと鍋料理を作る、失神したくない」


 「失神させない」


 「……してしまう。自信がない」


 「ああ、気持ち良くて?」


 「……っ、(ほむら)!!」


 墓穴を掘ってしまい、タリアは含羞(がんしゅう)一喝(いっかつ)する。


 「ごめんタリア、不適切だった謝るよ」


 (ほむら)は謝罪しつつタリアを抱き締め、訥々(とつとつ)と言葉を継いだ。


 「……はあ。殺す以外の悦楽(えつらく)をタリアで覚えた。俺の愛し方は(にご)っているね」


 自然が生んだ渾沌(こんとん)()み嫌う者は多い。(ほむら)は不確かな愛を信じず、殺戮(さつりく)に身を投じ数百年、醜悪(しゅうあく)の、悽惨(せいさん)な、奸凶(かんきょう)、自分で築いた死屍累々(ししるいるい)たる禍々(まがまが)しい山に君臨していた。

 

 ――(ほむら)は純粋でない生粋の悪の人生を歩んできている。


 「タリアに注ぐ愛は執着や嫉妬、束縛に満ちてる。俺が怖い?」


 「怖くない。キミの愛は素直だ。私に安心をくれる。愛し方に正解はない。ただ(ほむら)に愛されている私が正解と言えば正解になる。愛し方の正解は他にない、二人だけの間にあるんだ。そう思わないか?」


 誠実で時に意地悪な、着飾っていない、有りのままの(ほむら)がタリアは好きだ。


 「……思う。思う、ありがとう。はあ、敵わないなタリアに」


 「……私はキミに負けっぱなしだ」


 「じゃあ、お互い様だね」


 氷の結晶が光を乱反射させ、空気中で煌き舞っている。額を擦り付け、微笑み合う二人を、六角形の雪の花がそっと見守っていたのだった。


最後まで読んで頂きありがとうございます(*´Д`)

今日から三章です。よろしくお願いいたします。


感想、評価、レビュー、ブクマ、フォロー等々、頂けると更新の励みになります!

また次回もよろしくお願いします<(_ _)>

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