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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第二幕:~.。.:*✽桜紅の結び✽*:.。.~
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第二十六集:鬼火が灯る花嫁行列

※キスシーンがあります※


 (いぬ)(こく)正刻(せいこく)――、青い月夜が地上を見守っている。


 「そろそろか?」


 「おお、あっちだあっち」


 「お……、来たぞ!!」

 

 村人達はぶら提灯(ちょうちん)を片手に、田んぼ道の中央付近で(すみ)に寄り、並んで立っていた。彼らが視線を送る先で刹那(せつな)、ぽつん、ぽつん、と二つずつ、闇を食らいし禍々(まがまが)しい鬼火(おにび)(とも)り始める。


 村人達は驚かない。むしろ「おお」と小声で感嘆の声を上げていた。


 神楽鈴(かぐらすず)(こと)調(しら)べが一帯に響き渡る。すべての(けが)れが(はら)われ、鬼火(おにび)(にご)りも消えた。澄んだ鬼火(おにび)は朱色の透明度が増し、妖しくも美しく揺らめいている。


 鈴の音に合わせ、ふたつの紅い影が近づいてきた。


 「――桜道士様(さくらどうしさま)、なんて見目麗しい!」


 「――鬼の兄ちゃんもかっこいいな!」


 黒影(こくえい)の正体は天上界の上位神(じょういしん)タリアと鬼界(きかい)火鬼(ひおに)孤魅恐純(こみきょうじゅん)だ。タリアは(ほむら)の左手に右手を添え、歩いている。

 (ほむら)鬼力(きりょく)で作った夜叉大師(やしゃたいし)が、タリアの左後ろで朱傘(しゅがさ)を掲げており、更に後方に火の犬が数匹連なっていた。()わば火鬼流(ひおにりゅう)の花嫁行列だ。


 幻想的で煌びやかな火の粉が闇夜に映えている。

 

 タリアと(ほむら)鬼界(きかい)の伝統的な龍鳳服(ロン フォン フー)と呼ばれている紅い婚儀衣裳を身に(まと)っていた。タリアの花嫁衣裳の(がら)牡丹(ぼたん)祥雲(しょううん)、桜だ。頭に紅蓋頭(ホンガイトゥ)を被っている。長い(すそ)で靴は見えない。(ほむら)は竜と鬼、火の柄の花婿衣装だ。黒い靴は厚底で高い。タリアと(ほむら)、双方の(えり)は黒い毛皮の宝石と名高いミンクで暖かく仕立てられていて、衣裳に繰り広げられる織り、染め、刺繍等の技法は圧巻の一言に尽き、光沢が宿った絹に(ほどこ)されている繊細な鳳凰(ほうおう)刺繍は特に贅沢で、絢爛豪華(けんらんごうか)な装いであった。


 ――二人の婚姻は三百年後の予定だ。


 しかし百年と生きれない村人達のため、今宵、二人は予行練習の祝言を挙げる。


 「桜道士様(さくらどうしさま)ッ、おめでとうございます!」


 「鬼のお兄ちゃん! おめでとー!」


 「よっ、ご両人!」


 「グス……、おめでとう!!」


 魔女のりんごを食べ命が危うかったユアンや、タリアの準備に付き合ってくれたユアンの母親、日頃お世話になっている村人達が慶祝(けいしゅく)してくれた。


 二人は田んぼ道を抜け、お披露目が終了し、藁葺屋根(わらぶきやね)の家に終着する。

 家は透かし彫りの紅い紙提灯(かみちょうちん)(いく)つも飾られていて、淡い光がじんわり滲んでいた。鬼界(きかい)の習わしで玄関、外装、すべてが(ホン)一色だ。門出を祝う意味があるらしい。

 

 ちらほら舞う初雪の白と、吉兆を表した赤が見事に調和している。


 「お前達は外で待機しろ、タリア」


 指示に従う火の化身達は賢い。


 「……ああ」


 (ほむら)に促され、タリアは中に入った。普段と異なる床、壁、机、椅子、食器――、一面が赤で統一された部屋は婚礼の()になっている。囲炉裏(いろり)は木の(ふた)で閉められていた。


 「こっちに」


 「ありがとう焔」


 タリアは真ん中にある側面と脚の装飾が凝ったダマスク柄の紅い椅子に座る。ブレード装飾の金色のタッセルで高級感があった。布地も手触りが良い。


 婚儀は新郎新婦の二人で(おごそ)かに()(おこな)う。進行を務めるのはユアンの母親と村人の女性陣、四人だ。白い直裾袍(ちょくきょほう)で正装していた。四人は揃って低頭(ていとう)する。


 「――謹んでお祝い申し上げます。紅布(こうふ)をお取り下さい」


 「…………」


 白い椿の花束で装う竿(さお)をユアンの母親に渡された(ほむら)竿(それ)を使い、タリアが頭に被っている紅布(こうふ)紅蓋頭(ホンガイトゥ)を慎重な動作で(めく)り上げた。


 白粉(おしろい)で透明感ある肌、長い上下の睫毛、(べに)をさした(つや)やかな唇、魅力と儚さを増幅させる化粧をしたタリアは花嫁衣裳に劣らない輝きを放っている。桜色の長髪は頭上で束ねていた。金と赤のフリンジ(かんざし)や桜柄のティアラ、七点が髪に挿してある。

 

 再び四人が(こうべ)を垂れた。


 「――万福(ばんぷく)であられますよう」


 「――子宝に恵まれますよう」


 「――末永い(きずな)になりますよう」


 「――萬事如意(ばんじにょい)であらせますよう」


 四人の祝辞(しゅくじ)でタリアと(ほむら)は両手を握り合い、(ほむら)がタリアの隣に()する。(ほむら)はタリアに釘付けだ。


 四人の女性は次の段階に移った。ユアンの母親が用意されてある漆塗(うるしぬ)りの赤い茶碗を持ち、タリアの正面で会釈した後、菓子を紅い箸で摘まんだ。


 「桜道士様(さくらどうしさま)、お召し上がり下さい」


 タリアは一口、食べる。


 「ありがとうございます」


 彼女は茶碗を変えず、(ほむら)に同じ菓子を勧めた。


 「お召し上がり下さい」


 「ああ」


 (ほむら)も一口、食べる。

 

 女性は茶碗を元の位置に戻した。他の三人に目配せする。速やかに全員が横一列に整列した。


 「――前途洋々(ぜんとようよう)であられますよう祈願し」


 「――異体同心(いたいどうしん)であられますよう祈願し」


 「――お二人のご盛運(せいうん)を祈念致します」


 「――お二人の海誓山盟(かせいさんめい)を祝福致します」

 

 四人の言祝(ことほ)ぐで(つづが)なく婚儀が終わる。彼女達はタリアと(ほむら)拱手(きょうしゅ)し、背を向けずそのままの姿勢で足音を極力抑えて下がり、家を出た。残されるタリアの早鐘を打つ心臓は速い。


 (ほむら)がゆっくり立ち上がる。


 「――タリア」


 「……あ、ああ」


 差し出された(ほむら)の右手に自分の左手を重ね、紅い天蓋付(てんがいつ)きのベッドに案内された。丸太のベッドが改造されてある。華燭(かしょく)に満ちた空間だ。


 筒状の円形枕が二つ、目に留まる。ベッドの片隅に二人は腰を掛けた。


 「綺麗だね、タリア」


 「……ありがとう。(ほむら)が選んでくれた衣装のお陰だよ」


 (ほむら)はやはり美的感覚に優れている。洗練(せんれん)を極めた衣装は着膨れもせず着心地がいい。


 「三百年後の花嫁衣裳はもっと凄い、もっと華美(かび)だ。ま、楽しみにしてて」


 「ハハッ、待ち遠しいね。(ほむら)もとても格好良いよ」


 「本当? 惚れ直した?」


 「ハハッ、ああ。私は日々キミに惚れ直してるよ」


 聞き返す(ほむら)にタリアは素直に認めた。(ほむら)博学多才(はくがくたさい)で共にいて学ぶことが多い。それに一番は誠実だ、寛大で優しく、万華鏡の如く多彩な愛で包み込んでくれる。


 タリアの笑みは神々しい。華やかで可憐で純粋だ。

 

 「――ッ」


 「ぅわ――!?」


 タリアは突如、(ほむら)に押し倒された。性急な口づけをされる。反射的に引く体を抑え込まれた。


 噛み付かれ、(むさぼ)られる。


 「……ぅん……ッ」


 息苦しさで喘いだ瞬間、舌を捻じ込まれた。


 「んぅ……んんッ……」


 口腔(こうくう)を掻き回される。狂おしい衝動が伝わってきた。逃げる舌をいとも簡単に(から)め捕られてしまう。


 「……ん、ン……」

 

 舌同士が(こす)れ合う甘い痺れで脳内が溶けてきた。執拗(しつよう)(うごめ)く熱い(ほむら)の舌に、全身を火照らされる。舌をきつく吸われ背筋に震えが走った。


 吐息や唾液が混じり合い、意識が遠退く寸前で、ようやく塞がれた口が解放される。


 「……ぅん……ぁ……」


 糸を引く線が艶めかしい。


 「ハッ……」


 相変わらず、(ほむら)の呼吸は一切の乱れがない。


 「……うわっ、ちょ、(ほむら)……」


 (ほむら)がタリアを抱き抱え、ベッドの奥に運び、服を脱がし始めた。覆い被さってくる(ほむら)の目元がほんのり赤い。愛欲を(はら)んだ虹彩(こうさい)だ。


 「……抱きたい、我慢できないタリア」


 (ほむら)が甘美な声音で懇願してきた。


 ――昨晩、約束している。今日の予行練習には、初夜も含まれていた。タリアは羞恥心で顔を背けながら許可をする。


 「……え、と……お手柔らかに頼む……」


 両手を左右に開いたタリアの耳介(じかい)は真っ赤だ。性的経験がなく、初めての体験になる(ゆえ)(ほむら)に身を預けるしか術はない。


 「……タリア」


 「……なんだ?」


 「……俺はタリアを愛してる」


 「……私も(ほむら)を愛してるよ」


 愛の囁きで二人は互いの想いに陶酔(とうすい)した。(ほむら)は初めてのタリアに容赦がなく、タリアが気絶するまで行為は続き、気づけば朝を迎えていた始末だ。


 ()(こく)初刻(しょこく)、タリアは疲れ果て眠っている。泣き明かした瞼は涙で潤んでいた。


 「……泣き顔、可愛かったな」


 元凶の(ほむら)に反省の色は窺えない。悔いのない満足げな表情だ。

 

 「……ん、ほむら」


 「……寝てていいよ、俺も寝る」


 「……んん……」


 夢現(ゆめうつつ)なタリアは一瞬で夢に誘われる。(ほむら)はタリアにそっとキスをし、口元を綻ばせたのだった。

最後まで読んで頂きありがとうございます(*´Д`)

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