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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第二幕:~.。.:*✽桜紅の結び✽*:.。.~
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第二十五集:相思相愛

※キスシーンがあります※


 「――魂天来華(こんてんらいか)


 乱螫惨非(らんどくざんひ)孤魅恐純(こみきょうじゅん)の攻防が終了した(のち)、タリアは亡き二人の小鬼(こおに)の魂に慈悲をかけ、神々がいる天上に導いた。目映い光が花々と澄清(ちょうせい)の空に昇る。


 「ふへえ~すげ~ね! タリアちゃん、マジ上位神(じょういしん)じゃん!! キッラキラ!!」


 「ハハ、ありがとう。ねえ(いばら)、本当に二人を土葬(どそう)してくれるのか?」


 二人の処置に困っていたタリアに、鬼界(きかい)の西の領地を治める乱螫惨非(らんどくざんひ)が、遺体の埋葬(まいそう)を申し出てくれていた。元は彼の悪趣味なアート作品になる予定だった小鬼(こおに)の子供達、果たして三災鬼(さんさいき)の情けを信用していいのか迷ってしまう。


 「もちもち~! 今日はまあ~、孤魅恐純(こみきょうじゅん)とタリアちゃんを祝してさぁ、天赦日(てんしゃび)にするよ。僕、嫌いな吉日(きちじつ)はずぇったい働かないんだ~。アート作りもね、定休日~。僕ね、凶日(きょじつ)が好きなの! 自分や人の非運にぞくぞくするんだ~」


 地上の(こよみ)で定められた暦日(れきじつ)にある天赦日(てんしゃび)は、天が万物の罪を許す縁起の良い日だ。天地、宇宙、万物の創造主(そうぞうしゅ)――天上皇(てんじょうおう)は、五界(ごかい)の思想に理解を示し、下界の天子(てんし)によって浸透した吉凶禍福(きっきょうかふく)に関する事項を重んじ、選日(せんじつ)は大地に幸福や災いが降り注ぐよう神々に役目を与えていた。

 

 五界(ごかい)験担(げんかつ)ぎに(こだわ)る者は多い。何をするかは多種多様だ。


 「凶日(きょじつ)が好きで嫌いな天赦日(てんしゃび)は働かない、キミは個性的な子だね(いばら)。わかった、子供達をよろしく頼むよ」


 乱螫惨非(らんどくざんひ)凶兆(きょうちょう)を推し量る自覚的な活動は独特で解釈し難いが、信頼するに足る発言ではあった。それに乱螫惨非(らんどくざんひ)が生身でない二人をアート作品にする意義はない。彼の型破りな性格にいまは感謝する。


 「個性的って、エッヘヘ! おうよ~僕に任せな~! じゃあな孤魅恐純(こみきょうじゅん)、タリアちゃんに振られて帰って来んなよ!」


 「…………」


 「――ガハッ!!」


 乱螫惨非(らんどくざんひ)の余計な一言に、(ほむら)が無言で乱螫惨非(らんどくざんひ)鳩尾(みぞおち)を殴った。乱螫惨非(らんどくざんひ)(ほむら)(こぶし)の威力で後ろにズザザザと地面を滑り、何とか両足で踏ん張る。火鬼(ひおに)の一撃を耐えた乱螫惨非(らんどくざんひ)の体はやはり頑丈だ。


 乱螫惨非(らんどくざんひ)は両手を両膝に突き、腰割り体勢で、ぷるぷる震える左手を上げた。


 「んじゃあ……ま、タリアちゃん……ッ! ふつつかな孤魅恐純(こみきょうじゅん)をよろしくね~」


 「行くよタリア」


 (ほむら)(きびす)を返すことで、抱っこされているタリアも、必然的に視界が動いてしまう。


 「あ、ああ……。(いばら)、痛めた箇所は冷やすんだよ! さようなら!」


 タリアは上半身を(ひね)って乱螫惨非(らんどくざんひ)に挨拶し、西の地を去った。呉服店には戻らず帰途(きと)移境扉(いけいひ)を開き、下界の藁葺屋根(わらぶきやね)の我が家に帰って来る。時刻はすでに(いぬ)の刻の初刻を回っていた。


 「……はあ、疲れたな」


 「まあね」


 タリアと(ほむら)囲炉裏(いろり)(くつろ)いでいる。(ほむら)が点けてくれた薪の火が暖かい。


 「……んー……」


 お腹は空いているが眠さが勝っていた。眠気に逆らえないタリアは、部屋の(すみ)にある丸太のベッドに移動した。(わら)で編んだ敷物が敷いてある。


 丸太のベッドは(ほむら)の手作りだ。高さがあり毒蛇や昆虫の被害を避けれた。有難い。


 タリアが靴を脱ぎ横になると、座っていた(ほむら)も立ち上がり、同様に靴を脱ぎ隣に並んで寝る。(ほむら)は自然な動作でタリアに片腕を()てがい腕枕した。向かい合う形だ。


 「……タリア、おやすみのキスは? なし?」


 (ほむら)が自身の(ひたい)をタリアの額に擦り寄せた。


 「……普通のキス?」


 「うん、普通のキス」


 「……キミの普通は普通じゃないだろう?」


 幾度かの口づけで学んでいる。タリアは騙されない。


 「だめ?」


 「…………ッ」


 朱色の虹彩(こうさい)が妖しく灯っていた。恋慕と劣情(れつじょう)(はら)んだ双眼(そうがん)だ。


 「タリア……」


 獲物を眼前(がんぜん)にお預け状態の(ほむら)の声音は甘い。タリアの無意識な()らしが(ほむら)の本能を刺激し、男心を(くすぐ)っている。


 「……ちょっとだよ」


 こういった場面でタリアは(ほむら)に勝てない。許可するタリアに、(ほむら)がゆっくり顔を傾け隙間を埋めた。


 タリアは口を塞がれる。


 「……んぅ……ッ、……」


 何度も(ついば)まれ、甘噛みされ、唇が半開きになった。(ほむら)が艶めかしい動作で下唇(かしん)を舐め、ぬるり舌を忍び込ませてくる。招き入れた舌先は熱い。


 「……んん、ぅん……」


 執拗に口腔(こうくう)(むさぼ)られた。歯をなぞられ背筋がぞわぞわする。(ひる)んだタリアの舌を起用に(ほむら)(から)め捕った。


 「んん……ッ、ン……」


 角度を変えて口づけが深くなる。きつく舌を吸い上げられ足の指先が痺れた。口の中を蹂躙(じゅうりん)され(なぶ)られ狂おしい愛情が伝染してくる。


 「あ、も、……ぅんッ」


 苦しい。一向に解放されない。二人の混じり合う唾液のくちゅくちゅした音が静かな部屋に響いて恥ずかしい。妙な快感に(あお)られていた。


 「んん、んっ、……」


 「ハッ……」


 (ほむら)は上手く息をしている。タリアは酸欠で酩酊(めいてい)していた。頭がくらくらしている。


 「ぅあ……、ん――!」


 肌が汗ばんできた。刹那、(ほむら)に組み敷かれる。右手でタリアの絹の帯を引っ張ってきた。左手は横腹(よこばら)(くび)れを這っている。タリアは目一杯の力で(ほむら)を引き剥がした。


 「んんっ、ぅあッ、ほ――むら!!」


 「……ハァ、なにタリア」


 (ほむら)の呼吸に一切の乱れはない。


 「な、にじゃない! 終わりだ!」


 充分な「おやすみのキス」だ。けれど(ほむら)の右手は帯を掴んだままだ。


 「……したい」


 直球な物言いにタリアが瞠目(どうもく)する。


 「――――ッ!?」


 タリアもこの状況で(ほむら)が何を「したい」か察しは付いた。


 「……痛くしない」


 (ほむら)が先の関係を望んでくる。欲情した瞳の眼光は鋭い。

 

 「……だめだ」


 「…………ッ」


 拒否するタリアに(ほむら)の全身が強張(こわば)った。タリアは眉尻を下げ、苦笑する。


 「すまない違うよ(ほむら)、勘違いしないで。私はキミを拒んだりはしない。ただ、今日はだめだ……」


 「……明日はいいの?」


 (ほむら)の問いにタリアは頷いた。明日は特別な日だ。


 「……明日は予行練習で、仮だけど夫婦になる。予行練習の……、初夜だ。……明日がいい」


 徐々に声が(しぼ)んでいってしまう。タリアは自分から誘っているようで居た堪れなくなった。


 「……ッ、明日にしよう」


 タリアの提案に(ほむら)は同意する。タリアを横抱きに横たわった。(すこぶ)る機嫌がいい。


 「明日は緊張するな……」


 「ハ、どっちの緊張?」


 (ほむら)がわざとらしく揶揄(やゆ)ってきた。


 「もちろん仮の婚礼だ」


 「ああ、そっち。残念」


 (ほむら)が肩を竦め微笑する。余裕のないタリアは一旦は頬を膨らませるが、焔の胸元に(すが)衷情(ちゅうじょう)披瀝(ひれき)した。数千年と密かに抱えている悩みだ。


 「いや、どっちも緊張はしている」


 「……タリア」


 「……数千年、私は恋人がいた試しがない。……純潔(じゅんけつ)で無知だ。キミを退屈させてしまわないか不安だよ」


 タリアは性的な経験がない。キスも(ほむら)が初めてである。

 

 愛を確かめ合う行為は喜びと満足の源泉(げんせん)天上界(てんじょうかい)で宣言されており、神々の純度や名誉、価値の概念に関連付きはしない。(ゆえ)に純潔を貫き通す神はいない。

 

 タリアも特段、純潔に執着はない。単に天上界随一(ずいいち)に美しいと(うた)われ、尊いと(みな)に遠巻きにされ、気づけば孤独に数千年と月日が流れていただけだ。


 「自信がない」と呟くタリアを(ほむら)が抱き締めた。


 「タリアのキスに翻弄させられている俺も明日が不安だ」


 「……私がキミを?」


 耳を疑う告白だ。聞き返すタリアに、(ほむら)が本気の語調で腰を密着させてくる。


 「毎回、させられてる。いま堪えてる衝動みたい?」


 「……いや、遠慮するよ」


 男の生理は平明(へいめい)で繊細だ。当てられた硬い感触に心臓が跳ねるタリアは小首を振った、いまは知りたくない。


 「ハハッ。俺はタリアを愛してる、タリアは?」


 「私も(ほむら)を愛してるよ」


 「俺達は相思相愛だ。明日は最高の一日になるよ、絶対に」


 「……ああ」


 (ほむら)が断言するのだから間違いない。タリアは同調(どうちょう)の相槌を打ち、瞼を閉じたのだった。

 

最後まで読んで頂きありがとうございます(*´Д`)

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また次回もよろしくお願いします<(_ _)>

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