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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第二幕:~.。.:*✽桜紅の結び✽*:.。.~
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第二十三集:誘拐


 タリアは呉服店(ごふくてん)で働く女鬼(めおに)のイーハンに貰った、いま鬼界(きかい)で流行っている化楽飴(けらくあめ)の効力で、六歳児の子供となっていた。

 遥か昔の自分の容姿(ようし)にタリアも興味津々だ。鏡の前でくるくる回っている。


 深衣(しんい)や髪飾りの鬼角(おにづの)も一緒に縮んでいた。姿形(すがたかたち)は変わらない。便利な飴玉だ。

 

 幼くなったタリアを(ほむら)片腕(かたうで)で抱き上げる。ぐんっと視界が上がりタリアは(ほむら)の首にしがみ付いた。


 「う、わ……」


 「……大丈夫タリア? 痛みはない?」


 「平気だよ(ほむら)。イーハン、ありがとう。とても面白い体験だ」


 イーハンも十分反省している。タリアに化楽飴(けらくあめ)をあげた行為に意図はない。気遣いの根底にある思いやりだ。責めてはいけない。


 「うぅ……、いえ……。すみません、……ありがとうございます、タリア様」


 「孤魅恐純様(こみきょうじゅんさま)!! ウチのイーハンが!! 誠に申し訳ございません!!」


 店主が(こうべ)()れた。凄まじい勢いだ。


 「タリアが面白い(・・・)んだ、別にいい」


 (ほむら)の機嫌は良い。店主の謝罪をタリアに代わって許した声音も弾んでいる。


 「(ほむら)、衣装は決まった?」


 「うん決まった。選んだ衣装は秘密にするよ、明日をお楽しみに」


 「ハハッ、明日が待ち遠しいな」


 互いに数百と試着した。組み合わせは自由だ。(ほむら)の美的感覚は優れている。焔が精選(せいせん)した婚礼衣装なら不安はない。


 「こ、孤魅恐純様(こみきょうじゅんさま)ッ!! 少々、宜しいでしょうか? 紅蓋頭(ホンガイトゥ)なのですが……」


 「待っててタリア」


 子供嫌いな(ほむら)だがタリアを下す動作は優しい。


 「ああ」


 店主に呼ばれて焔は高床式の(たたみ)がある中央に戻った。タリアは歩行動作を確かめてみる。縮小した足長(そくちょう)に若干の違和感はあるが問題はない。


 「――ん?」


 ふと子供の泣き声が耳に届いた。タリアは重々しい両開き可能な玄関の引き戸を、「ぐぬぬぬ……」と両手で左右に開ける。六歳児になった反動で腕力は無いに等しい。


 「ハア……」

 

 呼吸を整え、辺りを見渡した。鬼人(きじん)や遊女が(まば)らに行き交っている。勘違いかと思い戸を閉めかけた矢先、通路を挟んだ反対側に涕泣(ていきゅう)する小鬼(こおに)を発見した。


 (ほむら)は店主と話している。イーハンも散らかった衣装の後片付けに忙しい。


 タリアはこっそり小鬼(こおに)のもとに走った。


 「――どうしたんだ、キミ。迷子か?」


 「……うん。ぐす……、ママと(はぐ)れちゃった」


 小鬼(こおに)は一本角の青鬼(あおおに)だ。泥塗(どろまみ)れの破れた薄花色(うすはないろ)の浴衣に草履(ぞうり)を履いている。背丈は120㎝未満、青い短髪で虹彩(こうさい)も青い。目鼻立ちがよく卵型の輪郭(りんかく)だ。


 「キミは何歳? 名前は?」


 「ろくさい、幹丹(かんたん)……」


 「幹丹(かんたん)、私はタリアだ。家の方角はわかるか?」


 「……あっち」


 幹丹(かんたん)は西を指差した。親が六歳の子供を連れて歩く距離だ。然程(さほど)、遠くはないだろう。


 「じゃあ私が送ろう。おいで」


 「……ありがとう、お兄ちゃん」


 タリアは幹丹(かんたん)と手を繋いだ。歩幅が同じで助かった。


 「幹丹(かんたん)は兄弟はいるの?」


 「いない……、お兄ちゃんは?」


 「あー……、私は兄と姉がたくさんいる」


 天上皇(てんじょうおう)創りし上級三神(じょうきゅうさんしん)上位神(じょういしん)の兄姉は十一人いる。タリアは末弟だ。

 上級三神(じょうきゅうさんしん)下位(かい)の、中級三神(ちゅうきゅうさんしん)下級三神(かきゅうさんしん)の神々の家族を人数に加えたら数百、数千といた。正直、全員は憶えられない。


 「いいな……」


 「ひとりは寂しい?」


 天上界(てんじょうかい)随一に美しいと(うた)われ、遠巻きに(あが)められいたタリアは、孤独の(つら)さを知っている。つい最近まで、鮮やかで眩しい孤立の沼に沈められ藻掻(もが)き苦しんでいた。いまは(ほむら)と出逢って拠り所ができ、煢然(けいぜん)と決別しているが、数千年で刻み込まれた寂寞(せきばく)たる過去が消えることはない。


 タリアは下界(げかい)に誕生してまだたった六年の幹丹(かんたん)寂寥感(せきりょうかん)虚無感(きょむかん)に圧し潰されていないか心配になる。


 「ううん、だってママがいるし! ボクね、ママが大好きなんだ!」


 幹丹(かんたん)は小首を振ってはにかんだ。六歳臼歯(きゅうし)で歯が抜けたすきっ歯の笑顔は可愛い。


 「愛されてるんだね」


 「エヘヘッ、こっちだよ!」


 駆け出す幹丹(かんたん)に引っ張られ、タリアは路地裏に導かれた。ゴミ箱がひとつある。何もない暗い道だ。


 「かんた――」


 「――よくやったわよ幹丹(かんたん)


 「――――ッ!」


 首の後ろをトンッと手刀(てがたな)で一撃を入れられた。タリアは上半身がゆっくり前方に流れる。無表情の幹丹(かんたん)がこちらを見下ろす姿を最後にタリアは気絶した。


 ――(しばら)くしてタリアの睫毛が小刻みに震える。


 牛車(ぎっしゃ)の振動で目が覚めた。石ころで車輪が跳ね、(じか)にお尻に衝撃が伝わってくる。タリアは(なわ)で縛られた両手首を支えに座り直した。


 「(体感的に二時間は経っているな……、鬼攫(おにさら)いか?)」


 タリアの他に、二人の小鬼(こおに)が同乗している。どちらも(まなこ)生気(せいき)が宿っていない。


 「着いたよ、お前達!! さっさと降りな!!」


 牛車(ぎっしゃ)を止めた女鬼(めおに)は、鬼角(おにづの)が一本の青鬼(あおおに)だ。青い髪を無造作に(くく)女鬼(めおに)はおうとつのない平面的な面輪(おもわ)で、秘色(ひそく)の浴衣に、わら草履(ぞうり)を履いていた。幹丹(かんたん)が彼女の(そば)にいる。十中八九、女鬼(めおに)幹丹(かんたん)の母親だ。


 「(相手は小鬼(こおに)、更に昼間……油断した……)」


 恐らく二人が主犯者、自分と小鬼(こおに)二人、三人を攫った犯人に違いない。


 「ちんたらするんじゃないよ!!」


 タリア達は急かす女鬼(めおに)の指示に従い、牛車(ぎっしゃ)を降りた。一帯は物静かで、鉛色の荊棘(けいきょく)に囲まれている。荒れ果てた土地だ。


 数分もしないうちに青い鬼角(おにづの)が二本ある男鬼(おおに)が現れた。


 「――やっほ~、お疲れちゃん」


 「――乱螫惨非(らんどくざんひ)様!!」


 女鬼(めおに)歓呼(かんこ)した鬼の名前にタリアが驚愕(きょうがく)する。

 乱螫惨非(らんどくざんひ)鬼界(きかい)最恐(さいきょう)三鬼(さんき)のひとり、三災鬼(さんさいき)だ。


 下界(げかい)の通り名は棘童子(おどろどうじ)、人型の雑鬼(ざっき)青鬼(あおおに)雑鬼(ざっき)交配種(こうはいしゅ)悪逆無道(あくぎゃくむどう)と悪名高い。


 眉目秀麗(びもくしゅれい)な顔立ちで瞳、睫毛、唇、爪、と青く、青い長髪はひとつ結びの三つ編みに編んであり、膝下(ひざした)まであった。下瞼(したまぶた)は青い粉状で陰影(いんえい)をつけ、目元の立体感を演出してある。

 2m50㎝の長身を生かす服装は詰襟(つめえり)で横に深いスリットが入った、錆納戸(さびなんど)色の旗袍(チーパオ)だ。下に白い褌衣(ずぼん)を穿いている。旗袍(チーパオ)荊模様(いばらもよう)は、藍鉄色(あいてついろ)の布製で爪先(つまさき)が丸い形のブーツと揃えてあった。


 乱螫惨非(らんどくざんひ)があからさまな態度で項垂(うなだ)れ落胆する。


 「ええ~三体ぃ? すっくな~! まあいいや、は~い御駄賃(おだちん)ね」


 「こんなに!! ありがとうございますッ!! 帰るわよ幹丹(かんたん)!!」


 「うん……」


 女鬼(めおに)乱螫惨非(らんどくざんひ)に報酬を受け取り、長居せず、幹丹(かんたん)と立ち去った。


 タリアが鬼の子供を(かば)い一歩、前に出る。


 「この子達は逃がしてくれないか」


 「ん~~? お~~、綺麗な……なんか天上臭(・・・)いねキミ」


 「…………」


 すんすん、と空気を嗅ぐ乱螫惨非(らんどくざんひ)が核心を突いた。


 「お前……、へえ神か! 珍しいな~子供(ガキ)は初めてみた」


 「この子達は逃がしてもらいたい」


 タリアは再度、要求してみる。刹那(せつな)、子供達が同時に倒れた。白目を剥いている、息をしていない。


 「――――キミ達ッ、しっかり!!」


 「そいつら卑賎街(ひせんがい)子供(ガキ)っしょ~、餓死(がし)寸前で息絶えたんじゃね? 良かったじゃん、魂は逃げたよ天上(てんじょう)にさ~」


 卑賎街(ひせんがい)は能力に恵まれない貧困者が暮らす場所だ。鬼界(きかい)狐界(こかい)鹿界(しかかい)狼界(ろうかい)、にあり秩序や安全はない。お金欲しさに悪い仕事を請け負う者も多く、身形(みなり)や犯行動機から察するに女鬼(めおに)幹丹(かんたん)も又、卑賎街(ひせんがい)に住んでいるのかもしれない。


 「……キミは三災鬼(さんさいき)乱螫惨非(らんどくざんひ)だね、目的は何だい?」


 「僕の趣味ね~。アート、なんだ!」


 「アート……?」


 「ん~~、僕の(イバラ)でみんなを装飾したいんだ! 僕の作品あっちだよ~」


 乱螫惨非(らんどくざんひ)の右腕がタリアに伸びた瞬間、ふわり、風が淡い秋の香りを運んだ。緋色を(まと)う鬼が乱螫惨非(らんどくざんひ)の右手首を締め上げる。


 「――乱螫惨非(らんどくざんひ)


 「イッテテテテ!! でえ~~!? うっそマジ!? 孤魅恐純(こみきょうじゅん)じゃん!! なんでいんのお前!!」


 (ほむら)であった。(ほむら)はタリアを鋭い眼力で睨んだ。


 「……あー……、すまない」


 タリアは片頬(かたほお)を指先で掻き、拉致されている現状に取り敢えず謝ったのだった。

最後まで読んで頂きありがとうございます(*´Д`)

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次回もよろしくお願いします<(_ _)>

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