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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第二幕:~.。.:*✽桜紅の結び✽*:.。.~
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第二十二集:子供のタリア


 「(われ)百罪百許(はくずいはくきょ)()ずけられし神、地上に並ぶものなし」


 (ひつじ)(こく)初刻(しょこく)――タリアが移境扉(いけいひ)を開いた。(ほむら)の指示で鬼界(きかい)の中心、花柳街(かりゅうがい)に到着する。

 統一感を図った赤い外観は見事だ。建築物の高さや色遣いが一体感を持ち、限られた色彩でまとまっている景観に魅了された。


 鬼人(きじん)(まば)らに歩いており、(ころも)衿元(えりもと)(はだ)けた女鬼(めおに)が多数いる。


 遊女達が遊楽(ゆうらく)(ひた)りたい男性客を相手に性的な遊びを(たしな)む場――遊郭(ゆうかく)の区画、と(ほむら)に事前の情報で貰っていたタリアは、若干の緊張を抱え鬼界(きかい)に乗り込んだが、灯火(ともしび)に染まる時刻でないため、(みだ)らで妖しい雰囲気はなかった。


 タリアは白い鬼角(おにづの)を装着する。以前、鬼界(きかい)凛活街(りんかつがい)で買った変装(へんそう)道具だ。髪飾りの一種で装着はし(やす)い。


 「……よし」


 上位神(じょういしん)タリアは鬼になった。誇らしげなタリアの隣で(ほむら)が静かに悶絶(もんぜつ)している。遊郭(ゆうかく)の遊女で(くらい)が高い鬼魁(きらん)(ひざまず)く尊さだ。


 「――誰かしら、可愛いわね」


 「――新人?」


 遊女達がタリアに釘付けになっていた。(ほむら)がタリアの右手を(さら)う。


 「タリア、こっちだよ」


 「あ、うん」


 タリアは(ほむら)の左手を握り返した。

 

 天上皇(てんじょうおう)が最後に創りし男神(おがみ)、タリアに許可なく触る神はいない。(ほむら)天上界(てんじょうかい)にない平等、対等をくれるタリアの唯一無二の存在だ。(ほむら)の些細な行動に慣れはしたが、尋常一様(じんじょういちよう)で尋常一様にない、手を繋ぐ人物がいる幸福に、未だ鼓動は高鳴ってしまう。


 「――ああ、あった」


 (ほとん)どの店が閉まった遊郭街(ゆうかくがい)の一角を曲がり、(ひと)()ちる(ほむら)が足を止めた。

 

 「わあ……!!」


 赤い(かわら)屋根(やね)が特徴的な二階建ての呉服店(ごふくてん)だ。一階の屋根の真ん中にある「贈倖(ぞうこう)はんなり屋」と達筆に書かれた縦文字の看板が際立っている。

 玄関前は緋毛繊(ひもうせん)()くお茶処があった。赤い野点傘(のだてかさ)が二本、左右に立っている。(ほむら)が赤い暖簾(のれん)を潜り、タリアも必然的に中に進んだ。


 店内に入ると多種の、風呂敷、手拭い、愛らしい小物、桐下駄(きりげた)がずらりと配列する艶やかな振袖(ふりそで)や美々しい反物(たんもの)に出迎えられた。四方に生けられている季節的な花々、天井にぶら下がった紅い提灯(ちょうちん)(おもむき)がある。


 「――店主いるか」


 「……ッ、こっ、孤魅恐純様(こみきょうじゅんさま)!?」


 (ほむら)の呼びかけで青鬼(あおおに)の店主が出てきた。中年の男鬼(おおに)だ。袖や裾がゆったりする青鈍(あおにび)漢服(かんふく)上衣下裳(じょういかしょう)を着用した店主は体型がぽっちゃりしている。頭部に生えた一本の青い角、平面の丸顔で二重(あご)だ。短髪の髪も青く背丈は160㎝と低い。


 「婚礼衣装(こんれいいしょう)をみたい」


 「こ、ここ、婚礼ですか!? 孤魅恐純様(こみきょうじゅんさま)世説(せせつ)じゃ封印されたと……」


 突拍子もない唐突(とうとつ)(ほむら)の申し出に、驚愕(きょうがく)する店主は冷や汗を掻いていた。


 「ああ、解放された」


 「さ、左様でございましたか……。婚礼はどなた様が……」


 「俺と嫁のタリアだ」


 (ほむら)に紹介されて挨拶する。嫁、は語弊があるが訂正はしない。


 「こんにちは店主、タリアです。よろしくお願いします」


 「こりゃ別嬪(べっぴん)さん――ってご結婚なさるんですか!? 孤魅恐純様(こみきょうじゅんさま)が!?」


 孤魅恐純(こみきょうじゅん)は火山が生んだ渾沌(こんとん)の象徴、鬼界(きかい)最恐(さいきょう)三鬼(さんき)三災鬼(さんさいき)のひとりだ。残酷で残虐(ざんぎゃく)、外道が()不義(ふぎ)、血濡れた人生に情や愛はない。鬼界(きかい)既知(きち)する事実だ。

 同族も信用しない孤高(ここう)の鬼が五百年封印された後に、品位ある対照的な伴侶(はんりょ)を連れて来た摩訶不思議な現象に店主は愕然(がくぜん)としていた。上半身を()()らせている。


 「…………」


 「……アハハ、まあまあ(ほむら)……」


 タリアが顔に(かげ)を落とす焔を(なだ)めた。店主が平謝りする。凄まじい汗の量だ。


 「申し訳ございません孤魅恐純様(こみきょうじゅんさま)!! 申し訳ございません!! ご勘弁下さい!! 妻子を残して逝けません!! お助けを!!」


 「落ち着いて店主、彼は何もしない!」


 生命の危機に瀕した物言いでタリアが否定した。


 以前の孤魅恐純(こみきょうじゅん)なら店主を殺している。不愉快極まりない者を生かす理由はない。


 「……店主。貸し切りでチャラだ」


 けれどタリアと出逢い、(ほむら)は自制を覚えた。タリアが傍にいる条件が必要だ。店主は運良く窮地(きゅうち)を脱する。


 「……ッ!! ありがとうございますッ、ありがとうございます! おい! 貸し切りだ! 誰も入れるな!」


 「は、はい!!」


 店主の指示に店で働く若い女鬼(めおに)が黒文字で定休日と表記される赤い提灯(ちょうちん)を、玄関の軒先(のきさき)に固定された吊り具にかけ、急いで扉を閉めた。


 「あー……(ほむら)、やりすぎなのでは?」


 「貸し切りは予定(・・)だったよ。他の連中は邪魔だ。タリアと二人、ゆっくり選びたい」


 (ほむら)の唇がタリアの目元に触れる。焔の行動に店主と女鬼(めおに)が「おおっ」と驚嘆し、タリアは両頬を赤らめ(うつむ)いた。居た堪れない。


 「――店主」


 「ささッ、婚礼衣装(こんれいいしょう)でしたな!! こちらにご用意を致します!!」

 

 (ほむら)の促しで店主が両手を擦り合わせ、中央に案内してくれる。


 「ありがとうございます」


 「タリア、足下に気を付けて」


 小上(こあ)がりになった高床式の(たたみ)は30㎝の高さで十二(じょう)あった。(ほむら)の誘導でタリアも畳の上に上がる。地模様(じもよう)のない縮緬(ちりめん)を用いた黒留袖(くろとめそで)や、紋意匠縮緬(もんいしょうちりめん)を用いた色留袖(いろとめそで)鳥居形(とりいかたち)衣桁(いこう)に掛けられ陳列していた。


 店主と女鬼(めおに)が次々に赤い着物や反物(たんもの)紅蓋頭(ホンガイトゥ)(かんざし)を並べていく。


 「孤魅恐純様(こみきょうじゅんさま)、タリア様、ご希望はございますでしょうか?」


 (きざ)しを表現した吉祥文様(きっしょうもんよう)、六角形を基本とした幾何学文様(きかがくもんよう)亀甲文(きっこうもん)、縁起が良い七宝紋(しっぽうもん)、格式高い花菱(はなびし)、繊細な刺繍が(ほどこ)された鳳凰(ほうおう)龍神(りゅうじん)四君子(しくんし)は煌びやかだ。


 「(ほむら)、今回は予行練習だ。反物(たんもの)はやめよう」


 三百年後の婚儀に出席不可能な村人にせがまれ、急遽明日、予行練習の婚儀を執り行うことになった。反物(たんもの)は仕立てに数カ月はいる。明日に間に合わない。


 「ああ。本番は三百年後だ。タリアの花嫁衣裳は鬼界随一(きかいずいいち)()()に特別に(あつら)えさせる。でも明日の予行でタリアが着る衣裳も妥協はしない」


 「鬼界随一(きかいずいいち)か。三百年後が楽しみだな。もちろん明日も楽しみだよ」


 村人達の懇願(こんがん)は強引であったが、(ほむら)とタリア、二人の婚姻を祝福してくれた。人間の寿命は光陰矢(こういんや)(ごと)しだ。明日は彼らに恩寵(おんちょう)を与え、清福(せいふく)で満ちる一日にしたい。


 「はい、じゃあタリアこれ着て」


 「わ……ッ」


 突然、(ほむら)に一枚目の衣裳を渡される。これ、に始まり婚礼衣裳をすべて試着させられた。宣言通り「妥協」がない。


 「ちょ、ちょっと(ほむら)、休憩、しよう……!!」


 「ハア……、ハア……」


 「……ッ、私が、片付けを……」


 店主や女鬼(めおに)の息も絶え絶えだ。

 

 「タリアは座ってて、アンタ達は仕事でしょ」


 「……ありがとう」


 のろのろ(すみ)に移動する。店主と女鬼(めおに)(ほむら)の対応で大忙しだ。途中、二人の目を盗んで女鬼(めおに)が近付いてきた。


 「――タリア様、ひとつ如何(いかが)ですか?」


 彼女はイーハンだ。上衣(じょうい)が白、下裳(したも)青藍(せいらん)色の漢服を身に(まと)っている。整った顔立ちで青い髪は長い。そばかすが魅力的な背高(せいたか)の、一本角(いっぽんづの)青鬼(あおおに)の少女だ。


 「……飴玉(あめだま)?」


 華やかな彩りの飴玉が(びん)に詰められてある。


 「ええ。いま鬼界(きかい)で流行っています、化楽飴(けらくあめ)です。美味しいですよ、(いこ)いの一時(ひととき)に」


 「へえ。ありがとうイーハン、頂くよ」


 優しい気遣いに感謝した。タリアは赤い飴玉をひとつ摘まみ食べてみる。いちご味だ。舌上(したうえ)で転がす化楽飴(けらくあめ)は、さっぱりとした味わいで美味しい。


 「化楽飴(けらくあめ)は色んな者に()けられるんですよ!」


 「……え? 化ける? イーハン? 化けるって?」


 イーハンの遅い説明にタリアが困惑した。


 「はい! 完璧じゃないですが他族(たぞく)になれますっ! あとは単純ですが大人になったり子供になったり! 大丈夫ですよ、三時間で効果はなくなりますから! ワアッ! タリア様、可愛いです!」


 「……ん?」


 イーハンが大きく見える。タリアは自分の体を確認した。全体的に小さい。(ほむら)がイーハンの黄色い声でタリアを直視し、長い睫毛を見開き本人か確かめる。


 「――タリア?」


 「……うん」


 声音が幼い。化楽飴(けらくあめ)を舐めたせいでタリアは110㎝弱の背低(せびく)、六歳児になっていた。

最後まで読んで頂きありがとうございます(*´Д`)

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次回もよろしくお願いします<(_ _)>

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