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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第二幕:~.。.:*✽桜紅の結び✽*:.。.~
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第二十一集:四人の親子


 天地(てんち)を結ぶ天光柱(てんこうちゅう)の光に包まれ、ハオティエンとウォンヌは天上界(てんじょうかい)に帰還した。中央往来(ちゅうおうおうらい)()を抜け、下層(かそう)に屋根のない二階造りの楼門(ろうもん)を潜る。


 「――お?」


 「――奇遇ですね」


 戦いを司る男神(おがみ)界事(かいじ)を司る男神(おがみ)に出迎えられた。ハオティエンとウォンヌの溜息は深い。


 「……はあ」


 「……マジかよ」


 五法殿(ごほうでん)に向かう途中で二人は輝堕王(きだわう)の一件を注進(ちゅうしん)する予定だったが、又もや、折悪(おりあ)しく武官(ぶかん)(おさ)アレスと五事官(ごじかん)(おさ)ウリとばったり遭遇してしまう。二人は露骨に項垂(うなだ)れた。


 アレスが怒筋(どすじ)を浮かばせる。関節を鳴らした(こぶし)の準備は万端だ。


 「よーしお前ら、歯ァ食い縛れ」


 「暴力はいけませんアレス殿(どの)、お疲れ様です二人共」


 アレスを諫止(かんし)するウリが任務帰りの二人を(ねぎら)った。ハオティエンとウォンヌは姿勢を正し、ウリに拱手(きょうしゅ)する。


 「お疲れ様ですウリ様」


 「お疲れ様です」


 アレスの青筋がピクピク痙攣(けいれん)した。自分は完全なる無視だ。


 「コイツらマジで腹立つ!! 俺はお前らの上司だぞ!?」


 怒鳴ったアレスを二人は相手にしない。ウリがアレスを(なだ)め、ウォンヌに訊ねる。


 「まあまあアレス殿、ウォンヌ、タリア殿に会えましたか?」


 「タリア様だあ!? ウォンヌ!! お前タリア様に会いに下界(げかい)に降りたのか!? いい御身分だな!?」


 「アレス殿……」


 アレスの横槍にウリが睥睨(へいげい)した。五日の完徹で機嫌が(いささ)か悪い。

 幼馴染のアレスはウリの性格を熟知している。いまは刺激してはいけない期間だ。


 「ゴホンッ!! あー、いいぞウォンヌ」


 アレスは咳払いし催促(さいそく)した。突然、紳士的な対応になり、逆に不気味だ。ウォンヌも戸惑いを隠しきれていない。


 「……? ええ、とはい……。タリア様に会えました。実はウリ様に口頭(こうとう)になりますが報告がありまして……」


 「いいですよ。何でしょう?」


 五事官(ごじかん)ウリの決断は早い。ウォンヌはハオティエンと目配せし合う。ハオティエンが頷き、ウォンヌは一呼吸置いて切り出した。


 「――堕神(だしん)(ゥアン)輝堕王(きだわう)際会(さいかい)しました」


 「――――!!」


 平素(へいそ)は感情を表に出さない冷静沈着なウリが息を呑んだ。隣に立つアレスも喫驚(きっきょう)している。


 「タリア様がおられる村人の子供が魔女と()す者のりんごを食べ、手足が黒く変色していたんです。子供は魔女に『りんごの呪いだ。三日後に死ぬ』と宣告されていました。タリア様が子供の身を案じ、……子供がりんごを食べたと話す北東の森に(おもむ)かれ僕とハオティエンも同行を……。女の堕神(だしん)が魔女の正体でした。排除すべく臨戦(りんせん)し、止めを刺したのですが堕神(だしん)呪神(じゅしん)に堕ち、……俄然(がぜん)に現れた輝堕王(きだわう)呪神(じゅしん)を消滅させたんです」


 ウォンヌは簡潔(かんけつ)に説明した。ウリとアレス同様に、ウォンヌとハオティエンも未だ内心で動転している。呪神(じゅしん)に堕ちた堕神(だしん)を見るのは、二人共初めてだ。

 (うら)みや鬱憤(うっぷん)怨毒(えんどく)惆悵(ちゅうちょう)血肉(ちにく)()えた渇欲(かつよく)、自我を失う哀れで(みにく)呪神(じゅしん)は酷く恐ろしかった。上級三神(じょうきゅうさんしん)以下の神は呪神(じゅしん)の剥き出しの堕力(だりょく)に心身を容易く(けが)され堕とされると習うが、(まさ)に事実で、二人は上位神(じょういしん)タリアの清い壁がなければ「こっち」と誘う常闇(とこやみ)の囁きに耳を傾けていたかもしれない。

 

 「……はあ。呪神(じゅしん)輝堕王(きだわう)ですか。呪神(じゅしん)はまあ事例はありますが……、問題は輝堕王(きだわう)です。彼と相まみえた下位(かい)の神々は皆、消滅させられています。(ゆえ)に彼に関する詳細は不明に等しい。上位神(じょういしん)は彼について語りません、数千年と沈黙を貫いている。僕やアレス殿も彼の相貌(そうぼう)は知らないのです。輝堕王(きだわう)自ら呪神(じゅしん)を消滅させた論点も含め、アナタ方ふたりの聴取は後程、僕が直々に五法殿(ごほうでん)で行います。いいですね。神兵(しんぺい)ハオティエン、ウォンヌ」


 ウリは目頭(めがしら)を親指と人差し指で押さえ、溜息交じりに命令した。


 「はいウリ様……」


 「わかりました」


 二人は下命(かめい)(はい)する。徹夜も覚悟の上だ。


 「まったく、無事で良かったよ。ウォンヌ、ハオティエン」


 アレスが安堵した様子で太息(ふといき)を漏らした。ハオティエンが脱いだ黒軍帽(こくぐんぼう)を左脇に挟み吐露(とろ)する。


 「輝堕王(きだわう)は俺やウォンヌを消滅させる気でした。いまある俺達ふたりの魂は……、タリア様のお陰で存在しています」


 十二枚の栄光(つばさ)を授けられし(もと)上級三神(じょうきゅうさんしん)上位神(じょういしん)輝堕王(きだわう)が放つ空気は(いびつ)禍々(まがまが)しかった。知恵、美に溢れ、光を司る神だったと到底思えない。

 物々しい出で立ちに圧倒され、全身が粟立(あわだ)ち、重い殺気に圧し潰されかけ、(すく)んだ足の感覚を、いまも鮮明に憶えている。武官(ぶかん)が情けない、滑稽(こっけい)だ。


 「タリア殿は下神(かしん)の真心に応えて下さる男神(おがみ)です。決して忠義を尽くす者を無下(むげ)にしない。アナタ達が頑張った過程の結果です。自分を卑下(ひげ)してはいけません」


 ウリが(さと)す口調は優しい。ハオティエンは俯きかける顔を上げた。


 「――はい」

 

 思案に暮れている暇はない。一歩一歩、鍛錬を積み、信念を曲げず、その進んだ先に未来はある。上位神(じょういしん)タリアを堕神(だしん)に勧誘した輝堕王(きだわう)の真意はわからないが、タリアの純白で神々しい二翼に(かば)われた(さい)、一生を捧げられる上位神(じょういしん)は、やはり彼だけだと悟った。ハオティエンが横目で窺うウォンヌも同じ眼差しだ。


 刹那(せつな)、ウリの金色の両目がハッと見開かれる。


 「ウォンヌ、タリア殿(どの)にお怪我はありませんよね?」

 

 「はい、ありません」


 「……はあ。タリア殿のことです。きっと輝堕王(きだわう)を警戒せず、お喋りしたんでしょう?」


 「……まあ」


 さすが五事官(ごじかん)ウリだ。タリアの言動を見抜いていた。


 天上皇(てんじょうおう)創りし(もと)上位神(じょういしん)輝堕王(きだわう)(まぎ)れもないタリアの兄である。しかし現在は天上皇(てんじょうおう)を裏切った天上界の宿敵、堕神(だしん)(おう)だ。タリアの危機感の無さに常々(つねづね)、ウォンヌとハオティエンは誠意を持って諫言(かんげん)しているものの、当の本人は輝堕王(きだわう)を「エル」と昔の名で親しく呼び、火鬼(ひおに)を紹介し、(あまつさ)え抱き締められる始末であった。後者は致し方がないが、想起(そうき)すると頭痛に襲われる。


 「彼は遥か昔――追放される以前はタリア殿を大層、可愛がっていたと浮説(ふせつ)があります」


 「……はい。輝堕王(きだわう)はタリア様と再会し喜んでいました」


 態度の違いは一目瞭然だった。愛する末弟(まってい)に破顔した仮面の奥の素顔は飾り気のない本物、偽りはない。噂は真実だ。


 「成程、兄弟愛(きょうだいあい)は素晴らしいです。ですが輝堕王(きだわう)偽悪(ぎあく)にない暗晦(あんかい)に塗れた愛は、崇高(すうこう)なタリア殿の真善美(しんぜんび)(むしば)む猛毒となります。難儀な案件ですね。はあ胃痛が……」


 ウリの語尾の一言で思い出し、ウォンヌが胸ポケットを探り始める。


 「――あ、タリア様が『ご苦労様』とこれを」


 「…………」


 ウォンヌがウリに小さな箱を手渡した。


 「以前、華陀様(かださま)に頂いておりました。ストレスで痛む胃に効果があります」


 治癒の医神(いしん)、医療を司る神、医研官(いけんかん)(おさ)華陀(かだ)に貰った胃腸薬だ。万全を期すウォンヌは常時、多数の薬を携帯している。

 神々は風邪を引かない。天上界(てんじょうかい)の常識だ。けれど様々な疲労で神力(しんりき)が低下し不調になったりする、対策は欠かせない。


 「……胃腸薬、ですか。タリア殿……」


 複雑な面持ちで呟くウリに、プッと吹き出すアレスが爆笑した。


 「アハハハッ、いやあ、タリア様!! 上位神(じょういしん)下神(かしん)に胃腸薬だぞ? 発想が無垢(むく)で可愛いな~!! 俺にくれ、ウリ!!」


 「アレス殿は(すこぶ)る元気でしょう、あげません。はあ……。私の胃を心配して下さり有難いですが、私の胃を一番に攻撃なさっている自覚はないんでしょうね。タリア殿は」


 「ハハッ、ねえな!」


 アレスが一笑し(うべな)う。


 「ないでしょう」


 「ないですね」


 ハオティエンとウォンヌも同調した。ここにいる全員が上位神(じょういしん)タリアに一喜一憂、()つ、悲喜交交(ひきこもごも)させられている。タリアに魅入られた(さだ)めだ。


 「アナタ方もご注意を」


 ウリの警告にぐうの音も出ない。黒軍衣(こくぐんい)を着る武官(ぶかん)三人は揃って口を(つぐ)んだのだった。

最後まで読んで頂きありがとうございます(*´Д`)

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また次回もよろしくお願いします<(_ _)>

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