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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第二幕:~.。.:*✽桜紅の結び✽*:.。.~
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第ニ十集:村人のお願い

 

 ()(こく)――タリア達は村に帰って来た。村人達がタリアと(ほむら)が住まう藁葺屋根(わらぶきやね)の家に集まっている。


 「――帰って来たぞ!!」


 「――桜道士様(さくらどうしさま)だ!! おかえり!!」


 魔女もとい堕神(だしん)に「りんごの呪いだ。三日後に死ぬ」と宣告(せんこく)された子供、ユアンが出迎えてくれた。すっかり元気になっている。手足も黒くない。


 「ただいま。ユアン、体調は? 体は痛くない?」


 「痛くないよ!! ありがとう桜道士様(さくらどうしさま)!! 魔女さんいたの?」


 「ああ。魔女さんはいなくなった、安心して森で遊べるよ」


 堕神(だしん)呪神(じゅしん)に堕ち、堕神(だしん)(ゥアン)輝堕王(きだわう)(ばっ)し消滅した。森の(きり)も晴れ、(よう)に満ち満ちている。念には念を入れて神下札(しんかさつ)を木々に貼り付けてきた。浄化効果がある。堕神(だしん)四界(しかい)の者は澄み切った聖域が嫌いだ、聖なる土地を縄張りにしない。数百年は安全だ。


 「やった~!!」


 「桜道士様(さくらどうしさま)ッ、ありがとうございました!! ありがとうございました!!」


 「ありがとう桜道士様(さくらどうしさま)!! 御恩(ごおん)は一生、一生、忘れません!!」


 ユアンの両親が平伏(へいふく)した。何度も何度も首を垂れる。


 「ああっ、やめて下さい!!」


 平身低頭(へいしんていとう)されるのは苦手だ。タリアが二人を立たせた。タリア達が森に行っている間に、事態を聞きつけ集合していた村人達が、二人を「良かったなあ」と(なぐさ)めている。村人達は一度、狐界(こかい)三毒狐(さんどくこ)電蔵主庵(でんぞうすあん)の一件でタリア達に助けられており、改めてその法力(・・)に感服した。


 「桜道士様達(さくらどうしさま)がおられて、わし達の村は安泰だ!!」


 「ユアンも助かった!! なんて幸運な村だ!!」


 「桜道士様(さくらどうしさま)がいて下さるんだっ、村に危難(きなん)はやって来ねえ!!」


 「あ~ありがてえ! ありがてえ!」


 村人達は両手を上下に擦り合わせタリアを(おが)んだ。タリア達がいなければユアンは最悪の状況を迎えていたかもしれない。電蔵主庵(でんぞうすあん)に植え付けられた恐怖の根は、村人達の心の奥底に、確かな悲しみで根付いている。(くすぶ)って消えない恐れと、日々、村人達は戦っていた。過去の惨劇(さんげき)に縛られながらも明るい未来を望み、必死に足掻(あが)いて藻掻(もが)いて生きる彼らの心境を、タリアも重々に承知している。


 「アハハ……、いえ、ユアンが無事で何よりです」


 時に(もろ)く、時に無様(ぶざま)で、時に卑怯(ひきょう)、されど時に強く、時に(つわもの)で、時に(つらぬ)く意思は鉄石(てっせき)(ごと)く重い。それが天上皇(てんじょうおう)創りし、天上界(てんじょうかい)が愛す、か弱きも尊い人間だ。

 

 「タリア様、俺とウォンヌは天上界に帰還します」


 「ウリ様にご報告致しますが何か言伝(ことづて)はありますか?」


 ハオティエンとウォンヌが村人達の手前、小声で話しかけてきた。報告の内容は先程、()せずして遭遇した堕神(だしん)の王、輝堕王(きだわう)の一連に相違(そうい)ない。犠牲者はいないが五事官(ごじかん)は重大な案件として扱うだろう。五事官(ごじかん)(おさ)ウリの反応が容易(ようい)に想像ついた。


 タリアも動揺はしている。輝堕王(きだわう)(もと)上位神(じょういしん)ルキと対顔(たいがん)したのは(およ)そ三百年ぶりだ。だが三百年前は一瞬で言葉を交わせなかった。神々に偶然やまぐれはない。すべては必然の導きだ。


 今回の対話で得た確信がひとつある。彼の性格に変化はない。兄妹弟(きょうだい)想いで他の神々を嫌悪(けんお)し人間が嫌いだ。四界は彼の範疇(はんちゅう)にない。(ほむら)とタリアの関係を寛大(かんだい)に祝した理由だった。手放しで喜べないタリアの代わりに、(ほむら)が礼を述べてくれている。


 堕神(だしん)に堕ち、闇が支配するルキの体は、至極(しごく)冷たかった。遥か昔は光を(もたら)す神で神々しかったが、いまは暗黒を(まと)堕神(だしん)禍々(まがまが)しい。

 上位神(じょういしん)エルは弟ルキの堕落(だらく)をいまも尚、自分の愛が足りなかったせいだと(なげ)き苦しんでいる。エルはルキを諦めていない。天繋地(てんけいち)で己の役目を全うし、ルキが自分の過ちを認め、天上皇(てんじょうおう)に許しを()う日を願い待ち続けていた。不撓不屈(ふとうふくつ)の精神だ。


 「あー……言伝(ことづて)か。ご苦労様と……、胃腸薬も渡しておいてくれるかな? きっと役に立つ」


 毎日の任務で疲労困憊なウリの胃に穴が空いては困る。片頬(かたほお)を掻き頼んだタリアにウォンヌが首肯(しゅこう)した。


 「了解です」


 「失礼致します」


 ハオティエンとウォンヌが拱手する。村人の視界に入らない位置に移動し、渦状(かじょう)の風を巻き起こし天上界に昇った。見上げる太陽の日差しは眩しい。


 ふと(ほむら)がタリアの顔を覗き込んだ。


 「タリア、平気?」


 「ああ、平気だよ。ありがとう(ほむら)醜態(しゅうたい)(さら)してしまったな、すまない」


 上位神(じょういしん)たる神が情けない。ルキと再会し感情が乱れ、最後は涙が流れていた。謝るタリアの目元は薄っすら赤い。(ほむら)は長い上瞼の睫毛を半分下げ、タリアの(つや)めいた目尻に唇を寄せる。


 「醜態じゃない。タリアは常に美麗(びれい)だ」


 「あ、りがとう……」


 「……キスしたい」


 蜜を含んだ低声(ていせい)で囁く(ほむら)が、タリアの(うるお)下唇(かしん)指頭(しとう)で撫でた。鼻先(はなさき)が触れる距離だ。


 恥じらうタリアの両頬(りょうほお)が淡く灯る。


 「あ、だめだ(ほむら)……、外じゃ……」


 (ほむら)の胸元を押したが微動だにしない。


 「可愛い……」


 タリアが抵抗する非力な左手を(ほむら)が右手で包み込み、口づける瞬間、何かが二人の腰付近に激突してきた。


 タリアの外套(がいとう)が引っ張られる。犯人はやはり(・・・)ユアンだ。


 「桜道士様(さくらどうしさま)!!」

 

 「な、何かなユアン」


 「…………」


 タリアに手を離され、(ほむら)が不機嫌になる。


 「僕、将来は桜道士様(さくらどうしさま)とケッコンする!!」


 「……クソガキ」


 「ギャアアア!!」


 (ほむら)がユアンの頭部を鷲掴みした。ギチギチ締め上げている。五歳児相手に容赦がない。


 「落ち着いてくれ(ほむら)ッ、いけない!!」


 「……殺す」


 「やだ~!! イダイよ~!! だずげで桜道士様(さくらどうしさま)ァア!!」


 「――――ッ、何かひとつ、私がキミの命令に従おう!!」


 タリアの苦渋の決断でユアンは解放された。(ほむら)の虹彩が燦々(さんさん)と煌いている。


 「タリアいいの……?」


 上位神(じょういしん)に二言はない。


 「……もちろんだ。如何(いかが)わしい命令はだめだよ」


 「――チッ」


 付け足す条件に(ほむら)が露骨な舌打ちをした。

 

 ユアンがタリアの後ろに回って(ほむら)を警戒する。ぐずぐず鼻を鳴らし涙目だ。


 「うぅ……、鬼のお兄ちゃんなんで怒ったの?」


 「あ~……ごめんねユアン、私は彼とケッコンする予定なんだ」


 「え!! 桜道士様(さくらどうしさま)、結婚なさるんですか!!」


 タリアの説明が丁度、ユアンの父親の耳に入った。大きな声が響き渡る。


 「何だって!? 桜道士様(さくらどうしさま)がご結婚!?」


 「なあ!! 鬼の兄ちゃんと結婚するってよ!!」


 「おお!! そりゃめでたい!!」


 (たちま)ち拡散した。村人達にタリアと(ほむら)は意図せず祝福される。須臾(しゅゆ)せず質問が飛び交った。


 「結婚の日取りは!?」


 「ウチん村で祝言挙げるのか!?」


 「結婚して村を出て行かねえよな!?」


 息巻く村人の男性陣に囲まれる。タリアは戸惑い、(ほむら)腕中(うでなか)に逃げ込んだ。


 「日取りは三百年後になる。式は村で挙げないよ。俺は鬼界(きかい)がいいけど、まあ村を出て行くかはタリア次第だね」


 淡々と(ほむら)が答えた。村人達がぽかんと呆ける。


 「お、おいおい鬼の兄ちゃん、日取りがおかしくねえか!?」


 「さ、三百年後ダア!?」


 「俺達は鬼じゃねえっ! おっ()んでるぞ!?」


 「鬼の兄ちゃん三百年後はいけねえ!!」


 人間の寿命は儚い。天上界(てんじょうかい)四界(しかい)の者は数千と悠久(ゆうきゅう)の歴史と未来を生きるが、人間は百年とない。


 「お前達の事情は俺達に関係ない」


 (ほむら)が村人達の非難をばっさり切り捨てた。ぐうの音も出ず村人達が沈黙する。するとひとりの女性、ユアンの母親が(ひらめ)きを口にした。


 「予行練習はどうかしら!?」


 「よ、予行練習!! いいな俺は賛成だ!!」


 「おおっ、俺も賛成する!! 予行練習で二人の式をやろう!!」


 「俺も賛成に一票!! 何事も練習は必須だ!!」


 「桜道士様(さくらどうしさま)ッ、如何(いかが)ですか!? 私がお手伝い致します!! お願いします桜道士様(さくらどうしさま)ッ!! アナタはユアンの命の恩人です!! 桜道士様(さくらどうしさま)の花嫁姿を拝めないまま、死にたくはありません!!」


 ユアンの母親に継いで女性陣が「私も!!」と挙手する。真剣な眼差しで懇願(こんがん)されては断れない。


 「……はあ。わかりました皆さん。予行練習します」


 タリアの承諾に村人達が拍手喝采(かっさい)した。(ほむら)に一瞥される。


 「いいの? タリア」


 「ああ。練習、付き合ってくれるだろ(ほむら)


 「……何回でも付き合うよ」


 ふたりのお揃いの菊結(きくむす)びのタッセルが微風(そよかぜ)で揺らいだ。(ほむら)はタリアを抱き締め、耳元で「楽しみだ」と呟いたのだった。

最後まで読んで頂きありがとうございます(*´Д`)


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また次回もよろしくお願いします<(_ _)>

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