表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第二幕:~.。.:*✽桜紅の結び✽*:.。.~
56/134

第十八集:魔女の正体


 村人の子供ユアンは魔女のりんごを食べ、「りんごの呪いだ。三日後に死ぬ」と予言された。手足は黒く()れ、命を(むしば)もうとしている。一刻の猶予(ゆうよ)もない。


 タリアは情報を頼りに村の北東(ほくとう)にあるひっそり()いだ森に来た。徒歩(とほ)数十分程度の村に隣接する所謂(いわゆる)里山(さとやま)だ、濃い(きり)に包まれている。

 白い背景にやせ細った木々の枝が(いびつ)に伸びる光景は禍々(まがまが)しい。


 村人の話によれば、ここは子供達の遊び場だ。普段は明るく危険はないと確聞(かくぶん)した。(よう)(いん)に、(すなわ)ち誰か人間にない者が縄張りに選んだ可能性が高い。タリアは注意深く辺りを見渡し、途上(とじょう)、ずっと喧嘩している三人に溜息を吐いた。


 「――孤魅恐純(こみきょうじゅん)、なんでお前がいる!?」


 「――こっちの台詞(せりふ)だよ。足手纏(あしでまと)いが二人も、迷惑だね」


 「――はあ!? お前が迷惑の根源だろ!? 火鬼(ひおに)!!」


 ハオティエン、焔、ウォンヌの押し問答(もんどう)収拾(しゅうしゅう)がつかない。


 「やめなさい三人共!! (ほむら)、キミはこっちで大人しくしてて」


 「わかった」


 (ほむら)はタリアに従順だ。大人しくタリアの右隣(みぎどなり)に並んだ。ようやく(いさか)いが終わる。ハオティエンとウォンヌは、タリアを素早く守れるよう左斜め前に移動し、視界不良の薄暗い周囲を警戒した。神妙な面持ちでウォンヌがハオティエンに訊ねる。


 「……なあハオティエン、マジで魔女かな? 妖術(ようじゅつ)?」


 「……ウォンヌ、魔女はいない。人間は人間だ」


 「ハオティエンが正解だよ」


 魔女は空想上の人物だ。人間に超自然的能力は備わっていない。

 四界(しかい)の者か将又(はたまた)四界(しかい)と人間の血が混ざった四混種(しこんしゅ)か、ユアンを苦しめる者はどちらかだ。


 「ありがとうございますタリア様」


 ハオティエンが礼を述べた。ウォンヌが「(ずる)いぞお前」と文句を零している。肩をぶつけ合い進んでいた二人が突如(とつじょ)、足を止め叫んだ。同時に咲き誇る黒い薔薇(ばら)(いばら)に囲まれた。


 「タリア様!!」


 「誰かいます!!」


 ウォンヌとハオティエンが軍刀(ぐんとう)抜刀(ばっとう)し警戒する。揺らぐ影が徐々に実体化した。こちらに一歩一歩近付き、程よい間合いを空け停止する。


 「――(うるさ)い害虫達ね」


 ひとりの女が現れた。女は黒いベルベット生地の衣服に、黒い細身のパワーショルダーのロングコートを(まと)っている。背中のタブは編み上げのリボンでレースアップされてあった。三角形のフードと、両腕、腰の両サイド、首元、帽子部分には黒い薔薇のレースが(ほどこ)されてあり、胸元の立体感がある薔薇の刺繍は繊細で上品だ。ベルベット生地の高級感あるレギンスも薔薇模様で黒い。厚底の15㎝ピンヒールはレザー素材で編み上げハーフブーツだ。


 容貌(ようぼう)は高低差がくっきりしている。パッチリした目の(ふち)は黒く塗り潰されていて、アイホールの上全体と下瞼(したまぶた)は、赤い色で陰影が作られていた。唇は艶紅(つやべに)が引いてある。鷲鼻(わしばな)とこけた両頬(りょうほお)、吊り上がった眉が印象的だ。黒いミディアムヘアの髪型はスパイラルパーマで真ん中分けされてあった。

 

 彼女は人間や四界(しかい)四混種(しこんしゅ)にあらず、堕神(だしん)だ。強膜(きょうまく)や爪、垣間見える歯、舌が黒い。白い虹彩(こうさい)は不気味だ、斜め45度の姿勢でこちらを射抜いてくる。


 「手土産も無しに私の新しい縄張りに来ないでくれない? 死にたくなきゃさっさと帰って、神は大嫌いなの」


 「じゃあひとついいかな。魔女のりんごを食べてしまった子供がいるんだ。魔女は『呪いのりんごで三日後に死ぬ』と子に(せん)した。心当たりはない?」


 「さあ? ないわ、りんごは大好きよ」


 薔薇の(くき)紆曲(うきょく)し女にりんごを運んだ。女は右手で掴み、丸いりんごに(かぶ)り付いた。白々しい嘘だ。


 ユアンが遭遇した魔女は対峙(たいじ)している堕神(だしん)相違(そうい)ない。タリアは毒々しい雰囲気を(かも)し出す女を直視(ちょくし)する。挑発に乗ってはいけない。丁寧な口調で聞いた。


 「魔女と名乗る者はキミだね。目的は? 子供を治す方法はある?」


 「タダじゃないわ。アンタは私に何をくれるのかしら?」


 「すまない。私はキミに何もあげられない」


 「そ、じゃあ帰って目障りよ」


 女が追い払う仕草をする。答える気はないらしい。

 刹那(せつな)、ハオティエンがハッと何かに気づいた。目線を宙にやる。


 「…………ッ! タリア様! 人間が!!」


 「――――!!」


 ハオティエンが指差す方向に人間がいた。薔薇の(いばら)に縛られ囚われている。数は十を超えていた。助けたいが皆、ぼろぼろに腐食(ふしょく)し死んでいる。ユアンの(ごと)く皮膚は真っ黒だ。


 「タリア様がおられる村人の人間ですか!?」


 「いや、村人は減っていない! 別の村の人間だ!」


 女は新しい縄張り(・・・・・・)と言っていた。恐らく以前の縄張りで殺した人間達だ。近辺(きんぺん)で魔女の噂は広まっていない。つまり女がここに移って日は浅い。


 「(相手は堕神(だしん)。穏便に、はやっぱり無理か……)」


 十中八九、新しい縄張りで堕神(だしん)が最初に目撃した人間がユアンだ。幸運なことにユアンはまだ生きている。荒療治(あらりょうじ)になるものの、りんごの呪いが堕神(だしん)の能力なら本人の消滅で効果は無くなる。今後犠牲者を出さないためにも、理非(りひ)を論せず、堕神(だしん)を死罪に処さなければならない。天上界(てんじょうかい)の神々は天上皇(てんじょうおう)を裏切り離反(りはん)した堕神(だしん)に慈悲は与えない。それが天上皇(てんじょうおう)を愛する天上界の恒久(こうきゅう)の掟だ。


 「逐一(ちくいち)(うるさ)い連中ね……」


 女が瞳孔(どうこう)縮瞳(しゅくどう)させ小言を漏らした。(うごめ)く薔薇の(いばら)、ハオティエンとウォンヌが軍刀を脇構(わきがま)え指示を仰いでくる。


 「タリア様!」


 「タリア様!」


 「――――!!」


 強く頷いたタリアの合図で二人は大地を蹴り上げた。狂気的な双眼(そうがん)でこちらを見下げる女も、両手に(つか)が黒い鋭利(えいり)小刀(こがたな)を握り突っ込んでくる。頭上からは、堕力(だりょく)で強固された薔薇の(くき)(たば)になって襲ってきた。自由自在に伸縮(しんしゅく)し、(とげ)は五センチと鋭い。


 ハオティエンとウォンヌは堕神(だしん)と攻防している。薔薇はタリアが神力(しんりき)で薙ぎ払おうとした。


 「――衝天万炎(しょうてんばんえん)


 けれど一足先に(ほむら)が天を()く勢いで炎を繰り出し、頭上の薔薇を一気に消滅させる。薔薇は焼け焦げ灰燼(かいじん)と化し風で流れていった。堕神(だしん)がハオティエンとウォンヌの刃を、(はす)に傾けた小刀で十字に切って避け、(ほむら)に怒りを爆発させる。


 「よくも私の可愛い薔薇達を!! お前……ッ、鬼界(きかい)火鬼(ひおに)か!!」


 「――火弾壊拳(ひだんかいげん)


 (ほむら)は女を意に介さず、攻撃を畳み掛けた。堕神(だしん)は火の弾丸を八発、上半身に浴びる。透かさずウォンヌが能力で取り出した和弓(わきゅう)に弓を(つが)えて心臓を射抜き、眼光(がんこう)の残像を残すハオティエンが右薙ぎで首を()ねた。


 「ギアアアアア!!」


 黒い霧が噴出する。(つばさ)を授けられていない堕神(だしん)の急所は心臓と首だ。


 「ガア、アアア!!」


 「何だ!?」


 ハオティエンが一旦(いったん)、後方に回避する。堕神(だしん)が消滅しない。


 「ダッ、ガ……アアアアア!!」


 堕神(だしん)()えた。体が黒い霧で再生する。


 「――ハオティエン、ウォンヌッ、私の後ろに!! 呪神(じゅしん)だ!!」


 堕神(だしん)が更に堕ち、自我を失った者が呪神(じゅしん)だ。怒りや恨み、生への渇望、色んな害心(がいしん)黑暗(へいあん)堕神(だしん)を引き摺り堕とし哀れな呪神(じゅしん)にさせる。


 「呪神(じゅしん)!?」


 「あれが!? 僕は初めてみます!!」


 ハオティエンとウォンヌがタリアの命令に従った。

 呪神(じゅしん)堕力(だりょく)は強力だ。上級三神(じょうきゅうさんしん)以下(いか)の神は、心身(しんしん)を容易く(けが)され、堕とされる。


 (あなど)れない相手に出方を窺った。


 「アガ、ガアア、ギャアア!! グハッ―――」


 注視(ちゅうし)していると、閃光が走り、堕神(だしん)の雄叫びが途切れた。


 「――堕神(だしん)恥曝(はじさら)しが」


 漆黒の落雷で瞬殺だ。十二枚の黒い翼を羽ばたかせる男が、呪神(じゅしん)の黒い骨灰(こつばい)を踏み、地上に降り立った。懐かしい光の香りがする。


 「……ルキ」


 「――タリア……、数世紀ぶりだな」


 元上級三神(じょうきゅうさんしん)上位神(じょういしん)、光を司る男神(おがみ)、次男のルキだ。現在の名は輝堕王(きだわう)堕神(だしん)の軍勢を率いる堕神(だしん)の王であった。


明けましておめでとうございます。

今年も桜紅初恋オウコウ・チューリエンの更新、頑張っていくので何卒、宜しくお願い致します。


今年初投稿になります。最後まで読んで頂きありがとうございます(*´Д`)

感想、評価、ブクマ、レビューや、フォロー等々、頂けると更新の励みになります!

また次回もよろしくお願いします(*'ω'*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ