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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第二幕:~.。.:*✽桜紅の結び✽*:.。.~
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第十七集:りんごの呪い


 (たつ)(こく)初刻(しょこく)、青白い空に朝月夜(あさづくよ)がある。土はしっとり朝露(あさつゆ)で濡れていた。風は冷たいが透き通った空気はおいしい。天上界(てんじょうかい)で味わえない地球の息吹きを感じる。


 朝餉(あさげ)を済ませたタリアと(ほむら)は現在、落葉(らくよう)が舞う庭先にいた。(すずめ)達が両脚で跳ねて遊んでいるなか、長柄(ながえ)のやしば(ほうき)で色とりどりに落ちた枯葉(かれは)や落ち葉を掃いている。


 「タリア、寒くない?」


 「平気だ、ありがとう(ほむら)


 常春(とこはる)の天上界は暑過ぎず寒過ぎない。比べて下界(げかい)は四季があった。気候、花、旬の食材、(もよお)しがあり、比較的はっきりとした季節の変化が楽しめる。下界の春待月(はるまちつき)は一年中で太陽の高度が最も低い、夜が長い期間だ。

 生物、植物、動物は様々な方法で越冬(えっとう)に入る。人間の過酷な環境を生き抜く知恵も賢く、感嘆(かんたん)の一言に尽きた。


 下界の冬に慣れていないタリアも今年は地上で年を越すため、数千年の人生で初めてする防寒対策は万全だ。上位神(じょういしん)エルが贈ってくれた(ほむら)とお揃いの外套(がいとう)(まと)い、鬼界(きかい)(ほむら)が選び購入してくれた手袋を着用している。外套は袖なしのマント型ですっぽり全身を覆え、ムートンの手袋はふかふかしていて暖かい。


 「ああタリア、サツマイモあったよね。焼き芋する?」


 「いいね、大好物だ」


 (ほむら)が作る焼き芋は絶品だ。以前、食し、すでに立証されてある。

 取り敢えず一箇所に赤、黄、青の朽葉(くちば)を集め準備に取り掛かった。直後、少し離れた場所で旋風(せんぷう)が発生し二人の男神(おがみ)が現れる。中級三神(ちゅうきゅうさんしん)神官(しんかん)武官(ぶかん)のハオティエンとウォンヌだ。


 「おはよう。ハオティエン、ウォンヌ」


 二人は黒軍衣(こくぐんい)の上に、ウールとポリエステル素材の黒いミニタリーコートを着ていた。下界が冬期(とうき)(さい )に羽織る制服規定だ。ハイネックデザインのスロートラッチで首元は防寒防風に優れている。十二のダブルボタンは全部留めてあった。


 二人は無言で拱手(きょうしゅ)する。


 「…………」


 「…………」


 天上界の掟だ。天上皇(てんじょうおう)の次に汚れなく清らかな神に、上位神外(じょういしんがい)の神々は直接の接触(およ)び会話は許されない。


 「どうぞ、許可するよ」


 「おはようございますタリア様」


 「おはようございます」


 ウォンヌとハオティエンは開口一番(かいこういちばん)に挨拶した。二人は礼儀がある。片や(ほむら)は無論、二人を度外視(どがいし)だ。


 「私になにか用かな?」


 「はい。僕はウリ様から言付けを預かってきました。『お疲れ様でした。ケッキとクリシュナの御霊(みたま)はタリア様の御慈悲(ごじひ)で無事、来世に昇れます。凱歌(がいか)()げるは神にあり』と」


 柳緑村(りゅうきょくむら)で育った二人クリシュナとケッキは、緑鹿(りょくじか)万季地(まきじ)と絡んだ運命に翻弄(ほんろう)され、十八歳の若さで他界してしまった。タリアの情けで魂は救えたが()()無い結果だ。


 「報告を任せてすまない。ご苦労様だったねウォンヌ、ありがとう。ハオティエンは?」


 「俺は上位神(じょういしん)エル様にたまたま纏五殿(まといごでん)逢着(ほうちゃく)し、『下界(げかい)に降りタリアの性別を確認して来い』と命令されたんです。意図不明ですよね」


 「あー……、アハハ……」


 ハオティエンは「謎だ」と首を(ひね)っている。タリアは昨日の朝方、突然来訪してきた上位神(じょういしん)シリスに性別が反転する逆呪(げきじゅ)をかけられていた。期限は一日で、今朝、しっかり逆呪(げきじゅ)の効力は解けている。


 ハオティエン同様にウォンヌも昨日の一件は知らない。エルの摩訶不思議(まかふしぎ)な命令に疑問符を頭上に飛ばしていた。

 

 「……性別? タリア様は男神(おがみ)だ、エル様もご存知だろう。何を確認したかったんだ?」


 二人は仲良く小首(こくび)(かし)げる。苦笑して誤魔化すタリアに代わり、(ほむら)が要点を掻い摘んで説明した。人差し指をピンと立てている。


 「タリアは24時間、シリスって言う(ヤツ)逆呪(げきじゅ)で女神だった。義兄(にい)さんの確認(・・)はそれだね、さっき効力が消えて元通り男神(おがみ)だ。伝言よろしく」


 「は!? シリス様!?」


 「女神!? タリア様が!?」


 バッと刮目(かつもく)された。ハオティエン、ウォンヌの視線は刺々しい。タリアは眉尻を下げ、指先で片頬(かたほお)を掻いている。危機感が足りないタリアに二人は、果然(かぜん)として目を吊り上げた。


 ハオティエンが憂いを帯びた口調で諫言(かんげん)する。


 「タリア様!! もっと全方位を警戒し、緊張感を持って下さい!! 他の神と平等に接し信じる貴方の姿勢は美徳で尊敬に値しますが、万一を念頭に入れるべきです!!」


 「僕もハオティエンと同意見です!! シリス様の性悪(しょうわる)さは天上界一ですよ!? 今回は(なん)を逃れておりますが、今後は(すき)を見せないで下さい!!」

 

 ()いでウォンヌに苦言(くげん)(てい)された。一息に(まく)し立てられる。普通なら下神(かしん)上位神(じょういしん)意見具申(いけんぐしん)する行為は言語道断(ごんごどうだん)で最悪天上界(てんじょうかい)追放だ。


 だがタリアは真摯(しんし)に二人の想いに耳を傾けた。


 「ありがとう、ハオティエン、ウォンヌ。私の油断で心配をかけて申し訳ない。心に留めておくよ」


 非を素直に認める。タリアは二人の指摘に感謝し、謝罪した。下神(かしん)に責められて嫌な顔ひとつしていない。


 「……え、と。はい」


 「……いえ、はい」


 上位神(じょういしん)タリアは寛大(かんだい)だ。完全に毒気を抜かれてしまった二人は、太刀打ちできず首肯(しゅこう)せざるを得ない。口を噤んだ二人のタイミングを見計らい、(ほむら)がタリアに耳語(じご)する。


 「タリアの女神は可愛かったよ」


 「蒸し返さないで(ほむら)……」


 タリアは耳輪(じりん)を赤らめた。そこへ突如(とつじょ)、村人の夫婦が駆け寄って来る。父親が背負った子供の様子がおかしい。


 「――桜道士様(さくらどうしさま)!!」


 「――桜道士様ッ、ウチの息子が!!」


 「如何(いかが)されました!?」


 「助けて下さいッ、息子が!!」


 父親がタリアの(そば)で子供を下した。母親が子供の上半身を支え、子供を地面に座らせる。そして広袖(そでひろ)袢纏(はんてん)股引(ももひき)(すそ)(めく)った。


 「――――ッ!」


 手足が真っ黒だ。手首に触れてみると水分のない()れた表面はざらざらしている。人間の皮膚の手触りではない。


 母親が涙声(まみだごえ)で必死に懇願(こんがん)してくる。

 

 「朝方、(うな)っていて! たちまち黒くなったんです! 桜道士様(さくらどうしさま)法力(ほうりき)で助けて下さい!! ウチのユアンを!! まだ五歳なんです!! お願いします桜道士様!!」


 「うぅ……、桜道士、様……」


 ユアンは昨日、タリアに白い椿の花をあげた子供だった。袢纏(はんてん)の内側のポケットに一枚、エルの羽根が入っている。タリアはエルの羽根を、ユアンの心臓付近(しんぞうふきん)で両手に握らせた。


 ユアンの呼吸が楽になる。エルの加護の効果だ。


 「はぁ……」


 「ユアン、ユアン、私の声が聞こえるかい?」


 「うん……、桜道士様(さくらどうしさま)……」


 「何があった? 誰かに何かされたのか?」


 「……もしやシリス様が? 彼は冥官(めいかん)(おさ)です」


 ハオティエンが疑うのも無理はない。彼は生命の死を(つかさど)る神だ。大地にない新しい病原菌を()き人間の生死を見守る役目を担っている。


 「いや、病の(たぐい)と思えない……。シリスはひとりを目的としない。疫癘(えきれい)が彼の任務だ」


 タリアは小声で否定した。間を開け、ユアンが質問に答えてくれる。子供(ゆえ)に言葉遣いはたどたどしい。


 「りんご……を、ね。食べちゃった、んだ……」


 「誰のりんごだったのかな?」


 「魔女、さん……の……」


 「魔女……」


 超自然的な妖術(ようじゅつ)人畜(じんちく)に害を及ぼす人間を、下界(げかい)の人間は魔女と呼んだ。古い伝承(でんしょう)で実在はしない。


 「魔女、さんがね……、僕はりんごの、呪いで、……三日後にし、ぬ……って、ほんと?」


 「イヤアアアア!!」


 母親が号泣した。父親が母親を抱き締め涕泣(ていきゅう)している。タリアは二人を一瞥(いちべつ)し、ユアンに微笑した。


 「ユアンは私に椿の花を捧げてくれた。お礼をしなきゃね、私が魔女さんに謝ってユアンを元気にするよう頼んでくるよ。魔女さんのりんご、どこで食べたか(おぼ)えている?」


 「え、とね……、あっち……」


 ユアンが指差す方角は北東(ほくとう)の森だ。ユアンの両親が平伏(へいふく)嘆願(たんがん)してくる。


 「桜道士様(さくらどうしさま)ッ、何卒(なにとぞ)!! 何卒(なにとぞ)ッ!!」


 「ユアンをお助け下さいッ、桜道士様(さくらどうしさま)!!」


 「ああっ、二人共、やめてくれ頭を上げなさい! お二方はユアンを安静に、私はユアンが会った魔女を捜して来ます。羽根はそのままで、いいですか?」


 「はい……、はい……ッ!!」


 「桜道士様(さくらどうしさま)ッ、お願いします……ッ!!」


 ユアンの症状は深刻だ。魔女と名乗る者は相当な手練(てだ)れに相違(そうい)ない。タリアは四界(しかい)の者を脳裏の片隅(かたすみ)に置き、北東(ほくとう)の森に(おもむ)く決意を固めたのだった。



今年最後の更新となります、ここまで読んで頂いて、ありがとうございます!

感想、評価、ブクマ、レビュー等々、頂けると更新の励みになります(*´Д`)


今年は小説を書き始め、読者様や、同じように小説を書かれている仲間の皆さんのお陰で、たくさんの事を学べた年となりました。

改めて、いつも桜紅初恋を読みにきてくださる皆さん、本当にありがとうございます。

来年も変わらず、頑張って執筆していきますので、よろしくお願い致します<(_ _)>


よいお年をお迎えください。

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