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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第二幕:~.。.:*✽桜紅の結び✽*:.。.~
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第十五集:冥官の長シリス

 

 村に帰って来たタリアと(ほむら)は二人の住まう藁葺屋根(わらぶきやね)の家にいた。

 二人は山桜(やまざくら)の木が用いられた囲炉裏(いろり)に座っている。継ぎ目が立派な木の囲炉裏鉤いろりかぎに鍋がかかっており、ぐつぐつ煮込まれている鍋の中は野菜で溢れていた。人参や玉ねぎ、白菜、ネギ、キノコや大根、味が淡白な魚のタラも入っている。すべて村人達が桜道士(さくらどうし)、タリア神像(しんぞう)に捧げた神饌(しんせん)だ。有難い。


 任務を終えて疲れてはいるが、タリアは空腹が勝っていた。お腹が鳴るタリアに「何か食べよう」と(ほむら)が提案し現在に至る。タリア主義でタリア限定の(ほむら)の気遣いだ。


 「――はい焔」


 「ありがとうタリア」


 野菜は火が通るのが早い。くたくたにならないうちに、タリアが鍋の具材を御椀(おわん)によそった。二人で一緒に食べ始める。


 「美味しい!」


 タラの出汁が野菜に染み渡り、旨みが増加していた。鍋物は代謝を上げ、具材の栄養を丸々摂取できる。(すぐ)れた料理だ。


 「タリアが作ったんだ。絶対に美味しいよ」


 「ハハ、ありがとう」


 (ほむら)の感想で鍋がより美味しく感じた。褒められて悪い気がする者はいない。

 タリアは礼を言い、湯気の立つ野菜を多めに(はし)で摘まみ、口内に放り込んだ。


 案の定、口腔内(こうこうない)が悲鳴を上げる。


 「――()ッ」


 「タリアッ」


 (ほむら)が茶碗を置き、正面に()すタリアに駆け寄った。


 「……へ、平気だ」


 タリアは咀嚼(そしゃく)し何とか飲み込んだ。多少、喉や粘膜がひりひりするが騒ぐほどではない。


 「タリア、舌、出してみて」


 「……(ほむら)、大丈夫だ。ちょっと火傷した程度だよ」


 「出して」


 半ば強制的な強い語調(ごちょう)だが、(ほむら)は怒ってはいない。(しか)められている眉も、心配の裏返しだ。


 「…………っ」


 おずおずとタリアは舌を出した。他人に舌を(さら)す行為は初めてで(いささ)か恥ずかしい。


 「タリア、そのまま」


 (ほむら)がまじまじと直視(ちょくし)する、両頬(りょうほお)を赤く染めたタリアの舌は鳳仙粉(フォンシェンフェン)色で綺麗だ。タリアは(ほむら)の熱っぽい眼差しに涙目になる。そろそろ限界でタリアが舌を引っ込めようとした矢先、顔を近付ける(ほむら)が自分の舌を重ねてきた。

 

 「わっ……んぅ……!!」


 反射的に体が逃げてしまう。だが(ほむら)の右腕が背に回り阻止された。動けない。


 「待っ、て焔……っ」


 舌を(から)める口づけは初めてだ。キスの合間に制止を求めたが、するり割って入ってきた舌に()らわれる。


 「んっ……、ぁ……はっ……」


 後頭部を固定され口づけが濃くなった。脳内の奥が痺れる感覚も初めてだ。


 「んぅ……ン……」


 執拗(しつよう)口腔(こうくう)を掻き回され、舌で歯をなぞられる。やんわり甘噛みされたり、キツく吸い上げられたり、一方的に翻弄(ほんろう)された。どちらのかわからない唾液がタリアの口端(こうたん)を伝い落ちる。息苦しさに(ほむら)を引き剥がした。


 「もっ、ほ、むら……!」


 「ハ……」


 白い息を吐く焔の、劣情(れつじょう)をはらんだ双眼(そうがん)(なま)めかしい。愛くるしい獲物を眼前に理性が効いてない様子だ。


 「ま、待って、(ほむら)……」


 タリアは経験値がない。焦らず徐々に関係を築きたい意向は(ほむら)も承知している。


 「もっとキスしたい。だめ?」


 「……だめ、じゃ……、ないが」


 湿った唇を(ぬぐ)われて羞恥で思わず視線を逸らした。(ほむら)の指先に(あご)のラインを撫でられる。そっと正面を見やれば(ほむら)下唇(かしん)(ついば)んできた。


 「ん……」


 再び、舌先が忍び込んでくる。背筋がぞくぞくおののいた瞬間、玄関の戸がドンドンドンと叩かれ、陶酔(とうすい)する意識が浮上した。ハッと(ほむら)の胸元を押し退け、返事をしながら立ち上がる。


 「は、はい!! います!!」


 「チッ……」


 後方で(ほむら)露骨(ろこつ)に舌打ちしたが気に留めない。あの調子で甘い刺激に懐柔(かいじゅう)されていたら、先は言うまでもない。


 タリアは呼吸を落ち着かせ扉を開けた。


 「――ようタリア」


 村人と思いきや、予想だにしない来客だ。戸口(とぐち)にいる人物に瞠目(どうもく)したタリアが一歩後退る。


 「シリス……」


 シリスは(もっと)位階(いかい)の高い上級三神(じょうきゅうさんしん)上位神(じょういしん)、生命の死を司る男神(おがみ)だ。冥官(めいかん)(おさ)で、人間の魂の管理を担っている。数百年ぶりの再会だった。


 (ほむら)はタリアがシリスにたじろいだ一瞬を見逃していない。


 「タリア誰コイツ、天上臭い(・・・・)ね神?」


 手首を掴まれたタリアは焔の背中に(かば)われる。(ほむら)はシリスに喧嘩腰だ。

 

 「……コイツはやめなさい。上位神(じょういしん)シリスだ、私の兄だよ」


 「兄ね……」


 「へえ、お前が火鬼(ひおに)か」


 シリスは白のフードが深いローブマントを(まと)っていて表情は一切、(うかが)えない。袖口や丈も長く、足下の(すそ)は引き摺っていた。

 

 シリスは下界(げかい)で「死神」と呼ばれる存在だ。川の枯渇(こかつ)、土地の乾燥、植物の再生、そして地上にない病原菌を()き人間の生死を見守る。死と復活が彼の役目だ。

 天上皇(てんじょうおう)直々(じきじき)の命に従い、大地を巡り任務を(こな)冥官(めいかん)は特別で、下界に降りた神々の人数に足されず、五事官(ごじかん)討伐(とうばつ)要請をしない。


 「シリス……、私にいったい何の用だ?」


 タリアはシリスが大の苦手だった。天上皇(てんじょうおう)に忠義が厚い姿勢は尊敬する。けれど幼い頃はよく(いじ)められ泣かされた。大人になっても接し方は変わらない。警戒して当然だ。


 「んな身構えるな、タリア。久々に天上(てんじょう)に帰って驚いたぜ。お前が火鬼(ひおに)と婚約したって、エルが煩くてな。可愛い末弟(まってい)の吉報だ、わざわざ(・・・・)会いに来てやったんじゃねえか」


 本当か嘘か判断に困る。しかしシリスが多忙なのは事実だ。素直に兄の来訪(らいほう)を喜ぶべきなのかもしれない。

 

 「それはありがとう……」


 「わざわざ(・・・・)ありがとう」


 語頭(ごとう)を強調させる(ほむら)の作り笑顔は怖かった。シリスは2m50㎝ある背丈の腰を曲げ、肝が据わった(ほむら)を観察しつつ助言してくる。


 「なあタリア。俺四界(しかい)に詳しくねえがコイツ……、火鬼(ひおに)君やめとけば? 性格やばそうじゃん腹黒いんじゃね?」


 シリスは四界(しかい)世情(せじょう)や情勢に(うと)い。接点を持つ機会がないため致し方がない発言だが、神経を逆なでされた(ほむら)の放つ空気は禍々(まがまが)しい。

 

 「アハハ……、すまない。いい子なんだよ」


 「いや、いい子の(ツラ)じゃねえよ」


 即座(そくざ)に否定された。いまの(ほむら)憎悪(ぞうお)感を(あら)わにした顔付きだ。

 

 「え、と……シリス、お茶飲んで行くかい?」


 「いやいい」


 話題を切り替え誘ったが断わられる。(ほむら)が右手を上げて挨拶した。


 「じゃあ、さようなら」


 「マジで腹立つなお前。まあいい、タリア」


 シリスは(ほむら)に文句を零し、タリアを呼んだ。


 「なに? シリス」


 「俺の(いわ)いだ受け取っておけ、期限は一日だ(たの)しめよ」


 シリスがふっと太息(ふといき)をタリアに浴びせた。刹那(せつな)タリアが一喝(いっかつ)し、両手で自分を抱き締め(うずくま)る。


 「シリス!!」


 「じゃあな」


 シリスは煙となり忽然(こつぜん)と消えた。(ほむら)(ひざ)を折り、タリアを覗き込んだ。


 「タリア? 何かされたの?」


 「……、逆呪(げきじゅ)だ」


 タリアが発する声音は弱々しい。(ほむら)におうむ返しされる。


 「逆呪(げきじゅ)?」


 「びっくりしないで……」


 タリアは意を決し両腕を解いた。


 「ハ……」


 (ほむら)が上下の睫毛を開き、朱色(しゅいろ)の目を丸くさせる。タリアの胸部(きょうぶ)がふんわり膨らんでいた。(なめ)らかな谷間がある。


 「……はあ、油断してしまった」


 タリアは自分を責めた。シリスの能力のひとつだ。逆呪(げきじゅ)は生物や生体の性別や年齢を(あやつ)れる。男が女、女が男、子供が大人、大人が子供、24時間と効果は解けない。


 「……タリアが女神に……」


 ぶつぶつ独り言ちる焔がのそり覆い被さってきた。


 「あ、ちょ、(ほむら)!?」


 「女神のタリアもいい匂いがする」


 首筋に生温かい舌が這う。指先で脇腹(わきばら)を撫でられ(くすぐ)ったい。


 「だめだ(ほむら)! いけないっ!!」


 「――婚前(こんぜん)に!! 貴様は!!」


 必死に藻掻(もが)くタリアの柔らかい箇所に(ほむら)が手を添える寸前、突如(とつじょ)、現れた正義を司る上位神(じょういしん)エルに蹴り飛ばされた。(ほむら)は積んである(まき)に突っ込んだ。


 「ああっ、焔!? ――ってエル!?」


 「やあ義兄(にい)さん」


 (ほむら)は至って普通に起き上がる。掠り傷ひとつない。


 「……シリスの奴め」


 末弟(まってい)末妹(まつまい)だ。女神タリアを一瞥し、エルが眉間に(しわ)を刻んだのだった。

最後まで読んで頂きありがとうございます<(_ _)>


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今日は一段と寒いです。皆さん暖かい格好、場所でお過ごしください!

また次回もよろしくお願いします(*'ω'*)

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