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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第二幕:~.。.:*✽桜紅の結び✽*:.。.~
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第十四集:黒衣官のサファ

 

 下界(げかい)の任務を終え、中央往来(ちゅうおうおうらい)()を使い、天上界(てんじょうかい)に戻ってきた。下層に屋根のない二階造りの楼門(ろうもん)を潜る。


 「じゃあな、ウォンヌ」


 「ああ」


 ウォンヌと別れたハオティエンは纏五殿(まといごでん)に向かった。外城(がいじょう)天上皇(てんじょうおう)の目覚めで格官職(かくかんしょく)それぞれ日常を取り戻し落ち着いている。通常が忙しい五事官(ごじかん)は例外だ。


 文歴官(ぶんれきかん)がいる千才殿(せんさいでん)医研官(いけんかん)のいる万医生殿(まんいせいでん)を遠目に歩き、半時(はんとき)で目的地に辿り着いた。纏五殿(まといごでん)は二階建てだ。黒瓦(くろがわら)(すみ)が塗られてある黒壁(くろかべ)が特徴的な宮殿で、床は磨かれた黒御影石床(くろみかげせきしょう)黒大理石(くろだいりせき)の柱は繊細な模様が(ほどこ)されてあり美しい。全体的に黒々しいが上品さはあった。


 黒衣官(こくいかん)は普段、纏五殿(まといごでん)にいない。ハオティエンは裏手に回る。


 「――サファ様」


 目的の人物を発見した。纏五殿(まといごでん)の反対側は鍛冶場(かじば)になっている。たくさんの鍛冶場が(のき)を連ねているが、纏五殿(まといごでん)の背面は黒衣官(こくいかん)(おさ)鍛冶場(かじば)だ。


 加熱した金属を載せる鋳鉄製(ちゅうてつせい)鉄床(かなとこ)があり、多種のハンマーが丸太に取り付けた金属のフックにかけられている。床の隅に重ねられた(まき)、脚付きの万力(まんりき)もあった。

 アーチ形状の()耐火(たいか)レンガで温度は1000度に達している。


 「……ん。ハオティエンじゃないか。久しぶり」


 丸太の椅子に座って休憩するサファが簡略(かんりゃく)な挨拶をした。


 サファは四番目の位階(いかい)中級三神(ちゅうきゅうさんしん)神官(しんかん)得物(えもの)を司る男神(おがみ)黒衣官(こくいかん)(おさ)だ。

 黒衣官(こくいかん)は機器や備品、武器や防具の管理、施設の維持運営を担っているが、軍事以外の行政事務を執り行う文歴官(ぶんれきかん)の文書管理も手伝っている。


 服装は黒ずくめの特殊な衣装、黒衣(くろご)だ。

 腹掛(はらがけ)股引(ももひき)、着物、帯が黒で、黒頭巾(くろずきん)のベールは生地が二重になっており、手甲(てっこう)の先の輪っかを中指に引っ掛けている。靴は黒の地下足袋(じかたび)だ。背中に自分の背丈、201㎝を優に超える大鎌(おおがま)を背負っていた。

 背中に白文字で書かれた「一」の横棒は「(おさ)」の意味だ。他の黒衣官(こくいかん)は「(しょく)」の白文字が書かれてある。


 外見は虹彩(こうさい)や睫毛は黒、二重瞼で彫は深い。ぱっちりとした目の縁や唇は黒く塗り潰され異彩を放っているが、鼻筋が通った鼻は高く、黄金比率に当て()まる顔立ちだ。両耳に二分の一インチ、(すなわ)ちハーフインチの滴型(しずくがた)オブシディアンのピアスを付けている。オブシディアンは古来より(おの)や刃物に使用されてきた天然石だ。魔除けや厄除け効果がある。黒髪の髪型は全頭(ぜんとう)、コーンロウ毛先ブレイズだ。編み下ろされた髪は腰下にかかる程度に長い。

 

 「お久しぶりです。刃毀(はこぼ)れした刀、預けたいんですが」


 「ん。いいよ、預かる」


 ハオティエンの申し出にサファはすんなり了承した。


 「よろしくお願いします」


 腰に差す軍刀(ぐんとう)を抜き、サファに手渡す。サファは抜刀した刃を光に照らし、左右に傾け、欠けた部分を念入りに確認していた。刀は「折れず曲がらずよく切れる」なんて強靭(きょうじん)さが下界で有名だが実は非常に(もろ)い。刀剣の構造上、(ひら)(むね)で大きな衝撃を受ければ容易く折れてしまう。


 「んー……。未熟じゃないお前が珍しいね、任務で?」


 「はい。硬い(つる)にやられました」


 刀毀(はこぼ)れの原因は先刻の一戦だ。万季地(まきじ)傑出(けっしゅつ)した鹿力(しかりょく)(あやつ)(つる)は、(はがね)(ごと)く硬かった。


 「んー(つる)ね。四日でいい? ちょっと修理が立て込んでて」


 「はい。待ちます」


 サファは三百五十歳と若いが腕はいい。天官軍(てんかんぐん)総帥(そうすい)エルのお抱えだ。才能を買う神は多く、多忙(ゆえ)に本来、神兵(しんぺい)の依頼は引き受けてもらえない。

 ハオティエンはアレス武官長(ぶかんちょう)の息子、便宜(べんぎ)を図ってくれる父親の力、()わばコネクションでサファと面識を持ち、「お前はいいよ」と特別に優遇されていた。五事官(ごじかん)(おさ)ウリの息子、ハオティエンの幼馴染ウォンヌも然りだ。

 

 「ん。身幅(みはば)と肉厚が減少する。刃文(はもん)が抜けるな。んー……、(めく)れた傷だし新しいの作る?」


 「え……新しい刀、作って下さるんですか?」


 刀の作刀(さくとう)工程は素材となる玉鋼(たまはがね)水減(みずへ)しで選別し、厳選した玉鋼(たまはがね)を折り返し鍛錬(たんれん)する。

 次に刀の形を火造(ひづく)りで整形して、刃文(はもん)()りが生じる焼き入れに移り、最後に刀鍛冶(かたなかじ)自身が刀を研ぐ鍛冶押(かじお)しで仕上げ、自らの名前を刻む銘切(めいき)りを()て終了だ。

 労力の要る作業に負担をかけてしまわないか、ハオティエンは心配になった。


 「ん。能力発揮できない刀でお前に不覚を取らせたくない。俺の矜持(きょうじ)が許さない、いい?」


 万一(まんいち)がハオティエンを襲ってはいけない。前途(ぜんと)危惧(きぐ)するサファの気持ちを、ハオティエンは汲み取り委任(いにん)する。


 「はい、ありがとうございます。サファ様にお任せします」


 「ん。ハオティエンお前、上位神(じょういしん)タリア様の護衛してるって?」


 唐突(とうとつ)に話が切り替わった。じっと直視(ちょくし)され答えざるを得ない。


 「まあ、はい。数回ですが」


 「んー、数回も。凄いじゃん。俺も(じか)に会ってみたいな。火鬼(ひおに)と婚約したって、本当なの?」


 サファは鍛冶場(かじば)(こも)りっぱなしだ。情報の入手方法は限られている。他人に聞いた噂が(まこと)(いな)か、ハオティエンで確かめていた。


 「……認めたくないですが」


 夢であれと日毎夜毎(ひごとよごと)、願っている。けれど火鬼(ひおに)とタリアはお揃いの耳飾り、菊結(きくむす)びのロングタッセルを左耳に吊り下げていた。天上皇(てんじょうおう)が二人の将来を許した証が現実だ。


 「ん、本当か。流言(りゅうげん)じゃなかったのか。なんで火鬼(ひおに)?」


 「なんで、わかりません。俺も『なんで』状態です」


 豊さと開花を司る上位神(じょういしん)タリアは見目麗しく、惹かれない神々はいない。タリアを慕い恋う神々の中には上級三神(じょうきゅうさんしん)もいる。

 しかし彼らはタリアを崇拝(すうはい)するのみで行動せず、数千年と互いを牽制(けんせい)し合った結果、火鬼(ひおに)に横取りされる最悪な現状を迎えてしまった。まさに悲劇だ。


 「んー。タリア様って憧憬(しょうけい)(まと)だよね。女神にない謙虚さがあるし。(めと)りたい男神(おがみ)、いっぱいだっただろ」


 「まあ、でしょうね」


 「ハオティエン、お前も?」


 「滅相もない。俺はタリア様を崇敬してます。上級三神(じょうきゅうさんしん)で公平を期する神はタリア様くらいです。愉快にない中級三神(ちゅうきゅうさんしん)下級三神(かきゅうさんしん)もいるでしょう。守ってあげたいんです」


 純真無垢な上位神(じょういしん)タリアは階位(かいい)(かかわ)らず平等で優しい。タリアの魅力的な一面を賛称する神々がいる一方で、それを(ひが)み、妬み、対抗心や敵対心を抱く神々も少なからずいる。タリアが傷付けられないよう、ハオティエンは傍に仕え護衛したい。曇りのない本心だ、偽りはない。


 「ん。武士の(かがみ)だね」


 「ありがとうございます」


 「――サファ」


 そこへ突如、正義を司る男神(おがみ)天官軍(てんかんぐん)総帥(そうすい)上位神(じょういしん)エルが現れた。

 サファとハオティエンが直立し、無言で拱手(きょうしゅ)する。


 「宮殿に来い。剣を研いでくれ」


 エルは白軍衣(はくぐんい)白軍帽(はくぐんぼう)を被っていた。靴は白い長靴(ブーツ)だ。白軍衣(はくぐんい)はハオティエンの黒軍衣(こくぐんい)と色以外に比類(ひるい)はない。ただ数点、袖口の折り返しやサイドズボンの(ふち)肩章(けんしょう)や鉢巻と天井部のパイピングは金色だ。


 白く短い髪を後頭部で束ね、二重瞼の白い両眼は額と合わせて三つある。目鼻立ちがよく唇や肌は白い。


 「…………」


 「ああ、喋っていい」


 「ん。行きます」


 エルの許可を得てサファが首肯(しゅこう)した。


 「黒軍衣(こくぐんい)……、ああお前はタリアといた武官(ぶかん)か」


 エルがハオティエンを一瞥(いちべつ)し、目を見張る。文龍(もんりゅう)の一件で二人は対面済みだ。


 「ん。エル様、タリア様ご婚約おめでとうございます」


 刹那(せつな)、サファが祝福の言葉を贈った。突然の爆弾の投下にハオティエンが青ざめる。天上界の既知の事実、エルがブラザーコンプレックスだとサファは知らない。


 「…………」


 禁句の呪文を唱えられ、エルが制止した。正しくは気絶した。白い眼が裏返っている。


 「――エル様!! 接触のご容赦を!!」


 「ん? なに……」


 サファがきょとんとした。エルの体が崩れかけ、ハオティエンが咄嗟(とっさ)に支える。エルの再起動に約一時間を要したのだった。

 

最後まで読んで頂きありがとうございます(*'ω'*)


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また次回もよろしくお願いします!!

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