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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第二幕:~.。.:*✽桜紅の結び✽*:.。.~
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第十一集:プーパの誕生


 目覚めたケッキは鏡に映る自分を見て一驚(いっきょう)した。


 「……(えだ)?」


 頭部に二本、枝が生えている。十五センチに満たない長さだ。恐る恐る触ったが痛みはない。

 黒かった瞳の色も変異(へんい)していた。緑色だ。黒い長髪は短髪になっている。

 服は真っ白な深衣(しんい)を着ていた。靴は白いサテン生地で、葉っぱの刺繍(ししゅう)(ほどこ)されてある。柳緑村(りゅうきょくむら)の民族衣装と異なった可愛い(よそお)いだ。


 「……鹿(しか)の人いないな」


 鏡の前で一通り回り、辺りを見渡した。ヒノキ材をふんだんに使用した小屋は、六畳が二部屋ある。扉や窓はなく玄関はひとつだ。家具はベッドに机や椅子と、最低限の物しか置かれていない。


 「――おや、起きていたのか」


 そこへ丁度、万季地(まきじ)が帰ってきた。ケッキが口を開く前に万季地(まきじ)が説明する。


 「瀕死(ひんし)状態だったキミを、俺の血で創り変えた。人間の細胞は(もろ)くてね、成功は(まれ)だ。キミは素晴らしい逸材だよ。鹿と人間、四混種(しこんしゅ)の誕生に俺も嬉しい」


 ケッキは告げられた概略(がいりゃく)に驚きが隠せない。許容範囲(きょようはんい)を超えている。だが彼の「生きたいか」に応えたのは、(まぎ)れもないケッキ自身だ。唖然(あぜん)とするが万季地(まきじ)を恨んだりはしない。後悔も一切ない。


 (みじ)めに死なずに済んだ。生かしてくれた万季地(まきじ)にケッキは感謝する。


 「あ……た、助けてくれてありがとうございますっ! お名前を(うかが)いたいんですが!」


 「万季地(まきじ)だよ。君は、んー……、プーパだ。新しい人生だ。新しい名前をあげよう」


 「プーパ……ッ、ありがとうございます万季地様!!」


 万季地にもらった名前にケッキは喜んだ。プーパの体は綺麗で昨日の傷跡はない。(ゆえ)に昨日の悪夢は自分のものではない。ケッキのものだ。プーパは無意識な防衛機制(ぼうえいきせい)で、胸中(きょうちゅう)でケッキを殺した。汚されていない四混種(しこんしゅ)のプーパこそが自分だと自己暗示する。


 「プーパ、散歩に行かないかい?」


 「はい!! 万季地様!!」


 プーパは万季地(まきじ)の誘いに二つ返事で外に出た。澄んだ空気は美味しい。肺に目一杯、酸素を吸い込んだ。


 「はあ~、気持ちいいですね」


 「こっちだよ」


 「はい!」


 プーパが雨緑樹林(うりょくじゅりん)(いざな)万季地(まきじ)の背中を追う。乾季(かんき)の時期の樹木、チークや沙羅双樹(さらそうじゅ)、ラワンは葉をすっかり落としてしまっていた。地面は地表に現れる根っこが()き出しだ。

 木の根道(ねみち)(しば)し縫い歩き、ふと万季地(まきじ)が歩を休める。プーパも必然と制止した。


 「プーパ」


 「はい万季地様」


 「昨日の人間、四人を埋めた場所だよ」


 「へ……、……っ」

 

 万季地(まきじ)唐突(とうとつ)な発言にプーパは息を呑んだ。つい爪先立(つまさきだ)ちになってしまう。


 「俺はね、プ-パ。森を敬愛している。森の再生活動を行っているんだよ。地上は五界(ごかい)に分かれ乱脈(らんみゃく)を極めている。俺は五界(ごかい)を束ね、五界の王となり、地上を別天地(べってんち)(うた)われる楽園にしたいんだ」


 万季地(まきじ)の夢は壮大だった。毎日を何気なく生きていたプーパは感銘(かんめい)を受ける。けれど前言(ぜんげん)との繋がりがわからない。


 「敬愛されている大事な森に何故(なぜ)……、埋めたのですか?」


 腐敗した血肉(けつにく)で大地が汚染されないか心配だ。生前の悪行を思うに、四人の男はきっと赤い血が流れていない。プーパの疑問に万季地(まきじ)微笑(びしょう)し答える。雲間(くもま)の一筋の光を浴び、緑色の虹彩(こうさい)が輝いていた。


 「――何故(なぜ)? 与える栄養で木々は育つ。人間はいい肥料なんだ」

 

 「肥料……」


 「彼らは土に還り役立つんだ。豊かになるんだよ。すべてがね」

 

 悪い人間は、死んで万季地(まきじ)の願う未来に貢献する。悪い人間がいない世界をプーパは望んだ。万季地が下界を治めてくれたら必ず叶う平穏の世にプーパは期待した。プーパも万季地(まきじ)の力になりたい。万季地の(よこしま)な野心が須臾(しゅゆ)に、プーパの螺旋状(らせんじょう)に形成した複雑で純粋な野望となる。


 「万季地様(まきじさま)!! 万季地様は仰って下さいました!! 『悪い男を退治してはどうだろうか? か弱い女の子を救う生き方だ』と!! 万季地様に助けられたこの命、万季地様を五界(ごかい)の王にするため、私も悪い男達を土に還し、尽力(じんりょく)して参ります!!」


 姦人(かいじん)一掃(いっそう)したい。四混種(しこんしゅ)のプーパが声高(こわだか)に宣言した。直後、暗緑色の深衣を(まと)青銅面(せいどうめん)を被った半透明の人間達がプーパの周囲に集まった。彷魂(ほうこん)だ。


 「キャアッ!! ななな、なに!? 幽霊!?」

 

 「アハハ、幽霊か、だよね。天上(てんじょう)じゃ彷魂(ほうこん)だよ。四混種(しこんしゅ)の独特な匂いで寄ってきたんだ。キミの人間であって人間じゃあない香りは彷魂(ほうこん)と似ている」


 (よう)は体臭が一緒で仲間と勘違いされている。プーパは愕然(がくぜん)としたが、突如(とつじょ)(ひらめ)いた。


 「万季地様(まきじさま)っ、彷魂(ほうこん)をお借りしてもいいですか!? 軍隊を結成し、私が陣頭指揮(じんとうしき)()ります! 万季地様(まきじさま)の領域を私が下界(げかい)に展開します!!」


 我ながら良い案だ。彷魂(ほうこん)が味方にいれば臆さずいられる。


 「いい発想だね。彷魂(ほうこん)私怨(しえん)が強い、果たして(ふく)すか。意思疎通は図れるかい?」


 「……疎通(そつう)、……彷魂(ほうこん)! あっちに行って!」


 試しにプーパが命令した。


 「ガ……ヴア、ァ……ダ……」


 彷魂(ほうこん)があっち、の(こけ)むした(いわお)に移動する。互いの旨意(しい)の認識は共有可能だ。


 「へえ……、プーパは凄いな」


 万季地(まきじ)が褒めた。五芒星(ごぼうせい)の双眸の奥がニタリ笑う悪計(あっけい)をプーパは知る(よし)もない。


 「ありがとうございます万季地様っ!!」


 「プーパを助けた俺が助けられているよ。俺達は同志(どうし)だ、よろしくねプーパ」


 「同志……、はい万季地様!!」


 崇高(すうこう)万季地(まきじ)と明るい明日を目指す、意義ある生き方だ。燃える意欲にプーパは点頭(てんとう)した。万季地(まきじ)はプーパの頭を撫で、彷魂(ほうこん)に視線をやる。


 「彷魂(ほうこん)に刀を授けよう。初陣(ういじん)はキミに有利な熟知したる土地がいいだろうね」


 万季地(まきじ)彷魂(ほうこん)に刀剣を与えた。無知なプーパに示唆(しさ)した。


 その日を(さかい)柳緑村(りゅうきょくむら)で行方不明者が続出する。浪費癖がある男、喧嘩癖がある男、暴力癖がある男、賭博(とばく)博奕(ばくよう)癖がある価値のない男達を、プーパは彷魂(ほうこん)(いん)の妖気で満ちた亥の刻に(さら)い、丑三つ時で殺し、埋葬(まいそう)した。プーパは自分が振り(かざ)す正義を疑わない。掘った穴の数だけ平和が訪れると信じ、万季地(まきじ)心酔(しんすい)する。


 あの日の夜――黄色いストールを忘れたことが原因で、あの日の夜――四人の男に強姦(ごうかん)されてしまったことが要因(よういん)で、弱者を救う目的と悪漢(あっかん)を排除する方法が、三週間で三十六人の人間達(おとこたち)の命を奪う結果となってしまった。


 吉凶禍福(きっきょうかふく)(わざわい)悪因悪果(あくいんあっか)(まぬが)れない。

 ――クリシュナの絶命(ぜつめい)はプーパが招いた因果応報(いんがおうほう)だ。


 ケッキは血塗(ちまみ)れのクリシュナを抱き締める。


 「死なないでッ、クリシュナッ!! ごめんなさい!! 私、ケッキなの!! ねえっ、クリシュナ!! 起きてよクリシュナ!!」


 クリシュナは応答しない。大切な幼馴染が、初恋の人が、自分のせいで死歿(しぼつ)してしまった。万季地(まきじ)が遠くで嘲笑(あざわら)っている。傀儡(くぐつ)にされていたケッキは()やみ、事態の深刻さに天を仰いだ。


 「いや……いや……、あ、ぁ……神さ、ま……」


 精神が崩壊しケッキの皮膚(ひふ)()れ始めた。クリシュナに(もた)れ掛かり、互いを支え合う体勢でケッキが枯死(こし)する。二人の亡骸がどさり、横倒れた。


 万季地(まきじ)が溜息を吐き、肩を竦める。


 「はあ。四混種(しこんしゅ)の肉体はあらゆる渇望(かつぼう)で保たれる。空虚(くうきょ)は致命傷だ。従順な(こま)所詮(しょせん)、半分は人間、不毛(ふもう)な結末だなまったく。まあ勉強はさせてもらったよプーパ」

 

 万季地(まきじ)(なさ)けや哀れみはない。タリアは蛾眉(がび)(ひそ)めた。


 「……ケッキを謀略(ぼうりゃく)にかけクリシュナを(あや)めた罪は償ってもらうよ、万季地(まきじ)


 「アハハッ、俺は無実だ上位神(じょういしん)タリア。彼女に下知(げち)ひとつしていない。ソイツの絶息(ぜっそく)もプーパが俺に『助けて』と要求した、俺は従ったまでだ」

 

 責任転嫁をする万季地(まきじ)雄弁(ゆうべん)だ。タリアに弁解(べんかい)した口角を上げ、足下の太い(つる)蛇行(だこう)させる。


 「逃げられると思っているのかっ、緑鹿(りょくじか)!!」


 「仕留める!!」


 ウォンヌが和弓(わきゅう)(つが)えた矢を放ち、ハオティエンが電光一閃(でんこういっせん)した。万季地は鋭利(えいり)な矢尻を容易く(かわ)し、ハオティエンの刺突(しとつ)を樹木の()で防いだ。


 「クソッ」


 「……くっ」


 格上の万季地(まきじ)に二人は切歯扼腕(せっしやくわん)する。けれど自然が生んだ火鬼(ひおに)は同等だ。獣に照準(しょうじゅん)を定めた朱色の眼光は(するど)い。


 「――火槍一突(ひそういっとつ)


 「――グッ、ガハ……!!」


 炎の(やり)万季地(まきじ)を襲う。万季地は瞬時に木の壁で防御したが、火の槍は木の壁ごと万季地(まきじ)の心臓を貫いたのだった。


最後まで読んで頂きありがとうございます(*´Д`)


感想、評価、ブクマ、レビュー等々、頂けると更新の励みになります<(_ _)>

次回もまたよろしくお願いいたします。

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