表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第二幕:~.。.:*✽桜紅の結び✽*:.。.~
47/134

第九集:四混種のプーパ


 ()(こく)――、沙羅双樹(さらそうじゅ)の林で赤い()をした烏が眼下(がんか)にタリア達を見守っている。気温が3℃に下がった夜風は冷たい。

 

 「……私の軍隊が」


 青銅(せいどう)面具(めんぐ)を被る軍隊は少数となった。悲嘆するプーパにクリシュナが叫んだ。


 「ケッキ!! おいっ、ケッキだろお前!!」


 プーパはクリシュナを度外視(どがいし)し、彷魂(ほうこん)に命令する。


 「……アナタ達、許さない……邪魔なヤツらよ殺して!!」


 「ガギギァアアッ、アア!」


 「ゥガガァア、イィ……!」


 一斉に彷魂(ほうこん)がタリア達に襲いかかった。ハオティエンとウォンヌ、タリアが彷浄札(ほうじょうふだ)で浄化させる。青銅の面具の軍隊は青い炎で寂滅(じゃくめつ)し、主人を失う刀がカランカランと地面に落下した。


 タリア達は格上だ。形勢が不利なプーマは矢庭(やにわ)に逃走する。


 「――ッ」


 だが突如(とつじょ)眼前(がんぜん)に炎が上がり後退(あとずさ)った。


 「ハッ、自分はさっさと退散?」


 (ほむら)の炎だ。プーパは焔に退路を(ふさ)がれ身動きが取れない。


 右往左往するプーパにクリシュナの両眼(りょうがん)が潤んだ。十数年来の親友で未来を共にしたい幼馴染を見紛(みまご)うわけがない。涙を両腕で雑に(ぬぐ)い、走り出した。


 「ケッキ!!」


 「あ、クリシュナいけない!!」


 制止するタリアの伸ばした左手は空振りに終わる。クリシュナはプーパの右肩を引き、振り向かせ、青銅(せいどう)面具(めんぐ)を強引に奪った。雲間(くもま)の月明りが彼女を照らす。


 「――――ッ」


 緑の瞳に(にご)りのない眼球、顔形(かおかたち)はケッキだ。


 「ケッキお前……なにが!!」


 「やめて!! 私はプーパッ!! ケッキじゃない!! ケッキじゃない!!」


 ケッキを否定するプーパが(かぶり)を振った。クリシュナがケッキの両肩を掴んで固定させる。


 「ケッキ!! 何があった!? 何で頭に(えだ)がッ、瞳もッ!!」


 「私はプーパなの!! 万季地様(まきじさま)!! 万季地様!!」


 プーパがひとりの名前を連呼した。タリア達は愕然(がくぜん)とする。ウォンヌが能力で和弓(わきゅう)を取り出し、ハオティエンは軍刀(ぐんとう)正眼(せいがん)の構えに、(ほむら)はタリアを背に警戒した。


 静寂に一滴の滴が落ち波紋が広がる。樹木の枝がひとりの男を運んだ。


 「……はあ、やれやれ。傍観者でいたかったよ俺は」


 自然の大地が生んだ鹿神(しかしん)に等しい存在、神の天敵で鹿界(しかかい)二凶鹿(にきょうじか)緑鹿(りょくじか)万季地(まきじ)だった。年齢は推定九百五十歳、見目麗しい鹿だ。2m50㎝と背丈が高い。

 彫りの深い二重瞼(ふたえまぶた)の端正な顔立ちで緑色の虹彩(こうさい)瞳孔(どうこう)五芒星形(ごぼうせいがた)だ。長い上下の睫毛や爪も緑色で、大きいヘラジカの角二本に同色の長髪を半分ずつ、くるくる巻き付けている。

 服装は深碧(しんぺき)のシャルワニだ。ロングコートの形の服で、素材は上品な光沢、()つ、シフォンのような軽さがあり、細番手(ほそばんて)の糸で色柄を緻密(ちみつ)に織り上げる高密度な羽二重(はぶたえ)のシルクだ。鮮やかな色彩で煌びやかな刺繍がたっぷり(ほどこ)されてある。ズボンはホワイトのチュリダだ。ぴったりとしたタイプを(すそ)でくしゅくしゅし、合わせている。靴はモジャリ、光沢感ある布と糸が用いられており、シャルワニと揃えた刺繍は華やかだ。

 

 胸を張って(たたず)む姿は凛とした男の色気があった。


 「……やあ。紅い火鬼(ひおに)孤魅恐純(こみきょうじゅん)じゃないか。数百年ぶりだね。キミ、天上皇(てんじょうおう)神札(しんさつ)で封印されていなかったかい?」


 万季地(まきじ)(ほむら)に気づき話しかける。挑発的な物言いだ。(なび)く朱色の長い髪、焔は相手にしない。


 「…………」


 「ははっ、お前年下の(くせ)に生意気だよね」


 語尾が低音に沈んだ。不意に五芒星(ごぼうせい)の瞳にタリアが映る。


 「へえ……。桜色の男神(おがみ)三美神(さんびしん)のひとり、カリスの一柱タリアだったかな。実物は何と神々(こうごう)しい」


 「……キミがケッキを(かどわ)かし、ケッキをプーパにし、彷魂(ほうこん)(あやつ)って村人の男達を(さら)ったのか?」


 タリアが一歩前に出た。(ほむら)の左隣に並んだタリアが核心に触れる。大方の筋道で間違いないと思ったが、万季地(まきじ)は疑いを打消した。


 「俺じゃあない。むしろ俺は彼女の命の恩人だ。ケッキをプーパに、は……まあグレーゾーンかな? 彼女は俺の血に耐えた、(まれ)四混種(しこんしゅ)だよ」


 「四混種(しこんしゅ)……」


 四界(しかい)と人間、異種(いしゅ)の要素を組み合わせて誕生した者、それが四混種(しこんしゅ)だ。四界(しかい)の者が自分の血を人間に混ぜ、改造し、誕生させる。人間の細胞は(もろ)四界(しかい)の者の血に侵されたら死は(まぬが)れない。ただ順応すれば新たな生命の誕生だ。

 四混種(しこんしゅ)は人間であって人間にない。人間の創り変えは天上皇(てんじょうおう)に対しての冒涜、涜神(とくしん)行為だ。


 「俺を討伐(とうばつ)しに降りてきたのかい? ハハッ、お門違いだよまったく浅薄(せんぱく)な。だけどいい……、いい清らかさだ。カリスの一柱、上位神(じょういしん)神体(しんたい)はいい肥料になる」


 万季地(まきじ)木蔦(キヅタ)(つる)でタリアを狙うが、(ほむら)の炎で散り散りにされた。ボロッと(つる)が灰になって崩れる。


 「タリア、下がって」


 「私も戦える」


 これは天上界(てんじょうかい)、神々の任務だ。(ほむら)の指示にタリアは従わない。


 「……タリア」


 「(ほむら)、私は……ん……っ」


 焔がタリアに口づけた。吐息を重ね離れる。一瞬の出来事にタリアは目を見開き、突拍子もない焔の行動に外野の二人が騒いだ。


 「――ッんな!? おま、おま、え!! 孤魅恐純(こみきょうじゅん)っ!! 不謹慎だぞ!! タリア様に、キキ、キ……ダアア!!! 射殺(いころ)す!!」


 「我らが神聖なタリア様に!! お前も葬ってやる、孤魅恐純(こみきょうじゅん)!!」


 ウォンヌとハオティエンの攻撃対象が(ほむら)に移った。万季地(まきじ)神官(しんかん)、タリア、火鬼(ひおに)の順に目線で辿る。万季地(まきじ)既知(きち)する孤魅恐純(こみきょうじゅん)は、孤高(ここう)の火鬼だった。


 「……ところで火鬼(ひおに)、同族の鬼でさえつるまないお前が、何で天上臭い(・・・・)奴らといるんだい? 拷問(ごうもん)、じゃあないね。上位神(じょういしん)(かば)い、キスするキミは、中々に新鮮で滑稽(こっけい)だ」


 「俺の嫁だ、アンタの趣味にタリアはあげられない」


 万季地(まきじ)の疑問に答える(ほむら)眼光(がんこう)は鋭い。


 万季地の趣味は森の再生活動だ。()やしは人間になる。

 鹿界 (しかかい)は土地の九十パーセントが森林だ。森の木々が育つと保水力や生物の多様性も(よみがえ)り、森の生産力があがる。(すなわ)ち、鹿界(しかかい)が豊かになる。万季地(まきじ)は大地から生まれた自分こそが世界の中心で五界(ごかい)は自分のためにあると思想を抱いており、ゆくゆくは領地を拡大し、四界(しかい)を手中に収め、掌握(しょうあく)する理念を掲げていた。


 万季地は(ほむら)の「嫁」発言にきょとんとし、大笑いする。剥き出しの歯は白緑(びゃくろく)色だ。


 「アッハッハッハ!! 火鬼(ひおに)上位神(じょういしん)を嫁に!? フフッ、愉快だ! 愉快! はあ……、愉快で益々、欲しくなっちゃったよ……」


 そう揶揄(やゆ)しながらゆっくり半眼(はんがん)した。万季地(まきじ)の一変する表情を皮切りに、(ほむら)が右足の靴先で砂地(すなじ)を鳴らし、火蓋(ひぶた)を切る。


 「――衝天万炎(しょうてんばんえん)


 天を()く勢いの炎が万季地に迫った。けれど万季地(まきじ)も負けていない。


 「――樹生殺追(じゅせいさいつい)!!」

 

 同時に万季地が鹿力(しかりょく)の能力で樹木の太い(つる)を数百と繰り出す。(ほむら)の炎をすり抜けた分厚い蔓を、上手く()けるハオティエンが軍刀で袈裟斬(けさぎ)り、素早く身を(ひるがえ)すウォンヌが和弓(わきゅう)(つが)える弓で射った。


 「守地天無栄(しゅじてんむよう)!! (まこと)(つく)武人(ぶじん)なれ!!」


 「守善一射(しゅぜんいっしゃ)誠尽(まことつく)射手(いて)なれ!!」


 二人は自由自在の(つる)に悪戦苦闘している。タリアも神兵(しんぺい)に後れを取ってはいられない。


 「――花渦天咲(かかてんしょう)


 神力(しんりき)を手の平に集中させ、一気に解放した。色とりどりの花びらが竜巻となり炎や(つる)を容易く吹き飛ばす。花々の香りで一帯も浄化され、天上皇(てんじょうおう)に最も近しい上位神の八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍だ。


 直後、ケッキが万季地(まきじ)のもとへ駆け出し、クリシュナが回り込んで止めた。通せん坊の体勢だ。ケッキが怒りに震える。


 「何なの!! 私はプーパよ!! 万季地様(まきじさま)!! 万季地様、助けて!!」


 「ケッキ……ッ、俺と帰ろうケッキ!!」


 「ケッキじゃない!! 帰れ、ない……ッ、私は!!」


 ケッキは万季地(まきじ)の本性を知らない。


 「助けてあげるよ、プーパ」


 万季地は呟くや否や能力を駆使(くし)した。プーパの足元の、()き出しの立派な根で、クリシュナの心臓を突き破る。二本目が左目を(つらぬ)き、プーパが血濡れたクリシュナの亡骸(なきがら )を支えた。


 「……あ、いや、ど、して万季地、様……」


 「助けてあげた、キミを。あの晩(・・・)と同じだ」


 「ちが、アイツらとクリシュ、ナ……は、クリシュナは私の……う、そ……、いや、クリシュナ!! いや、やだ、だめよクリシュナ死んじゃだめ!! イヤァアア!!」


 ケッキが叫喚(きょうかん)する。万季地(まきじ)は不満げな様子だ。


 「何故(なぜ)、喜ばない? まあいい。人間の肥料だ栄養がある、ねえケッキ」


 「――――ッ」


 微笑みかける万季地にケッキは青ざめた。あの晩(・・・)の安堵が恐怖に塗り替わる。ケッキはクリシュナを抱き締め、あの晩を思い出したのだった。


 

最後まで読んで頂きありがとうございます(*´Д`)


感想、評価、ブクマ、レビュー等々、頂けると更新の励みになります<(_ _)>

また次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ