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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第二幕:~.。.:*✽桜紅の結び✽*:.。.~
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第八集:青銅の面具をした幽霊


 「タリア様、ケッキが関わっている可能性がありますね」


 「うん」


 クリシュナの話によれば幼馴染ケッキが居なくなり、柳緑村(りゅうきょくむら)の男達も次々と消息不明になっている。恐らく事件の始まりはケッキだ。村人を含め安否は不明だが、ケッキが見つかれば真相に近付けるかもしれない。


 「ねえクリシュナ、青銅(せいどう)面具(めんぐ)をした軍隊の幽霊は、村で噂になっていたりしない?」


 五事官(ごじかん)ウリは、「青銅(せいどう)面具(めんぐ)をした軍隊の霊が()(こく)に人間を(さら)っている」と言っていた。情報の正確性に信頼はあるが確証(かくしょう)を得たい。タリアがした質問にクリシュナは首を(ひね)り記憶を辿る。


 「軍隊の幽霊? いや……、ああ~。()(こく)に軍隊っぽい足音がしたって、誰かが……。馬鹿馬鹿しいだろ、幽霊って……え、まじでいるの!? ケッキ(さら)ったヤツって幽霊!? 幽霊がケッキを(さら)ったのか!?」


 「待って待って、落ち着いてクリシュナ!」


 クリシュナがタリアに詰め寄った。瞬時に(ほむら)がタリアの肩を抱き、クリシュナを押しやる。クリシュナは(ほむら)の強い一押しに尻餅をついた。

 

 「――っ()!」


 「ああッ、(ほむら)!! クリシュナすまない!」


 「ィテテテ、いやいい。俺が悪かった、恋人の(にい)さん」


 「…………」


 謝罪するクリシュナを(ほむら)睫毛(まつげ)を下げ睨んだ。焔の迫力にクリシュナがさっと立ち上がり直立する。


 「やめなさい焔、彼は悪くない。クリシュナはケッキの身を案じているんだ。わかってあげてくれ」


 「タリアは? もし俺がいなくなったら身を案じてくれる?」


 「…………っ」

 

 唐突(とうとつ)(ほむら)の仮定の問いにタリアは唇を縫い合わせた。焔に直視され目を逸らせない。タリアは一拍置き、外套(がいとう)に顔半分を埋めて首肯(しゅこう)する。耳介(じかい)が赤い。


 「可愛い」


 (ほむら)の呟きに場にいる全員が心中(しんちゅう)で同意した。タリアは咳払いで甘い空気を断ち、ハオティエンとウォンヌ、ふたりの主観を確認する。


 「コホンッ! え、と……。ハオティエン、ウォンヌ、君達の見解は?」


 「僕は幽霊、じゃない。彷魂(ほうこん)、が絡んでいると思います。小さな子供じゃないケッキや男達を音沙汰(おとさた)なく攫うって、人間じゃ到底、不可能でしょう。裏か表か、何らかの形で報告に上がっている緑鹿(りょくじか)が関与していて間違いないかと」


 正鵠(せいこく)()る意見だ。ウォンヌが述べた彷魂(ほうこん)とは下界の「幽霊」で、死んだ事実を受け入れられず彷徨(さまよ)う者、恨み(つら)みで地上に留まる者の総称だ。彷魂(ほうこん)になった人間は、空中を浮遊する人魂(ひとだま)か、肉体のない透けた幽体(ゆうたい)になる。どちらも物理的な攻撃は効かない。


 「俺もウォンヌに異議ありません。緑鹿(りょくじか)彷魂(ほうこん)(もてあそ)びケッキや男達を(さら)った、が妥当な線だと思います。俺は先を見越して持参しました。こちらはタリア様に、彷浄札(ほうじょうふだ)です」


 ハオティエンもウォンヌ同様、的確に告げた。神力(しんりき)の能力で取り出す彷浄札(ほうじょうふだ)を、タリアに手渡す。彷魂(ほうこん)彷浄札(ほうじょうふだ)は欠かせない、用意周到だ。


 「ああ。ありがとうハオティエン」


 数十枚、貰った。(ほむら)が興味津々に覗いてくる。


 「タリア、彷浄札(ほうじょうふだ)って?」

 

 「焔は初めて? 彷浄札(ほうじょうふだ)彷魂(ほうこん)を強制的に浄化する(ふだ)だよ。浄化された御霊(みたま)は天上に昇れないが……、情けは禁物だ。天上皇が愛する生きた人間に(あだ)をなす彷魂(ほうこん)看過(かんか)してはいけない。私達に与えられた任務のひとつになる」


 (ちな)みに彷魂(ほうこん)の浄化の主軸を担う神は、下級三神(かきゅうさんしん)の最も位階(いかい)の低い一介神(いっかいしん)だ。一介神(いっかいしん)は人間の傍で、助け、導き、守り、天上皇(てんじょうおう)の意向に従い罰を下す役目がある。多くの人間が身近な一介神(いっかいしん)(まつ)り祈願し信仰する所以(ゆえん)だった。


 「ふうん。今夜、幽霊退治する?」


 「(ほむら)、幽霊退治は(いささ)語弊(ごへい)がある」


 「――で、幽霊退治?」


 訂正を求めたが焔は反省せず反復させる。語法(ごほう)は直らない。


 「はあ、取り敢えず彷魂(ほうこん)を操る者を見極めなきゃいけない」


 早々と諦めたタリアは溜息を吐き言葉を紡いだ。


 「ハオティエン、ウォンヌ、いいかな?」


 「はい」


 「了解です」


 ウォンヌとハオティエンが了承した。躊躇(ためら)いのない二人に圧倒されつつ、意を決した様子でクリシュナが挙手する。


 「……っ俺も!! 行きます!!」


 「危険だ、キミは村にいなさい」


 意気込みは買うが命の保証はない。鹿界(しかかい)で残忍な二凶鹿(にきょうじか)のふたりは何れも大地が生んだ緑鹿(りょくじか)だ。天上界の上位神(じょういしん)と同等の力を持つ彼らは(あなど)れない。


 「お願いします!! 桜道士様(さくらどうしさま)!! アンタらの邪魔はしない!! ケッキを!! ケッキを助けたいんだ!!」


 「……はあ、わかったよクリシュナ。邪魔はしない、危なくなったら逃げなさい。重々に注意して、いいね?」


 「ありがとう!! ありがとう桜道士様!!」


 強引に説き伏せても彼の行動はお見通しだ。必ず付いてくる。傍にいさせたほうが安全と判断し、同行を認めるタリアにクリシュナは何度も(こうべ)()れて感謝した。

 

 それから暫くタリア達は村の近辺を探索する。クリシュナの計らいで数人の村人に

軍隊の幽霊の証言(しょうげん)確聞(かくぶん)できた。軍隊らしき足音は、西側の沙羅双樹(さらそうじゅ)の林で響いていたようだ。


 「あら~いい男!! 桜色っていいわ~!」


 「今日ウチに泊まっていかない?」


 「アハハ……、ありがとうございます」

 

 柳緑村(りゅうきょくむら)の女性達は元気で明るかった。そして家々を回っているうちに、時間は足早に過ぎ、真上にあった太陽も隠れ、須臾(しゅゆ)()(こく)を迎える。


 「――タリア、足元に気を付けて」


 「――ありがとう焔、大丈夫だよ」


 タリア達は柳緑村(りゅうきょくむら)の西側にいた。幹高(みきたか)が30メートルを超す落葉高木(らくようこうぼく)純林(じゅんりん)を縫い歩いている。静寂が支配した暗夜(あんや)は不気味で葉音すらしない。


 「――――ッ!」

 

 刹那(せつな)、先頭のハオティエンが制止した。さっと何か(・・)を避け、後方に跳んだ。


 「ヴアァ、ゲィアア、……」


 闇夜に光り揺らめく刀身は青い。ハオティエンが回避した何か(・・)は、この刃の一太刀である。濁音(だくおん)を零す者は青銅(せいどう)面具(めんぐ)を装着していた。


 即座にウォンヌが抜刀する。


 「――彷魂だ!!」


 突如(とつじょ)、出現した彷魂(ほうこん)(みな)男、数は三十三だ。

 暗緑色(あんりょくしょく)深衣(しんい)は、長くした(えり)の前立てを三角形の形成で後ろに通し、次に前の前立てに巻き付け、絹の帯で締めてある。胸は甲皮(こうひ)(よろい)(まと)い、足下は底が分厚い木の靴を履いていた。


 彷魂(ほうこん)変幻(へんげん)する。無論、死人は気配もない。


 「――(われ)百罪百許(はくずいはくきょ)を授ずけられし神、地上に並ぶものなし!」


 タリアが彷浄札(ほうじょうふだ)神力(しんりき)で飛ばした。彷魂(ほうこん)の面に貼り付ける。


 「グァア、ガガガ……」


 彷魂(ほうこん)は青紫の怪光(かいこう)の炎に包まれ消散(しょうさん)した。ハオティエンとウォンヌも軍刀(ぐんとう)で右()ぎ、左()ぎと応戦し、彷魂(ほうこん)の隙を突いて彷浄札(ほうじょうふだ)を貼っていく。見事な連携だ。


 「ハオティエン、ウォンヌ! 緑鹿(りょくじか)の姿はあるか!?」


 人数が三分の一に減る。頃合いだ、タリアが周囲を警戒し呼びかけた。


 「いえ!!」


 「こちらもありません!!」


 ウォンヌとハオティエンが応答する。緑鹿(りょくじか)はいない。彷魂(ほうこん)を見捨てる気か、将又(はたまた)、一切の接点がないかだ。

 

 「(推測を誤った? いや……)」


 タリアが黙考(もっこう)(ふけ)る直前で、(ほむら)に左腕を握られた。否応なしに背部(はいぶ)に追いやられる。


 「(ほむら)――」


 「なにかいる」


 焔が鬼火(おにび)で一帯を(とも)した。沙羅双樹(さらそうじゅ)の木に(まぎ)れ、女の子が(たたず)んでいる。頭部に二本、十五センチ未満の枝が生えていた。


 「……人間、じゃないな」


 女の子は真っ白な深衣(しんい)を着ている。靴は白いサテン生地で葉っぱの刺繍が施されており、青銅(せいどう)(めん)を被っていた。短髪の黒髪で背丈は160㎝前後だ。


 夜風が吹き、(ほむら)が舌打ちする。


 「……チッ、臭い」


 四界(しかい)の一族は嗅覚がいい。女の子の出方を窺うタリア達の背中を、ふらふら覚束無(おぼつかな)い足取りでクリシュナが追い越した。


 「……ケッキ?」


 囁き声がタリア達の背筋を凍らせる。


 「――私はプーパ、私の軍隊をよくも殺してくれたわね」


 しかし、彼女はプーパと名乗った。至極冷静な口調だ。


 「嘘だろなあケッキ、ケッキ!!」


 クリシュナが喚呼(かんこ)する。再会は悲劇の幕開けだった。

 

最後まで読んで頂きありがとうございます(*´Д`)


感想、評価、ブクマ、レビュー等々、頂けると更新の励みになります<(_ _)>

また次回もよろしくお願いします!

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