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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第二幕:~.。.:*✽桜紅の結び✽*:.。.~
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第二集:凛活街


 人間界(にんげんかい)鬼界(きかい)狐界(こかい)狼界(ろうかい)鹿界(しかかい)、の五界(ごかい)は人間界を囲う形で四界(しかい)があった。鬼界は北東(ほくとう)、狐界は南西(なんせい)、狼界は南東(なんとう)、鹿界は北西(ほくせい)にある。

 東西南北で分かれているが、気候と四季は下界の認識が当て()まらない。


 鬼界は雨が少なく気温は平均24~30℃だ。

 活動活発な火山や休火山(きゅうかざん)が大小数多(あまた)にあり、地上で最も大きいアルケー火山があった。噴火も度々ある、地震は毎日数百と数え切れない。


 鬼界(きかい)の街は東西南北(さか)えているが、中心の花柳街(かりゅうがい)区域(くいき)に隣接した凛活街(りんかつがい)は雑多な商店が盛り沢山で人気だ。


 「――じゃあ、凛活街(りんかつがい)に行こう」


 (ほむら)に鬼界の情報を貰ったタリアは地面に円形を描き、(ふち)に添って天上界(てんじょうかい)の文様や神聖文字(しんせいもじ)天名地鎮(あないち)等を並べ構成する図、境界円(けいかいえん)で「(われ)百罪百許(はくずいはくきょ)を授ずけられし神、地上に並ぶものなし」と唱え、移境扉(いけいひ)を開いた。二人は目映い光の粒に包まれ、鬼界(きかい)に到着する。


 (さる)(こく)――、緑瓦(みどりかわら)の鮮やかな虬龍楼(きゅうりゅうろう)の正面に出た。扉のない開放的な門型の建築は牌楼(パイロウ)だ。上に段差のある小屋根(こやね)、奥行きはなく、独立して立っている。飾り彫りや彩色(さいしき)華麗(かれい)装飾(そうしょく)(ほどこ)され、小屋根の下の扁額(へんがく)積功成福(しゃくこうせいふく)と書かれてあった。赤い立派な建物は風情がいい。


 左右に正対(せいたい)する鬼の像がある。高さ3.5メートル、横幅1.5メートル、奥行2.6メートル、使用陶土(とうど)(およ)そ16トンと台座に詳細が刻まれてあった。


 タリアは一点を指差し(ほむら)に問う。


 「――焔、あれは何て読むんだ? 意味は?」


 「ああ、あれは積功成福(しゃくこうせいふく)って読むんだよ。意味は功績を挙げれば幸せになれる、かな」


 「へえ、素晴らしい意味だ」


 焔の説明にタリアは感嘆(かんたん)した。タリアは地上に降りた際、大抵は下界を優先に行動している。鬼界(きかい)幾度(いくど)か任務で訪れてはいたが、森や廃村の外部程度、しっかり区域に入り見物するのは初めてだ。


 「いらっしゃーい! 角煮饅頭(かくにまんじゅう)、熱々の出来立てだよー!」


 「おじさん! 三つ頂戴!」


 「あいよ!!」


 飛び交う声は威勢が良い。意気盛んな凛活街(りんかつがい)赤鬼(あかおに)青鬼(あおおに)黒鬼(くろおに)往来(おうらい)する鬼人(きじん)で賑わっていた。


 「――あ」


 きょろきょろ辺りを見渡すタリアが、虬龍楼(きゅうりゅうろう)の入口付近で何かを発見する。タリアは足早に店に行き、目に留まったある物(・・・)を購入し、頭部に装着した。すぐさま追い付く焔が、振り向くタリアに息を呑んだ。


 「私も今日一日は鬼だ」


 天上皇(てんじょうおう)が創りし最後の上位神(じょういしん)、タリアの頭に白い鬼の角がふたつ生えている。髪飾りの一種の鬼角(おにづの)は無論、偽物だ。三美神(さんびしん)のひとりカリスの一柱(ひとばしら)で美と優雅を(つかさど)るタリアは現在、鬼界随一の優美(ゆうび)な鬼となっていた。


 花柳街(かりゅうがい)奢侈(しゃし)遊郭(ゆうかく)の遊女で位が高い鬼魁(きらん)に負けていない。むしろ(けが)れた女鬼(めおに)と比べられない、神聖な尊さがある。


 タリアの突飛な発想は可愛い。天上界で許されない鬼の仮装だ。


 「鬼に(ふん)すれば目立たないだろう?」


 天上界の神とタリアの正体が露呈した場合、神を嫌う鬼人達(きじんたち)の暴動が起き兼ねない。焔や天上界に迷惑はかけたくないタリアの鬼角の入手理由に、焔は「可愛すぎる外して」の本音を押し殺し同調する。


 「うん。タリアは凄いな、冴えているね。俺も本体は目立つ、小鬼(こおに)になるよ」


 焔は言うや否や、十四歳の少年の姿に変化した。

 左右の(おくみ)を交差させる垂領(たりくび)長袍(チャンパオ)は鮮明な紅八塩(くれないやしお)だ。裾回(すそまわ)りは広がっていて丈長、底が浅い豚皮の黒靴を履いている。タリアとお揃いで(まと)う紅い外套(がいとう)を、自分の背丈に合わせ縮めていた。


 「ありがとう。キミも冴えている。外套は脱ごうか」


 「ま、暑いしね」


 タリアに続いて焔も外套を脱いだ。それぞれの能力で収め、焔がタリアの右手を(さら)う。


 「じゃあ行こう。タリア、絶対に離さないで」


 「わかった。地上に絶対はないが努力はするよ」


 努力は未来を約束しないが、約束は未来の道標だ。

 タリアも「絶対」の意思表示で、焔の左手を握り返した。下界の名残でタリアの手先は冷たいが、焔は温かい。


 「すまない(ほむら)、私の手は冷たいだろう?」


 「俺が温かい。二人で丁度いい温度だ」


 「……丁度いいか。ハハ、うん。ありがとう」


 翼を十二枚授かる上位神(じょういしん)タリアは、崇高(すうこう)(ゆえ)に遠巻きにされ、数千年と天上界の目映い孤独の春泥(しゅんでい)に沈んでいた。焔と出会い、焔の疎意(そい)がない接し方に、タリアは救われている。

 だが、それは焔も一緒だ。この世のすべてに意義を見出せず五百年、タリアと出会い、タリアの慈悲に包まれ、生きたい欲が湧いた。


 孤独同士の悲劇と揶揄(やゆ)る神々や、二人でいる孤独こそ寂しいと嘲笑(あざわら)う鬼がいるかもしれない。けれど二人は、二人でいれたら、二人で孤独でも、満ち満ちる愛に限りはない。

 

 肩を寄せた二人の歩調は軽やかだ。焔の先導で虬龍楼(きゅうりゅうろう)を潜る。

 

 「見てタリア、タイミングがいい。今日は鬼誕歴(きたんれき)だ」


 「わあ! 綺麗だね!」


 焔に(うなが)され、タリアは宙を見上げた。無数の提灯(ちょうちん)が所狭しと吊るされてある。色や形、(がら)は様々だ。


 鬼誕歴(きたんれき)は鬼が誕生した11月11日を祝い、3日間提灯(ちょうちん)を飾る風習があった。

 幻想的な空間は圧巻の一言に尽きる。


 「タリア、気になる店はある?」


 「こうもいっぱいだと迷うな……」


 さすが衆望(しゅうぼう)を担う区画だ。品物が豊富な露店、空腹感を刺激する屋台が多数出店されていた。800軒以上はある。一日いても飽きないはずだ。


 「――あ、焔! 手袋があるよ」


 双眸(そうぼう)を輝かせ、タリアが手袋や帽子、襟巻きや靴を並べる店に誘導した。何故かお守り人形や工芸品、楽器やお香、(かんざし)や食器類もある。不思議な品揃えで面白い。


 「タリア、これはどう?」


 焔は桜の刺繍があしらわれた白いムートンの手袋をタリアに薦めた。()じれた羊の毛は弾力性はもちろん、吸湿性も優れていて蒸れ(にく)い。


 「私の好みだありがとう。じゃあ、(ほむら)は……これはどうかな」


 タリアは焔に牛革素材でラビットの肌触りが良い裏地を組み合わせた、黒い手袋を選んだ。熟練した職人技術が演出する本革ならではの艶は美しい。


 「いいね、気に入った。おじさんこれ二つ、ああ、これもお願い」


 「はいよー! 毎度あり~!」


 (ほむら)が手際よく会計を済ませた。ものの数秒の機敏(きびん)な動作だ。

 

 支払い損ね、タリアが口を窄める。


 「せめて焔の分は私が贈りたかった」


 「ハハ、ごめんごめん。これで機嫌直して」


 焔は水晶や桜が可憐なホワイトとピンクゴールドのヘッドドレスを、タリアの鬼角(おにづの)の手前から両耳までの前髪を押さえるように付けた。自由自在に曲げられる仕様で、輪っかの半分だが、まるで花の(かんむり)だ。


 タリアの桜色の髪が、より一層、映える。タリア自身も際立つ逸品(いっぴん)だった。


 「……あ、りがとう。毎日つける」


 両頬を桃色に照れるタリアの攻撃力は絶大だ。


 「箱に閉じ込めたいな」


 焔の囁き声はか(ぼそ)い。周囲の雑音で聞こえなかったタリアは首を傾げる。


 「――――え?」


 「いや、可愛いなって」


 焔は(よど)んだ本心を笑みで誤魔化した。有毒の要素がないタリアは疑わない。


 「……大切するよ」


 「うん。タリア、お腹は? 減ってない? あっちに鬼誕歴(きたんれき)限定の角煮饅頭があるよ」


 あっちの方角にタリアの目線が移る。角煮と青梗菜(チンゲンサイ)を、ふわふわの皮で挟んだ角煮饅頭(かくにまんじゅう)が売られていた。


 「――――!! 下界の角煮饅頭は美味しいんだ!! 鬼界の角煮饅頭も食べてみたい!!」


 「ハハッ、じゃあ食べに行こう」


 伝統食や旬を重んじるタリアは興奮気味だ。焔は一笑し、タリアと店を移動する。


 二人で多種多様な店を渡り歩いて数刻、太陽と月が交代した。橙色(だいだいいろ)灯火(ともしび)が天に昇っていく、鬼の誕生を祝う孔明灯(こうめいとう)だ。


 楽しい時間は須臾(しゅゆ)に終わる。鬼界(きかい)が名残惜しい。

 次の機会が待ちきれず、タリアは切ない声音で独り言ちる。


 「……はあ、鬼界にもう一日いたいな」


 「俺の家に来る?」


 タリアの希望を叶えたい焔が、前のめりの体勢で提言(ていげん)した。両者の顔は近い。


 「えっと、いいのか? 急にお邪魔して」


 「タリアは大歓迎だ。家はこっちだよ」


 (ほむら)はタリアの返事を肯定に受け取り、身軽に方向転換し、家に(いざな)う。見目麗しい火鬼(ひおに)上位神(じょういしん)は星々の光を避け、闇夜に溶けて行ったのだった。



最後まで読んで頂きありがとうございます!


感想、評価、ブクマ、レビュー等々、頂けると更新の励みになります!

また次回もよろしくお願いします<(_ _)>

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