第零集:神は君だけ(前)
下界と鬼界の狭間にタリアと焔はいた。
タリアの「ちょっと出かけてくる」に焔が付いてきた結果だ。
「――タリア、いったいこんなところに何があるの?」
自ら好み進んで行く場所ではない。タリアも知っているだろう。
文龍の一件が脳裏に甦る焔は些か気分が悪かった。
きょろきょろ周囲を見渡しながら呟くタリアが何かを発見する。
「んー……、ないな。昔はよくあったんだ……、あっ! あった! あれだよ焔、こっちに来て!」
「タリア急がないで、転ぶと危ない」
タリアに左手を引っ張られる焔は導かれるがまま付いて行った。すると一本の木の下に辿り着き、タリアは繋がる手をするりと解いて座り込んだ。
「――これは三百幸石だよ」
焔は瞠目する。綺麗な四角錐で積まれてある石があった。
「――――」
「焔は知らないのかな? 三百の石を積んで願い事を唱えると、天上界の神に願い事が届き、叶えてくれる。そんな願掛けがあるんだ」
「……へえ」
タリアの説明に焔は相槌を打ち、下唇を噛んだ。俯く焔はタリアの声に耳を傾けている。
「三百幸石の起源は定かじゃないが、四界の者しかやらない。下界のように祈りの場は極端に少ないし、何より四界は神々が嫌いだ。きっと三百幸石を行う者は、嫌いな神に祈願したくなるほどの事情があり、こっそりやっているんだろう。願いは皆平等に届けてあげたい。私は下界に降りた際、たまにこうやって彼らの願いを天上に導いている」
そう言って、タリアは能力で天灯をパッと取り出した。三百幸石に右手の平を翳し、込められている願いを丸い光に形成して、天灯の紙袋内に優しく慎重な手つきで入れる。本来天灯は油を燃焼させ空気の過熱を行うが、願いの灯火はそれ以上の熱を感じさせた。
タリアは立ち上がり、広い空間に移動する。
「――届真願天」
願いが天に真っ直ぐ届くよう告げ、タリアが天灯を天上に放った。純真無垢な眼差しで空を見上げるタリアの横顔は神々しい。
タリアは焔が見つけた空虚を埋めてくれる存在だ。見返りを求めずに自分を助け、信じ、許し、愛してくれる。焔はタリアに出逢い生きていく意義を見出した、触れば崩れそうな尊く儚いタリアを守るためだ。
『――どこかにね、いるよ!! 火鬼のお兄ちゃんを助けてくれる人!! それでね、火鬼のお兄ちゃんが助けてあげたい人!!』
焔はタリアを背中から抱き締める。
「――焔?」
「……本当にいた」
焔はとある昔、小鬼に言われた言葉を思い出していた。それは彼が天上皇に封印されるきっかけとなった五百年前に遡る話だ――。
最後まで読んで頂きありがとうございます(*'ω'*)
プロローグなのでちょっと短いです!
今日から外伝少し続きます、楽しんで頂けたら嬉しいです。
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