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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
•┈┈••✦⊱∘番外篇∘⊰✦••┈┈•
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第一集:神兵アレスの場合

 

 天上界外城てんじょうかいがいじょうの南に武官(ぶかん)精極殿(せいきょくでん)がある。

 武器携帯を定められた官職(かんしょく)で軍事に携わる官史(かんり)だ。中級三神(ちゅうきゅうさんしん)、四番目に位階(いかい)の高い神、神官(しんかん)が多く従事しており、神官は神の意向、天上界と五界(ごかい)の事項、上級三神(じょうきゅうさんしん)から受けたお告げを中級三神に伝える役目を担っている。


 打って変わって、天上界内城てんじょうかいないじょうの南に天官軍(てんかんぐん)崇光殿(すいこうでん)はあった。

 武器携帯を定められた官職で、翼がある神しか務めに従事できない。天上界と下界の狭間、天繋地(てんけいち)堕神(だしん)異界者(いかいしゃ)を討伐、捕縛している。上級三神の錚錚(そうそう)たる神軍(しんぐん)を束ねる総帥は上位神(じょういしん)エルだ。


 両者共、天上界を守っているが、武官は地上で天官軍は天上で、と担う領域は違う。地上の事象は武官に一任、上空の事象は天官軍に一任、互いに協力はするけれど干渉はしない。


 そんな両者が数十年に一度、集まる機会があった。


 「かっこいいわね」


 「外城、内城、どっちも数百年は安泰だな」


 今日は天武(てんぶ)大会、天上界最大の行事を催す日だ。

 武道、武術において学んだ形や日頃の鍛錬の成果を、単独で行う者、相手役を用意して行う者、二手に分けれ、披露する。

 実際に演武(えんぶ)する両者にとっても見物をする神々にとっても良い刺激になっていることは間違いない、厳しく律された静謐(せいひつ)な凄みは中々の迫力だ。演武されていく剣術、武術、柔術、砲術は、両者共に選りすぐり揃いで甲乙(こうおつ)がつけ難い。


 彼らは精神、徳、術を鍛え、礼儀、信念、質素を磨き、即断力、判断力を高め、礼節を尊重する態度を養う。天上界の平和、安寧、栄光のため、戦いにおける歴史を築いてきた両者は堕神達が恐れ戦く正真正銘、天の守護者(つわもの)達だ。讚称(さんしょう)に値する。


 中級三神、神官、武官の神兵(しんぺい)、戦いを司る男神(おがみ)アレスも無論、大会に参加していた。


 今回が初参加だ。黒軍衣(こくぐんい)を整えるアレスは、自分の順番になり緊張している。

 彼の演目は剣術の実践で、相手役がいた。


 「――よろしく」


 上級三神、上位神のタリアだ。純白の唐朝服(とうちょうふく)に身を包んだ彼の登場に会場が一層に過熱する。


 「ええ!? タリア様だ!!」


 「タリア様~!」


 黄色い歓声は無理もない。彼は三美神(さんびしん)のひとりでカリスの一柱、豊かさと開花を司る魅力と美貌に溢れた男神だ。最も位階の高い彼に、外城組みは中々お目にかかれない。


 アレスも間近で対峙するのは初めてだった。


 「…………」


 拱手(きょうしゅ)するアレスにタリアが微笑んだ。


 「ああ、許可するよ。君の噂は内城に届いている。とても優秀な神兵だって」


 「……っ、過分な評価、恐れ入ります」


 アレスの低声(ていせい)が若干、上擦る。上位神に話題を振られ内心で驚いていた。彼らは用件がない限り神下(かしん)と会話はしない。


 「私が相手で不服だろうが、我慢してくれ」


 タリアが苦笑い、謙遜した。アレスは焦って否定する。


 「滅相もございません! 俺のような神兵にタリア様が相手をなさってくれるのです、恐縮至極に存じます!」

 

 事実、アレスはタリアに感謝していた。アレスの元々の相手役、中位神(ちゅういしん)が当日になって棄権したのだ。理由は明確になっていないが、神下の相手が嫌だったのだろう。それか自分に恥をかかせたかったのか、どちらにせよアレスは演目の変更を迫れていた。時間はない。いっそ、棄権も脳裏に浮かんだ。


 「――私が出よう」


 そこに急遽の代役に名乗りを上げた男神こそ、タリアだった。桜色の髪を靡かせながら現れたタリアは、畏敬の念を抱かせる神々しさがあり、アレスは目が眩んだ。


 タリアの温情は公平で差別がない。アレスがいま、この場に立てているのは、紛れもなくタリアのお陰だった。


 「ハハッ、ありがとう。さあ、君は私に勝てるかな?」


 「――神兵アレス、上位神タリア様にお手合わせ願います!!」


 審判の合図が鳴り、アレスは軍刀を抜刀した。タリアはロングソードだ。(きっさき)が非常に鋭利(えいり)で刀身が長い。


 「……っ、……クッ!」


 タリアは剣術に長けていた。斬撃と刺突(しとつ)による攻撃をアレスは弾くのが精一杯だ。


 花の如く舞い、風の如く間合いを詰め、アレスの喉仏に切先を当てる。ものの数分で勝敗はついた。アレスの惨敗だ。


 タリアは剣を収め、肩を落とすアレスに賛辞を(てい)する。


 「君は強い、数百年後が楽しみだ。私は君の前途を祝福する」


 「――――っ」


 アレスが息を呑んだ。タリアが口元に手を寄せ、ふっと息を吹いた瞬間、鮮やかで彩り豊富な花びらが会場全体を華やかに飾った。彼の能力、桜舞命天(おうぶめいてん)だ。


 会場の神々も感嘆の声を漏らす。同時にアレスを称えた。


 「勇敢な神兵だったな!!」


 「上位神が祝福を与えた神は彼だけよ、武官はやるわね」


 「………チッ」


 周囲にいる天官軍達は面白くない様子で険悪な顔付きだ。その傍らで、上位神エルが何やら叫んでいた。


 「――タリア!! タリア!! お前が何故!! 見学じゃ――」


 「……あはは」


 タリアは片頬をぽりぽり指先で掻き、エルの怒号に後退っている。きょろきょろ出口を探すタリアはアレスの視線に気づき、「精進なさい」と頭を一撫でし、颯爽と会場を去った。アレスは名残惜しさに胸を締め付ける。


 不思議な上位神だ。

 天上皇が創った最後の男神タリアは、品位や品格、感性や知性は上位神エルと遜色(そんしょく)がない。神の階級は三段階、階位(かいい)は九つある。序列で成り立つ天上界、しかしタリアは(くらい)を同じく扱う平等な姿勢でアレスに接した。


 他の上位神にない行為だ。上位神エルが怒っていた原因に察しはつく。

 

 「――精進なさい」

 

 彼にかけられた言葉は特別だ、彼の笑顔に体中の血液が波打った。絶対に忘れたくない感覚だ。武官を支える立場になればきっと又、彼と会える日は必ず来る。アレスは精進を誓い、日々の鍛錬に邁進したのだった。

最後まで読んで頂きありがとうございます!


感想、評価、レビュー頂けると励みになります(*'ω'*)

番外編をあと一話書いて、外伝に移る予定です!

次回もよろしくお願いします(*^▽^*)

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