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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第一幕:~.。.:*✽桜紅の出逢い✽*:.。.~
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第二十二集:京癒殿

 

 天上界内城(ないじょう)――京癒殿(けいゆでん)は、外城(がいじょう)の万医生殿(まんいせいでん)と機関の仕組みは一緒だ。上位神(じょういしん)が負傷した際は京癒殿で治療を行う。

 身体を張った任務が多い天官軍(てんかんぐん)の利用率が比較的に高い。


 京癒殿は獅子が乗る翡翠瓦(ひすいがわら)と八角形の外観が特徴的だ。四階建てになっており、柱に黄金の龍が巻き付いている。床は石床(せきしょう)で花鳥風月を描いた回廊は豪華絢爛だ。屈折して取り囲んだ中庭の中心に、聖なる木パロサントが植えられていた。

 

 内城は天上皇(てんじょうおう)の居住(きょじゅう)、上位神の宮殿(きゅうでん)や任務を行う御殿(ごでん)があり、取り分け神聖な区域だ。上級三神(じょうきゅうさんしん)以外の神々は、内城と外城を繋ぐ七福門(しちふくもん)を潜(くぐ)る許可がいる。


 七福門の門番、左門神(さもんしん)と右門神(うもんしん)に一日許可札(きょかふだ)を貰えば、内城と外城は自由に行き来可能だ。許可札は内城にある御神木の枝で縦10㎝、横5㎝の板に「済(せい)」と一文字書かれてある。上側に樹皮が残った木札は生木(なまき)の脂で艶々だ。


 潔癖症のウォンヌは、この許可札が嫌いだった。


 「……べたべたする」


 「うるさい」


 ウォンヌの苦情を、ハオティエンが一刀両断する。ウォンヌは諦めず、除菌用シートで気になる箇所を拭いていた。擦りすぎて若干、済(せい)の文字が滲(にじ)んできている。


 許可札の木札を腰紐に括(くく)りぶら下げた二人は現在、京癒殿にいた。白衣を着て忙しなく動く医研官(いけんかん)は上位神の中位神(ちゅういしん)と下位神(かいしん)のどちらかで中級三神(ちゅうきゅうさんしん)の神官二人にとっては少々居心地が悪い空間だ。


 ハオティエンとウォンヌは入口で面会の許可を得て、階段を上り、四階北側の部屋をノックする。


 「は~い。あら~可愛い子達ね~」


 カチャリ、ドアノブが回った。扉を開けた人物は、カリスに属する麗(うるわ)しい女神だ。舌が縺れる甘い声音に二人は息を詰まらせた。タイミングが良かったのか悪かったのか、入れ違いで女神達が退出する。


 「お友達かしら?」


 「え~、お喋りしたかったわ残念~」


 「じゃあ、お大事に~~」


 妖艶な色香(いろか)に魅(み)せられた二人の脈拍は速い。漂う残り香に心を奪われつつ、ふらふら二人は覚束無い足取りで部屋に入った。


 上位神タリアが二人を出迎える。


 「すまない、姉さん達が」


 ベッド上部を上げ、座位(ざい)するタリアの顔色は良い。

 

 「…………」


 「…………」


 開口一番に謝罪したタリアに、拱手(きょうしゅ)する二人は無言だ。タリアは小首を傾げ、「ああ」と合点がいった。


 「どうぞ、会話の許可をするよ」


 上位神外の神々は、許可がない限り、上位神と直接の接触及び会話が許されない。天上界の掟は絶対だ。守る二人が正しい。


 「カリスの女神達ですよね。びっくりしました、僕は神々の宴の場でしかお目にしたことがありません」


 「俺もです。冷や汗をかきました」


 カリスは美や愛嬌、優雅を兼ね備え、肉体的な美しさと心的機能の優美さがある。人数は不定で一柱のタリアも把握していない。先程のカリスは、成長、遊楽(ゆうがく)、祝いの夜、愉快を司る女神達だ。


 「大袈裟だな二人共」


 太陽の光が差すタリアの端麗な顔立ちは、畏怖の念を与えるくらいに神々しい。魅惑と正反対の儚さがある。


 「尊いタリア様が一柱で納得です」


 「ああ」


 無垢なタリアに二人の鼓動は段々、落ち着きを取り戻した。ウォンヌが咳払いし、逸れた話題を切り替える。


 「……ゴホンッ。タリア様、体調は如何ですか」


 「――翼は? 十二枚ありますよね?」


 「ありがとうウォンヌ、体調はいいよ。翼もちゃんと十二枚ある、ありがとうハオティエン」


 万能薬の滴下生(てきかせい)を一粒飲み、聖滝(せいろう)の滝で体を清め、文龍(もんりゅう)に痛め付けられたタリアの身体は、一晩ですっかり回復していた。天上皇が創った不死に近い体だ、タリアは自然治癒力が高い。


 「ありがとう、なんて僕は何もしていません。昨晩はタリア様を守れず不甲斐さを反省していました」


 「俺もですタリア様。堕神(だしん)に手一杯な自分の力量が情けない……」


 記憶の断片が二人を苦しめる。黒軍帽(こくぐんぼう)を深く被り、ウォンヌとハオティエンは唇を震わせた。

 

 数百年生きているが、二人は神としてはまだまだ若い。伸(の)び代(しろ)は無限大だ。


 タリアは片頬(かたほお)をぽりぽり指先で掻き、苦笑交じりに教訓を垂れる。


 「君達を見ているとウリやアレスの若かりし頃を思い出すよ。神々は完璧じゃない。天地、万物で完璧な存在は天上皇だけだ。私達は時に失敗したり、悩んだり、たくさんの試練にぶつかり、逃げずに乗り越えていかなければならない。君達は若いし焦らなくていい。昨晩の一件で、生き残れた事実を誇りに前に進みなさい」


 自分が至らなかった点は一回、考えれば十分だ。悠久(ゆうきゅう)の時間を生きる神々は「難(なん)」を引き摺ってはいけない。

 

 「……精進します」


 「……より一層の鍛錬に励みます」


 「いい子だ」


 二人の肯定的な返事にタリアは満足気に褒めた。窓から吹き抜ける風がタリアの頬を掠め、一拍置き、言葉を紡いだ。


 「――文龍はエルが?」


 質問にウォンヌが的確に答えた。


 「はい。他の堕神もエル様が裁きを」


 「さすがエルだ」


 自分の意識が途絶えた後の、粗方(あらかた)の説明は女神達に受けている。エルが女神達に頼んでいた、当の本人はすでに天繋地(てんけいち)だ。部下を罰した悲しみに暮れる暇なく、己の担う任務を全うする姿勢にタリアは感服する。自分に厳しい一面はエルの長所で短所だ。タリアはエルを自慢に思うが、憂慮(ゆうりょ)もしていた。


 「火鬼(ひおに)は罪改牢(ざいかいろう)にいます」


 「ああ。孤魅恐純(こみきょうじゅん)が天上界にいるって、女神達が恐がっていた」


 焔(ほむら)が自分の心臓を抉(えぐ)り捨て、天上界に昇った経緯も耳にしている。震慄した女神の表情は暫く忘れられそうにない。


 「(焔は怒っているかな……)」


 不安と恐怖で揺れる朱色の瞳を、タリアは途切れ途切れに憶えていた。自分の判断に後悔はない。何度だって焔を助ける。

 けれど信念を貫いた結果、焔を泣かせてしまった。板挟みの感情を解決する出口が見つからない。


 物思いに耽るタリアに、ハオティエンが情報をくれる。


 「罪改牢の見張り番をする番官(ばんかん)によると、飲まず食わずで一晩を明かしたとか」


 「それは大変だ! エルが焔の決定権を私にくれた。夕刻に迎えに行く」


 火鬼は不死身に等しいが、だらかと言って放ってはおけない。

 焦るタリアにハオティエンとウォンヌが目配せし合い、頷くウォンヌが能力で茶封筒を取り出した。二人に抜かりはない。タリアの発言は二人の想定内だ。


 「こちらが火鬼を引き取る手続き書類になります。タリア様の捺印で終わりです。罪改牢を束ねる牢長に、『夕刻タリア様がおいでになる』と伝えてあります」

 

 「……ありがとうウォンヌ、君達は用意がいいな」


 「いえ。牢長(ろうちょう)も、災いの種だ一刻も早く連れていけ、って感じでしたね」


 「あはは……、申し訳ないな」


 相手は五百年前大罪を犯した火鬼、きっと厳重に警戒しているのだろう。ウォンヌの上手い物真似で、タリアは牢長の顰面(しかめつら)が想像つき気が咎める。


 「……火鬼はタリア様の宮殿に?」


 「ああ。焔も安心するだろう」


 ハオティエンの唐突な問いに、タリアは意に介さない様子で点頭(てんとう)した。タリアも久しぶりに帰る。特段なにもない宮殿だが、焔に綺麗な桜が咲く庭を案内できるいい機会だ。タリアは素直に楽しみで嬉しい。


 「……神々が騒ぐな、ウォンヌ」


 「……だな、アレス様が暴れる」


 「……はあ」


 ハオティエンとウォンヌは小声で明日を憂いた。


 「――ん? なに?」


 タリアは自分の存在意義に疎(うと)い。神々の憧れの的である自覚がないタリアに、二人は口籠り首を左右に振る。


 「いえ……何も……」


 「……?」


 肩を落とす二人の語調は暗い。突然、元気をなくす二人にタリアは疑問符を頭上に飛ばしたのだった。




最後まで読んで頂きありがとうございます(*^▽^*)

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次回もよろしくお願いいたします(*'ω'*)

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