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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第一幕:~.。.:*✽桜紅の出逢い✽*:.。.~
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第十九集:愛憎


 「――火鬼(ひおに)を滅せよ!!」


 雄たけびを上げた文龍(もんりゅう)威令(いれい)で戦いの火蓋が切られる。堕神(だしん)達が一斉に襲い掛かってきた。


 元は神の堕神、階位(かいい)で力の差はあるが堕神に堕ちた神は欲に忠実で強敵だ。黒い眼球や爪、歯は異様で血に飢えた異界(いかい)の化物と大差はない。


 ハオティエンが帯刀(たいとう)した一尺八寸(いっしゃくはっすん)中脇差(ちゅうわきざし)をタリアに投げる。


 「タリア様! 不躾(ぶしつけ)で申し訳ございません、こちらの刀を!!」


 「ああっ、ありがとう!」


 神力(しんりき)が使用不可ないま、タリアは丸腰だ。タリアは有難く受け取り抜刀した。間近に迫る堕神に切先を向け、自らを鼓舞する。

 

 「(われ)百罪百許(はくずいはくきょ)を授ずけられし神、地上に並ぶものなし」


 「守地天無栄(しゅじてんむよう)――(まこと)(つく)武人(ぶじん)なれ」


 「――守善一射(しゅぜんいっしゃ)誠尽(まことつく)射手(いて)なれ」


 ハオティエン、ウォンヌとタリアに続き、己の大義を唱え先駆(せんく)した。武官(ぶかん)神力(しんりき)に頼らない実戦的な訓練も(こな)している。()つ、二人は日々の鍛錬で基礎を怠らない。


 「――ハァッ!」


 ハオティエンは堕神が(つんざ)片刃(かたは)の刀剣を(かわ)し、左切り上げした。吹き出す黒い血を、ゴーグルを装着したウォンヌが切り裂き、次の堕神の喉を刺突(しとつ)する。黒髪と金髪がゆったり(なび)き、芋づる式に出現する堕神と交戦した。


 「フッ……、神兵(しんぺい)悪足掻(わるあが)きは見物だ」


 文龍が二人の太刀筋を嗤笑(ししょう)する。バサバサ上下に動く、邪心で塗りつぶされた黒い四つの翼は禍々しい。

 

 「火鬼は私が受任した任務、君に譲りはしないよ文龍」


 タリアが(ほむら)の正面に立ち、文龍と相対(あいたい)した。が、不服を眉間の皺で表す焔がタリアを自分の後ろに下がらせる。


 「俺が相手だ堕神」


 「駄目だ焔!! 下がってくれ!!」


 「……いい子にしてて」


 自分の袖を引くタリアの蟀谷付近(こめかみふきん)に、焔はそっと口付けた。タリアは桜色の長い睫毛を最大に持ち上げる。蟀谷に残った感覚は確かで、兄姉(きょうだい)以外にされる接吻は初めてだった。


 「――私がお前を葬る!!」


 一弾指、文龍がロングソードを抜剣(ばっけん)し非常に鋭利な(ほう)で焔を狙う。


 「ハッ、威勢はいい」


 タリアを抱えてさらり身を翻す焔は鼻で笑い、タリアを下すと鬼灯丸(ほおずきまる)で反撃した。無論、刀身は炎だ。


 「何故、能力が使える!?」


 「俺は鬼じゃない。火鬼だ。通常の鬼縛札(きばくふだ)八枚で火鬼の鬼力を全部、封じられると思う馬鹿は……ああ、いたな」


 神縛札(こうばくふだ)は五枚で神力を無効する。鬼族(きぞく)は鬼縛札が八枚、しかし火鬼は例がない。


 「……私は万全を期す性分、八枚試す価値はあった」


 文龍の想定外と思いきや、冷笑した焔が突如、両膝を地面に突いた。消散(しょうさん)する刀身の炎、タリアは焔の服を見て瞬時に理解した。


 「――焔!!」


 複数の紙切れが貼りついている。天上皇の御言葉が書かれた神下札(しんかさつ)だ。

 神下札は御言葉自体に効力がある。天上皇の神札(しんさつ)同様、どんな領域内も関係ない。


 焔は全部は封じられていなかった鬼力の半分を、たったいま完全に失った。周囲にいる堕神の仕業だ。堕神は念には念を入れ、神下札を括り付けた黒い鎖で火鬼を捕縛する。


 「――多少は効くか」


 文龍は堕神の能力で黒く滲んだ上鎌(あがりがま)十文字槍(じゅうもんじやり)を頭上に解放した。文龍が天官軍(てんかんぐん)として天上界を守ってきた正義の槍だ。金に輝く本来の煌きは面影もない。


 「(あれは――)」


 天上皇の御言葉(みことば)()(しのぎ)に彫られている。正邪を兼ね備えた槍は焔には不利だ。直撃すれば消滅はしなくても回復に数百年はかかる。もし封印する目的なら、文龍にとって絶好の機会に相違ない。


 「――焔っ!」


 「…………ッ」

 

 駆け出すタリア、数百年ぶりに会えた美しい存在、焔を心配するその表情に、文龍は奥歯を噛んだ。


 「私は貴方を―――」


 放たれた上鎌(あがりがま)十文字槍(じゅうもんじやり)が一直線に落ちる。


 「――――ッ!!」


 それは焔ではなく、タリアの胸部を貫いた。


 「許さない……」


 文龍の見下ろす先でタリアが仰け反り吐血する。槍を引き抜き手元に戻す文龍、タリアの体は流れるがまま倒れた。草に埋もれる刀、鮮やかだった撫子色(なでしこいろ)深衣(しんい)が赤黒く染まる。


 一連が淡い夢の如く過ぎ、焔が叫んだ。


 「タ、――リア……!! タリア!!」


 上位神タリアの神聖な体に(じゃ)を纏う槍は歯が立つ。ハオティエンとウォンヌはタリアの状況に気づいているが、堕神(だしん)の相手で手が離せない。


 焔は振り絞る体力で地を這った。堕神が神下札(しんかさつ)を飛ばし焔の騎士服に重ねて貼る。けれど焔は止まらず、タリアの傍に辿り着いた。


 空洞の胸元が上鎌十文字槍の大きさと威力を物語っている。


 「タリア!! タリア!!」


 「…………」


 焔の懸命な呼びかけにタリアが虚ろな瞳で応えた。視界がぼやける中、タリアが焔の後方で文龍が振り翳す片手が見えた。


 寄り添う二人の光景が憎い文龍が再び、嫉妬に塗れた槍を落下させる。


 「――(うるさ)い……、(うるさ)い……!!」


 「――――ッ!!」


 タリアは咄嗟に焔に覆い被さった。刹那、タリアの背中を刃が穿通する。焔の騎士服にポタポタ、タリアの真新しい血が滴った。


 五百年生きて、初めて味わう恐怖に焔は震える。(おびただ)しい血で溢れたタリアの腹部が焔の思考を奪った。大量の血がごぼり口から吐き出され、頬を伝う涙は赤い。


 「タリ、ア……、タ、リ……何で……」


 「ハア……、ハア……、私は……、何度だって、君を助け、る……」

 

 途切れ途切れに答え、タリアは痙攣(けいれん)する唇で微笑した。焔の脳裏に、タリアと出逢った当時の情景が浮かんだ。


 『――傷の具合はどうかな。怖がらないで、私は君の味方だ』


 眉目秀麗で桜色が似合う神々しい男神、頬に触れたタリアの優しい手を、焔は忘れようがない。


 文龍がタリアに、太い低音で怒鳴る。次第に黒さを増してきた眼球は斑模様(まだらもよう)だ。


 「上位神タリア!! 何故ソイツを庇う!? 私は数百年、貴方を想い、貴方を慕い、貴方が欲しくて!! あらゆる苦境に堪え、功績を挙げ!! 天上皇(てんじょうおう)が目覚めた(おり)此度(こたび)の生還で手柄と引き換えに貴方を所望する手筈だった……!! 私を裏切り火鬼の傍を選んだ貴方は万死に値する!!」


 「はあ!? 裏切る!? 堕落した神は自分勝手で意味不明なんだよ!!」


 ウォンヌが駆け付け、焔の鎖を断ち切った。焔の神下札(しんかさつ)(まみ)れの上着を剥ぎ取る一歩手前で、数人の堕神が阻止する。


 「享楽の邪魔はさせないよ!!」


 「邪魔だ邪魔だ天の駄犬!!」


 「――どっちが邪魔だクソッ!」


 ウォンヌは堕神の攻撃に押され遠ざかった。文龍は、(かん)(はつ)()れず顎をしゃくって堕神に指示する。目配せし合う堕神達は、タリア達に人間の(うらみ)で形成した百本の堕弓(だきゅう)を放った。


 避け切れる数ではない。焔が立ち上がりかけた直後、バサリと軽音が鳴り、一面が純白一色になる。焔の眼に散らばった白い羽、上位神タリアの十二枚の翼だ。


 「……ッ!! ……ッ!!」


 降り注ぐ堕弓が、ドス、ドス、ドス、と十二枚の翼に容赦なく突き刺さる。黒光りする(やじり)を、純白な翼が盾となり防いだ。堕弓は焔に一本も当たっていない、掠りもしていない。


 「タリア……ッ!! も、いい!!」


 鮮血が(ほとばし)り白が赤になった翼、何度も、何度も、自分を命懸けで助けるタリアに焔は涙ぐんだ。


 上位神は簡単に消滅しない。だけど痛みは天地平等(てんちびょうどう)にある。タリアの体はすでに死んだも同然だ。死を超えた(むご)い仕打ちを受けて尚、タリアの揺るがない「助ける」信念に焔の涙腺が崩壊した。


 「――上位神タリア、私の愛しい男神(おがみ)。私のモノにならない貴方は、誰かのモノになってはいけない。心臓を(えぐ)り、翼を()ぎ取り、肉体をバラバラにし、燃やして、完膚無きまでに、消滅させます」


 文龍が進言した後者の意味は、上位神の魂を消滅させる方法だ。ハオティエンとウォンヌが喫驚(きっきょう)する。


 「お前……ッ!!」


 「異常神(いじょうしん)め……ッ!!」


 「――誰の弟を消滅させるだと?」


 場にいない、第三者の声が響いた。絶体絶命の窮地に上空が輝き円形に雲を退ける。中央で十二枚の翼を羽ばたかせ、地上を眼下(がんか)に、ひとりの男神がいた。上級三神、正義を司る上位神エルだ。


 「俺の可愛い末弟(まってい)(いじ)めた罪人(ざいにん)は誰だ」


 金のアーミングソードを肩に乗せ、裁きに訪れたエルは、(ひたい)にある第三の目を開き、刺々しく訊ねたのだった。



最後まで読んで頂きありがとうございます(*'ω'*)


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次回もまたよろしくお願いいたします(*^▽^*)

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