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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第一幕:~.。.:*✽桜紅の出逢い✽*:.。.~
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第十五集:花々の誓い


 「ハオティエン、ウォンヌ、ウリに言伝(ことづて)よろしくね」


 「……拝承(はいしょう)


 「……致しました」


 得心(とくしん)はしていない。タリアを尊重して否々乍(いやいやなが)らも意向に添う努力をする。忠直(ちゅうちょく)なハオティエンとウォンヌは一言ずつ零し、渋々、天上界に帰還した。


 「はあ……、疲れたな」


 時刻はすっかり(たつ)(こく)だ。見送ったタリアの吐く息は重い。


 ハオティエンとウォンヌに報告を受けた五事官(ごじかん)ウリが唖然とする姿が容易に想像が付いてしまう。彼の仕事は五界(ごかい)界事(かいじ)だ。五界で起こる怪奇事件の解決、転仕、任務能力に関する事柄、昇給昇格を担い、格官職の方針を束ねる書記を兼務、関係官職との連携、現場支援、官職指導に助言、等々――常に色々な書類や会議に追われている。


 実は数十年前、見兼ねたタリアが天上皇に打診しようか尋ねたが、断られていた。理由は単純明快だ。


 「仕事量は天上皇の愛重(あいちょう)です」


 神官は神の意向に従事、天上界と地上界の事項に従事、ウリは真面目で責任感が強い。与えられた役目は放り出さない。


 故にタリアが火鬼(ひおに)孤魅恐純(こみきょうじゅん)と村に残った選択は、確実に彼の自律神経を乱し頭痛を引き起こす種となる。ハオティエンやウォンヌ同様に憂慮(ゆうりょ)して、だ。


 申し訳ない気持ちはあるが、タリアは孤魅恐純を見捨てられない。純粋な慈悲、無垢な恋慕、素直な行動は正解か否か、天上皇の御心に委ねられた。


 「…………」


 黙想(もくそう)(ふけ)るタリアを、突如、(ほむら)が横抱きに持ち上げる。


 「―――ぅ、わ!?」


 所謂(いわゆる)、世の女性が憧れ一度はされてみたい、お姫様だっこだ。慌ててタリアは焔の胸元の服をギュっと握った。


 至近距離で焔がタリアに破顔する。


 「朝の散歩に行こうか、掴まってて」


 「―――ちょ、焔!?」


 焔は助走もなく一瞬で宙に跳んだ。上位神タリアは十二枚の翼を授けられた神、高所は慣れているが、誰かに身を預けた経験はない。初めての感覚に体が強張る。

 

 「軽功(けいこう)は得意だよ、落とさない平気だ」


 「キミの鬼力(きりょく)量だ得意なのはわかって――ああ……っ、村人達が」


 タリアが地上を見下ろせば、朝が早い村人達が天を仰ぎ、こちらを指差して騒いでいた。焔は実体の孤魅恐純だ、タリアが誘拐されたと勘違いしたのかもしれない。

 桜道士様(さくらどうしさま)、桜道士様、と叫んでいる単語は十中八九、自分に付けられた仮名(かめい)か何かだと把握したタリアは、肘を起点にぎこちなく手を振る。「おはようございます皆さん」と挨拶したタリアに、彼らは一斉に動きを止め、ワッと手を振り返し安堵感を広げた。無論、焔は村人を意に介さない。


 「焔、いったいどこへ向かってるんだ」


 不安なタリアの疑問に一拍後、焔が顎をしゃくって答える。


 「――あ、ほら、あったよタリア」


 村と隣接する森を超えた辺りで、目的地に到着した。焔は山々に囲まれた自然豊かな高原に降下する。広大な土地に草花が咲いていた。天然の花畑だ。


 タリアは喜びを瞼に浮かべる。風に乗る花の香りが心地いい。


 「降ろして焔」


 「このまま散歩してもいいよ」


 「降ろしてくれ」


 「翼がある神の手綱だよ俺は」


 抱え直す焔は冗談っぽい調子で本気の眼差しだ。


 「降ろしてくれ焔、私を想って連れて来てくれたんだろう。散歩なら、二人で歩いて楽しみたい」


 「……はあ。まあね、足元気を付けて」


 タリアの要望はすべて叶えたい。焔は腰を下げ、大地にタリアを解放した。


 「ありがとう。はあ……、綺麗だね」


 タリアは肺に目一杯酸素を取り込んだ。森羅万象の息吹を実感する。

 人手によって栽培された草花と異なる自然は、春夏秋冬、限られた時期にしか見れない植物や花があり、過酷な環境でも堂々と咲き誇る逞しさは尊い。


 「気に入った? たまたま発見したんだ。俺は正直、全っ然、微塵と毛程に興味がない。タリアは好きかなって」


 ハオティエンやウォンヌが居たら激怒する率直な感想だ。


 「あはは、君は正直者だ。もちろん気に入った。草花は好きだよ、ありがとう。お礼をしなきゃいけないな」


 タリアは着飾らない焔に一笑し、右手の平を口元に寄せ、ふっと一息、吹いた。色彩鮮やかな花びらが放出され、焔の瞳が万華鏡になる。

 

 「――桜舞命天(おうぶめいてん)


 三美神(さんびしん)タリアはカリスの一柱(ひとばしら)だ。

 上位神(じょういしん)タリアは豊かさと開花を司る神、一方で美と優雅を象徴するカリスの一柱で、魅力、美貌、創造力を司り、繁栄と花盛りがタリアの能力であった。

 

 上位神タリアの信者になれば、人生と景気が花開き、発展し、栄え、豊かになる。真骨頂を発揮したタリアは焔を覗き込んだ。


 「興味が湧いたかな」


 「タリアに益々(ますます)、興味が湧いた」


 「絢爛華麗(けんらんかれい)じゃなかった?」


 「タリアには劣る」


 ハッキリ言い切った焔は跪き、タリアの左手を攫った。細く白い指先は汚れがない。


 タリアは孤魅恐純の血塗られた過去を真綿で包む、儚い存在だ。自分以外は敵の世が、タリアと出逢い一変した。殺戮(さつりく)醜悪(しゅうあく)残忍酷薄(ざんにんこくはく)、鬼界で至高の火鬼に情けをかけたタリアは焔の唯一無二となった。


 焔は跪き、タリアに告げる。


 「俺の目はタリアを映すために、俺の口はタリアと話すために、俺の鼻はタリアの香りを堪能するために、俺の耳はタリアの声を聞くために、俺の手足はタリアを守るために、俺の両腕はタリアを抱き締めるためにある」


 雁渡(かりわた)しが朱色の髪を靡かせた。焔は誓言(せいごん)(つむ)いだ。


 「タリアが死ぬときは俺も死ぬ、タリアが生きるなら俺も生きる。鬼の戯言と思うか真心と思うかはタリアが決めていい。どちらにせよ勝手に傍にいる、勝手に好きでいる」


 孤独に五百年生きて、寂寞(せきばく)たる山に五百年封印された、火鬼の初めての恋の仕方だ。自分が捧げられるものは全部、悠久の余生も、命すら捧げたい。

 

 タリアは焔の指先を握り返した。タリアも又、目映い天上界で煢然(けいぜん)たる神だ。


 「私を恣意(しい)に好きでいるのか? 私は焔に篤実(とくじつ)でいたい」

 

 「ごめんタリア、天地に誓って俺の赤心(せきしん)だ」


 衷情(ちゅうじょう)披瀝(ひれき)する。「勝手に」は余計であった。


 「……ありがとう。私もそ、の……焔が……、好きだ。先に謝っておこう、初めての恋慕の情だ……手探りになる」


 タリアの耳尖(じせん)は仄かに赤い。恥ずかし気に睫毛を伏せる仕草に、焔は空いた片方の手で心臓を押さえる。脈打つ鼓動が煩い。

 

 「――――ぐッ」


 「え、――焔?」


 「大丈夫、タリアが可愛くて悶えてるだけ……」


 「…………ッ」


 タリアの頭上がボフッと爆発した。含羞(がんしゅう)の湯気だ。


 「俺も初めて、タリアも初めて、やっぱり相性がいい。否定した(いち)()を蹴散らしたいな」


 孤魅恐純は折紙付きで語法(ごほう)が悪い。タリアは火照りも治まり、繰り返す訂正に溜息を深める。


 「壱と弐じゃない。ハオティエンとウォンヌだ。蹴散らさないで、仲良くしてくれ」


 「タリア以外に興味ない。ああ、花は摘んで帰ろう。タリアが好きな花は俺も大切にしたい」


 「……はは、ありがとう」


 タリアは焔の歯切れのいい口調と、自分が好きな花を愛そうとする姿勢に丸め込まれた。華々しい背景、太陽の光の粒が降り注ぐタリアは圧巻の美しさである。


 焔は矢庭(やにわ)に立ち上がり繋がるタリアの手を引いた。


 「―――!!」


 タリアは必然的に焔の胸板にぶつかる。焔はその勢いを利用し、タリアを抱き締めた。片や196㎝片や174㎝、約20㎝ある身長差が丁度いい。


 「好喜我(コーシンファ)


 「……鬼語(きご)は勉強していない」


 耳元で囁く焔の言語は鬼語だ。旋毛(つむじ)()げるタリアに焔の意地悪は終わらない。


 「一好愛我(ゾォンシンアイファ)


 「……さては悪口だな?」


 「ハハッ、さあ? 教えてあげようか」


 「教えてくれるのか?」


 朱と桜が小声で内緒話する。意味を教示されたタリアは、ボフッと二度目の噴火を遂げたのだった。

 



好喜我=好き

一好愛我=愛してる

鬼語は作りました!


最後まで読んで下さってありがとうございました(*'▽')

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかのお姫様だっこ!? これはタリアもぐっと来たでしょう♪ 焔のタリアを思う真っ直ぐな気持ちがいいですね。 まさに純愛という感じです。
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