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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
═════⊹⊱❖黑の章❖⊰⊹══════
133/134

第九集:約束


 『……哀れで愛おしい弟弟(ディーディー)よ、()の痛みを知れ』


 エルの無表情で囁かれた凪いだ低声が耳奥に残っている。


 「……はあ」


 ――どこでなにを間違ってしまったのかわからない。


 ただ、痛みはある。愛の一言で収まらない大切な兄妹弟(きょうだい)たちと離れなくてはならない、心の痛みだ。


 エルの『他の痛みを知れ』は――、ルキやリイガウが堕神(だしん)に堕ち、追放されて苦しいのは『お前たちじゃない、俺達だ』と言いたいのだろう。


 上位神(じょういしん)堕神(だしん)に堕ち追放された事実は、天上界史上の汚点だ。加えて彼らに生涯の苦痛を与えてしまったことは、ルキが永遠に償えない罪過で後悔になる。


 一方で、それでもやはり、天上皇(てんじょうおう)上位神(じょういしん)以上に人間を愛す現状が憎い。


 神聖で崇高、地位と名誉、栄光を授けられし炎で創造された上位神(じょういしん)より、威厳や神力(しんりき)、権威のない大地を這う土で創造した人間に寵愛を移した。


 「……ジジイは絶対、許さねえ。いつか叩き潰してやる」


 ルキは天を落ちる中で中天(ちゅうてん)に中指を立てる。


 刹那、体をガシリ、掴まれた。


 「――ようルキ、お疲れさん。互いに追放されちまったな、ひでえ有様じゃん」


 上位神(じょういしん)リイガウだ。強膜(きょうまく)双翼(そうよく)はルキ同様、真っ黒であった。


 「ゴホッ、ゴホ……、なんでいる?」


 「飛翔道(ひしょうどう)に向かう途中で、父さんの雷を食らっちまってよ。容赦なくて痛てえの何のって藻掻(もが)いてたらお前が落ちてくるの見えて、待ってやってたんだ。派手にボロボロじゃねえか、エルに()られたか?」


 ルキの問いに答えるリイガウは説明通り若干、堕体(だたい)を貫かれた落雷で全体的に(すす)けている。ルキは自身の黒い血で濡れた脇腹の切創(せっそう)を一瞥し、面白がって聞く口角の上がったリイガウに、内心で舌打ちをしつつ認める。


 「……まあな」


 「ハハッ、さすが私達の兄さんだ。タリアは?」


 「……タリアは黒が似合わねえだろ、連れて行かねえ」


 「……ああ、タリアは純白が似合う。可愛い私達の末弟(まってい)だ」


 「……ったりめえだろ」


 「――ッ、いた!!」


 ルキとリイガウが(とど)まって会話してたところへ、閃光たる凄まじい速さでアライアが飛んで来た。(ひたい)に汗が滲んでいる。美眉(びまゆ)を顰めた表情は硬い。


 「……アライア」


 「ルキ、リイガウも、行くのね」


 「ああ、すまねえ私は邪魔だろ?」


 リイガウが恋人のふたりを気遣うが、アライアは首を振った。


 「いいえ、リイガウ。ふたりに挨拶をしに来ただけよ」


 「俺と一緒に来たいんじゃねえのか?」


 「くだらない冗談はよして、ルキ」


 「ハハ、悪い」


 軽く苦笑するルキは自分を睥睨(へいげい)したアライアに言葉を紡いだ。


 「アライア、俺はお前と別れる。つってもお前は大事な妹だ。愛してる。お前と約束をひとつしたい、俺の身勝手な我儘だがお前に頼みたい」


 「……なに?」


 「上位神(じょういしん)末弟(まってい)、タリアを全力で守ってほしい。下位(かい)の奴らがタリアを(おとしい)れねえように。一緒にいてやれない、俺の分まで……」


 ルキの切なる願いはタリアの幸せだった。(ほお)に涙が伝っている。リイガウとアライアは初めてルキの泣く姿を見た。ふたりは目配せし合い、アライアが太息(ふといき)を吐く。


 「ちょっと、そんなの当たり前でしょ? 私の可愛い可愛いタリアよ、ルキとリイガウの分まで甘やかしてやるんだから! タリアに下神(かしん)は近付けないし、恋人だって許さないわ!!」


 「……ありがとうアライア、お前は良い女だ」


 「逃がした魚は大きな、ルキ」


 「フフッ、いま気づいたの兄さん達! ……あら?」


 「……花? おいルキ、なんか花が」


 「……タリアだ」


 三人で笑い合っていた空間に突如、多種多様の鮮やかを咲かせる花々が舞い散った。ルキの虹彩(こうさい)が万華鏡に煌いている。これはタリアの能力だ。


 白い彼岸花(ひがんばな)がルキの胸元に自然と寄り添った。


 「タリアの奴……」


 白い彼岸花(ひがんばな)の花言葉は「また会う日を楽しみに」だ。リイガウには紫のラナンキュラスが贈られてある。


 「お前が私の幸福だ、タリア……」


 花びらに頬擦りしたリイガウの面輪(おもわ)は柔らかい。


 「行こうリイガウ、じゃあなアライア」


 「ああ。アライア、兄妹弟(きょうだい)によろしく。私達はお前達兄妹弟(きょうだい)の味方だ、困ったときは必ず、助けてやるぜ」


 「まったく、頼もしいわね。堕神(だしん)の兄さん達、……さようなら」


 光を司る男神(おがみ)ルキ、行動を司る男神(おがみ)リイガウ、美しきふたりは天上界を去った。アライアはふたりの影を見送り、徐々に目元を潤ませ、流涕(りゅうてい)する。色彩豊かな花々がアライアの傷心(しょうしん)を慰めたのだった。

おはこんばんは、白师万游です( *´ω`* )

最後まで読んで頂きありがとうございます!


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