表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
═════⊹⊱❖黑の章❖⊰⊹══════
132/134

第八集:最後の笑顔は次男のまま……


 「……俺は俺の正義を貫く」


 「上等じゃねえか、エル」


 ふたりの刃先(はさき)がぶつかり合う衝撃振動で天上界内城(ないじょう)の地面は壊れ、宮殿も(いく)つか崩壊していた。現在、ふたりの姿は天と宇宙の狭間、青い虚空(こくう)にある。


 「――どけっ、エル!!」


 「――何故、父上に歯向かうんだルキ!!」


 ルキのバスタード・ソードの切先を(かわ)し、右薙(みぎな)ぎで斬り込んだエルが叫んだ。ルキの二翼は真っ黒で漆黑(しっこく)が沈殿した羽根は禍々しく、光を司る男神(おがみ)、全きものの典型で美を極めてた神魂(しんこん)の、美しい欠片は微塵とない。


 「ジジイの愛情は土で創ったアイツに移った!! ルキッ、テメエも土なんぞに跪拝(きはい)しやがって!! 俺達はジジイが創造した初めての男神(おがみ)だっ、崇高で神聖、威厳や階位(かいい)もある!! なのにジジイのヤツ……ッ!! 俺が天上界を治めりゃ、上位神(じょういしん)の尊厳は守られる!!」


 「父上に代われる神などいない!! 父上を愛し、父上が慈悲を与える者を我々は導き、父上が戒める者を我々は見守る役目がある!! 父上の寵愛は平等で無限大だ、アダムに移ったわけじゃない!! 精神的な幸福、物質的な充足(じゅうそく)、よく考えろルキ!!」


 「っるせえ!!」


 エルの耳障りな説教を、ルキは刺突(しとつ)で遮った。


 「……くっ」


 エルは上手く弾き返すが、ルキの速い左切り上げで、白い右頬(みぎほお)がスッと切れる。一筋の血が流れ、頬を伝った。数世紀、彼の神体(しんたい)に傷を負わせた神はいない。


 「くどいぞエル、俺は後悔も懺悔(ざんげ)もしねえ。天上界の新王になるか、タリアを連れて出て行くか、どちらかの二択だ」


 平青眼(ひらせいがん)の構えるルキに対し、意を決したエルはアーミングソードの(ぼうし)を天高く掲げる。


 「お前の二択はどちらも叶うと思うな、ルキ」


 「……前者は無理でも後者は譲らねえ」


 双子は対峙し、制止した。エルの白い虹彩(こうさい)に映るルキは怨色(えんしょく)を滲ませた表情で、ルキの黒い瞳子(どうし)に反射するエルは慍色(うんしょく)を浸透させた閻魔面(えんまづら)だ。


 ふたりは脈打つ心臓の鼓動に耳を研ぎ澄ませ、風が凪いだ直後、膨大な神力(しんりき)を籠めた刀を振り翳す。ルキの烱眼(けいがん)を射抜くエルの第三の目は開目していた。


 「――万裁公天(ばんさいこうてん)!!」


 「――豪栄褪闇(ごうえいたいあん)!!」

 

 エルの放つ一塊(いっかい)聖光(せいこう)が複数に分裂し、八つの光波(こうは)が走る。けれどルキの攻撃、八つの(きら)めく波動がそれらすべてに衝突した。波動(はどう)伝播(でんぱ)する輪が形成され、膨張速度が音速を超えた圧力波(あつりょくは)で、空気に波紋が生じる。


 優劣(ゆうれつ)がなくなった状態だ。


 戦闘力、防御力、瞬時に一撃を避ける早業は、どちらにも遜色(そんしょく)はない。


 しかし、エルの長剣(ちょうけん)天上皇(てんじょうおう)より(たまわ)ったものだ。鍛え抜かれてある刃はどんな硬い剣をも打ち砕けた。


 エルが一瞬でルキと間合いを詰め、一挙に(ほふ)ろうとする。


 「――ルキ、俺の愛が足りず、すまなかった」


 囁かれた言葉は、荒れ狂う突風で掻き消された。


 「――ク、ソッ……!」


 真っ向から激甚(げきじん)の重圧で振り下ろされる聖剣を、ルキの邪気を纏った剣がガチッと受け止める。刹那、パキリ、刀身を一刀両断されてしまった。欠片が飛散する。


 「……哀れで愛おしい弟弟(ディーディー)よ、()の痛みを知れ」


 そしてエルは己の剣を振り被り、須臾(しゅゆ)に今度はルキの右の脇腹を深く(えぐ)った。


 「ッグ、ソ……がエルてめえ!!」


 (ほとばし)る鮮血は黒い。ルキの神体(しんたい)は欲で満ちた完全な堕神(だしん)となっている。


 「――お前達を追放する。ルキ、リイガウ」


 天上皇(てんじょうおう)天声(てんせい)が七色に響き渡った。反論を認めず、ふたつの内のひとつの(いかずち)がルキを直撃する。カハッと黒い煙を吐くルキの体が崩れた瞬間、白い二翼を羽ばたかせる男神(おがみ)がルキを支えた。


 「ルキッ、しっかりして!!」


 上位神(じょういしん)タリアだ。涙を流すタリアはルキの背中を押し、酸素を吸わせる。


 「ハッ……、タリアお前……」


 「ルキ、……兄さん、……やめて、お願い……」


 タリアは天上皇(てんじょうおう)とふたりの攻防を見ていた。我慢できず、ここにいる次第だ。


 「タリアッ、父上の傍にいろと命令したはずだ!!」


 「すまないエル……、謹んで罰は頂戴する。ルキ、ずっと愛してる。誓いを忘れないで」


 タリアはエルに謝罪し、涙声でルキにさよならの挨拶をする。ルキの脳裏に遠い昔の過去が鮮明な描写で甦った。


 『エルは俺と同じ炎から生まれた紛れもない同等の双子だ、タリアは俺の子供同然だ。生涯、愛してる』


 『生涯、ずっと?』


 『ああ、ずっと(・・・)だ。忘れるなよタリア憶えておけ、俺の魂が消滅して尚、お前らを愛し守り助けると誓う。お前もだろエル』


 『当然だ』


 可憐な小花、ネモフィラが咲き誇る世界で交わした約束だ。


 「(連れて……行けねえ……、馬鹿か俺は……ッ)」


 天地で一番に愛す、尊いタリアを黒で染め、暗く寒い闇に引き摺り込めない。

 

 「……忘れない、ずっと、ずっとだ。タリア、俺はお前を愛してる。上位神(じょういしん)兄妹弟(きょうだい)は俺の宝だ」


 そう告げたルキは次男の顔で微笑み、タリアを優しく突き放し、自ら落ちる。タリアのための、第三の選択だ。


 「……あ、まだ……、いやだ、待ってルキッ、まだ!!」


 「だめだタリアッ、アイツは追放の処罰を選んだんだ!!」


 ルキに片手を伸ばすタリアをエルが羽交い絞めにした。タリアは急で、予想だにしない未来、永遠に近しいルキとの離別の悲しみに耐えられず、哭声(こくせい)する。エルも又、タリアを抱き締め、忍んで垂泣(すいきゅう)したのだった。

おはこんばんは、白师万游です(*'▽')

最後まで読んで頂きありがとうございます!


感想、レビュー、評価、いいね、ブクマ、フォロー等々、

頂けると更新の励みになります!


次回の更新もよろしくお願い致します(*´︶`*)♡

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ