第七集:三男、リイガウ
天上界内城を突き破る速さで上位神リイガウは現れた。内城にいる中位神や下位神は、吹き荒れた突風を浴び、一様に驚いている。
「……な、何事だ?」
「リイガウ様だ……、何か黒くないか?」
「……何で黒いんだ?」
ざわつく内城、そこへ二人、男神が舞い降りた。片膝を突き、ゆっくり立ち上がる。十二枚の翼を授かりし上位神、クロスとシリスだ。
「リイガウ~……ッ」
クロスは黒いリップを塗る唇の下唇を噛んでいた。頤に脂肪がない曲線美の顎、顔上は濡羽色の髪、刈上げマッシュヘアの前髪で見えない。
服は上衣下裳、濡羽色の漢服を着用している。黒い長靴を履いていた。
身長は197㎝だ。すらりと伸びる手足、体型はいい。左手に持つ約180㎝の杖は時空の杖だ。先端に付いた、高波動エネルギーを有する高品質の水晶は透明で美しい。
「ったく……」
一方、呆れた様子のシリスはフードの深い白のローブマントを纏っており、表情はクロスと比べ一切、窺えない。手元も長い袖口で覆われて、裾もマキシマム丈と引き摺る長さだ。背丈は2m40㎝ある。迫力で満ちた読めない容姿の特徴は些か怖い。
同一直線上にない三点、三角形を描く形で三人は対峙している。
「お前らふたりが私の捜索隊、いや、征伐隊か?」
「まあね~……、他は地上で待機中だよ。はあ……、マジでお前さ~、反省しろよリイガウ~! 僕はお前のことめちゃくちゃ好きなのに~!」
「ハハッ、私もクロスやシリスを愛してる。生涯、変わらねえよ」
「じゃあ、何で俺らを裏切る?」
両腕を組み、シリスが訊ねた。低声の端々は怒りで刺々しい。
「私はお前達兄妹弟を裏切っちゃいねえ。父さんが私の愛を裏切ったんだ。お前達は何故、土の塊に寵愛を奪われ澹然としていられるんだ? 権威も無けりゃ、神力も無い。低俗にする跪拝は、上位神の威厳や尊厳を失う行為だろ」
リイガウの返答はアダムに対する純粋な嫉妬だ。屁理屈に捉えた神は純粋で、理に敵うと賛同した神は不純な欲を秘めている可能性が高い。
「リイガウ様が……!?」
「天上皇を裏切ったのか!?」
静寂な内城に響いたリイガウの「裏切り」、下神達は状況を掴めないが、事実、目の前にいるリイガウは堕神に堕ち、萌黄色の明眸だった色彩は黒い。未だ誰ひとり目にした試しがない、漆黒背負う堕神に下神達は釘付けだ。
「……澹然って、マジで言ってんのリイガウ……? だって僕は父上の愛を信じてる。信じているから深沈たる胸襟なんだよ~!! 確かにアダムは土の魂でか弱いけど、だからこそ僕達が守ってあげなきゃ、誰が守ってあげるのさ!!」
リイガウの見解を常日頃、尊重し、兄として慕ってきたクロスが初めて相違を示す。シリスもリイガウではなく、クロスに同調した。
「なあ。俺達は父上を愛す神だろ、リイガウ。ガキみてえな我儘で堕ちやがって、恥ずかしくねえのかよ」
「…………」
ふたりが幼い頃の映像がシリスの脳裏に過る。可愛い弟達は立派に成長した。上位神たる煌きは神聖で神々しい。
「クロスはそのままいい子でいろ、シリスお前の茶目っ気は目に余るものがあるが離れりゃ恋しくなるな」
「――……っ!」
意味深な発言を零すリイガウの言外の意を察し、クロスが時を止めようとした。が、一足早くリイガウが唱える。
「行操強縛、クロスとリイガウは喋るな制止していろ」
「……っ」
「……!!」
リイガウの能力でふたりは指示に従った。行操強縛は他の行動を操れる。彼が解除しない限り効力は消えない。
「私は上位神、三男だぜ? お前らふたりじゃ私に敵わない。エルかルキじゃねえとな。まあ安心しろ、愛するお前らを傷付ける気は毛頭ねえよ」
「…………」
リイガウはふたりに微笑し、一拍後、澄声で呟いた。
「内語聲無」
「(……あ~っ、クソ~!!)」
「(……リイガウの野郎ッ)」
内語聲無は直接、他の心に語り掛ける能力だ。該当しないクロスやシリスはもちろん、リイガウの声は聞こえない。
「(……下神に告ぐ、私と来たい者は一週間後、騒ぎが収まり次第、地上に来い。私は天上界を去る、同行したい者を快く迎えてやる。行操強縛、この内容は口外無用だ)」
「…………っ」
下神達が喉仏を上下運動させ、ごくり、口腔に溜まった唾を嚥下する。
「じゃあな。クロス、シリス、愛する兄弟妹達によろしく。一時間後、縛りは解いてやるよ」
「(――、一時間後!?)」
争わず、誰も負傷者を出さず、リイガウは弟ふたりに手を振り、颯爽と飛んで行った。口元は三日月になっている。同声していたであろうクロスとシリスの一驚を、リイガウは「可愛い奴らだ」と内心で笑っていたのだった。
おはこんばんは、白师万游です(*'ω'*)
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