第五集:軋み始める
天上界内城、上空に天地、宇宙、万物の創造主、天上皇と直接の拝謁、接触ができる聖域の場所、善悪と汚れのない聖天の間はあった。
聖天の間は十二枚の翼を持つ、天上皇創りし上級三神の上位神しか、辿り着けない天と宇宙の狭間にある。
宙に浮く薄い円形の土台、床は大理石だ。円の縁に添って描かれた天上皇の御言葉は均等で精密、中央に施されてある天上皇の左目の彫刻は立体的に窪んでいた。
惑星や銀河が圧倒的な存在感で煌く蔵藍の本源的な真如の虚空界に、神秘的な白いベールがかかっている。一列に並んだ上位神を見下ろす輪郭の霞んだ玉面の正体は天上皇だ。
召集されたすべての上位神、長男エル次男ルキを始め、十二人が拱手している。
「――父上、如何様なご要件でしょうか」
十二人は突然、天上皇に呼び出され、現状を把握していない。
「――新しい種を創った、皆に紹介しよう」
「――――!?」
天上皇の御言葉は唐突で上位神は一様に驚いた。刹那、周囲が光閃する。全員が一瞬、瞼を瞑り、ゆっくり開目した。
上位神の眼前にひとりの男が直立している。白い一枚布で体を巻いていた。眉目が端正な相貌で、二重瞼の茶色い虹彩に短髪の髪、翼はない。身長は凡そ175㎝弱だ。
「――名はアダムだ。地面を由来に末尾に血の語根を読ませた名になる。お前達に似せ、地上の土で創った」
「……地上、大地の土で創ったのですか?」
天上皇の紹介は簡略で、エルが問い直す。厳顔は硬い。
「――ああ。地上を下界とし、お前達と異なる種族、人間を住まわせる。アダムは人間の祖先となる一歩、私の計画のひとつだ」
天上皇の天声が七色に響き渡った。彼の壮大且つ無限な知恵、思想、計画で我々生物は支えられ、導かれ、森羅万象は流転する。
「計画計画ってなジジイ!! 下等なモン造りやがって!!」
ルキが柳眉を逆立て、天上皇に噛み付いた。
「落ち着けルキ……ッ!!」
「何でお前は落ち着いてんだよ!? エル!! 土で創った人間だあ!? ハッ、ふざけんじゃねえぞジジイ!!」
ルキの右隣にいるエルが宥めたが、双子の片割れの怒りは収まらない。そんなルキを意に介さず、自己完結した絶対的で永遠なる真理の天上皇は、栄光を与えた上位神に命令する。
「――私が前途を祝したアダムに跪拝せよ」
「…………ッ」
上位神が天上皇以外に跪くことはない。天上皇の次に崇高で能力と地位が高い神だからだ。上位神が天上皇の命令に従えば事実、アダムは自分達以上に寵愛されし被造物と認めたも同然となる。
上位神が生まれた理由は天上皇を尊重するためだ。自然の摂理、宇宙の法則、天上皇の下命に彼らは背けない。
エル、ラファフィル、シリス、クロス、キッド、シュトリアと両膝を突いた。女神達三人も続き、タリアも膝を曲げるが、寸前で右隣に立つ人物、ルキに腕を掴まれ阻止される。タリアを射抜いた黒い点の瞳孔は鋭い。白銀の睛眸は毒々しい憤懣で渦巻いている。
「綺麗で尊い神魂を灯すお前が、臭い土の魂に這い蹲るな」
「私も御免だよ、父さん。私は聖なる炎、アダムは単なる土だ。跪拝はあんまりだろ。お前達は父さんに文句のひとつも言えないのか?」
ルキの発言に上位神の三男、リイガウが同調し、低声で天上皇に諫言した。雄黄の漢服、上衣下裳の上衣の埃を指先の甲で掃い、瞼を半眼に上位神を見据えている。リイガウの反撥を無視したそれぞれの片顔は、確固たる父への忠誠心で満ちていて、リイガウは小さく舌打ちした。
エルがルキを見上げ、白い漢服の袖口を引っ張る。
「ルキ、タリアと座れ。リイガウも、父上に歯向かうな」
「エルお前ッ、上位神の誇りはねえのかよ!? アイツは威光のない土人形だ!!」
「ルキ、ね、父上を困らせちゃだめだ」
タリアもエルに加勢した。ルキの手首を掴み、跪拝を催促する。けれどルキはふたりの手を振り払い、天上皇とアダム、上位神達に背を向けた。
「俺は無理だ」
「私も賛同しないね」
天上皇の命令を拒んだ神はいない。ルキ、リイガウが天上界の純白な歴史に漆黒の汚点を残してしまう。
「――私の可愛い子等達よ、私は違背を良しとしない。追放されたいか」
「なにが可愛いだよジジイ、笑わせんじゃねえ。お前の愛情の一番はソイツに移った、俺は御免だ。追放したきゃ勝手にしろ、テメエの脅しで俺の意思が変わると思うなよ」
「私も賛成し兼ねるね、私が悪いんじゃねえ。父さんが私の愛を裏切ったせいだ」
「待て!! ルキッ、リイガウ!!」
エルが呼び止めたが、ふたりは場を去ってしまった。
アダムの誕生で上位神兄妹弟達の、一本の道が枝分かれする。誰も想像していなかった、悲して苦しい、切ない未来の現実だ。
おはこんばんは、白師万遊です( ³ω³ )
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今年ももう半分が過ぎ去ろうとしています(こわい話)
まだまだ正月気分が抜けない白師ですが、
今日ものらりくらり笑顔で無理せず自分らしく頑張りたいです( ˙︶˙ )
皆さんの一日が笑顔で溢れますように(*´∇`*)
また次回の更新もよろしくお願い致しますm(_ _"m)ぺこ




