第四集:手製の贈り物
「――エルお前、日に日に器用になっていくな」
「――まあな」
頷くエルの手元を覗くルキは感心している。興味津々な眼差しだ。
巳の刻の正刻、ルキとエル、タリアの三人はエルの宮殿、正風殿にいた。エルはタリアが着ている撫子色の漢服、上衣下裳の太い長春色の帯に、紐を用いて作った手製の中国結びを括りつけている最中だ。飾り紐は紫薇花色の前掛けと同じ長さで、連なった質の良い六種の玉、薔薇石英や翡翠、黄玉が輝いている。中央に透かし彫り細工された桜の花は金属製で精巧だ。垂れる房は白い。
取り付けられた希少価値のある高価な贈り物は優美でタリアに似合っていた。
「ありがとうエル、大事にするね」
「ああ」
「――で、俺の分は?」
ルキがタリアの右肩に左腕を乗せ、低声でエルに訊ねる。にっこり浮かべた笑顔は黒い。
「ない」
エルは臆せず断言した。果然の返答だ。
「っんでだよ!! 俺も欲しい!!」
「欲しいってお前、飾り物は好きじゃないだろ」
エルの見解は正しい。ルキはあまり好んで飾り物は付けない。
「タリアと揃いは別だ!」
単純明快な理由だ。ルキは柳眉を顰め、エルを睨んでいる。その隣でタリアは苦笑していた。ルキの駄々は意見が通らない限り鎮まらない。タリアは無論、双子エルや上位神の兄姉弟達が既知する事実だ。
「……はあ、わかった。時間をくれ」
エルが溜息を吐き承諾した。主張の相違は大抵、口喧嘩に発展する前でエルが根負けする。双子の性質は釣り合いがいい。
「っしゃ、ありがとなエル!」
「良かったねルキ、エル、ありがとう」
ルキの喜ぶ姿にタリアも礼を告げた。にこにこ、顔周りで小花を飛ばしている。もちろん幻視だ。実際に舞ってはいない。
「おいエル、俺タリアが可愛すぎて到頭、幻覚が見え始めた」
「案ずるなルキ、俺も花々が見えた」
「…………?」
ふたりに直視されるタリアは小首を傾げていた。きょとんと両目を丸め、パチパチ瞼を瞬かせる仕草も愛らしい。
「あ~……、タリアに俺も何か作りてえな……。エル、俺が作れるのあるか?」
エルに問うルキの言葉で、名案が閃いたタリアが提案する。
「ねえルキ、アライアに作ってあげて」
「あ? なんだタリア、俺の手作りは嫌か?」
ルキの不機嫌を含んだ語調は刺々しい。
「嫌じゃないよ。でもアライアはルキの許嫁、恋人でしょ? きっと喜ぶよ」
ルキは先日、女神アライアから告白を受け、自分の許嫁とした。タリアもルキ本人に聞いて知っている。祝言は来月、一カ月後だ。
アライアが嬉々としてタリアに報告した記憶は新しい。
「勘違いするなタリア、俺とアイツが許嫁で結婚しても、俺の寵愛は畢生お前にある。お前にしない贈呈はアイツにしない」
「…………」
絶対だ、と鋭い語気で足されるタリアはルキの趣意を読めず黙ってしまった。彼の真意を汲み取り理解できる者はエルだけだ。
「ルキ、簡単なものを教えてやる。タリアとアライアにそれぞれ、作ればいい。俺はタリアにお前と揃いの飾りを作らせる」
「成立」
ルキがエルに右手の親指を立て、あっさり首肯した。とんとん拍子で決まり、タリアは呆気にとられる。桜色の瞳が困惑で揺れていた。
「え、成立? 私はいいけど、ルキはいいの?」
「ああ。タリア、しっかり作れよ」
ルキの判断は謎だ。しかしエルが目線で「承允しろ」と言っているため、タリアも深くは詮索しない。
「……うん、頑張るね。ルキのも楽しみにしてる」
「任せろ」
力強い返事をしたルキが数日後、恵愛するタリアに贈進した物はタリアの漢剣を彩る、手の込んだ飾り宝具、宝飾品であった。一方のアライアは鈴と蓮が装飾されてある扇形の意匠が細かい耳飾りだ、先端に連結された水色のフリンジはアライアが司る典雅をイメージしたらしい。
因みにエルがタリアに贈った中国結び、飾り紐はタリアの手業でエルとルキ、三人のお揃いになっている。
タリアの粋な計らいでエルが大層、悦喜し、涙し、ルキに笑われタリアが焦ったことは――語るまでもない。
おはこんばんは、白師万遊です٩(*´︶`*)۶
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