第二集:タリアが一番
未の刻の正刻――、天上界外城は内城と比べ騒がしい。中級三神や下級三神の神々が各々の任務で往来している。外城は上級三神の上位神下位の神の居住する宮や、彼らが課せられた責務を全うするにあたって与えられた宮殿などがあった。
地上と天上を繋ぐ中央往来の間も外城にある。
中央往来の間の形状は四角形の断面を持ち、上方に向かい徐々に狭まった高く聳え立つ直立の石柱で、先端部分はピラミッドの四角錐になっていて頂点は鋭い。金の薄板で装飾されてあり、総重量は数百トンに及んだ。
神々はこれに触れるだけで天光柱、謂わば金光に包まれ地上に降りれた。加えて太陽の光の影を利用し、日時計の役割も果たす、優れた方尖柱だ。抽象的な感覚で外城の表象とする神は多い。
天上皇の次に清らかで美しい上位神の神は通常、余程の要件がない限り外城に来ない、崇高で偉大な存在だ。
特に光を司る上位神ルキは中々、内城を出ないため、下位の神々は彼を拝謁する機会は少ない。しかし今日は違う。彼自らが外城へと赴き、歩き回っていた。
下位の神々はルキの動向を遠目で窺っている。
「――チッ、どこ行きやがった……」
舌打ちを打つルキは苛立った様子だ。下位の神々は彼の威厳ある態度に畏怖の念を抱き動けずにいた。
刺々しい空気は張り詰めている。
けれど、そんな緊張感を意に介さない者が現れた。
「――ルキ?」
万物を創造する天帝、天上皇が創りし最後の男神、上位神タリアだ。
ぱっちりとした二重瞼を瞬かせている。澄んだ虹彩、長い上下の睫毛は桜色だ。鼻根と鼻背、鼻尖の形がいい。神体が陽の差し具合で時折、銀の金属粉を鏤めたかのように煌いていた。真珠の如く上質で滑らかな肌は白く手足は細い。緩やかな腰椎の前弯、立体感なお尻、理想的に括れた反りのない腰は女性らしい印象があった。全体的に華奢で背丈は165㎝弱ある。
黄金比率の顔立ちは天上界、随一と謳われ、崇められていた。
服装は浅血牙色の漢服、襦裙だ。衿元が右前の短い上衣の襦、竹月色のねじられている腰紐、下裙はウエストスカート状で可愛い。
白い長襦袢を内側に着ている。手作業で施された桜刺繍が散らばる襦裙はシースルー素材だ。桜色の布製の靴を履いていた、靴先は丸みがある。
桜色の長髪はハーフアップで結い、白いリボンで縛っていた。風で舞う髪は艶があって瑞々しい。外見年齢は十六歳前後だ。
宇宙の美を集めたタリアは神秘的で儚い。
「タリアお前ッ、こんなトコで何してやがる!!」
「何って……、アルテミスの森で神体を癒していたんだ。アライアに習っていた舞のお稽古で疲れちゃって」
ルキの怒号にきょとんとし、タリアは片頬を掻き説明する。普段着ではない襦裙を着用していた理由だ。
「はあ……ったく、こっちに来る場合は俺かエルが付き添う約束だろ。ひとりで外城をうろちょろするな、俺を不安死させたいのか」
ルキはタリアの右腕を引き、抱き締めた。零れる溜息は深い。
「え、と……申し訳ない」
「下位神と喋ってねえな?」
「下位神? ああ、アルテミスの森に誰もいなかったよ。私ひとり、貸し切りだった」
ルキとタリアが交わした問答は温度差がある。タリアはルキが自分を心配していた原因の根本に気づいていない。
「……お前の鈍感はいったい誰に似たんだ?」
「……え? 私は鈍感じゃないよ兄さん、察しはいいほうだ」
「嘘つくなタリア、察しがいいお前を俺は見た試しがない」
「私はルキに嘘をつかない。ほら、眉間に皺を寄せないで。男前が台無しだ」
そう断言してルキの額を右手の人差し指で擦り、にっこり微笑するタリアは魅力的だ。慈悲で満ちたタリアの笑顔に、「なんて可憐なんだ」と下位神達は騒ぎ視線を注いだ。
周囲の囁きを無視できず、苛立つルキが低声で告げる。
「天上皇に最も近い上位神たる俺達の前で許可なく下神が口を開くな、次は処罰する。生温い笞罪じゃ済まさねえぞ、俺は」
「―――ッ」
ルキが放つ言葉に場は静まった。消滅の危機を感じさせる命令だ。
「ルキ――」
「お前は黙ってろタリア、天上界の掟上、俺の発言は正しい。正しくなくても上位神の発言は正善になる」
「……はい」
正論でタリアは二の句が継げない。
「いいかタリアよく聞け、お前は俺の、エルに勝る一番大事な末弟だ。兄弟妹を愛する以上にお前は特別なんだよ」
ルキは双子の片割れエルを超す、愛し守りたいと思った者はタリアが初めてである。タリアは絶対に失いたくない、大切な自分の子供で優先順位は一番だ。恐らく、否、確実に上位神達も同じ気持ちで相違ない。
ルキの気迫に滲んだ焦りの正体は、タリアの未来を危惧するものだ。
「……ありがとう、兄さん」
次男の愛情表現を数百年でタリアも理解していた。下神に特段、厳しい面も然りだ。もしタリアが彼らを庇ってしまえばルキは益々、彼らを敵視してしまう。
「内城に帰るぞ、エルがお前の好きな大福を作って待ってる」
「――――!? 帰ろう!! 早くルキッ!! 大福が私を待っている!!」
タリアは暗くなった表情を一瞬で明るくし、ルキの左手を握り引っ張った。ルキを急かすタリアの足取りは軽い。「いや大福じゃねえ、エルが待ってんだ」と訂正するルキも又、タリアの行動で刹那に怒りを吹き飛ばしていたのだった。
おはこんばんは、白師万遊です(´ω` )/
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