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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
┈┈••✼✿桜の章✿✼••┈┈
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第十二集:タリアを鍛える係


 (ひつじ)(こく)正刻(せいこく)、天上界の空は青い。皮膚を照らす日差しは柔らかく、色彩の重量は軽い。澄んだ空気は宇宙独特の香りを漂わせていた。


 タリアは現在、内城(ないじょう)南側にいる。


 「――ッ、――ッ」


 エルの宮殿、正風殿(せいふうでん)の敷地内で刃引刀(はびきとう)を持ち、素振りしていた。刃引刀(はびきとう)は刃を潰し斬れない刀だ。子供用で刀身は短い。


 周囲は森林に囲まれている。静寂で満ちた場所だ。


 「――へえ中々、(さま)になってるじゃん」


 「――だな、足腰のブレもねえ」


 「――タリア、しっかり腹に力を入れろ」


 行動を司る上位神(じょういしん)リイガウ、増大と水を司る上位神(じょういしん)キッド、正義を司る上位神(じょういしん)エルがタリアの稽古を見守っていた。兄三人はタリアに武術を指導する係だ。剣術や柔術、槍術(そうじゅつ)砲術(ほうじゅつ)弓術(きゅうじゅつ)と数多く展開された高度で実践的な技術を体得させる。十二枚の翼、栄光を授かりし上位神(じょういしん)は強くあらねばならない。


 痛みや恐怖に打ち勝つ心、困難に立ち向かう精神力、忍耐力、克服したときの達成感や、自身の痛みで他の痛みがわかる情を鍛え、尊重と敬意を示す所作(しょさ)や型、礼儀の習得に加え、謙虚さや道徳心、上位神(じょういしん)としての威厳、美意識を芽生えさせ、(つちか)った経験の成果の中で得られる充実感を、整えた環境下で、武術や礼法の本質を獲得させることが、三人の務めだ。


 今日の授業は剣術であった。


 「――ンッ! ハッ!」


 タリアは最小の動きと最大の神力(しんりき)で、刀身を切断面に垂直に振り下す。焦らず、丁寧な動作で、繰り返した。活殺自在(かっさつじざい)の領域に程遠いが、直向(ひたむき)な熱意で打ち込む姿勢は立派だ。


 刹那、エルがデジタル一眼レフカメラを能力で取り出し、タリアを撮り始めた。リイガウが()かさず、初めて見る黒い物体を人差し指で指差し、訊ねる。


 「え、なにそれ、エル……」


 「対象を記録する装置、カメラだ。発明を司る神サッソンに作らせた」


 「サッソンだあ? 誰だよソイツ知らねえ、中位神(ちゅういしん)か?」


 キッドが眉頭(まゆがしら)(しか)め、首を傾げた。キッドは荒い性質で下神(かしん)に恐れられている。吐き出す語調も乱暴だが、上位神(じょういしん)兄姉妹(きょうだい)は慣れており、気に留めていない。


 「ああ、中位神(ちゅういしん)だ。俺も詳しくは知らん。ただ発明に長けた男神(おがみ)と耳にしていた。タリアの成長記録をこれで収め、帳面(ちょうめん)を作成している」


 淡々と答えていた間も休まず、エルは被写体であるタリアをカメラ内に納め、シャッターを切っていた。あらゆる体勢で清暉(せいき)を浴びたタリアの一瞬を撮影している。タリアが誕生して数週間、熟練した様子でカメラを扱うエルに、リイガウとキッドは若干、引き気味だ。


 「……なあエル、私、お前が心配でたまんねえ」


 「心配? なにがだ?」


 「真顔で『なにがだ?』じゃねえよボケナスが! 異常者かテメエは!」


 「異常者じゃない。お前達の兄だ」


 「…………」


 他意のない真面目な返しにふたりは唖然とした。継いで「心配は無用だ」とリイガウに付け足し、カメラを(しま)うエルがタリアを呼んだ。


 エルの後方でリイガウとキッドは目配せし、やれやれと肩を(すく)めている。


 「タリア、休憩だ」


 「ハア、ハア……うん!!」


 タリアは指示に従い、兄達のもとに駆けて来た。光の粒を纏わせ、瑞々(みずみず)しい桜色の髪を(なび)かせるタリアは神秘的だ。


 「私、上手かった? 毎日頑張れば、エルお兄ちゃんやリイガウお兄ちゃん、キッドお兄ちゃんに近付けるかな?」


 満面の笑みで問う、汗を掻いたタリアの肌は艶めき、天上界随一となるであろう美貌は神々しい。


 「可愛いな、私らの弟、女神と錯覚したぜ」


 「ああ、むしろ女神以上だ」


 リイガウとキッドは(あご)に手を添え、可憐で儚いタリアをまじまじと見下げた。状況が読めず不安げなタリアの頭部を、ふたりは撫で、安心させる。

 

 「すげえぞタリア、私は感動した。すぐ私達に追い付くレべルだ」


 「おうおう、まったくだぜ! 俺も、うかうかしてらんねえ!」

 

 「タリアは努力を惜しまない。自慢の末弟(まってい)だ、日々、精進しろ」


 「うん!!」


 言葉を紡いだエルにタリアは首肯した。三人の胸中で「女神だな」と呟きが同声する。そしてタリアの手の平で厚く膨れたタコを垣間見、みるみる青ざめたのだった。

 


おはこんばんは、白師万遊です(∩ˊᵕˋ∩)・*

最後まで読んで頂きありがとうございます(﹡’ω’﹡)


感想、レビュー、評価、ブクマ、いいね、フォロー等々、

頂けると更新の励みになります(*´˘`*)♡


また次回の更新もよろしくお願い致します(*ˊᗜˋ*)/

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